「敵機上空!左舷前方、距離六〇〇!」
大和からの報告が飛び込んだ。
「こちらも敵艦隊発見です。同じく左舷前方、距離一五〇〇」
赤城が偵察結果を報告してきた。
「空母を後方に配置、戦艦、重巡は前へ!取舵に転舵、始めッ!」
俺の飛ばした指示で艦隊が慌ただしく動き始めた。
「赤城、加賀、攻撃を開始しろ。その他は対空戦闘用意!」
景山ー改が唸りを上げて飛び立つ。
それと同時にJu87が飛来し、急降下体制へと移行した。
「各艦バラバラになれ!回避行動急げ!」
俺らは1~2艦単位になって散開した。
不気味なサイレンを奏でながらJu87が空母、戦艦などの大型艦めがけて突っ込んでくる。
真っ先に標的となったのは武蔵だった。
「ほぅ…私を狙うか…高角砲、対空機銃、掃討開始ッ!」
不敵な笑みを浮かべつつ射撃を開始する。
軽快な金属音とわずかな反動と共に幾重もの火箭が急降下中のJu87に殺到した。
ある機は爆炎に包まれ、ある機は僚機と衝突し、ある機は翼が根元から吹き飛んだ。
だが、圧倒的な火力をもってしても、すべてのJu87を葬り去ることは不可能であった。
十数機のJu87が爆弾を投下した。
「…ッ!」
武蔵の周囲に水柱が何本も聳え立った。
「何とか…耐えきったか…」
至近弾は数発受けたものの、目立った被害は特になく、戦列に復帰しようとした時だった。
………!
「‥‥ん?何の音だ…?」
僅かではあるが、敵艦隊が確認された方角から高周波が聞こえてきたのだ。
しかも、その音はだんだん大きくなっている。
「主砲、三式弾装填。いつでも発射できるようにしろ。全砲塔、左舷90度」
高周波は左舷遠方より聞こえてきている。そして、ついにその正体が明らかとなった。
「…!
Me.262はレシプロ機であるJu87とは比べ物にならない速さで水面すれすれの低空を飛んでいる。
(水跳爆弾か…?まぁいい、撃ち落としてくれる!)
「目標、九時の方向敵機集団、
46㎝三連装砲塔三基が轟音と共に三式弾を射出する。それに伴い機銃や両用砲も射撃を開始した。
射撃から数秒後、海面近くで黒煙を伴う爆発が多数確認できた。三式弾や、VT信管を装備する砲弾の物だ。
「…やったか…?」
が、その期待も虚しく黒煙を切り裂いてMe.262が飛来する。
「…ッ!?次弾装填急げ!」
高周波と共に轟音が聞こえ始める。
「まずい…近いぞ…よし、撃ッ!」
斉射と、先頭のMe.262の爆弾投下はほぼ同時であった。
三式弾は先ほどよりかなり近い位置で炸裂した。
先頭のMe.262が三式弾の手を逃れ頭上を亜音速で飛びぬけた。
が、その後続機は三式弾やVT弾によって次々と墜とされていく。
「…ッ!大和型の舷側装甲、なめるなよ!」
水跳爆弾が一発左舷に命中したが、被害はほぼゼロ。掃討射撃は続行された。
Me.262の残存機体は数機ほど。
(勝てる!)
武蔵はそう確信した。
一機のMe.262が10㎝砲を正面から喰らい、爆発四散した。
その僚機を避けたもう一機がエンジンから火を噴き、墜落した。
(よし、残りは2機……!?)
残存機体を見て、武蔵は固まった。
今までの機体の下には少し大型の丸っこい爆弾が付いていたのだが、残存2機中1機はそれをつけていなかった。その代わりに翼下に細長い筒を8本、装備していたのだ。
ここまで接近されてはもう三式弾は使えない。舷側火器で何とかするしかないのだ。
思考時間、僅か数秒、だが、その間、掃討射撃が疎かになってしまった。
一機のMe.262が翼下の円筒を切り離した。
円筒は無音でこちらへ迫ってくる。
刹那、第二砲塔に火柱が聳え立った。
「…くッ…!」
しかし、円筒…もとい
続けざまに副砲基部、艦橋、煙突、第三砲塔から火の手が上がった。
そして、墳進砲弾特有の推進音と爆発音は被弾後にやってきた。
(音速を超えていたのか…!?)
衝撃の事実に驚愕しながらも、視線はしっかりと敵機を捉えている。
「勝ち逃げなぞ…させぬ!」
唯一無事だった第一砲塔を名いっぱい左舷側に旋回させ、三式弾を放つ。この距離だと自分にもダメージが入るが、今の状況ではそんなことは言っていられない。
墳進誘導弾搭載機が三式弾をもろに喰らって消えた。
そして、その三式弾の破片は後続の最後の一機も捉えた。
破片が左翼を直撃し、根元から吹き飛ばしたのだ。
機体が反動で回転しながら上空へ押し上げられた。
「よしっ!」
だが、その機体はちょうど爆弾を投下するところだったらしく、水跳爆弾は水面に落ちることなく、宙を舞った。
「まずい…この軌道は…!?」
錐揉み状に回転していた機体が艦橋に直撃した。
「うッ……」
思わず呻いた。
さらに悪いことに、被弾炎上中の第二砲塔基部へ宙を舞った水跳爆弾が飛び込んだ。
刹那、被弾時の爆発とは比べ物にならない爆発が起こった。
炎上中だった砲塔は吹き飛び、船体が第二砲塔を基軸として歪んだ。
(これは演習のため、船体の歪みで済まされたが…実戦だったら私は…)
薄れゆく意識の中で武蔵は身震いをした。
~鎮守府~
{戦艦武蔵、重巡利根、軽巡北上が大破により航行不能、救護班の曳航で鎮守府へ帰投する}
{戦艦ティルピッツ、重巡プリンツ・オイゲンが大破により航行不能、救護班の曳航で鎮守府へ帰投する}
演習開始からわずか1時間、日本艦隊にとってはこの上ない最悪の報告が飛び込んできた。
鎮守府で待機していた救護班の艦娘らがざわついた。
「あの武蔵さんが…?」
「あの人戦闘で中破以上になったことないじゃない…!何があったのよ…」
「そんなことより、救護に向かいますよ!」
「「はい!」」
(ドイツの皆さんの事も心配してあげようよ……)
~ドイツ艦隊~
「敵戦艦、武蔵の沈黙を確認した」
グラーフがビスマルクへ報告した。
「その他の戦果は?」
ビスマルクが振り向きもせず、そっけなく聞いた。
「重巡利根、軽巡北上も同様に沈黙。だが、私はこれ以上の攻撃はもうできない。艦載機がないんだ」
「グラーフ…少しは残しとこうぜ…」
ドイッチュラントがあきれたようにグラーフを見た。
「結果は残したから大丈夫よ。ただ問題は‥‥」
そこでビスマルクはようやく振り返ってため息をついた。
「あの
その時、無線が入った。
「こちらU-511。敵艦隊を発見、攻撃許可を」
その知らせにビスマルクは少し表情を明るくし、答えた。
「無差別攻撃を許可する。私たちが着くまで、よろしく頼む」
そう言って無線を切った。
「さぁ…本当の戦いはここからよ…admiral!」
そう叫んでビスマルクは水平線の先を睨んだ。
やっべぇ、演習終わんねぇ