語彙力ってどこで育つんだろうね
「戦艦部隊隊列を整えろ!」
長門が命令を飛ばす。
現在は午前十時半ごろ。
「敵が多いですね…久しぶりに本気が出せそうです」
「白兵戦に持ち込んでやる…大和、行けるか?」
「武蔵…貴女今回は艤装使いなさいよ…?」
天気は快晴。程よい潮風が海上を吹き抜けている。
「ich freue mich…この装甲を存分に生かせそうだ」
「フューラー、頼んだぞ」
「あぁ、分かってるよ。”仕事モード”の鉄血宰相さん」
そして水平線の彼方に蟻のような黒点が無数にいる。
「うぇ、あれを全部相手にするの…?私はちょっと…日向~、やっといてぇ~」
「おい伊勢。泣き言を言うな。敵が来るぞ」
もう少しで戦闘が始まる。人類と深海棲艦の存亡をかけた前哨戦が。
先ほど偵察機が敵艦隊に向け飛び立った。間もなく報告が来るだろう。
{敵艦隊補足!かなりの数です!}
空母部隊より報告が入る。
{敵の編成は?}
長門が無線の先、一航戦の赤城に対して尋ねた。
{敵は…ッ!…}
赤城が短く息をのんだ。
{どうした!?}
{墜とされました!…そんな…結構な高度で飛んでいたのに…}
(どうやら今回の敵は対空値がかなり高いようだ…)
長門は心の中でそうつぶやき、無線機を取った。
{全艦隊に告ぐ!今回の敵はかなり対空が高い!空母部隊は特に注意して行動してくれ。新たな情報が入り次第また伝える。合図があるまで発砲はしないように。以上だ}
”了解!”と威勢のいい声があちこちから返ってくる。
皆の指揮はこれ以上ないほど高いようだ。その証拠に、あの怠け癖のすごさで有名な加古が自ら進んで前に出ようとしている。これまでになかったことだ。
ちょうどその時空母部隊から威力偵察機部隊第一陣が飛び立とうとしていた。
ー
ーー
ーーー
ここは二航戦・蒼龍の飛行甲板の上。現在威力偵察のための艦載機が発艦しようとしているところだ。
「エンジン点火ァ!発艦準備始め!」
一人の快闊そうな整備兵妖精が声を張り上げる。
甲板は一気にあわただしくなり、次々と
その時、甲板の端の方にいたどうも気弱そうな整備兵妖精が待機列の先頭の賢鷹に駆け寄った。
「
そういってお守りを差し出した。
大佐(妖精)はコックピットから少し身を乗り出してそれを受け取ってから言った。
「そんな心配そうな顔をしないでくれ。私は蒼龍の艦爆隊長だぞ?それに、
笑いながら大佐は言ったが、整備兵妖精は不安そうな顔で言った。
「そうですか…しかし、もしも”ヤバい”と思った場合、コックピット内部計器の一番右についているレバー…そうです、それです。それをひねって押し込んでください。きっと役に立つと思います」
大佐は不思議そうな顔をしてから聞いた。
「そうすると、どうなるのだ?」
「そうすると…」
一言、二言交わした後、整備兵妖精は足早に賢鷹のもとを去った。
「艦爆隊の皆さん、用意はいいですか?」
蒼龍が飛行甲板の上の機体たちに話しかけた。
本来艦娘の空母は弓矢や式神によって艦載機を飛ばす方式だが、ここの鎮守府の空母は軽空母や正規空母と言った差に関わらず全員が飛行甲板を構えて発艦する方式に改装されている。もちろん、
「おうよ!蒼龍の嬢ちゃん、やってくれ!」
江草大佐は蒼龍に向けて精いっぱいの大声で叫び、コックピットを閉める。
カチャリ、とコックピットが閉まり、甲板上の喧騒が遮断される。聞こえるのは自身の真後ろから聞こえるハ201改の綺麗な回転音だけだ。
江草大佐は深呼吸をして水平線の彼方を睨んだ。
「もう誰も、無駄死にさせたりはしない」
そうつぶやき、操縦桿を握った。
「第一次威力偵察部隊、発艦はじめっ!」
蒼龍の透き通った声が響き、甲板に青白いスパークが迸った。
「ッ!」
刹那、機体が急激に前へ前へと加速し始め、体がシートにへばりつく。
シャァァァァァァ!と、金属と金属がこすれ合う音が数秒の間響き、突然にその音が途切れ、浮遊感に襲われる。
「っし、無事発艦だ!」
大佐は操縦桿を引き込み、機体を上昇させる。入念に整備された賢鷹の心臓部は獰猛な唸りを上げ上昇時にも拘らず機体をグングン押し上げていく。
「全機、私に続け!」
後続の賢鷹やキ64、合計八機も負けじと加速して追いすがる。
間もなく一行は雲の中へと突入、その勢いで雲の上へと躍り出た。
雲上で隊列を整え、全機が巡航状態に入ったのを見て大佐は無線機を取った。
{みんな、よく聞いてくれ!今回の目的はあくまで威力偵察、攻撃がメインではない。生きて帰ることが最優先事項だ!少しでもヤバいと思ったら離脱するように。敵の情報を持って帰る事こそが我々の任務なのだからな}
無線を切ると、後続の一機から無線が入った。
{大佐、もし投弾の機会があればやってもよろしいでしょうか?}
大佐は答える。
{大丈夫だ。だが、事前に明石殿から言われていることがあってな、目視で見える敵艦を覆う球体上のモノ、もしくは空間の歪みなどを見つけたら絶対に突っ込まないようにしてほしい、との事だった}
{それは何なのですか?}
部下が質問をする。
{いーじす、と言う深海側の新たな防御機構らしい。横文字は分からんが、どうやら神の盾という意味らしく、触れたら分解されちまうらしい。気をつけるんだぞ}
{末恐ろしい…気をつけます}
その無線を最後に、部隊にはしばらくの静寂が訪れた。八発のハ201改が快調に回り続け、600km/hほどで飛行している。
{左下海上、無数の敵艦を視認!降下しますか?}
部隊の一番左端を飛んでいたキ64から無線が入った。
大佐は無線を取った。
{降下はするな!気づかれていないうちに敵の編成、数、新型はいるかどうか、それを調べろ!全機、高度そのままで左旋回、敵艦隊の上空を高高度で通過するぞ!}
無線の直後、大佐の賢鷹を先頭に部隊全機が一糸乱れぬ旋回を始める。
そして、敵艦隊の真上まで来た時、先ほどのキ64から報告が入る。
{敵艦隊に新型機と思われる個体を多数確認!白色大型、右手…が武器腕のようです、左腕には何やら光るものが見えます!それと、既存個体のelite、flagship共に多数!通常個体がボス級個体に4隻ずつの規模でついています!写真も撮りました!}
さらに部隊右端の賢鷹から報告が入った。
{遠方に鬼級個体を複数確認!それと、先ほどのイージスらしきシールド持ちの…あれは…なんだ?よくわかりませんが、シールドは確認できました!同じく写真に収めました}
大佐はその結果に微笑み、指令を飛ばした。
{よし!これより帰投する。全機左旋回、最大速力で帰るぞ!}
全機が旋回を終え、一路艦隊へと向かおうとしたとき、殿のキ64から切羽詰まった声で無線が入った。
{後方距離約600、敵機の大編隊!気づかれたようです!}
{!?敵機のおおよその速度は?}
{速度約‥‥700km/h!}
大佐はそれを聞くと操縦桿を握りなおして前を見据えた。
{全機速度900km/h、キ64には少し辛いかもしれんが、逃げるぞ!}
それと同時に大佐は蒼龍へと無線を入れる。
{こちら江草!偵察には成功したが気づかれて敵機の大編隊から現在逃走中!対空戦闘の準備を頼む!}
無線の向こうの蒼龍はひどく困惑したようだった。
{大編隊!?た、大変…分かった、無事に帰ってきてね}
そう言って無線は切れた。
「頼むから…予期せぬ事態は起きないでくれよ…」
大佐は独り言を言った。
ーーー
ーー
ー
「赤城さん!偵察部隊より報告がありました。偵察には成功したが敵の大編隊がこちらへ向かっているとのこと。長門さんへの通達をお願いします!」
呑気におにぎりをほお張っていた赤城は急いで無線機を取った。
{ながとひゃん!てきがきまふ!}
{まずは食い終わってから喋れ!それでなんだって!?}
長門が突っ込み、赤城がおにぎりを飲み込んでからもう一回喋った。
{偵察部隊の後方より敵機の大編隊が来るそうです。対空戦闘を通達してください!}
{…分かった!}
長門は無線を全体に切り替え、言った。
{全艦対空戦闘用意!敵機の大編隊が来るぞ。防空駆逐艦や巡洋艦は空母を護れ!一隻も沈ませるなよ!}
”了解!”との声が返ってくる。
駆逐艦の長10㎝砲が機械音と共に最大仰角を取り、空母や戦艦の甲板上の対空機銃や対空砲にわらわらと妖精さんたちが集まり、仰角がかけられる。
初秋の蒼空に幾百の砲口、銃口が向けられ、静止する。
先ほどまでは雑談をする余裕があった艦隊だが、今はその余裕もなくなり、緊張が艦隊中を駆け巡っている。群狼艦隊を除く全艦隊はやがて聞こえてくれるであろう鉄鳥の咆哮に耳をそばだたせていた。
ー
ーー
ーーー
{…!味方艦隊前方に発見。全機速度を緩めるんだ。600km/h!}
大佐がいい、部隊の速度が下がる。敵編隊は遥か後方へと置き去りにしていたが、視界から消えはしなかった。
{全機降下、速度を緩めつつランディングギアを出せ!}
大佐が指示したとき、部隊中央にいた賢鷹から悲鳴じみた無線が入る。
{未確認機直上!急降下ァァァ!}
「なに!?」
大佐は上を見上げ、太陽の眩しさに思わず目を顰めた。
すると、太陽の影から一機の細長く黒い機体がありえないスピードで降下してきた。
何とか視認できた真っ黒いカラスのような機体の先端に紅い光が灯ったのが見えた。
刹那、部隊中央の賢鷹の主翼が吹き飛び、爆発とともに炎に包まれながら錐揉み状に海面へと落下していった。
{五番機がやられた!何モンだあいつは!?}
{死神か!?}
一機墜とされたことで部隊の間に動揺が広まる。
{狼狽えるな!}
大佐の一喝で静寂が訪れる。
{あの速度の急降下だ、復帰まではまだ時間がある。それまでに味方艦隊にたどり着くぞ!}
{それが…大佐…}
{どうした!?}
大佐は少々苛立ちを覚えながらぶっきらぼうに聞いた。
{未確認機、約1100km/hで味方艦隊…駆逐艦隊の方向へと向かっています!}
{なんだと!?}
ーーー
ーー
ー
時は遡る事十数秒前、駆逐艦隊にて。
「あ、吹雪ちゃん、偵察部隊見えたよ!」
「ほんとだね。どうやら全機無事みたい…」
ドォォン…
「…えっ?なに、あれ」
突如落とされた味方機と迫り来る敵機に吹雪型は対応が遅れた。
「全艦臨戦態勢!敵よ!」
ほぼ全員がポカンとしているところに叢雲が指示を飛ばす。
「敵は黒色の飛行機、かなり速いスピードで飛んでいるわ、注意して…」
叢雲が言い終わる前に、それは訪れた。
先ほど、賢鷹を一発で葬ったのと同じ、紅い光が叢雲に直撃した。
瞬間、周辺が爆発し、水壁がそそり立った。敵機はその上を爆速ですり抜け、上空へと向かった。
「叢雲ちゃん!」
綾波が叫ぶ。
「ッ!何この衝撃波…」
水壁がなくなり、現れたのは…
「クッソ…あんの野郎…」
轟沈寸前、ゲームで言うHP1の状態の叢雲がそこにいた。
「叢雲ちゃん、沈む寸前じゃない!?早く帰らないと…」
「もう無理よ」
叢雲が吹雪の話を遮った。
「それはどういう…」
「応急修理要員が発動したから、この状態なのよ…私はもう、一回死んでいるわ」
応急修理要員。それは艦娘にのみ装備できる一回だけ轟沈を回避して大破状態に修復するもの。装備スロットを一つ使ってしまうため、よほど大事な船にしかつけないものだ。
「あのバカ提督が、ほぼ全駆逐艦と一部艦艇に装備スロットを潰してまで装備させていたのが役に立ったのよ…だけど、あの飛行機はもう一回私をやるみたい。ほら」
叢雲が指示した先には、空中で急旋回し、急降下してきている先ほどの黒色の機体がいた。
「たっ、対空砲火用意!」
「今までありがとう…」
「叢雲ちゃん、そんなこと言わないでよ!」
敵機の先に、紅い光が集まり始める。対空砲火は続けているが、当たる気配は一向にない。
(これまでか…)
叢雲は目をつぶった。
だが、死んだのは叢雲ではなかった。
突如、急降下中の敵機が爆散し、残骸が海に落下したのだ。
「何が…起こったの…?」
吹雪型の皆は目の前の脅威がなぜか去ったことが信じられず、ポカンとしていた。だが、敵機が急に墜ちた訳は、すぐに分かることになる。
数秒後、吹雪型の上空に一機の艦載機が飛来し、旋回を始めた。
{よう、嬢ちゃん、大丈夫だったかい?}
無線が入った。
{あなたがやってくれたのね…?感謝するわ}
叢雲は無線を取ってお礼を言った。
{お礼は明石殿に言ってくれ。この機体が無けりゃ救えなかったよ}
そう言って上空の機体はバンクを振って、飛び去った。
「あの機体は…何だろう、見たことないけれど」
初雪がボソッと言うと、叢雲が答えた。
「あれは
叢雲は呆れたようにそう言い、
「それともう…私は限界だわ…」
倒れた。
それもそうだ。艦娘のHP1状態とは、沈みかけなのだ。ずっと立っていられるわけがない。
「たっ大変!急いで運ばなきゃ!私が運ぶから、みんなは長門さんあたりに連絡をお願い!」
吹雪が叢雲を担いで鎮守府へと急いで航行を始める。
残った吹雪型は無線を入れ、隊列を立て直し始める。
ー
ーー
ーーー
数分前、上空。
「まずい!本格的な戦闘の開始前に艦艇の損害を出すわけには…」
部隊の誰かが言った
駆逐艦隊に向かっていった黒い戦闘機はもう第一射を浴びせようとしていた。
「俺が行く!他の機体はそのまま帰還しろ!」
「ですが…!」
隊員の言うことを尻目に、江草大佐は操縦桿を押し込んで機体を急降下させる。
大佐の賢鷹は翼端から雲を引きながらグングンと黒い敵機に近づいていくが、差はなかなか縮まらない。
(クソッ…!こっちだってかなり無理をしているのに差が縮まらねぇ…!無誘導弾を使うしか…!)
この状況で敵機を撃墜可能なのは翼下の無誘導墳進弾しかない。だがもし外せばその先にいる駆逐艦に被害を出すかもしれん…まぁ、大丈夫だろう。多分。
「墳進弾発射準備!」
翼下の墳進弾懸架装置が音を立てて降下し、墳進弾の安定翼が展開される。
「クソッ…フラフラしやがって!」
敵機は微細な動きで右へ左へと動き、狙いが定まらない。
だが、その動きにも終わりが来る。敵が射撃モードへと移行し、動きが安定したのだ。
敵機が自機HUDのレティクル中央へ吸い寄せられるように移動した。
「今だ!発射ァ!」
軽い金属音とロケット燃料の燃焼音が重なり、蒼空に切れ目を入れるような一筋の白く、細い雲が敵機めがけてまっすぐに伸びていく。
紅い光が放たれようとしたその瞬間、墳進弾が命中した。
「よッし!」
大佐は命中を確認するとダイヴブレーキを全開にし、亜音速飛行中の機体に急激な減速をかけた。機種が上を向き巡航速度へと戻る。
敵機は橙色の炎を煌めかせて瑠璃色の海へと消えて行った。
大佐は機体を旋回させ、眼下の駆逐艦隊へ無線をつなげた。
{よう、嬢ちゃん、大丈夫だったかい?}
攻撃対象となっていた艦娘は機関部などから黒煙を吐いていたが、何とか無事なようだった。
{あなたがやってくれたのね…?感謝するわ}
だが満身創痍な見た目と反して声はかなり元気で、高圧的ながらも感謝の気持ちが伝わってくる言い方だった。
{お礼は明石殿に言ってくれ。この機体が無けりゃ救えなかったよ}
大佐はそう言い残し、バンクを振って母艦「蒼龍」への帰投を開始した。
ーーー
ーー
ー
叢雲の一件の後、敵機の大編隊が襲来し、対空戦闘になった。
その過程で戦艦扶桑、重巡那智、愛宕、駆逐艦潮、朧、山風、初春が戦闘不能に陥り、駆逐艦は複数の姉妹艦と供に帰投したため、駆逐艦隊の戦力は削がれた。が、駆逐艦隊の中枢を担う暁型、白露型などの大多数が健在な為総合戦力値としてはさほど変わらないだろう。
敵側の損失としては、編隊の約6割が撃墜、2割損傷ながらも帰還、残り2割は無傷で帰還したようだった。
対空戦闘を終えてほっとしたのもつかの間、やがて敵の本体とかち合うことになる。
敵が小隊規模で展開していることを受けて鎮守府側も長門の指示で編成を組みなおすこととなった。
敵が迫り来る中、鎮守府正面は戦艦1、重巡1以上、軽巡2、駆逐3以上とし、側背面の包囲担当は重巡1、軽巡1、駆逐2以上とした編成が急遽組まれ、接敵寸前に編成が完了した。
「
誰かが叫んだのを皮切りに、各箇所で小隊規模の激しい戦闘が始まった。
すんません、一旦ここまでで。
engageが接敵じゃねぇとかこういう場合は日本語の方が正しいだろとかそういうのは一切なしの方向で。
対空戦闘をカットしたのも突っ込まないで。頼むから
今回登場した大佐には後々活躍してもらう予定です(今回も活躍したけど)
整備士妖精がほのめかしていたキーンホーク(大佐仕様)のギミックについても後々あるので今は言及しないでもらいたい。
最近モチベーションが上がらないので次はいつになるか分かりません。
誤字脱字等ありましたら報告をお願いします。
次回もよろしくお願いします。