吹雪が放心状態になってから数分後、その事態は起きた。
突如警告音が鳴り、目の前に例のウインドウが現れた。
[正面海域に深海棲艦の出現を確認。10分後に接触します]
「!?」
なんだと…?まだ駆逐艦一隻しかいないというのに…
「司令官、ご命令を!」
「いや…吹雪一隻で対処できるのか?」
「吹雪は大丈夫です!」
「いやそれ他の人の…」
正直言って駆逐艦一隻でなんとかなるとは思えない。
[報告:敵編隊は駆逐艦2隻の哨戒部隊の模様]
ん…?それなら行けるか?
「駆逐艦2隻なら行けるか?」
「行けます!出撃命令を!」
「よし、出撃だ!」
〜鎮守府正面海域〜
時刻は午後5時を回ったころ。だんだんと空に赤みがかかって水面の反射がまぶしくなる時刻だ。
逆光で島影が黒く染まり、洋上の敵影を見つけやすくなっていた。
ガガッ「吹雪!聞こえるか?」
俺は無線で呼びかける。
「聞こえます!…左舷前方に敵艦!これより戦闘に入ります!」
吹雪の声からは緊張の色が感じ取れる。それもそのはず、吹雪はこれが初の実戦なのだ。
…うまくいくといいが…
~吹雪side~
「‥‥これより戦闘に入ります!」ブツッ
私は無線を切った後、12.7㎝連装砲を構える。
私はこれが初の実戦。しかも1対2という不利な状況だ。
司令官にはああいったけど…不安だな…
「…私、震えてる?」
足や、主砲を構える手がかすかに震えている。
「大丈夫、私ならきっと!」
敵駆逐艦がこちらに気づく。魚のバケモノのような船体をこちらに向け、口を開いて砲口を向けてくる。
「先手必勝です!」
相手の発砲前に私は発砲する。
だが、僅かに狙いがそれたせいか敵の後方に着弾する。
「ガァ!」
敵も負けじと発砲する。
「当たりませんよ!仰角調整+5度!旋回+2度!撃てぇッ!…よっし、命中!」
私が放った砲弾は寸分違わず敵駆逐艦に命中、轟沈させた。
「ギャァァァァァ!」
残存する一隻は仲間を殺られた怨念からか、叫びをあげる。
敵艦が発砲するが、直撃弾とはならず私の周りに水柱を上げるばかりだ。
「これで…!終わりです!」
今度の砲弾も敵艦に命中、轟沈させた。ここで、私は司令官に無線を入れる。
~防(提督)side~
ガガッ「司令官!敵駆逐艦二隻、撃破完了です!これより帰投します!」
「おお!無事だったか!待ってるぞ!」
「了解でs…え!?」
「吹雪!?どうした!応答せよ!応答せよ!何があったっ!!」
「そんな…どうして…敵は二隻だけのはずじゃ…?」
「増援か!?敵の戦力は?」
「せ、戦艦2…空母1…重巡2…軽巡1…しゅ、主力艦隊です!」
「すぐに撤退しろ!今すぐだ!」
「了k…て、敵機直上!」ブツッ
「吹雪!吹雪!‥‥‥なんてことだ…」
~吹雪side~
「了k…て、敵機直上!」
撤退しようとしたその時、対空警戒を疎かにしていたせいで敵爆撃機の侵入を許してしまった。
「た、対空気銃、掃討開始!」
急いで敵機を落とそうとするが間に合わない。三機が爆弾を投下して離脱していく。
「よ、避けられない!」
次の瞬間、一発が機関部へ直撃、残り二発は海中で爆発して私の身長よりも遥かに高い水柱を上げる。
「機関部大破!…航行不能!…ぅぅぅ…」
水柱が収まると、主力艦隊はもう私への攻撃準備を終えていた。
「う、嘘…」
敵はもう目前へと迫っており、私に逃亡の余地がないのは火を見るよりも明らかだった。
「初陣がこんな事になるなんて…」
刻一刻と時間は流れ、浸水はひどくなっていくばかりだ。
あたりはもう暗くなり、星がだんだんと確認できるようになる時刻。
敵の輪郭は辛うじて確認できているが、その輪郭は今にも闇に溶け込みそうだ。敵の
敵戦艦がこちらへ接近し、口を開いた。
「サァ…言イ残ス事ハ、アルカシラ?」
敵が笑った気がした。
「ぐっ‥‥」
私は今大破状態のため動けない。浸水もひどくなってきており、沈むのは時間の問題だろう。
ガチャッ…
戦艦の三連装砲がこちらを向く。その砲身は冷たい輝きを放っており、今にも吸い込まれそうだった。
「駆逐艦一隻デ哨戒部隊ヲ沈メタコトハ評価シテアゲル」
戦艦が発砲の合図を出そうとしたその時、不意に闇の中に昼間の太陽を投下したような閃光が奔り、敵影がはっきりと確認できるようになった。
「照明弾ダト!?」
敵が動揺していることから、この照明弾は敵の物ではないのだろう。…じゃあ、いったい誰が…?
先ほどまで目の前で不敵に笑っていた敵戦艦が突如被弾、前部砲塔の弾薬庫誘爆を引き起こした。
砲塔装甲や折れた砲身が宙を舞い、甲板の板材を容赦なくはぎ取っていく。敵戦艦は”何が起こったのかわからない”という疑問と苦痛を混ぜたような複雑な表情をしており、私の死角の方を睨んでいる。
次の瞬間、今度は上空から不気味なサイレンの音が聞こえ始めた。私の朦朧とした意識の中でもはっきりとわかるほど不気味な音だった。そのサイレンに混じり、何かが空気を切り裂いて落下してくる音が聞こえる。
敵戦艦が閃光によって照らし出された闇夜の空を睨む。次の瞬間、後部甲板に爆炎が上がり、艦橋からも火の手が上がる。
敵戦艦はなすすべもなく、沈んでいった。
動揺する敵艦隊。無理もないだろう、主力の一角がほんの一分少々で轟沈したのだから。
次々と被弾、炎上または誘爆を引き起こす敵艦隊。応戦しているように見えるが、謎の攻撃の手が緩まないところを見るとさほど効いてはいないのだろう。また一隻、一隻と爆炎を上げながら沈んでいく。
数十分ほど攻撃が続き、突如としてその攻撃は止まった。霞む私の視界の中に、先ほどまでの敵の影は見当たらなかった。
朦朧としていく意識の中で最後に見たものは、心配そうにする司令官の顔、そして司令官の背後から私を覗き込む知らない誰かの顔だった。
””もう大丈夫だ””
司令官の力強い言葉を聞いて、私は、意識を手放した。
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