・邀撃、空挺、対シールド部隊
戦艦:金剛 比叡 榛名 霧島 大和 武蔵 長門 陸奥 ビスマルク ティルピッツ フューラー ドイッチュラント 戦艦棲姫 (他戦艦は大破or泊地棲姫の護衛で離脱)
重巡:最上 三隈 プリンツ・オイゲン 提督 (他は大破撤退)
軽巡:天龍 龍田 球磨 多摩 北上 大井 木曾 長良 五十鈴 名取 由良 鬼怒 阿武隈 川内 神通 那珂 夕張 阿賀野 能代 矢矧 酒匂 大淀 (遁走中の敵第一部隊撃破後、鎮守府に撤退)
駆逐艦:吹雪以外の全艦艇 防空棲姫 駆逐棲姫 (朝潮型、吹雪、駆逐棲姫以外は軽巡と同行中)
軽空母:艦載機切れで鎮守府帰投
正規空母:グラーフ・ツェッペリン 空母棲姫 (空母棲姫の艦載機は若干消失気味) 加賀 (その他は艦載機切れで撤退)
潜水艦:伊168 伊19 伊58 伊8 伊401 伊400 U-511(潜水艦隊に合流)
・対ディグ部隊
鈴谷 熊野 吹雪 赤城 ヲ級改F レ級F ル級改F 北方棲姫
ーーーーーーーーーーーーーーーー
未知の兵器との戦いをなんとか終えた一行。疲れた体に“あと少し”と鞭打って前進する。
次なる敵は前哨戦で登場した白色鋼鉄の兵士、
艦娘と深海棲艦の戦いでもあり、人と人の戦いでもある。
さまざまな思いが交錯する中、戦いの火蓋は切られようとしていた。
人類は、
天下分け目の戦いが、今、始まる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
若干時を遡ってのスタートです。
ネタに走らなきゃ(使命感)
~???~
荒々しい音を立てて男が背後の扉から私の部屋へ入ってきた。
「いつ出来るんだ!?もう敵は来ているのだぞ!?」
その男は私に向かって大声で怒鳴り、後ろからパソコンデスクを壊れそうな勢いで叩いた。
「進行度は98%。あと二分で終わる。…今頃対象者は頭痛がひどいだろうな。まぁそれも100%になれば一時的に消えるが。それが終われば好きな時間に発動可能だ…これがそのスイッチだ。渡しておこう」
私はスイッチをその男の方に手渡した。
それを受け取った男は天井の白く輝く蛍光灯に透かすように眺め、満足そうに笑みを浮かべた。
「敵を…敵の手で殲滅してやる…!…ハハ、ハハハ…!」
男は私の部屋で乾いた笑いを響かせた。鬱陶しく感じたが、もうじきこの男の顔も見なくて済むようになると思うとそんな感情は心の奥底に引っ込んで行ってしまった。
「…よし、貴様に最後の命令を与える。出撃し、敵殲滅に尽力せよ!」
「はっ!」
私は形式だけの敬礼を行い、パソコンのディスプレイの電源のみを落として部屋から出て行った。
これで奴らにバレることはあるまい。精々基地司令部で椅子にふんぞり返っているといい。
最後に笑うのは…私だ。
~輸送機内~
輸送機のエンジン音のみが響き、静寂を保っている輸送機の中に声が響いた。
「さぁ、そろそろ目標地点だ。準備は大丈夫かな?」
ドクターはコックピットから貨物室に振り向いて言った。
まだ敵には見つかっていないようで、輸送機は至って穏やかな飛行を続けている。輸送機の窓から見える眼下の景色は海の碧と空の蒼のコントラストで綺麗に染まっており、これから決死の戦闘が始まるようには到底思えない。
「えぇ、いつでも…っ…」
“いつでもいける”、そう言おうとしたであろう熊野が突如頭を押さえて苦しみ出し、座席に蹲るような体勢になった。
「ちょっと、本当に大丈夫?今日で何回目?」
鈴谷が熊野の背中をさすりながら尋ねる。今日だけでもこのような事は4、5回目なのだ。
「え、えぇ、大丈夫ですわ。ちょっと頭が痛むだけ…この程度…どうとでもなるはずですわ」
熊野は笑顔を作って言うが、額には脂汗が滲んでおり、到底大丈夫とは言える状況にないのは誰の目から見ても明らかだった。
しかし、この度の戦いでは少しでも戦力が欲しいため、誰も休ませるわけにはいかなかった。ましてや熊野は第一線で活躍する我が鎮守府のエースであり、尚更休むわけにはいかないのである。
(なんなんですのこの頭痛は…どうにかなってしまいそうですわ)
熊野は痛む頭を押さえ、歯を食いしばった。
「…降下するぞ。出撃準備をしてくれ」
ドクターは心配そうな声音のまま準備を促した。
晴れ渡った空とは打って変わって輸送機内の空気は重苦しいまま、機体は降下体勢へと突入する。
ガタガタと風が輸送機の外壁を叩き、細かな振動が機内に伝わってくる。その振動ですら熊野の頭痛に拍車をかける。
「見えた!敵部隊だ」
ドクターが緊張した声でそう告げ、機体の高度がより一層下がり始めた。
深い碧色の水面がグングンと近づいてくる。決戦は近い。
「ハッチ開けるぞ!」
鈍い金属音とワイヤーの擦れる音と共に後部大型ハッチが開き始める。風が吹き込み、思わず目を瞑った。
「降下可能海域到達!いつでも行けるぞ」
ドクターの声にしたがって機内の部隊は立ち上がって位置についた。
「準備完了したよ!」
「ok!行ってこい!」
ドクターがインパネにあるロック解除装置をいじったのが見えた。
足元の台車のロックが外れ、一気に外に飛び出した。
碧々とした水面が視界いっぱいに広がり、やがて鈍い着水の衝撃がやってきた。陽の光を受けて煌めく白い飛沫がやけに幻想的で、吸い込まれそうだった。
鈴谷、熊野、吹雪、赤城、ヲ級改F、レ級F、ル級改F、北方棲姫(ヲ級に曳航中)の面々は無事に着水を果たし、陣形を整えて迎撃体制を取った。
風がやや強く、耳に響く風切り音が仲間との会話を阻害する。近距離でも無線でのやり取りは必要そうだ。
鈴谷はふと上空を見上げた。蒼空に敵機の姿はなく、ただ雲が穏やかに風に流されているのみであった。
「赤城さん、今なら管制機飛ばせるかも。敵機はいないみたいだし」
赤城の方に向き直ってそう言うと、赤城は頷き、管制機を甲板に出すよう妖精さんたちに指示した。
その間一行は敵が来るであろう方向に注意を向けていたが、敵はまだ見えず、穏やかな海面そこにあるだけだった。
(まだ見えないじゃん…上空からちょっと見えただけだったのかな?)
風がざあっと吹き抜け、鈴谷たちの髪を揺らす。
背後でレールガンの軽い音と共に管制機が上空に飛び立った。
(まあ、嫌でも管制機が上がれば敵の位置は分かるっしょ!)
内心明るく振る舞っているものの、手足は微妙に震え、これからの戦闘を拒もうとしていた。
(怖い…提督がいてくれたらちょっとは…ううん、かなり気持ちが楽なんだけどなぁ…提督…)
今はいない提督を想ってぼーっとしている時だった。
『レーダー感あり!敵部隊を捕捉!』
管制機から大声で報告が入った。
(集中しないと。死にたくはないもん)
そう言って鈴谷は艤装を構え直した。
『敵はかなりの数がいる模様。しかし直撃弾を得ることができれば駆逐艦の主砲だろうと傷を負わせる事はできるので落ち着いて攻撃を当てることを念頭において戦闘をお願いします。では、また変化があれば即連絡を入れるので』
そう言って管制機からの無線は切れた。
じっと水平線を見つめていると白い機体がちらほら見え始める。
ーー来た。奴らだ。
右手に連装砲、左に鉤爪、頭部には紅く不気味に光るモノアイ。細い足で波をかき分けてまっすぐこちらに向かってきている。
機械式か、はたまた生体式か。それはまだわからない。だがどちらにせよ脅威であることには変わりない。ここで食い止めなければ人類の文明は陸軍の野望によって滅んでしまう。
(ちょ、ちょっとこれは…数が多すぎるんじゃない!?…真面目にやんないと…)
予想していた数より遥かに多く、白い機体が重なり合って黒く見えるほどのディガーに鈴谷はテンションのスイッチを切り替えた。深く息を吸って、いつもの提督をイメージして指示を出す。
「戦闘準備!赤城さんは発艦を始めてください。ブッキーとくまのんは前衛で防衛、ル級さんとレ級さんはそれの支援、ヲ級さんとほっぽちゃんは赤城さんの周りで支援を!」
「くまのんって呼ばないでくださる!?」
熊野と吹雪、ル、レ級は鈴谷と共に前線を張り、赤城、ヲ級、北方棲姫はその影に隠れて火力支援をする典型的な布陣だ。皆慣れている分、長く戦えるだろう。
高速でこちらに向かってくるディガー部隊の先頭個体がこちらへ左手を伸ばした。
グラップルを撃つ気なのだろう。ならそれを利用して倒すまでだ。
炸裂音と共に鉤爪がこちら目掛けて一直線に飛んできた。
鈴谷は艤装目掛けて飛んできたそれを右手で掴んで右回転しながらグッと引っ張る。
ディガーは右手で射撃準備をしていたが、それによってバランスを崩して倒れかけた。
倒れてきたディガーの頭部に鈴谷は右回転の慣性をそのまま使って左斜め上より踵落としを叩き込み、物理的に水面下に沈めることで敵を無力化した。
「まず一体、次!」
「貴女武装は使わないんですの!?」
熊野はグラップルを撃たれる前に正確無比な射撃を叩き込むことで無効化していた。三連装砲の弾をそれぞれ一体に命中させていたため、一斉射で十五体を屠ったことになる。ディガーは速度で敵を翻弄し、重巡相当の火力で敵を殺すのがコンセプトの兵器だ。速度にステ振りしてしまったため防御力が駆逐艦以下なのである。まぁ、例外も居はするが。そんな性能をしているから、速度で翻弄できなければただの的と同じ、重巡クラスの踵落としや砲撃をくらえば瞬殺なのだ。
「す、鈴谷さん武装展開せずに戦ってる…」ドンビキ
吹雪は15cm連装砲を連射して敵を沈めながら主砲等の武装のみ収納して格闘戦をしている鈴谷の方を眺めていた。そのせいで死角から突撃してくるディガーの存在に気づくのが遅れてしまった。
「しまっ…」
次の瞬間、グラップルが吹雪目掛けて一直線に飛んできて艤装に深々と突き刺さった。
ワイヤーが火花を散らしながら巻き取られていき、ディガーの体がグングンと近づいてくる。…が、
「来ないで!」
直線的に移動してくる軽装甲の敵など、的に過ぎないにである。吹雪の放った砲弾は頭部を抉り、ワイヤーを引きちぎって敵を黙らせた。
「ブッキーだいじょぶ?損害はどんくらい?」
「機関に少し損害が…ですが支障はないかと思われます」
吹雪は少し息をついて答えた。
「よかったじゃん、身体に命中しなくて」
鈴谷にそう言われて吹雪ははっとした。もし今艤装に突き刺さっているこの鉤爪が自分の体に命中していたら。いくら常人より強度は高いとはいえ一瞬で戦闘不能に陥っていたであろう。そう考えて吹雪は身震いした。
「次波ガ来ルゾ!次ハ私二ヤラセテクレ」
レ級が目を輝かせて言う。フラグシップ特有の黄色いオーラがより一層輝いて見えて、どこか怖いものを感じさせた。
「いいけど、ちょっと心配だからル級さんと一緒にね?」
鈴谷がそう言うとレ級は子供のように頷いてル級をぐいぐい引っ張ってディガーの群れに突っ込んでいった。
ル級の元ネタはアメリカの標準型戦艦と言われるが、それを楽々引っ張っていくレ級の潜在能力は計り知れない。
程なくして人柱…ならぬディガー柱が何本も上がり、空中に舞ったディガーは無惨にもレ級の対空砲火で撃ち抜かれ、バラバラになって落下し沈んでいく。時折聞こえる笑い声はレ級のものだろうか。つくづく彼女が敵にいなくて良かったと鈴谷は思った。
レ級たちが暴れているせいで艦隊にしばしの休憩時間が訪れた。いくら相手が弱いとはいえ多数を相手にしていれば疲れが来てミスをしてしまうかもしれない。それを誘発しないためにも今のような休憩は必要なのである。
水を飲んだり携行食を食べたりしている時だった。無線からあまり聞き慣れない音が鳴った。
「な、なにこの音?」
鈴谷が無線機を奇怪なものを見るような目で見て言った。
無線機は初めノイズばかりを発していたのだが、やがて音声は明瞭になり、聞き取れるようになった。が、その内容は声ではなかった。
「モールス信号…?か、解読すんのめんど…」
「私がやりましょう。しばらくお待ちを」
赤城が鈴谷より無線機を受け取って飛行甲板の上にメモ用紙を広げて高速で解読を始めた。
静寂が訪れ、風の音と波の音、無線機の音と向こうで暴れているレ級ル級の音がやけに大きく聞こえるようになった。
鈴谷がふと思い出したように熊野に向かって言った。
「そういやくまのん、頭痛は?」
「それがさっぱり。先ほどまでが嘘のように消えてしまいましたわ」
熊野は清々しい顔でそう言った。鈴谷は熊野の元気そうな顔を見て満足したのか、それ以上詮索するのをやめた。
「解読終わりました」
赤城の言葉にそこにいた全員が赤城の周りに集まった。
ーーー
ーー
ー
水上部隊へ
こちらは潜水艦隊。
一向に出番がなかったので敵泊地周辺を偵察してきた。
更に多くのミットシュルディガーの出陣を確認。特別個体も多数確認。注意されたし。
潜水艦隊より
ー
ーー
ーーー
「潜水艦隊!?出撃してたの!?」
「鈴谷さん…そこからですか」
ジト目で見つめてくる吹雪に”冗談だって”と付け足しながら鈴谷は笑った。
「赤城さん、潜水艦隊に打電お願いできる?」
赤城は頷き、発信準備を始めた。数秒後、”終わりました”の一言を確認して鈴谷は潜水艦隊に向けた簡潔なメッセージを伝えた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
風の音など一切届かず、光すらも届かない場所、深海…と言えたらかっこいいのだが、ここではそうではない。光もしっかり届く実際の船スケールで言えばかなりの浅瀬である。
水深十数メートル地点で我が鎮守府の潜水艦隊は水上に確認できた部隊に打電を終え、返信を待っているところだ。
「イムヤ、海上から返信がきたでち」
ゴーヤこと伊58が暇そうな顔でそう伝える。
潜水艦隊は、邀撃部隊と共に出撃したはいいものの、第一戦では水上艦が敵を撃退してしまい、遁走した敵を追撃しようにも速力が足りていなかった。そのまま流れで第二戦に行こうとしたが、第二戦からは提督とそのお姉さんが参加するという事を聞き、自分たちはやる事ないだろうと判断、攻撃の姿勢から一転して敵泊地の捜索と敵の動向偵察に徹していたのだ。
この事からしてイムヤは”どうせ自分らの出番はない”と半ば不貞腐れていたのだ。
(どうせその返信も偵察への感謝と引き続き偵察のお願いなんでしょ…)
そう思いつつゴーヤに返信を読むように促して自分は目を閉じた。そんなイムヤに告げられた言葉は予想外なものだった。
「えーと、鈴谷さんからでちね。…敵見つけたんなら殲滅シクヨロ!期待してるよ!…だってさ」
その言葉を聞いたイムヤのぼやけていた思考が急激に覚醒し、仰向けに漂っていた姿勢を勢いよくただした。
「それほんと?」
食い気味に迫るイムヤを手で制しながらゴーヤは呆れて言った。
「嘘を言って何になるのでちか。ほら、さっさと指示を出すでち」
イムヤは目を輝かせて、先ほど偵察した海域の方を指さした。
「潜水艦隊、敵殲滅に出発!」
「Jawohl、伊168。U-511、最大戦速で目標海域まで航行する」
食い気味に返事をした後全速力で発進するU-511を先頭に潜水艦隊は目標海域へと前進を始めた。
「イムヤちゃん、ディガーは速いんでしょ?魚雷なんて当たるのかな?」
心配そうに伊401がイムヤに尋ねるが、イムヤはどこ吹く風といったふうに答えた。
「まぁまぁ、そう心配しないでよしおいちゃん、私にはちゃんとした作戦があるんだから。えっとね…」
得意げに説明を始めようとしたその時、無線にノイズが走った。潜水艦隊の無線にノイズが走るという事はVLF通信で遠くから通信してきている証拠だ。いったい誰だろうか。
話の腰を折られてちょっとご機嫌斜めのイムヤは無線で送られてきた物を見て首をかしげた。
「欧州の深海棲艦の脅威が薄れたからフランスより支援艦隊が到着…?潜水艦隊にはスルクフが参加…?誰よ?」
その名を聞いた途端、先頭にいたU-511が反応した。
「銀の長髪に
「誰がバケモノですって?」
…到着早くないですか…?」
突如響いた凛とした声に潜水艦隊が後ろを振り返るとそこにはつい先ほどU-511が話した通り、銀の長髪を水に靡かせながら海の色に溶け込んでしまいそうな碧色の眼でこちらを見ている潜水艦がいた。
「鎮守府で簡易改装を受けた後空挺してもらったのよ。今頃水上でも仲間たちが邂逅しているはずだわ」
ーー
水中
ーーーーーーーーー
水上
ーー
「…それで、欧州の方で暴れていた姫級部隊が突如確認できなくなったからある程度の戦力を祖国に残してこっちに来た…ってコト?」
ほんの数分前に突如空挺されてきた艦隊と邂逅した海上部隊は簡単な事情説明を受け、それを確認しているところである。
「おそらくだけど最近になって深海の活動が激化してきているこの近辺にいると本国は睨んだらしいの。よろしく頼むわよ」
ふわっとした長い金髪と白人特有の白い肌、そして白、黒、赤でまとめられた艤装が目立つ艦娘が一歩踏み出して鈴谷に握手を求めた。
「えーっと、ごめん、何さんだっけ?リ、リス…」
ぎこちない鈴谷を見てその艦娘は微笑み、差し出していた手を自分の胸に当てて言った。
「私の名前は
鈴谷はそれに対して改めて差し出された手を取りながら言った。
「私は最上型重巡洋艦の三番艦、鈴谷だよ。よろしくね!…で、後ろの貴女は…」
リシュリューの後ろで待機していた艦娘が前に出てきて、それぞれ自己紹介を始めた。
最初に出てきたのはメッシーバンで纏めた綺麗な銀髪を持ち、太陽のような若干オレンジがかった赤の瞳をした艦娘だった。
「私は
ハキハキと快活に喋るダンケルクはどうやら勝ち気な性格のようで、切れ長の瞳の奥には深海棲艦を撲滅するというゆるぎない信念が宿っているかのように思われた。服はリシュリューのそれとは違い、キャリアウーマンのようにパリッとしたスーツを着込んでいた。艤装は全体に黒のつや消し塗装が施されており、これまでにない威圧感と重厚感が感じられた。
次に出てきたのは茶髪の…ゆるふわウェーブとでも言うのだろうか、リシュリューと同様ふわっとした髪と初夏の木々の青々と生い茂った葉を彷彿とさせる緑目が特徴で、常に捉え方によっては妖艶、可愛らしい、などと意見が分かれそうな表情を浮かべている艦娘だった。
「私は戦艦、
ゆったりと、しかしはっきりと喋るアルザスの声はどこか神秘的なものを感じさせ、注意していないと引き込まれそうにさえ感じられた。フランス人形のような服装も相まってどこか童話の中に紛れ込んでしまったのではないかと錯覚しかけるが、彼女の後ろより伸びる武骨な鋼鉄の艤装がそれを否定する。
最後にアルザスの後ろから音もなく出てきたのは欧州艦にしては珍しい黒髪をエアリーウルフボブに纏め、そこに入る一本の銀のメッシュ、ラベンダー色の切れ長の瞳が特徴的で、ダンケルクと同様にスーツを着込み、艶消し黒で染められた艤装を装備している艦娘だった。
「私はアルザス級二番艦、
そう言って軽く頭を下げ、ノルマンディーはすぐに下がってしまった。
「姉妹でも随分と服装などが違うのですね…なぜなのですか?」
個性の塊とも言えそうなフランス支援艦隊のなりを不思議に思ったのだろう。赤城が小首をかしげてリシュリューに尋ねた。
「フランスは自由の国なの。艦隊行動さえキッチリとして居れば服装や艤装は好きにしていいのよ」
リシュリューは得意げにそう答え、面白いでしょ?と言った。
「じ、じゃあ、私もフランスに行けば好きにイメチェンできるってコト?」
鈴谷が食い気味に尋ねた。
「鈴谷さん、多分うちの提督ならほとんどなんでも許可しますよ。特に貴女のいう事ならね」
赤城が微笑しながら言った。
「?…どういう事?」
「…この鈍感…」
熊野がボソッと言ったが、鈴谷には聞こえていないようだった。
「あ、そうだフランスさん、今ディガー…敵の対処を潜水艦隊にに任せているんだけど、その間は待機だからそこんとこよろしくね」
鈴谷のその言葉にフランス艦隊は頷き、めいめいのんびりし始めた。
「さ、さすがフランス…」
吹雪はそのくつろぎっぷりに苦笑いしつつ潜水艦隊の無事を案じて今潜水艦隊がいるであろう方向の水平線を眺めた。
ーー
水上
ーーーーーーーーーー
水中
ーー
「それで、作戦は結局どうなるの?」
心配そうな顔をしたしおいにイムヤは得意げに言う。
「簡単!まずしおいちゃんと400ちゃん、スルクフさんで浮上して艦載機やらなんやらで注意を引いて、あとはホーミング魚雷におまかせ!って感じよ」
説明し終えたイムヤにしおいと400が詰め寄った。
「「私たちに死ねと!?」」
そんな二人を手で諫めながらイムヤは話をつづけた。
「艦載機を発艦させた後すぐ潜ればよし。スルクフさんはそういう訳にはいかないけれど…いけそう?」
イムヤの問いにスルクフは満面の笑みで応えた。
「任せて。普段なら断るけど鎮守府で改装を受けてきたから、やれるわ…多分」
「多分!?」
ーーーーー
10数分後、目標海域にて潜水艦隊はソナーに映る敵を見つけた。
「敵発見、頼んだよ!」
イムヤの指示を受けて伊401、伊400、スルクフが急浮上をかける。途端に今まで並走していた姿が視界の端から消え去り、バラストタンクより排水される海水の音が響いた。
「ん…?これ、ディガーじゃなくない?」
「えっ?」
伊8がふとソナーを見ながら呟いた。
「だっておかしいのよ。明らかに大きい個体と小さい個体がいるのよ。ディガーの大きさにどれも当てはまらないわ」
イムヤは慌てて改めてソナー画面を確認した。言われてみると確かにそうだ。大小様々な反応がある上に数も少ない。最初ソナーを見た時は数が減っていて得をした、と思ったが今は不気味さが募るばかりだ。なぜ数が減った?そしてこの反応の差はなんだ?
薄々その疑問の答えを察しつつも、浮上したスルクフからの報告でその正体がはっきりとなる。
『
無線が切れる前に、発砲音と思われる轟音が響き、無線はノイズで満たされた。
「スルクフさん!?」
それにとって代わるように無線が入る。この無線は全体無線、水上艦隊にも届くものであった。
『こちら400、欧州姫級部隊を新たに確認!至急援護を…』
こちらも同様、弾着音と共に無線はノイズを発するスピーカーへと変わった。
『こちら水上艦隊、直ちに急行する!』
即座に水上艦隊から無線が返ってきた。これで敵の掃討に関しては心配することはなさそうだ。
「潜水艦隊、全艦負傷者を抱えてこの海域を離脱するのよ!私の予測が正しければソナーの小さい点は…」
言い終わるより早く、聞きたくもない音が耳に響いた。
ある程度質量を持った物体が水面に連続的に着水し、泡沫と共にゆっくりと沈んでくる音。潜水艦であるならば聞かずに戦闘を終えたい音。
イムヤは心の中で悔しそうに言った。
(やっぱり小さい点は駆逐艦か…!)
艦娘は謎補正()で一撃で死ぬことはなく、致命的な攻撃を喰らっても限りなく轟沈に近い大破にとどまる。しかし、現在気を失って沈降してくるスルクフと400はもう一度被弾すれば確実に沈む。気絶中の2人を抱え、なんとか潜航が間に合ったしおいと合流したイムヤは鋭く指示を飛ばした。
次の瞬間U-511がこれまでにない大声で叫んだ。
「全速前進!爆雷が投射された!死にたくなければ急げ!私は死にたくない!」
捕捉されているのだから静音性を気にすることはない。めいめいが明石印のディーゼルタービンをフル回転させて逃げに入る。
水中ではそ速度が10ktに満たない潜水艦は駆逐艦に捕捉されたらほぼ終わりと言ってよい。だがこの潜水艦隊は一味違う。
「機関全速。さあ、実戦初の60ktを見てみようじゃない」
全艦がありえない速度で海域を離脱を開始する。遥か後方で爆雷がくぐもった音を立てて繰り返し爆発した。
ようやく安全な海域に来た、と安堵した潜水艦隊はしばし水中にとどまり負傷者の介抱にあたった。
「起きろーーー、窮地は脱したよーーーー」
スルクフと400の頬をペチペチ叩きながらゴーヤが呼びかけた。
「Où sommes-nous… Qui suis je?」(ここは何処…私は誰?)
「スーちゃん壊れたでち!?」
「スーちゃんって言わないで!?」ガバッ
「あ、起きた」
ボッロボロのスルクフが元気よく目を覚ました。
「っ!敵はっ!?」ガバッ
「こっちも起きたでち」
スルクフに続いて伊400も目を覚ました。
「それで、この後どうするの?」
イムヤは全員に聞いた。
「提督に指示を仰ぐのね」
伊19…通称イクが提案をした。それを受けてイムヤは無線を取って提督に連絡を入れる。
「こちら潜水艦隊、提督、この後私たちはどうすればよろしいでしょうか」
無線の向こうで提督は数秒考えた後、発言した。
『撤退だ。負傷者もいるし燃料の問題もある。それにわざわざまた
「…了解しました」
イムヤは無線を置いて言った。
「今聞いた通り、これから鎮守府へと帰投するわ」
イムヤは自分の心の中で揺れている“活躍したい、まだ戦える“という気持ちを押し込んで帰路についた。
潜水艦隊の面々はそんなイムヤの心内環境を案じつつも黙ってイムヤに後について鎮守府へと舵を切った。
ーーーーー
「ありゃ相当堪えてるな…まあ無理もないか」
提督は無線を置いて言った。
「もう活躍の場は与えないつもりなの?」
姉さんが少し潜水艦隊を案じるように言った。
「それは時期がくればわかる…というか明石次第だ。今は鈴谷達に合流することを第一にしよう。確か今欧州姫級部隊掃討に向かっているんだよな?どの辺にいるんだ?」
「提督、たった今通信が。掃討終了、すぐに合流するとのことです」
加賀が淡々と告げた。
「…早いな。まあ、何はともあれ残す戦力はディガー部隊と敵の本陣だけだな」
提督は静かに波を立てる海と青い空との境界を見つめ、呟いた。
「ディガー…殺ってやる…」
そろそろ朝潮型の我慢も限界のようだ。ディガーと対面した時のことを考えるとゾッとする。
不意に無線からノイズが走り、聞き慣れた声が聞こえてきた。
『てーとくー、おーーーーい!』
鈴谷だ。提督はあたりを見回して、少し遠くから手を振りつつ近づいてくる鈴谷の部隊を視認した。
「おぉ、無事だったか。怪我はない?負傷者は?」
提督は鈴谷の部隊に次々と質問を投げかけた。
「ちょ、提督。そんなにいっぺんに聞かないでよ…時間はあるんだから」
鈴谷が両手で提督を制している傍で、皆が合流できたことを喜び合った。深海棲艦の皆は防空棲姫の帰還に喜び、加賀は赤城と、吹雪は朝潮型と笑って話していた。しかしそこで、久々に対面していたドイツ艦隊とフランス艦隊が…(仕事モードの)ビスマルクとダンケルクが口を揃えていった。
「どうやら、再開を喜び合うのは後回しになりそうだ」
「あぁ、あれがディガーか?随分と沢山いるもんだ」
その言葉に釣られてビスマルク達の視線の先を見ると、これまでで1番多い数と思われる数の白色装甲が際立つ
不意に赤城が提督の肩をちょんちょんと叩き、敵部隊の方を指さした。
「提督、敵軍の最後方…新型でしょうか」
赤城の指さした先、敵の後ろには装甲板が真っ白なディガーと違って表面は全体的に黒く、関節や頭部の所々に紅の差し色が入った、ディガーとは形状からして違うロボットのようなものが佇んでいた。
「いかにもボス、って感じだな。なに、言うてそこまで強くないだろ…多分。全員、戦闘準備」
提督の指示で全員が艤装を構えた途端、ディガーの最前列が高速移動を始めた。
「油断はするなよ。仲間を殺した相手だ」
途端に味方の雰囲気が尖った物へと変わった。特に…
「ようやく…殺れる…提督、指示を!」
朝潮型の面々である。殺気だけで敵を殺しそうな勢いだ。お預けしたら提督が殺されかねない。
「少しでも危ないと思ったら引け。命が大事だ。全艦突撃!」
合戦時の戦国武将のような気迫で味方艦隊全員が突撃を開始した。
さて、ここで一つ問題が発生する。
「タービン全速!霞の仇だ!」
高速で敵に向かっている艦隊どうしが接敵するのに要する秒数は何秒だろうか。
「…!」
まして敵は高速性のために装甲を削り、三次元機動を可能にするためのグラップルまで取り付けた高機動型だ。
答えは簡単、
「はぁっ!」
一瞬だ。
突っ込んでくるディガーにグラップルを射出する機会を与えずに朝潮は懐に潜り込み、掌底で敵をノックバックさせる。
よろけたディガーはせっせと姿勢を立て直そうとするが、それよりも早く朝潮の連装砲が立て続けに火を噴き、その姿を海中へと消した。
「まず一体、次!…!?」
しかし、朝潮は失念していた。味方艦隊の人員数よりはるかに敵部隊の人員が多いことを。
倒したディガーの後ろから新たな個体が接近し、グラップルを射出したのだ。
それを避ける余裕はなく、顔の前で交差した腕の上にある艤装、主砲塔の天板に火花を散らして突き刺さった。
その衝撃に思わず目を瞑ってしまった。再び目を開けたときディガーの姿は視認できなくなっていた。
「どこに行った!?」
主砲塔にグラップルは刺さったままである。ワイヤーは切れていない。
「ッ!直上!」
ディガーが重力とワイヤーの巻取りを利用して加速し、連装砲を回転収納した右手でこちらを粉砕しようと向かって来ていた。
朝潮は咄嗟に主砲艤装を捨ててバックステップで回避しようとする。
「これで…」
支点を失ったディガーは水面に着水して一時的に行動不能になるか沈むかするだろうと朝潮は考えたのだ。だが、敵はそんなことはお見通しのようだった。
ディガーの背面で小さな爆発音が連続し、水面に激突するギリギリで進路を変更し朝潮の方へ突進してきたのだ。
「ブースター!?」
体をひねって回避しようとした朝潮の鼻先をディガーの右手の甲に設置された小口径砲の弾が掠めて行った。
そのまま後ろに倒れ込むような形で朝潮は一時的にそこを離脱しようと試みる。
だがディガーは離脱しようとする朝潮にいつの間にか戻していた右手の連装砲を連射した。
朝潮はそれを右に左に避けながら魚雷をディガーの予測進路に向けて投射し、体勢を立て直す。
魚雷は高速移動中のディガーの足元に寸分違わず命中し、大きな水柱をあげた。
さすがのディガーも魚雷の爆発には耐えられなかったようで、黒煙を濛々とあげながら海中に沈んでいった。
「はぁ、はぁ、はぁ…強すぎる…!」
第一主砲塔艤装を失い、疲弊した朝潮にも敵は等しく襲い掛かる。朝潮は次なる敵の対応に追われるようにその場を離脱した。
数秒後、先ほど朝潮がディガーを沈めた海域に赤城と加賀が追いやられるように後退してきていた。
「…ッ!」
赤城と加賀は管制機、艦載機をほぼ全機射出し、副砲と対空機銃しかない丸腰で迫り来るディガーをいなし続けていた。
二人に対し、ディガーは三体。圧倒的不利である。
加賀は後退しながら矢筒にもしもの時のために、と入れておいた普通の矢(とはいっても鋼鉄製だが)をたがえて一番近いディガーに向けて放つが、一方のディガーはそんなものは効かないというように矢を軽々とはねのけ、さらに距離を詰めようとしてきた。
ついに先頭のディガーが加賀を射程距離に捉え、左手からグラップルを射出してきた。加賀は咄嗟に飛行甲板でガードし、グラップルは甲板に深々と突き刺さった。
「ッ!」
金属ワイヤーが音を立てて巻き取られていき、ディガーの無機質な顔面が迫ってくる。
「加賀さん!避けて!」
赤城の普段聞かないような声に驚き、飛行甲板はそのままの位置に固定しつつも加賀は体だけをわずかに移動させた。
次の瞬間、艦娘として生を受けてから毎日見続けていたもの、赤城の飛行甲板艤装が目の前を高速で槍のように通り過ぎ、迫ってきていたディガーの顔面に突き刺さった。その勢いでディガーの頭部は大きくゆがみ、火花を散らしながらのけぞるようにして海面に倒れ、爆発した。残り二体は倒れた一体の残骸を避け、なおも必死に追いすがる。なかなか追いつけないことにしびれを切らしたのか、右手の連装砲を赤城に向けて構え、連射した。
自分の方へまっすぐ飛んでくる砲弾は速く、避ける暇はなさそうだ。被弾を覚悟して目をつぶるが、予測していた衝撃波はこなかった。
驚いて目を開けると、赤城の前に加賀が立っていた。
「飛行甲板は、盾ではないのだけれど…赤城さん、行けるかしら?」
加賀は微笑んでいった。
その言葉で赤城は何をする気なのか悟った。そうだ、自分たちには他の自分たちにはない能力があるではないか、と。
赤城と加賀は逃げから反転してディガーに正面から向かうような形をとり、叫んだ。
「「
そこから決着までは早かった。一瞬で航空艤装が収納され、代わりに戦艦艤装が出現し、制服は黒を基調としたものに変わったのだ。
展開するや否や、加賀は左側の連装砲三基を、赤城は右側の連装砲三基を、同時に斉射してこちらに相対するディガーを射出中だったグラップルごとゼロ距離で吹き飛ばしたのだ。
ディガーは装甲を削り機動性に特化した戦闘個体だ。41㎝砲弾6発をくらって立っていられるはずがない。
文字通り吹き飛び、弾薬庫が誘爆してその体は爆ぜた。
「このまま味方部隊まで行きましょう、加賀さん」
「えぇ、長門型を超えるこの力、とくと味合わせてやりましょう」
そう意気込む二人の前に、新たなディガーが立ちはだかる。あっという間にグラップルを加賀の艦首に突き立て、そこを支点にブースターで加速しながら半円状の軌道を描いて突っ込んできたのだ。
だが、ディガーの奮闘虚しく、主砲弾一発が直撃し、ワイヤーを引きちぎってその体を後方に倒す。
ディガーは起き上がることもできずに、海中へと引きずり込まれていった。
あっという間に新手を片付けた二人の前を、一筋の光が横切り、着弾点で大きな爆発が起こった。
「これは何!?」
加賀が驚いて言うが、赤城が落ち着いて説明した。
「これは提督の艤装よ。触れさえしなければ安全なはずだから。私たちは私たちにできることをしましょう」
そう言って赤城と加賀は味方の支援に別な場所へと向かった。
二人が去ってコンマ数秒後、提督と鈴谷、そして熊野がその場所に来た。
「ポリウスチャージまであと30秒、十時の方向敵ディガー二体、鈴谷主砲用意、三時の方向ディガー一体、熊野、頼んだ。六時方向は俺がやる」
「「了解(ですわ)!」」
次の瞬間閃光が立て続けに瞬き、砲弾がディガー向けて飛んで行った。
ディガーはよけようとするが、ブースターでよけた先に別の砲弾が飛んで来ており、あえなく被弾、行動不能となった。
「よし、次!」
そう言って次の目標を探そうとしたとき、提督の視界の端に黒い高速で動く影が映った。
本能が警鐘を鳴らし、反射的に体をよじって回避姿勢を取ると、コンマ一秒も経たないうちに目の前を先ほどボス機体のようにたたずんでいた機体が音速と見紛うレベルの速さで駆け抜けていった。
「ボスのお出ましってか!」
提督は意気揚々とボスに向かって駆け出そうとしたが、その時問題が発生した。
「…ッ!頭が…痛い…」
熊野の頭痛が再発したのだ。それもこれまでにないほど痛がっている。
「………一時撤退!」
それを見た提督はどうするかを五秒ほど悩み、突進をやめ、いったん引くように鈴谷に指示した。
頭痛で移動速度が落ちている熊野を肩で支えるようにして提督とその一行は一時的にディガーと距離を取った。
これをいいことにボスが突っ込んでくる…なんていう事はなく、相手も同じく距離を取った。その行動の意図は分からないが、何はともあれ助かった。
「熊野、熊野、大丈夫か!?」
頭痛で苦しむ熊野に呼びかけるが、熊野はうめき声をあげるだけで答えることはしなかった。
「鈴谷、これか?」
鈴谷に向かって問いかける。
「そうこれ。毎晩こうなってたの…でもいつもよりひどい…」
そう会話していた時、熊野が辛うじて絞り出したような声で言った。
「…督…提督…離れて…」
提督にはその言葉の意味が理解できなかった。
「熊野、それはどういう…」
「離れてくださいまし!…私が…私デあるウちに!」
熊野は提督の手を振り払い、一歩下がったところでまた頭を押さえた。
見ると、その押さえる手は普段の肌色ではなく、これまで嫌と言うほど敵として見てきた白色へだんだんと変わっているのが見て取れた。
手だけではない。髪も白くなり、目は紅く染まりだした。
ーー深海化。そう言えばいいのだろうか。目の前で新たな深海棲艦が生まれていくようだった。
「防ちゃん…どうしたの…ってそれ!?」
俺が一時的に退いたことを不思議に思ったのか、姉さんが宣戦を一時離脱してこちらへ来た。
「何か知っているのか?」
「昔、艦娘を深海棲艦に変化させて戦力に加えようって言う計画があって…これはきっとそれの技術よ」
「治す方法は…」
「しらないわ…ごめんなさい」
提督は視界が真っ暗になったように感じた。治療法がないなんて…もっとも、適切な治療法があったとしてもこの何もない洋上でできるとは思えないが。
「提督…早ク…沈めてくダさいまし…私ハ皆と戦イたくナイ…!」
熊野が息も絶え絶えにそう言った。
「まだ…まだ何か方法があるはず…」
提督は何とか解決策を見つけようと少ない頭をフル回転させたが、それと言って有効な策は何も思い浮かばなかった。
『防空棲姫さん、提督、援護を…!』
突如無線が入り、その後ノイズと共に途切れた。
「今のは霰!?何が…」
戦闘海域の方に目を向けると、先ほどの黒い機体がディガーと共に暴れまわっているようだ。なぜ序盤は傍観を決めていたのかは知らないが、そいつが動き出した今、艦隊は劣勢に立たされていた。
『全員一時撤退せよ!』
提督はそう指示を飛ばし、目の前の問題にまた集中しようとした。
「提督…早ク…早ク…!」
熊野は提督に艤装を向けようとする自分の手を抑え込みながら必死に懇願した。
「待って!まだ何か…」
鈴谷も半泣きで熊野に近寄ろうとした。その手に触れた瞬間、熊野の手がバネ仕掛けのように上がり、主砲を鈴谷の顔面に向けて静止した。
「ひっ…!」
鈴谷は動揺と恐怖、その他色んな不安定な感情が入り混じった顔で熊野を見つめた。
対する熊野はもうほとんど面影はなく、全く新しい人格が出来ようとしていた。その顔は必死に引き金を引くまいとする顔と、目の前の敵を殺そうとする顔が入り混じり、歪んでいた。
「…熊野、すまない」
提督はこれ以上の思案は無意味と悟ったのか、主砲を熊野に向けた。
「提督、待っt…」
鈴谷が止めようとしたが、それよりも早く提督の主砲が火を噴いた。
煩かったはずの戦場でその砲声はやけによく響き、耳に残った。
ほぼゼロ距離で放たれた砲弾は外れる由もなく、熊野に命中した。
「…アリガトウ」
熊野はゆっくりと倒れ、微笑みを湛え、涙を流しながら動かなくなった。
「あ…あ…」
鈴谷が変わり果てた姿の熊野を抱えて短く声を発する。その頬には涙がつたっていた。
本来ならここでケアに入りたいところだが、敵は待ってはくれない。
撤退してきた味方を追ってきたディガーが背後からグラップルを射出した。
提督は無言でそのグラップルをつかみ、力任せに引っ張って近づいてきたディガーの脳天部に正拳をお見舞いした。ディガーはその場に崩れ落ち、動かなくなった。
その場を赤城と加賀、その他戦艦部隊に一度預け、提督は動かなくなった熊野を抱えて泣いている鈴谷の方に向き直った。
「最上、三隈…熊野を鎮守府に連れて行け。明石に診させるんだ」
撤退してきた最上と三隈に提督は指示を出した。二人とも現場は見ていたため、無言で頷き、鈴谷の手から熊野を引き取って肩で支え、鎮守府に向けて移動を開始した。深海化しているからなのか、提督の撃った砲弾による破孔はみられず、ただ気絶しているようにも見えた。
「待って、私も行く!」
「ダメだ!」
鈴谷が姉妹についていこうとするが、提督がその肩をつかんで引き留めた。
「なんで!?何で行かせてくれないの!?」
鈴谷は半狂乱で叫んだ。
「お前がいなくなったら誰がこの海域を護るって言うんだ?主戦力が抜けたら大変なことになる。それに…」
提督が鈴谷を説得しようと必死になっているところに、防空棲姫が割って入った。
「防ちゃん、行かせてあげなさい。私達だってそこまで弱くはないのよ?間を埋めることくらいできるわ」
それを聞いた鈴谷は提督の手を振り払い、姉妹のもとへと駆けだしていった。
残された提督はしばし呆然としていたが、背後の爆発音で我に返った。
「戦艦部隊、金剛、榛名、陸奥が大破!撤退します!」
「…どうやら、ゆっくり考える時間もないようだ。今回の件は目の前の敵を片付けてから、考えるとしよう」
だんだんと減っていく味方戦力。提督は非道な作戦を行おうとした深海に対して静かに怒りを燃やし、敵へと砲口を向けた。
オ ー バ ー ワ ー ク 明 石
潜水艦診て大破撤退した船診て熊野診てあと色々やって…明石スゲー(((
不明な点、矛盾している点等ございましたら指摘をお願いいたします。
次で終わるかなぁ…