魔改造提督の鎮守府ライフ   作:Jeep53

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40 ~決戦~終

蒼かった空が水平線のあたりから綺麗な橙色に染まってくる頃、俺たちは戦闘を開始した。

秋の風を切って突進してくるレイシャー。俺はその突進を横に逃げることで回避しようとしたが、脚部ブースター(スラスター)での進路変更により真正面から突撃を受け止めてしまった。

 

「ッ!…やるじゃないか」

 

そのままトドメを刺そうとしてくるレイシャーをヤクザキックで押しのけ、よろめいたところに主砲で追撃をかける。

が、その砲弾はほぼゼロ距離で撃ったにも拘らず重い音を立てて装甲にめり込むだけにとどまった。

弾かれたのではない。しかし、貫通してもいない。正面装甲に砲弾の尾部がくっついているように見えるのだ。

 

「ずいぶん特殊な装甲をもってるんだな…うおっあぶね」

 

感心しているとレイシャーの拳が俺の頬をかすめた。思わずバックステップで距離を取ると、レイシャーは右腕に収納されていたコの字型の細長いものを回転させ、前に伸ばした。

 

「オイオイ…マジか…」

 

そのコの字型のものは突如紅色の火花を出してスパークし始める。俺は危険を察知して横に飛びのいた。

レイシャーはその腕を俺に向け、引き金を引いた。

次の瞬間、先ほどまで俺がいた場所に大きな水柱が聳え立った。

 

超電磁砲(レールガン)は聞いてねぇよ…!」

 

レイシャーはその場を動くことなく、逃げ回る俺をあざ笑うかの如くレールガンを連射してくる。二本のレールから交互に弾が発射されるため、ボフォース40㎜機関砲のようなレートで大和の主砲弾よりも威力がありそうな砲撃を放ってくるのだ。たまったものではない。

迫り来る弾を右に左に必死に避けつつ俺は反撃方法を考え始めた。

レイシャーが不意に連射をやめ、突撃をかけてきた。

 

「!?」

 

咄嗟のことで判断が遅れた俺は再度その重い体による突撃で大きく吹き飛ばされ、水面にたたきつけられる。

一応分類としては船なので転倒してもすぐに沈むことはないが、艤装内部に水が少し入ってきたようで、先ほどまでと比べると体が重い。

転倒から一秒と立たないうちにレイシャーは追撃に移り、起きかけの俺の体にブースターで加速させたその鈍重な足をクリーンヒットさせてきた。

 

「かはっ…」

 

肺の中の空気が強制的に排出され、苦しみながら俺はさらに後方へと吹き飛ぶ。艦隊の皆からはずいぶん離れたところまで来てしまった。

レイシャーはそのままトドメだと言わんばかりに上空に飛び上がり、俺に向かって急降下してくる。

だが俺だってやられっぱなしというわけではない。だてに人間辞めてないんだ。このくらいでやられるような俺じゃない!

上空のレイシャーをキッと睨み、背中に背負っているVLSを二基とも起動。即座に発射し、艤装の手のところについているレバーでトマホークを誘導する。レイシャーは回避しようとスラスターを焚き、空中で軌道を変えようとしている。ーーが、無駄だ。

トマホーク1発目がレイシャーに命中、爆炎に包まれ海上に落下する。それに追い討ちをかけるように2発目。立ち上がろうとしていたレイシャーの胸部装甲にクリーンヒットし、またもやその姿は爆炎に包まれた。

 

「やったか…?」

 

人々はこのセリフをなんと呼ぶか。

 

ーーー答えはフラグである。

 

 

まだ晴れない黒煙の中からレイシャーが飛ぶ鳥を落とす勢いで飛び出してきた。

俺は軽く舌打ちをして突撃を回避する。するとレイシャー黒煙をたなびかせながらはそのまま後ろへ流れていき、反転してまた向かってくると思いきや、盛大にコケた。

呆気に取られて様子を観察してみると、明らかにヤツの調子がおかしい。

トマホークを二発もくらって動いているという事実はさておき、レールガン以外の場所からも火花を散らし、フラフラしているのだ。…ほぉう?(鈴谷リスペクト)

 

「さては姿勢制御中枢(ジャイロセンサー)がイカれたな?」

 

だが相手はジャイロがいかれた程度で勝利を譲ってくれるほど単純な奴ではなかった。

奴は燃費効率を無視したフルブーストで速度を稼ぎ、倒れそうになったらスラスターで無理やり姿勢を直すという荒業で俺に接近、左手を突き出した。

グラップルを俺に刺してそこを支点に戦おうとでもいうつもりだろうか。まあ俺がそれに応じるつもりはないがな。

空を切るグラップル。上半身をそらせて避けた俺はその勢いを生かして棒立ちしているレイシャーに後ろ回し蹴りを入れる。

重装甲の半機械相手に生身の攻撃が通じるのかって?おいおい、艦娘を見てみろよ。素手で砲弾払って蹴りで敵沈めてんだろうが。俺はそれよりも性能が上。つまりどういうことかというと…

 

こうかはばつぐんだ!

 

ということだ。見事にレイシャーは先ほどまでの海域の方向へと飛んで行ってくれた。

俺は追撃をかけるべくダッシュでその海域へと向かう。風を切る感覚が心地よい。ここが戦場でなければもっといいのだがなぁ。

ふと頭によぎった思考を雑念として振り払い、俺は戦闘に意識を戻す。倒れているレイシャーは今まさに起き上がろうとしている。さっさととどめを刺さないとな。そして本拠地をつぶしに行かなくては。

レイシャーに向かって砲弾を数発撃ちこみ、ノックバックで起き上がるのを抑制。ド近距離でトマホークを叩き込むわけにもいかないので無難にかかと落としで胴体を半分水中に沈める。

突如として奴がブースターを起動した。あまりに急なことで対応が遅れた俺はレイシャーに足をつかまれ、そのまま上空へと連れ去られる。

何とかして抜け出そうともがいていると、パッと放され、空中で一瞬止まる。空中でも安定した動きが確保できるやつとは違い、俺は航空装備を持たない。俺の試作兵器展開能力で飛行機を出すと実機が出てきてしまうのだ。飛行機だけは艤装化できないのだ。つまり俺は、飛べない。

自由落下し始めた俺の雷装目掛けてレイシャーがグラップルを放つ。体をひねってよけようとするが間に合わず、深々と刃は突き刺さり、俺は嫌な予感を覚えた。

レイシャーの左手が一瞬光った(スパークした)ように見えた。

 

「まさか…!?」

 

予感は的中した。奴はグラップルに電気を流し、切っ先で放電させたのだ。これで起こることは一つ。

 

魚雷管の誘爆だ。

 

目がくらむような閃光に俺は思わず両手を顔面の前で交差させる。刹那、轟音とともに俺は海面にたたきつけられ、視覚と聴覚が一時的に失われた。まずい。この状態で次に来るのは砲撃だ。

予想通り、レイシャーがこの機を逃すはずもなく、間もなくして俺の全身に衝撃が走る。

だが予想に反してそこまで痛くはない。奴も弱っているのだろう。

俺は攻撃が飛んでくる方向へ適当に砲撃をばらまき、何とかして体を起こした。

 

「ッ…あぁ…やってくれるじゃねぇか…」

 

 ようやく戻ってきた視界を頼りに辺りを見回すと、そこは最初に戦闘を始めたところだった。艦娘たちがあたりで戦っている。あまり苦戦はしていないようだ。

奴はノックバックから回復し、無茶苦茶なブースター噴射で再接近を試みている。

俺はそれをふらつく足取りで何とか回避し、主砲を撃つ。

レイシャーはそれを物ともしていない様子であった。火力だ…火力が足りねぇ…!

 

「主砲じゃ無理か」

 

俺はそう呟き、瞬時に肩越しにVLSを横向きに、つまり前に向けて展開した。垂直(Vertical)から水平(horizontal)になったからさしずめHLSといったところだろうか。これを直接近距離で打ち込めばレイシャーとて無事では済まないはず。

 ただ問題はトマホークの弾速にある。いくら相手が手負いだとは言え射出直後の対艦ミサイルなどブースターによる軌道変更で避けられてしまうだろう。この作戦を確実なものにするためには相手の軌道を固定、あわよくば相手を固定する必要がある。どうしたものか。

 

「当ったんねぇ!クソッ!」

 

 俺の艤装は一瞬でも収納して展開すれば耐久は回復し、弾薬も補充されるため残弾を気にする必要はない。ただ、今ここで一瞬でも武器をしまう構えを見せようものならレイシャーに殺されるだろう。艤装をしまっている間の一瞬は少し丈夫なだけの人間(?)になるのだから。

 ただこの時の俺は残弾はすぐに回復するもの、と考えてやまず、とにかく撃ちまくっていた。上記の冷静な思考力が取り戻されたのは艤装CIC内部からの『対艦ミサイル残弾4発』の報告を受けてからだった。

 その報告を聞いた時、俺は全身から血の気が引いていく感覚というものを知った。新たに艤装展開しようものならそのタイムラグを衝かれる。つまり、レイシャーとの戦いはこの艤装だけで終わらせる必要がある。

 

頭の中が真っ白になる。

 

”どうする、どうしたらいい?どうすれば攻撃が当たる?”

 

世界のすべてがスロー再生のようになる。自分に当たらず背後へとすり抜けて行く敵の攻撃、自分が虚空へと放ったミサイル、着弾点の水飛沫。

 

”落ち着くんだ自分、攻撃が当たっていないのは敵も同じ。つまり先にボロを出した方が…負ける(死ぬ)。”

 

視界が通常時のそれへと戻り、周囲が一気に加速する。

 

”勝機はまだある!”

 

 俺はミサイルポッドを展開したまま、主砲を構えなおし射撃を開始した。効力射など求めてはいない。時間が稼げればいい。敵はいまだ未熟なAI。いずれミスを誘発するだろう。

 

俺の攻撃は当たらない。敵の攻撃も当たらない。

 

敵が接近しようとすれば俺は離れる。俺は一定の距離を保つよう心掛けて戦っていた。

主砲艤装は赤熱し始め、撃てなくなるのも時間の問題と思われたその時だった。レイシャーが自分の攻撃が当たらないことにしびれを切らし、俺の軌道を固定させるため、グラップルを俺に向けて射出した。それを俺はよけることなく、主砲艤装で受け止める。

 

俺の口元に自然と笑みが浮かび上がる。

 

 

「待ってたぜ…この時をよぉ!」

 

 

レイシャーは右手の連装レールガンをこれまでにないほどスパークさせ、ブースターとグラップルの推力を使い、突撃を敢行。

 

俺はその場に立ち止まり、グラップルが深々と刺さっている艤装を思いっきり後方へ引っ張り、投棄。

 

レイシャーは予想外の推力を得て、レールガンの狙いが狂う。本来俺の脳天を貫くはずだったその紅い一撃は僅かに右に逸れ、俺の頬を掠り海面を抉った。

 

俺は奴のヘッドパーツを左手で鷲掴みにし、動きを封じる。ねじ切ろうとしても首が取れないあたりはさすがの強度といったところか。

 

「じゃあな」

 

俺は一言そう言い、トマホークをゼロ距離でその大きな体躯に四発、発射した。

ミサイルポッドから閃光がほとばしり、俺の視界を埋め尽くしていく。シールドを張る余裕は、ない。

 

コンマ数秒の後、海域に轟音が響き渡り、海面を爆風がざわつかせる。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「終わったの?」

 

姉さんのその一言で俺は目を覚ました。周りで戦闘の音が聞こえないということは機械式でない通常個体との戦闘も終わったのだろう。どうやら俺は爆風で飛ばされた後気絶して水面にぷかぷか浮いていたらしい。自分のからだの丈夫さに感謝だな。レイシャーはどこか、と思い周りを見渡すと、少し離れたところに半分沈んだその残骸があった。

 

ーー残骸と呼ぶにはあまりにもきれいだったが。

 

レイシャーが動かないのを遠目に確認し、姉さんの質問に答える。

 

「あぁ、終わった。リミッターを解除する必要はなかったみたいだ」

 

嘘だ。ちょっとだけ、思考の整理に使わせてもらったが、まぁそこは誤差だろう。

俺は自分の目の当たりをトントンと指で叩きながらスカして言った。

 

「リミッター…あ、司令官が着任した時に言ってたやつですね。…ほんとにあったんだ…」

「吹雪!?信じてなかったの!?」

「はい、全く」

「うっそぉ…まあまだ外したところ見たことある人姉さんくらいしかいないし、仕方ないか」

 

その場にちょっとした笑いが起きる。そして霧島が口を開いた。

 

「それで…提督。あのボスはいったい…?」

 

やはりそう来るか…いやまあ普通そうなるよね。めっちゃ強い(自画自賛)自分たちの司令官がボロボロになってようやく倒した相手なのだから。

 

「最初少し話してたみたいですし。なんだったんです?」

 

比叡も便乗した。俺は少し気乗りしなかったが、口を開いた。

 

「元・花田優樹少尉だ。陸軍に改造された後の機体名は復讐者(Rächer)。とてつもない重装型だった」

「優樹…!?」

「…助けることはできなかったんですか?」

 

空母棲姫が驚き、口元を手で覆った。大和は暗い表情で俺に尋ねる。

大和の問いかけに俺は首を振った。

 

「意識はあるが自分で体を操作できないようにしていたみたいだ。陸軍(父親)も酷いことをしたもんだ」

「…マダ残骸ハ沈ンデイナイ。私ハ優樹ヲ回収スル」

 

空母棲姫は動きはしないが沈みもしていない意外と原型を保っているレイシャーの残骸の方へと歩を進めた。その時、俺はなんとも言えない悪寒を感じ取り、空母棲姫の方へ手を伸ばして叫んだ。

 

「待て空母棲姫!まだ安全が確認されたわけじゃな…」

 

その時だった。

 

レイシャーの眼がにわかに輝きを取り戻し、その体をわずかに動かした。

 

「優樹…!」

 

空母棲姫はレイシャーに駆け寄った。

 

…花田は以前、まだ鎮守府で普通に生活していた時、空母棲姫とよく一緒にいたのを俺は覚えている。花田曰く深海棲艦達の中で最初に話しかけてくれたのは空母棲姫だと言っていた。彼らの間には何か、特別なものがあったのかもしれない。

 

だが、それは花田優樹と空母棲姫の話であり、花田優樹(レイシャー)と空母棲姫の話ではない。

 

レイシャーのスピーカーからわずかに声が漏れる。

 

「逃げ…て…」

 

花田の声だ。きっとショックでまた一時的に戻れているのだろう。

だが次の瞬間、花田は再度レイシャーの中に埋もれることとなる。

 

軽快な炸裂音が断続的に響き、被弾や衝突でゆがんだ重装甲板をアサルトパージしたのだ。

 

アサルトパージにより吹き飛んだ重装甲板は爆風で舞い上がった煤とともに容赦なく空母棲姫を巻き込む。

 

「空母棲姫!大丈夫か!?」

 

 俺は反射的にそう叫ぶが、心の中では分かっていた。

 

アサルトパージは普通のパージとは違い、火薬などを用いて装甲板を弾き飛ばすか装甲自体を炸裂させて外すパージ方式だ。見たところレイシャーのアサルトパージはかなり強力な爆発により行われていた。至近距離にいた空母棲姫が無事でいられる確率は皆無に等しい。

 

「…ッ!…優樹…ドウシテ…」

 

空母棲姫は装甲片が刺さり、流血している部位を押さえながらよろよろとこちらへ後退してきた。目には涙がある。ヲ級改Fがそれを支える。艤装との接合部分が破損している。これ以上の戦闘は困難だろう。

 

「空母棲姫を鎮守府へ。他全員は帰投せよ。俺はコイツ…レイシャーの相手をする」

「提督、私たちはまだ戦える。なぜ帰らねばならない?」

 

長門をはじめとする鎮守府メンバーは不服そうに言った。それはそうだろう。実際まだまだ戦えるからな。

だが俺はこいつらを帰さなければならない。目の前で起き上がりつつあるレイシャーからとてつもなく嫌な予感がするのだ。

 

 

 

本能が告げる。ここで戦えば誰かが絶対に巻き込まれると。大切な部下をまた失うことになりかねないと。

 

 

 

何が何でもこのまま戦闘を開始してはいけない。俺は焦りを抑えつつ早口でまくし立てる。

「補給に行け。そろそろ弾薬や燃料が持たなくなるころのはずだ。俺は何度も展開し直せば治るからいいが、お前たちはそうはいかないだろう。分かったか?」

無理のある言い訳だ。明石(改造バカ)のおかげで弾薬燃料携行量は増えている。このくらいでの帰投は不要だからだ。

「司令官!まだ補給に行かなければならない時ではありません。なぜ…!」

朝潮が食って掛かる。

「ん-…じゃあ、補給終わったらまた来るってのはどうだ?それまで俺が押さえておくからさ」

俺は精一杯明るい顔を朝潮に向ける。

「分かりました。そういうことなら」

朝潮は憂いの消えた表情だ。納得したようだな。

 

 

だがこのやり取りで俺の言わんとしていることを察したのか、長門は唇を軽くかみしめてほかのメンバーの方へと顔を向けた。

 

「これより補給のために鎮守府へ帰投する。…異論は、認めない」

 

朝潮を除く全員が小さく返事をして進路を180度変更する。

レイシャーはまだ沈黙している。アサルトパージした装甲はもう海の藻屑となったのだろうか。見当たらない。

 

「司令官…」

 

殿を務めることになった吹雪がこちらに話しかけてきた。

 

「吹雪、早く行け。さもないと…

 

「私達、待ってますから」

 

…行け」

 

吹雪が向きを変えて皆に追随し始めたとき、艤装を再展開しつつ俺は口を開いた。

 

 

 

「皆を、よろしく頼む」

 

 

 

届いたかどうかも分からないような小さな声。吹雪は、何も言わずにスピードを上げた。

 

 

ーーーーーー

 

 

「同じ駆逐艦でも、推察力には差があるようだな。そう思わないか?レイシャー」

 

俺は吹雪たちが遠くに行ってから、目の前で黙っている機械に話しかけた。

黒ベースの重装甲に赤の差し色というパージ前と変わり映えしない機体はその外装だけを大きく変えていた。

装甲がほとんど消えたのだ。つまり攻撃を当てさえすれば勝てるだろう。だが装甲が無くなったということは速度に極限まで特化しているということだ。グラップルは消え、レールガンも消えていた。

 

「なんだよ、気づいていたのかよ…近づいてきたら一撃で沈めてやろうと思ったのによぉ」

 

目に深紅の光がボウッっと灯り、機械音交じりの日本語で軽口をたたくこの機械は素早く立ち上がった。

 

「まずは部下たちを撤退させる時間をくれたことについて、礼を言おう」

 

俺は新たに展開した「伊吹」の主砲を向けた。

 

「お前を沈めてから鎮守府を壊滅させた方が面白いからな。鎮守府に行ったらさぞかし良質な絶望の感情を拝めそうだ」

 

これがレイシャーの本性なのだろうか。ずいぶんと悪趣味に感じる。

 

「一つ聞くが、花田優樹少尉はどうなっている?」

 

先ほどまでのレイシャーに表情はなかった。だが今、奴は目の形を変えて表情を表している。

俺の問いかけに対しレイシャーは、不機嫌そうな目になった。

 

「中にいるよ。俺が問いかけても”お前の負けだ”としか言わない。つまらん奴だ」

 

吐き捨てるように言い、レイシャーはカッターナイフの刃を大きくしたようなブレードを腰のあたりから取り出した。

俺が身構えるとレイシャーは嬉しそうに言った。

 

「このブレード、イカしてるだろう?さっきパージした装甲から生成したんだぜ。ん-、俺って天才!」

 

レイシャーの中のAIはいい性格をしているようだ。この状況を楽しんでいやがる。

…それと、ブレードを取り出したということは超近距離での戦闘になるだろう。こちらも近距離兵装を出すか、できるだけ距離を取って攻撃を当てるしかない。

 

「おー、おー、考えてるねぇ…まっ、どうあがいたってこの状況の俺には勝てねぇよ。速度のレンジが違うからこれまでの軽装甲連中のようにやられる気はない。当てられるものなら当ててみるといい。さて…と…」

 

レイシャーがブレードを構える。ブレードが赤熱を経て白熱し、周りの空気をゆがませる。

ヒートソードか。これは突進だな。

 

「一瞬で終わらせてやるよ」

「人間兵器の生命力、なめてかかると後悔するぞ…!」

 

俺が言い返したのと時を同じくしてレイシャーの背中から推進用ブースターが火を噴き、予想通りの軌道でこちらへ突進を仕掛けてきた。

俺はあらかじめ用意していた軌道でそれをギリギリ躱す。

瞬間速度は速度は大体450km/hといったところだろうか。

速い。確かに速いが、それは今の俺からしての話だ。

 

 

俺にはまだ上がある。教えてやろう。

 

 

俺の改造当初の予定スペックからしたら余裕で相手できそうだ。正直吹雪たちと意味深な別れをした自分がちょっと恥ずかしくなってきた。このくらいなら一瞬だ。

初撃を外したレイシャーはスラスターを用いて旋回し、再度こちらへと向かってくる。

その突撃が俺に届くよりも早く、口を開いた。

 

 

Release limiter(制限解除)

 

 

右眼に変な感触が走り、周りの時間が遅くなる。

 

 

「推進部艤装展開『Sprit of Australia』、武装艤装複数展開『AGS 155mm RailGun』、装甲部艤装展開『大和』」

 

周囲全てが遅いこの世界で自分の艤装だけが素早く組み立てられる。

今の俺は簡単に言うと「速い、強い、硬い」というなんとも頭の悪そうな構成をしているのだ。

スピリットオブオーストラリア。水上速度記録を保持している船で、km/h換算で約510km/h出すことができる。武装はアメリカ海軍が開発中の艦砲のレールガンバージョンである。装甲は言わなくてもわかるだろう。

さらにリミッターを外したことによってカタログスペックの3倍は出すことができるだろう。シャア専とか言うんじゃないぞ。

 

視界を元に戻す。流石にずっとあの状態だと疲れるのだ。

ワンパターンの突撃しかしてこない(所詮はAIの)レイシャーを今度は軽く躱し、レールガンを向ける。

自分としてはほぼ対等、もしくはちょっとばかしこちらが不利な状況下で敵を倒すのが好きなのだが、それはレイシャーの第一形態で満足いくほど体験できた。奴の中で俺を信じてくれている後輩のためにもここは一瞬で終わらせるつもりだ。

 

レールガンを二発、発射する。

 

その圧倒的な弾速はレイシャーに避ける暇を与えることなく命中し、その機体を水面に転倒させる。

メインブースターに命中したようで、背面から黒煙が上がっていた。

 

「なっ、なぜ当たる!?」

 

驚きを隠せないレイシャーを足蹴にし、レールガンを目の前に突きつける。

 

「俺を侮ったな。試作機と量産機のオーダーメイド機体、大体強いのは後者だが俺は例外だ。覚えておくといい」

「チッ…部下どもを下がらせたのは…」

「もちろん作戦だ。お前を油断させるのが一つの目的。もう一つは俺の限界の秘匿のためだ。皆が俺をあてにして訓練を怠けるようになったら困るからな。いやー、見事に引っかかってくれたね。AI君?」

 

ここぞとばかりに俺はレイシャーを煽る。だがレイシャーは諦めてはいないようだ。

 

「まだ終わりじゃねぇぞ。ここは本拠地のすぐ近くだ。今基地で量産中の俺の同型機がすぐ来るはずだ。倒すごとにデータが転送、蓄積され、学習してより強くなっていく悪魔のメカニズムにお前は勝てるか?今の俺を倒せば花田は消えてしまう、だが俺は半永久的に蘇るのだ!」

 

それを聞いた俺は一瞬固まったが、すぐに笑い出した。

 

「何が可笑しい…?花田が消えるんだぞ?」

「それが目的さ。あいつはもう元の身体に戻れないことは理解していた。だから頼まれたのさ。殺してくれ、とな」

「なん…だと…」

 

ふと不思議に思い、俺はレイシャーに尋ねる。

 

「お前、聞こえてなかったのか?第一形態の時の戦闘前にその旨のやり取りをしていたはずだが…」

「俺が明確な自我を持ったのはパージしてからだ。それ以前は分からない」

「そうか、ならば死ね」

「脈絡もねぇな…データ転送完了してやったぜ。これでお前も…」

 

砲声が3回鳴り響き、その後、機械音声混じりのその声を聴くことはなかった。

 

「急がねば。喋りすぎた」

 

データ転送が終わってしまったようだ。急いで基地に向かわねば…

 

「その必要はない。動かないで」

 

後頭部に何かが突き付けられる。

 

いくら速くてもゼロ距離の弾はよけられない。おとなしく動きを止める。

 

「貴様らは何だ。顔も見えないが」

 

背後から突き付けられているため顔を拝むことはできない。だが知っている声ではない。

 

「ならばこっちを向くといい」

 

言われたとおりに振り向くと、そこには一個大隊レベルの深海棲艦の艦隊、それも既存の姫級、鬼級のみで構成された艦隊だった。

驚いている俺に対して艤装を突きつけていた姫級が口を開く。

 

「私は旗艦、集積地棲姫だ。我々は陸軍参謀より出撃命令、もとい突撃命令を下された言うなれば不要部隊。だが我々がおとなしくその命令に従うわけもない」

 

じゃあ味方なのか、という言葉を俺が発する前に姫級が被せる。

 

「だが貴様らの味方ではない。我々は後から入ってきた陸軍一派をよく思わないグループ、原理主義者の集まりだ。これを見るといい」

 

そう言って集積地棲姫は薄型端末をこちらへ放り投げた。そこにはタイマーがセットされており、残り五分を切っていた。

 

「これは?」

「そいつは時限爆弾のタイマーだ。基地でふんぞり返っている陸軍の上層部を基地ごと吹き飛ばすためのな」

 

集積地棲姫は愉快そうに笑った。

 

ーーーーーーーー

 

陸軍の本拠地、その司令室にてその男は椅子に座って報告を聞いていた。

「先程、花田少尉を元に作られた個体の反応が消失しました。データは転送され、目下同型機を量産中です。そして不発に終わった洗脳計画は現在精度を高めるために研究中、あと少しだそうです。」

 

その報告を聞いた男は一瞬渋い顔をしたものの、後半の報告を聞いて機嫌を直した。

 

「役立たずな旧型深海棲艦も消えた。あとは我々が世界の覇権を握るだけだな」

 

男がより深く椅子に背を預け、葉巻を吸おうとしたその時、部屋に一人の将校が駆け込んできた。

 

「司令!お逃げください!地下に爆弾が…!」

「なんだと!?」

 

ーーーーーーーー

 

 

「終わりだ!地獄に落ちろ!」

 

集積地棲姫が目を見開いて叫んだ次の瞬間、島の地下から火山の噴火を思わせる地響きが立て続けに響き、次いで島のあちこちから巨大な火柱が上がり始めた。

島の中央、小高い丘の上に沿いえ立っているコンクリート製の陸軍総司令部が一際大きな爆発によってその姿を黒煙の中に消した。その爆発の後も小爆発が多数続き、いつも通りの静けさを取り戻すのに数分もかかった。

 

中央の丘が喪失、それに伴い緑が消えた。今俺の目の前には爆破によって変わり果てた島があった。

俺はその光景にしばらく呆然とし、あっぱ口を開いて島の方を見つめていた。

 

「どうだ?お気に召したかな?」

 

ケタケタと笑い声をあげる集積地棲姫は両肩を軽くすくめてこっちを見た。

いつの間にか突きつけられていた艤装は下ろされ、自由に動くことができるようになっていた。

 

「あぁ。協力感謝する。…だが、こちらの目的は反乱陸軍及び深海棲艦の根絶なのでな。もし貴様らが敵だというのならここで始末しなければならない」

 

俺はいつも通りの艤装、伊吹を取り出して構える。

集積地棲姫は表情を崩すことなく応対する。

 

「そう急ぐな。取引をしようじゃないか」

「取引だと?」

 

集積地棲姫は興味を示した俺を見てニヤリと笑い、話し始めた。

 

「まずはその艤装を下ろして…そうそう、助かるよ。それで、だ。お前の鎮守府には霞という子がいるだろう?」

「…死んだが」

 

俺は急に霞のことを持ち出してきたやつを警戒しつつ返答する。

 

「おや?コールドスリープ状態ではないのかな?」

「…はぁ、どこまで知っている?」

 

コイツはなぜ霞の状態を知っている?死亡確認当時、もしかしたら…という気持ちから彼女をコールドスリープ状態にしていることは俺と明石、軍医以外は知らないはずだが…

 

「なぜ知っているのかは割愛しよう。そして単刀直入に言う。私なら彼女を蘇らせることができる。記憶もそのまま、ほぼ元の姿に近い形で」

 

俺の思考に電流が走った。

 

「なんだって!?医者もあきらめたんだぞ!?でたらめなことを…!」

 

集積地棲姫に詰め寄るが、集積地棲姫は軽く手で俺を制し、話をつづけた。

 

「艦娘は人とは違う。どちらかと言えば深海棲艦(こちら)側の存在だ。その生態には人間の常識が通じないことが多い。バケツ(高速修復剤)バーナー(高速建造剤)、入渠の仕組みなどだな。それらをはじめとする艦娘の生態においては我ら深海棲艦の方が人間より詳しいといえる。お前もその謎めいた生態に一縷の望みをかけてコールドスリープ状態にしたのだろう?そこで、だ」

 

集積地棲姫は話を一旦切り、深呼吸をした。

俺は先ほどから動けないでいる。もしかして、という感情が頭の中を支配していた。

 

「こちらからの提案だ。私が今、彼女を復活させる事ができる物を渡す。そちら自慢の工作艦の知識と軍医がいれば復活は容易いはずだ。その代わり、今ここでの私達への追撃を中止しろ」

 

俺は今激しい葛藤の中にいた。今の俺の戦力でここ全員を始末することは可能だ。だがそれをすれば霞が生き返る可能性はゼロになる。

 

ーー本来の目的である深海棲艦の根絶か

 

ーー仲間である霞の復活か

 

効率を重視し、戦果を重んじる指揮官ならば、迷いなく前者を選んでいるだろう。

だが俺はどうだ。こんなにも迷っている。弱いものだ。

 ここで前者を選べば英雄として称えられるだろう。国を守った英雄として。だがその時の俺の心境はどうだろうか。もし復活が可能という案を聞かかった状態でのその場面なら多少は気分も晴れていただろう。だが今こうして復活の方法があると知ってしまった。その状態で英雄に祭り上げられても心の底から喜べはしないだろう。

 では後者を選べばどうなるか。その先にあるのは戦争の継続である。原理主義派閥がどのくらいの勢力なのか正確には分からないが、全力出撃一回で消し飛ばせるほど柔な構成はしていないであろう。つまり安全に海を使うことができない今の窮屈な状況をつづけることになる。それに今ここで取引をしたことが明るみに出れば…まぁ出ることはないと思うが、民衆から絶大な非難を受けることになるのは明らかだ。それを引き金として鎮守府の存続が怪しくなるかもしれない。

 

「私は知っている。お前は仲間を一番に考えて行動する奴だと。さぁ…どうする。答えてくれ」

 

集積地棲姫が追い打ちをかける。

息が詰まりそうだ。

 

周りには深海棲艦しかいない。誰かがここで会ったことを知る由もない。

俺が悩みに悩んで出した答えは…

 

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 

蒼い空、白い雲。驚くほど穏やかな海面。心地よい風が俺をなでている。普通ならこれ以上ないほどに気持ちいい気候のはずなのだが、なぜか心には空虚な物が溜まっているように感じられた。

ボーッと前を見つめる俺の視界には誰もおらず、ところどころ煙を上げる島があるだけだった。

無線を手に取り、鎮守府へと連絡を入れた。

 

「こちら提督。これより鎮守府へ帰投する。入渠はいらない。……そうだな、明石と、軍医さんを呼んでおいてくれ」

 

了解しました、と嬉しそうに無線を切る誰かの声を聞き流しながら、俺は針路を180度変更、鎮守府への道をたどり始めた。

これで本当に良かったのだろうか、という心を抑えながら俺は帰路を辿る。

だが人間の心というのは不思議なもので、進むにつれてその空虚な気持ちはだんだんと薄れてきた。

ようやく陸軍との戦いは終わり、花田との約束も果たせたという実感が湧いてきたのだ。

 

 

手に謎の装置(もの)を抱え、俺は上機嫌で鎮守府に到着した。

 

 




これにて完結!
エピローグは書くけどね。

いっやぁ…長かった。最後まで読んでくださりありがとうございました。
誤字脱字、不適切な表現等ありましたら報告のほどお願いします。

レイシャーのイメージ図的なものは後日この辺に載せるつもりです。
 レイシャーの第二形態、本当はあの戦いも長引かせる予定だったんです。自分はギリギリで勝つ戦いが好きな人だったりするので。でもね、そこで思ったんですよ。「あれ?提督全然無双してなくね?」って。これじゃあタイトル詐欺だなと思って第二形態さんにはほぼ出オチみたいな感じのキャラになってもらいました(笑)。ちょっとしっくりこない人もいるかもしれませんがまあ自分的にはこれで満足してます。
 それと、前半と後半で書いた時期がかなり違うのでもしかしたら文脈が変になっているかもしれませんが長い目で見ていただけると幸いです。



爆発オチなんてサイテー!
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