俺は今、執務室で書類の山を前にして放心している。
その書類は、異動してきた艦娘らの物で、個人の経歴や性格などが記されている。艦隊指揮を円滑に行うためにはまずは全員の名前と性格を把握しようと意気込んで書類を読み始めたのだが…
「…なんでこんなに個性的な奴しかいないの…」
平凡な奴を数えると両手で事足りてしまう。
でもまぁ、今までそういった個性を押さえて生きてきたんだろうから、ここで十分に個性を爆発させてやろうじゃないか!
…こう考えて規制を緩めにしたせいで色々大変になるのはまた別のお話だ。
「…よし、一通り名前は覚えたぞ…ハァ…しんど‥」
俺は机の脇に積み上げられた書類を放り投げ、机に突っ伏した。
小学校の給食センターが使うような大鍋を二つ分満たすレベルの量のカレーを作ったのだ。疲れない方がおかしいというものだろう。吹雪や赤城は艦娘だからあまり疲れは感じないのかもしれないが、俺はただの人間…ではないか。うん。だが疲れたのは事実だ。
「少し寝よう…」
俺は背もたれに寄りかかり、帽子を目深にかぶって寝始めた。
~数分後~
ノックの音がした。
「!?」
俺は驚いて跳ね起きた。
「誰だ?」
あくまで冷静を装って問う。ここでナメられたら指揮官としてのメンツが立たなくなってしまうからだ。
「司令官!吹雪です。吹雪型の皆を連れてきました!」
あ、執務室に来るように言っていたんだった…
俺は椅子に座りなおしてから言った。
「入れ」
「失礼します!」
やや食い気味に、吹雪型の皆が入ってきた。
吹雪以外は緊張しているようだ。
「それで、何の御用でしょうか?」
吹雪が尋ねた。ほかの子たちも何を言われるのかとビクビクしているようだ。
「いや、この鎮守府に適応してもらおうと思ってな、吹雪はもうやっただろう?」
「あ、あれですね!」
そう。例の戦力爆上がりボタン(仮名)だ。
吹雪が納得した様子から察したのか、他の皆も緊張が解けたようだ。
俺は吹雪型の全員を見回してから言う。
「今から一名ずつ、このボタンを一回押してくれ。それだけだ」
「‥了解です‥」
一人の子が前に出てきた。この子は…二番艦の白雪か。たしか真面目ではあるが…戦闘狂だったはずだ。
「…行きます!」
軽快な音とともにボタンが押される。そんなに警戒する必要はないんだがなぁ…
「なっ!?」
吹雪の時同様、体が光に包まれる。光が消えた時白雪は何が起こったのかわからないといった表情をしていた。
「えっと…これでいいんですか?」
白雪が疑問の表情を浮かべてこちらを見てくる。
「白雪ちゃん、ステータスを見てみて?」
吹雪が後ろから言った。流されるようにステータス画面を見て…そして…
「へあっ!?」
吹雪と似たような反応をした。
「お、おい!白雪、どうしたんだよ!?」
あの子は…深雪か。たしか男勝りな口調、性格のはずだ。心配しているのだろう。
「大丈夫だ。ここの鎮守府に適応するとステータスが改二レベルまで引き上げられる。それを見て驚いただけだろう」
俺は落ち着かせるように優しくいった。
「は、はぁ!?ボタン一つ押すだけで戦力が上がるわけないでしょ!?馬鹿じゃないの!?…あ…」
五番艦、叢雲だな。ツン8割、デレ2割のツンデレっ子だ。大本営の資料にはそう書かれている。
衝動ででかい口を叩くのはいいが、相手を考えないで発言することがしばしばあるらしい。今もそのせいで固まっている。
「大丈夫だ。口調の事なら心配するな。堅苦しい方が俺は嫌いだ。それと、嘘かどうかは押して見れば分かる。ほれ、やってみろ」
俺は叢雲の方へボタンを差し出した。
「本当になるわけ…」カチッ「…なったぁぁぁぁぁ!?」
「だろ?他の人も押してくれ。見ての通り害はないから」
その言葉に促され、残りの吹雪型の子たちがボタンを押した。
みんな強くなったことを喜んでおり、俺はなんだか娘を持った父親になった気分だった。
吹雪型の皆が執務室を後にした。
どうやら食堂ではまだこちらを警戒している者が多く、吹雪型はその偵察みたいな役割を担っていたという。なので、執務室でやる事を伝えに行ってくれるらしい。
すると数分後、廊下を全力疾走する音が聞こえだした。
まぁ、十中八九目的地は…
ドアバァン!「司令官!失礼します!」
「まずノックをしようか!?!?」
ここですよねー…
「これは失礼しました。私は重巡洋艦の青葉。そして…」
青葉は後ろを振り返った。そこには息切れしているもう一人の艦娘がいた。
「はぁ…はぁ…青葉…速すぎ…」
壁に手をついて恨めしそうに青葉を見上げている。
「こちらが衣笠です。よろしくお願いしますね」
「よろしく…お願いしま…す」
「大丈夫か?」
「大丈夫…じゃないです」
衣笠が死にそうになっている。青葉はどれだけ高速で走ってきたんだろうか…
「それで司令官、青葉は前の鎮守府に配属前までは新聞記者をやっていたんですよ…と言っても鎮守府内の新聞ですが。それでですね、是非この度司令官を取材させてもらいたくて…」
前の鎮守府に配属前…?ということは…
「前の鎮守府ではどうだったんだ?」
「それは…」
どうやら地雷を踏んだようだ。青葉が俯く。
「すまない、余計なことを聞いたな。それで…インタビューか?全然かまわないぞ。新聞の発行も許可する」
途端に青葉が復活した。
「ありがとうございます!…で、ボタンでしたっけ?吹雪ちゃんが言ってたんですが」
「そうだ。衣笠も一緒に押して見てくれ」
二人は言われたとおりにボタンを押した。そして…
「「!?!?」」
もはやテンプレと化した反応をした。
「火力が…上がっている!?」
「これで私たちも活躍できるわね!」
そして意気揚々と帰っていった。
「インタビューはいつになるんだろうか…」
ノックの音がした。
「誰だ?」
「赤城です。加賀さんも一緒ですよ」
おぉ、一航戦コンビか。
「入れ」
「失礼します」
赤城は手にカレーの入ったタッパーを持っており、加賀は凛とすまして立っていた。
赤城が赤を基調ととした服装なのに対して、加賀は青を基調としている。性格もどこか落ち着いているように感じられる。だが、それよりも赤城のタッパーが気になる。
「えぇと、赤城、それは何だ?」
「赤城さんは食べることが好きなんです。お持ち帰り用として鳳翔さんにタッパーに入れてもらったそうです」
加賀が代弁する。
「そうか…食べすぎには気をつけろよ?…そして加賀、ボタンを押してくれ」
「了解です」
例にもれず、加賀が発光し、ステータスが上がる。そのことに動じない加賀にも驚いたが、その直後に加賀が発した言葉でもっと驚くこととなった。
「…提督、
「…戦艦になれるぞ」
「えっ?」
「戦艦になれるぞ」
「‥‥‥えっ!?」
加賀のクールさが消えた。なるほど、つつくとぼろが出るタイプの人か、加賀は。
「赤城、詳しく説明してやってくれ」
「了解しました。えーっとですね、加賀さんそれはですね…かくかくしかじか」
「なるほど…かくかくしかじかなんですね」
「それで通じるのか…とりあえずそのことは秘密にしておいてくれ。味方がそれをあてにして慢心するかもしれない」
”慢心”という言葉に赤城がぴくっと反応する。
「慢心…ダメ、絶対」
あぁ…赤城は慢心で沈んだんだっけか…
「了解しました。有事の時のみ、使用することにいたします」
「そうしてくれ」
二人が退出した。
他の艦でもそういった子は現れるのだろうか…楽しみだ。