12月24日。
その日、桐ヶ谷和人は結城明日奈と共に、とある場所へと出かけていた。
そこは都内でも人気スポットであるこの場所に二人はやってきた。
理由は簡単、かけがえのない思い出になる事として二人で来たかったのだ。
「意外と人多くなくてよかったな、明日奈」
「うん、空いていてよかったねぇ」
防寒着に身を包んだ二人はお互いの手を繋いだまだ、目の前に立つクリスマスツリーを見つめている。
LEDライトによって装飾されて白と青に彩られた光を放つそれに、二人は見とれていた。
「本当に綺麗だなぁ」
「そうだね、……こうして君と一緒にいるのも夢みたい」
「そうか?」
「だって、大好きな人と一緒にいるのなんて夢みたいだもの」
そう言いながら明日奈は和人に向けてうれしそうな笑顔を向けた。
真冬にも関わらず自分の頬に熱が籠るのを感じた和人は、照れくさそうに顔を背けた。
「さ、さぁ何処か行くか! 今日のためにアルバイトでたんまり稼いでいるからな」
「もう、ごまかそうとしても無駄ですよー」
「うぐっ……いいからいくぞ」
「ふふっ、かわいいんだから」
吹き出しそうになる笑い声を堪える明日奈に和人は耳まで真っ赤にしながら、彼女の手を引いてデートを再開する。
東京の冬場にも負けないくらい、自分と彼女の手の熱がとても心地いいと感じてしまう。
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二人が辿り着いたのは、とあるホテル内に設けられたレストラン。
事前に予約していたのか、和人は店員との数回のやり取りを行った後、すんなりと店内へと案内されて席に着いた。
女心が疎いと言われている恋人のチョイスとしてはなかなか雰囲気のいい店を選んだことに不思議に思いながら明日奈は尋ねた。
「ねぇ和人君、ここじゃなくてもよかったんじゃないの?」
「あぁ、気に入らなかったか?」
「ううん、とってもいいけど……私が心配しているのはここお高いんじゃ」
「先程も言っただろ? バイトで稼いでいるって」
「ふーん、アルバイトねぇ……まあ今回は聞かないでおくわ」
和人の余裕綽々な様子を見て、何か腑に落ちないという表情を浮かべる明日奈。
どうせ菊岡さんでの依頼関連の事だろうと思いながら、明日奈は追及しないことにした。
4か月前の前に起きた事件の事は忘れてはいない……むしろ決して忘れることはできないが、今更追及したところで何も変わらないと判断した。
今は彼との食事の時間を楽しむべきだと思い、明日奈はテーブルに立てかけられたメニューを見ることにした。
中身を見てみるとどうやら期間限定の特別な料理があるということなので、和人と明日奈はそれを頼む。
食事の後はどうしようか、などの数回の会話の後、やってきたのはクリスマスのイメージにふさわしい料理だった。
こんがりと焼かれて切り分けられた
甘く香ばしさを漂わせるパンと共に添えられたその食事に二人は目を輝かせた。
「お、おいしそうだな」
「うん、私の目からしても、きっと美味しいと思うわ」
「それじゃあ!」
「うん!」
「「いただきます」」
二人の手を合わせた後、ナイフとフォークを持って食事を取り始める。
焼かれたターキーの肉を特製のソースにつけて口に入れると、程よい触感と甘辛く味付けされたソースが口の中で広がり、更なる食欲が腹の底から湧いてくる。
静かにマナーよくしながらも食事を進める手を止めないまま、和人と明日奈は感想を呟いた。
「ああ、とってもおいしいなこのターキーの肉。焼き具合も絶妙だし、ソースも丁度あっていて美味い」
「和人君、こっちのシチューも味が濃厚で美味しいよ」
「ああ、本当だ。肉も野菜もいい具合に煮込んであってとってもおいしい」
クリスマス限定のメニューに舌鼓をうちながら、食事を楽しんでいく和人と明日奈。
食事をあらかた食べ終えると、デザートして差し出されたのが切り株を模したクリスマスケーキ。
ブッシュドノエル――クリスマスの定番ケーキの一つでもあるそれはチョコクリームで切り株の体面を表し、ホワイトパウダーで白い雪を表している。
目で見ても美しい芸術品だと思うそれを、和人と明日奈は手にしたフォークで切り取り、口に運ぶ。
チョコレートの味をベースにしたほろ苦くも甘い味が口の中に広がり、思わず笑顔が生まれた。
「「おいしい……!」」
「ユイにもこのケーキ食べさせてあげかったな」
「大丈夫、私がとっておきのクリスマスケーキを用意してあげるから」
「おお、さすがうちの自慢のシェフだ」
「ふふーん、ユイちゃんのためにも君も素材集め手伝ってね」
今は仮想世界にいる我が家の娘の事を思いながら、二人は再びブッシュドノエルを口に運び始める。
頼もしいくも愛らしい彼女の事を思いながら、二人は食事の時間を過ごした。
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全部の料理を食べ終え、会計を済ましてレストランから出てきた二人は次、どこへ行こうかと相談していた。
時刻はそろそろ夕方時、行き交う人々も多くなる頃、人混みも自然と多くなって自由に行けるところもないだろう。
そう思った和人は皆が集まってるだろうダイシーカフェへ足を運ぼうと思った。
だが、そこへ明日奈が和人の手を引いた。
「ね、ねぇ和人君。一ついいかな」
「な、なにか?」
「せっかくホテルに来たんだし、その……あの……うー……」
「……あ、あー……そういうことか」
顔を赤らめながら恥ずかしがる彼女の『意図』を察して、和人は少し驚きながら理解する。
つまるところ、先程の食事より『甘い時間』を味わいたいという事なのだろう。
長年連れ添ってきた相手だからこそ意思疎通できる二人にとって、それは当然の行為なのだ。
だが、それとは別に和人は懸念があり、明日奈へ訊ねた。
「いいのか? 明日奈は家族との……」
「大丈夫、今日は二人とも明日まで家にはいないよ。だから朝まで一緒に入れるよ」
「そうなんだ……」
「和人君、もしかして期待していた?」
「だ、ダメでしたか?」
「ううん、君との時間はいっぱいいっぱい過ごしたいぐらいだもの」
そう言いながら、明日奈は和人の正面に立つと、そっと顔を近づける。
その刹那、榛色の長髪が視界を覆い、唇に柔らかい触感が伝わった。
愛する人にキスされたと理解したのは、その後だった。
「ふふふっ、頼もしい君もいいけどやっぱりかわいいもいいね。和人君」
彼女の向けてきた悪戯じみた笑顔に和人の心は高鳴った。
――どうやら聖夜でのお楽しみはまだまだ続くようだ。