早朝、桐ヶ谷家の和人の部屋。
未だに夢の中にて冒険を繰り広げている愛しい彼の寝顔を明日奈は眺めていた。
「あの頃から割と経っているのに、キミの寝顔は全然飽きないよ」
嬉しそうな笑みを浮かべて、愛しそうに見つめている。
明日奈は和人と一緒に迎えた朝には決まってやっていることを行っていると、ふと気になることがあった。
それは彼の手。愛しい彼の右手。
ふと片方の手を彼を起こさないように取って、まじまじと見つめる。
彼の手、剣を握り、愛する自分と手を取り合い、時には仲間や友との友情を育んだその手。
アインクラットの時にいた時は自分と同じくらいの大きさだと記憶しているが、今となっては一回り大きくなっている。
なんだから寂しくもあり、同時に嬉しくもある恋人の手を確かめるように触っていく。
「……やっぱり、私にはこの手が一番だな」
誰に言うわけでもなく、明日奈は一人呟いた。
特に思い出すのは、アインクラットであったあの時のこと。
油断して殺されそうになった私を守るために自らの手をかけた貴方。
人を手にかけさせてしまった罪悪感から君から離れようと思った私を君がその手で掴んで引き留めてくれた。
当時はわからなかったけど、今となっては心の何処かで彼が私を止めてくれて嬉しかったんだと思う。
そんな彼の手を自分の頬に当てさせ、明日奈は言葉を紡ぐ。
「和人君、君は私が守るって誓ったの。それは現実に今でも変わらないよ」
和人の手をそっと握り、かつ離さないように力を込める。
―――私が囚われて君に悲しい想いをさせたり、君が意識不明になってあの世界で2年間も閉じ込めらた事もあったけど。
―――次は君と共に戦って、戦って、戦い抜いて……大切なものを守り抜くんだ。
そう胸の奥で誓った彼女は頬に当てられたぬくもりを感じながら、彼を起こさない様にベットから抜け出そうとする。
今日の朝の献立は何にしようか……そう思った矢先、ベットへと引っ張られる感覚が明日奈を襲う。
何事か、と見てみれば先程まで眠っていたはずの愛しい人と目があって、口元は微笑んでいた。
「もう満足した?」
「和人君!?起きてたの」
「そりゃまああんだけ触られていれば、ねぇ」
苦笑しながら笑う彼の顔を見て、明日奈は恥ずかしさのあまり和人の胸元に顏をうずめる。
そんな寄ってきた彼女を抱き寄せ、赤ん坊をあやすように背中を撫でていく。
「そんなに恥ずかしがることないじゃないか」
「うぅぅ……だって」
「俺の手でよければいくらでも貸しますよ?」
「ううん、君の手がいい。和人君の手がいい」
耳まで真っ赤になっているであろう自分の姿を、彼は笑みをほころばせながら見ているだろう。
胸に顏を埋めてわからないが、笑っているであろう彼の顔を恥ずかしくて見ていられなくて、深く深く埋める。
肌色の男らしい肉体が視界を覆い、彼の匂いが不覚にも明日奈の心を落ち着かせる。
「ほら、明日奈。顔を見せて」
「……うん」
仕方がなく顔を上げると、愛おしいものを眺めるような和人の笑顔がそこにはあった。
彼はそっと明日奈の頬に手を添え、彼女もその手に自分の手を重ねる。
「おはよう、明日奈。愛している」
「おはよう、和人君。愛しています」
互いに愛の言葉を言いながら、二人は目覚めの口づけを交わしたのであった。