ソードアート・オンライン キリアス小話詰め   作:地水

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 世界観設定的にはコンシューマゲーム版IM/HF。


その6:クリスマスイブ

 12/24。

世間では『クリスマスイブ』と呼ばれているこの日は、家族や恋人といった大切な人と過ごすのが定番とされている。

浮遊城アインクラッドでもそうであるか?という疑問は置いておいて……。

 

この日、朝早くから出かけているプレイヤーがいた。

"黒の剣士"ことキリトはいつもの漆黒のコート姿でアークソフィア近辺のダンジョンにて足を運んでいた。

雪が降り積もる地面を踏みしめながら、ふと今までの出来事を思い出していた。

 

 

(そう言えば、一人でいるのなんて何時ぶり何だろうか)

 

 

最初の切っ掛けはアスナとの再びコンビを組んだ事。

74層でのボスの戦いで死にかけて勝利した自分と「一緒にいる」と言ってくれた同じこの世界に囚われた少女で、血盟騎士団の副団長という肩書のトッププレイヤー。

自分に殺意をもったクラディールに襲われ、彼女を守るために手にかけた後、思いを通じ合わせてこの世界で結婚をした。

25層の森の家で甘い一時を2週間すごした後、75層のボス攻略のために呼び出された。

 

その後は激動の展開だった……多大な犠牲を出してボスを倒した後、アインクラッドのラスボス――ヒースクリフこと茅場彰彦の正体が露見し、プレイヤー全員をかけた最終バトルが始まった事。

なんとかして勝利するもログアウトできず、75層より下の階層には戻れなくなってしまった。

さらには俺達の目の前に現れたのは、カーディナルの異常に気付いて復活したユイ、心配してやってきたリズとシリカ、外部要因で新しくプレイヤーとして現れたリーファとシノン、そしてストレアやフィリアといった新しい仲間達。

今となっては頼もしい仲間達に囲まれ、前と変わらずゲーム攻略を進めている。

 

辛い事もあった、悲しい事もあった、だがそれ以上に彼らと紡いできた思い出がこの世界で生き抜くための糧になっている。

いずれは終わるかもしれないこの世界……ここは自分達にとってのもう一つの現実だ。

 

今まで体験した出来事を思い出しながら目的地へ向かっていたキリトは、ようやくその場所へと辿り着いた。

 

「……やっぱり戻れないか」

 

そこは75層のボス部屋だった場所。骸骨と蠍を組み合わせたモンスター・スカルリーパーがいたあの場所だ。

キリトは中へと歩みを進めてみるも、もちろんかつてあった75層に繋がる扉はもうない。

 

「やっぱり下の階層には戻れないか」

 

自嘲気味に笑いながらキリトはゆっくり座り込む。

上を見上げても、そこにあるのは漆黒に包まれた天上だけ。

キリトはため息をつきながら、あるものをストレージから取り出す。

 

「悪いな、サチ……もう戻れないみたいだ」

 

その手に呼び出して取り出したのはとある記録結晶……今は亡き少女・サチから受け取った代物。

記録された彼女の遺したメッセージと、彼女の鼻歌が聞こえてくる。

それを聞いて、キリトは何処か悲しみを孕んだ笑みを浮かべる。

 

「せめて一度でいいから最後に見舞っておきたかったけどな……」

 

誰にも聞かせるわけでもなく、キリトは一人呟いた。

自分が犯した罪、自分が打ち明ける勇気が弱かったせいで失った彼ら……月夜の黒猫団。

もう戻ることのない彼らの事を思うと、悔しさと悲しさがその身を襲った。

 

「………」

 

キリトは下へ俯いて、泣き出しそうな声を堪える。

今は一人だけとはいえ、涙を流してしまえば止められることができない気がする。

この胸の内に溢れる感情を抑えることができなくなる。

 

「あぁ……まだ俺は、弱いままなのかな」

 

泣き出すのを耐えるために思わず想いを吐露するキリト。

―――そんな時だった、後ろから温もりが伝わってきたのは。

いつの間にかキリトの背中から手を回して抱擁している腕が見えた。

その左手の薬指には見慣れた指輪が嵌められていた。

 

「……ッ!!」

「まったく、一人になると泣き虫さんになるね。キミは」

「アスナ……?」

 

キリトは振り向くまでもなく、抱き着いた彼女……アスナの名を呟いた。

聖母を思わせる声音で語り掛けてくる最愛の彼女の声に、何処か安心感を覚えた。

アスナはキリトを後ろから抱擁したまま話しかけてくる。

 

「ごめんね、キミが心配でついてきちゃった」

「悪い、黙って出かけて」

「それはいいの。でもここにやってきたのは何故?」

「……ちょっとした淡い期待をしていたんだ。もしかしたら75層に戻れるんじゃないかって」

 

キリトは自身の肩に顔を乗せているアスナの頭へ手を回し、彼女の栗色の髪を触る。

好きな人に髪を撫でられくすぐったい気持ちを笑いながら答えたアスナはとある事を思い出して訊ねた。

 

「もしかしてサチさんに会いに行くために?」

「まあな。奇跡の日くらい75層以下へ戻れてもいいんじゃないかと思ったんだが……見当違いだったようだ」

「大丈夫だよキリト君、たとえ戻れなくても君の気持ちは伝わるよ。それにさ」

「それに……」

 

抱擁をした状態から一旦離れると、キリトはアスナと正面同士の形に向き直った。

そして目の前の存在を慈しむような笑顔でアスナは話しかける。

 

 

「今は君一人なんかじゃない。私も、ユイちゃんも、リズやシリカちゃん、リーファちゃんやシノのん、クラインさんやエギルさん、いっぱい仲間がいるよ」

 

「それに言ったでしょ?私は君を守る方だもの、絶対死なせたりはしないし、キミを残して私は死なないよ」

 

 

「……ッ!!アスナ……ありがとう」

 

キリトは一瞬驚いた表情を浮かべた後、笑いながら涙を流し始める。

まるで子供のような愛する人を母親のような笑みで返したアスナはゆっくりと彼を抱きしめ、泣き終わるまで抱擁していた。

 

数十分後、涙を出し終えたキリトはゆっくりと立ち上がる。

彼は気まずそうにしながら、アスナに声をかけた。

 

「アスナ、その、あの……」

「うん」

「ありがとう……一緒にいてくれて」

「うん、これからも一緒にいてね。キリト君」

 

満面の笑顔で返した彼女はキリトの手を引っ張っていく。

キリトも彼女に手を引かれて、この場所から去っていこうとする。

 

―――そんな彼ら二人の様子を、一つの人影が優しい笑顔で見つめていた。

 

『もう、寒くないね。キリト』

 

彼女の言葉が響いたのか、振り向くキリト。

そこには自分達二人以外誰もいない……聞き間違いだったのだろうか。

だが、それでも何か勇気づけられたキリトはアスナと共に部屋から去っていった。

 

 

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