今は昔、戦極の世が終わりつつあり、江戸の時代に移り変わる頃。
慶長17年(1612年)4月13日、この日巌流島を舞台に、二人の剣士がこの地に足を踏み入れた。
「ここか」
「ようやくきたか、武蔵」
舟を漕いで海から渡ってやってきた漆黒の衣装を身に纏う男、宮本武蔵(キリト)。
片や紅色の衣装をが映える麗人、佐々木小次郎(アスナ)。
二人の剣士は互いに刀を構え、両者向き合う。
「「いざ、勝負!」」
此処に繰り広げられるは後の世で有名な『巌流島の戦い』が始まった。
結果だけ言えば、武蔵が小次郎の一撃を躱して頭上から木刀による鋭い一撃を振り下ろし、小次郎は一刀のもとに倒れ、そのまま絶命した。と伝われている。
だが歴史は後の者が作り出すもの。実際の戦いの結末はどうであったか、というと……。
「はぁ!」
「やぁ!」
ぶつかり合う刃と刃、武蔵キリトと小次郎アスナ、どちらも実力は互角。
このままでは決着がつかないだろう……そう思った武蔵キリトは、上弦に木刀を構え、繰り出す。
対して小次郎アスナは必殺の一撃を決めんとばかり、刀を上弦に構えて、振り下ろす。
「燕返し!」
空を飛ぶ燕が身を返すように、振り下ろした刃を瞬時に返して即座に二撃目に転じるという剣術・燕返し。
ぶつかり合う刃、だが小次郎アスナの返した刃が真っ二つに木刀を切ってしまった。
「覚悟!」
「いや、まだだ!」
だが、武蔵キリトは後方に向かって飛び、刃を掠りながら避けると、斬り飛ばされた木刀を受け止める。
両手に持った二つの木刀、それはまるで二本の刀を持っているようであった。
武蔵キリトのその姿を見て、小次郎アスナは驚く。
「これが貴様の……」
「はぁぁぁぁぁ!!」
狭めた間合から二本の木刀による一撃が繰り出され、吹っ飛ばされる小次郎アスナ。
……その際、衣服から露になった二つの膨らみを武蔵キリトは見逃さなかった。
「……え!?」
「くぅ…!貴様……」
小次郎アスナは睨みつけながら胸元を隠す。
二つの木刀が手から零れ落ち、震える指で彼女を指す。
「お、女子だったのか!?」
「なに?女子が剣を握っちゃ悪いの?」
「そういうわけじゃないんだけど……」
顔を赤くする武蔵キリト。
どうやら女の身体を見るのは慣れてないようで、初々しく目を逸らす。
ため息をつきながら、小次郎アスナは告げた。
「…殺しなさい。敗れた以上、この命いらないわ」
「命を簡単に投げ出すんじゃない!」
「ならどうする気?女と知って辱しめるつもり?だったら私は自らこの命を……」
「戦いに負けたくらいで勝手に捨てるな!」
武蔵キリトの上げた怒号に、小次郎アスナはビクリと肩を震わす。
その後、たどたどしい言葉で彼は言葉を紡ぐ。
「そのキミの裸を見てしまった責任は取る」
「せ、責任ってそんな……」
「いいや取らせてくれ、その、め、夫婦に、なってくれませんか」
「ふ、ふぇぇええ!?」
閑話休題
「で、父さまと母さまが結ばれたわけなんですね」
「そうですね、それが二人の馴れ初めだと聞いております」
―――数年後、二人の人物がとある夫婦の姿を遠くから見ていた。
片や二人の剣豪から生まれた一人娘、結。
片や金色の美しい髪が特徴の細川ガラシャ(アリス)。
巌流島の戦いの後、なんやかんやあって豊臣と徳川の戦いで自害しそうな所を助けられた彼女は二人……否、三人の旅に同行していた。
「父さまと母さまは仲良しなんですね!」
「ええ、こちらが呆れるくらいには」
旅の間の甘い時間を過ごす夫婦の姿を見ながら、ガラシャアリスはため息をついた。
出会いが違っていれば、彼の隣にいたのは私だったのか、と。
そんな淡い幻想を夢見ながら、口づけをする武蔵キリトと小次郎アスナの剣豪夫婦を見守っていた。