『男女比 1:30 』 世界からの侵攻 ~勇者パーティー(♀)が強すぎるので色仕掛けで何とかする~   作:ヒラガナ

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第2話 現れた勇者

「どーしてこんな所に男の人がいるの? 危ないよぉ」

少女が大袈裟なくらい首を傾げて言う。

その仕草に一瞬、頭がズキッと疼く。

 

「っ!」

キューマの持病である。なぜか十歳前後の女子と接触すると、彼は時々このような頭痛に襲われるのだ。

 

「それがさ、今ちょっと困っているんだ。良かったら助けてくれないかな?」

痛みに気付かれないようやせ我慢しながら、自分の腹までしかない小さな子に対して下手に出る。

 

「俺、実は記憶喪失なんだ。自分がどこの誰かも覚えていないんだよ」

「えぇ!?」

 

どうすれば人間社会に入り込めるか、転移してからずっとキューマは考えていた。しかし、上等ではない彼の頭脳が、スマートで説得力のある方便を作り出せるわけがない。

 

「気付いたら森をさまよっていて、やっとの思いでここまで来たのさ。けど、これから先どうするか決めてなくて途方に暮れていたんだよ」

「そうなんだぁ。男の人なのに大変だったね。うん、わたしの家でゆっくりして逝ってよ」

「本当かい!? ありがとう!」

 

何の捻りも面白味もない記憶喪失という言い訳だが、そのシンプルさが功を奏したようだ。

少女は疑いもなく、自分の家へとキューマを案内する。男に騙されるという発想がそもそもないのかもしれない。

 

少女の家は村の外れにあり、おかげで誰ともすれ違わず、騒ぎにもならなかった。

 

藁葺(わらぶ)き屋根の、少女同様にみすぼらしい民家に到着。

王宮育ちのキューマにとって、我慢を強いる環境である。

 

少女が立て付けの悪い開き戸を、よいしょよいしょと動かして。

 

「ただいまぁ! おねえちゃん、お客さんだよ~」

 

「おかえり~って、あんた山菜取りに行ってんじゃないの。お客さんって…………きゃっおとこ!?」

 

少女とよく似た女性が奥から姿を見せた。

おねえちゃんと言われているだけあって、少女を五歳ほど成長させた顔をしている。

なかなか気立ての良さそうな顔をしているが――

 

(まだまだ子どもだな、俺のタイプじゃない)

 

頭痛の件もあって、キューマは断然年上派だった。彼が鼻の下を伸ばすのは、アダルティでグラマラスな女性である。モテないくせに理想とストライクゾーンが高い男、それがキューマだ。

 

「まあ! 何も覚えてないのですか!? それはそれはお可哀想に。ええ、こんな家でしたらどうぞどうぞ上がってください」

 

少女の姉は、キューマを笑顔で歓迎した。

 

(なんだ? 人間ってもっと怖いものかと思っていたけど、案外話せるじゃねえか)

 

「お疲れでしょう? 夕飯の支度が済むまで、隣で休んでください」

「ご厚意ありがとうございます。お言葉に甘えます」

 

食卓の隣、寝床として使われているのであろう部屋に通される。ソファーはもちろん椅子すらないので、キューマは板間に腰を下ろした。

部屋の隅に汚らしい毛布が畳まれている。毛布が二枚ということは、ここはあの姉妹だけが住んでいるのか。

 

(若いのに難儀なことで)

 

親に頼らず生きる姉妹の境遇に同情するが、何か行動するつもりはない。

人助けをするのは余裕がある者か、お人好しと相場が決まっている。キューマにはまるで当てはまらない。

 

(とりあえず、ここを拠点にして勇者の情報を集めないとな。さっさケリを付けて、親父の尻に蹴りを入れねぇと)

 

背中を壁に付けて一息ついていると、ウトウトとしてくる。何時間も見知らぬ土地を歩いていた疲れが一気に押し寄せ、キューマの瞼を重くしていた。

 

(少し寝るか……ふぁ……)

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

(……あ、ここは?)

 

目覚めると、窓の外は真っ暗になっていた。結構な時間、眠っていたようだ。

 

(夕飯を作るって言っていたけど、どうなってんのかな?)

 

未だ半分しか起きていない頭で、キューマは隣室の扉を開けようとした。と、そこへ。

 

「ただいまぁ~。頼まれた物、持ってきたよ~」

「こらっ、男の人が寝ているんだから、声を小さくしなさい」

 

扉の向こうから姉妹の声が聞こえてきた。

 

「ごめんなさ~い。で、これだよね? 痺れ草」

 

(痺れ草!?)

 

少女のあどけない口調が、一層言葉の不穏さを強調した。

 

「それと、村長さんの家から借りてきた縄。ちょうど人を縛るときに役立つサイズだよ」

 

(縄!? サイズ!?)

 

「村長さん、縄を何に使うか訊いてきた?」

 

「うん。いつか男の人を捕らえる時のために練習したいの、って言ったら『頑張り屋さんね~』と頭を撫でてもらっちゃった。チョロいね」

 

「よろしい。絶対、うちに男の人がいることを知られちゃダメだからね」

 

「分かってるよ~」

 

「じゃあ、後は取ってきてくれた草をすり潰してスープに混ぜれば完成ね」

 

「楽しみだなぁ。ねえねえ、わたしも食べていいんだよね?」

 

(食べる? な、なにを?)

気付けば、キューマはガタガタと震えていた。

 

「あなたはまだ小さいから無理よ。味見で留めなさい」

 

「ちぇ~。すぐに大きくなって食べ尽くしちゃうんだから」

 

「ふふふ、男の人が我が家に転がり込んでくるなんて、妄想だけの話だと思っていたのに……誰にも渡さないわ、永遠に私たちの物よ」

 

痺れ草を入れた鍋をかき混ぜながら、姉妹は笑い合う。

その場面だけを切り取れば、仲睦まじいクッキング風景に見えるだろう。

 

しかし、扉の隙間から覗くキューマには、肉食獣が舌なめずりをしている光景にしか見えない。

 

(甘かった! 見た目に騙されて獣の住処に来ちまった! ちくしょうぉぉ! こ、こんな所にいられるか! 逃げるんだよおおお!!)

 

物音を立てないよう細心の注意で、キューマは窓を乗り越え、肉食姉妹の家から脱出した。

 

靴を取りに行くことは出来なかったので、仕方なく素足のまま走り出すことニ十歩。

 

「うわああああああっ!?」

キューマは盛大に転んだ。

 

魔界の都とは違い、ここは明かりの少ない村である。

辺りは真っ暗で、足を踏み外す物には事欠かない。

その一つ、草むらの窪みにキューマは思いっきり足を取られてしまった。しかも、悲鳴のおまけ付きだ。

 

静かな村に、男であるキューマの「うわあああああっ!?」はとてもよく響いた。

 

 

「なに今のっ!? 男の声よ」

「さらに言えば、聞いたことのない若い男のメロディね!」

「感じるわ、音源の位置が手に取るように」

「飯食っている場合じゃねぇ!」

 

途端に村中が騒がしくなる。

松明(たいまつ)を片手に外へ飛び出してくる女性たち。その誰もが殺気……ではなく、犯気立っている。

 

「いたわっ! あそこよ!」

 

無数にある目をかいくぐる事は出来ない。キューマはすぐに捕捉された。

 

「み、皆さん! おおおお、落ち着いてください! 俺の話をぉおおおうわああ!!」

説得を試みようと声を上げるが徒労に終わる。

彼女らはキューマと言葉を交わすよりも身体を交わしたくて仕方ないようだ。

 

(クソォ! こんな人数を相手にしたら、絞り尽くされて死んじまう)

 

「おとこおとこおとこ……」

「舐めたい、食べたい、受け入れたい」

「ぐるうるううる」

 

キューマは四方八方を肉食女性に囲まれてしまった。万事休すだ。

 

目の色を変えた肉食女性の群れを止めるには、尋常ならざる力が必要である。当然、キューマが持ち合わせていないものだ。

そんな膨大な力の持つ者ともなれば、それは――

 

 

「雷よ!」

 

飛びかかろうとしていた女性たちの前に、突如として雷が落ちる。

 

「きゃああ!!」

 

経験したことのない衝撃である。たまらず、村の女性たちは地面にうずくまった。キューマも父親並の魔法を見せられ、尻餅をつく。

 

双方の間に三人の女性が割って入った。

軽装の鎧を着たボーイッシュな戦士、三角帽子に黒いマントの魔法使い、純白の修道服で身を包んだ僧侶である。

 

「男性への乱暴狼藉。いくらお世話になっている村の方々とは言え、看過出来ません」

僧侶が厳しい口調でたしなめる。

 

「次は当てる。脅しじゃない」

魔法使いが由緒ありそうな杖を掲げる。

 

「文句のある人は、ボクたち勇者パーティーが相手になるからね!」

最後に戦士が吠えた。

 

(勇者パーティーだとっ……!?)

 

思いも寄らぬ勇者たちとの遭遇に、キューマは目を見開いた。

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

「そっか~、記憶がねぇ。こういうのって頭をコツンとすれば治るのかな?」

 

「相変わらずの脳筋発想。そう簡単な問題ではない」

 

「身体の回復術は修得しているのですが……記憶の方は不得手でして。僧侶としてお恥ずかしい限りです」

 

勇者パーティーに保護されたキューマは、彼女らが滞在している宿屋へと身を寄せた。

 

(親父の奴、適当に転移させたのかと思ったけど、ちゃんと勇者の傍に飛ばしたんだな……サンキュー。おかげで、あんたを早く殴りに帰れそうだ)

 

キューマのために用意された宿屋の一室。

簡素な丸テーブルに座って、キューマは勇者パーティーと対面している。

 

「助けていただいた方のことを知らないなんて、俺の気が済みません」

 

勇者攻略に必要なのは、一にも二にも情報である。

キューマは適当ぬかして、勇者たちに自己紹介するよう促した。

 

「わっ、男の人でボクたちに興味を持ってくれるなんて、嬉しいなぁ」

「腫物扱いの勇者パーティーにこの神対応。私の涙腺に深刻なダメージあり」

「素晴らしき出会いに感謝しなければなりませんね、うふふふ」

 

ぴょんぴょん跳ねて喜びを表す戦士。

目頭を押さえて震える魔法使い。

聖母のように慈愛に満ちた笑みを浮かべる僧侶。

 

敵の思惑なんぞ気付きもせず、彼女たちは無垢なままに自分のことを語り出す。

 

その中で初めてキューマは、勇者というのが戦闘職の名称ではなく、一騎当千の強者の称号だと知った。

 

この戦士、魔法使い、僧侶は三人とも勇者である。

彼女たちは幼い頃から異常なほど武力や魔力に優れていた。そのため親元から離され、勇者になるべく国主体の英才教育を施されたらしい。

 

全員まだ幼さの残る顔をしている、二十にも届かない歳なのだろう。しかし、父親や将軍クラスの魔族たち特有の『凄み』をキューマは感じ取った。

魔王を退けた実力者たちだ。鎧やローブの中には、あまたの修羅場を乗り越えてきた体躯があるに違いない。

 

(とは言え、俺の嘘話を信じる人の良さ。付け入る隙はありそうだな)

 

まともに戦えば秒もかからず消し炭にされる化け物集団。

それに対抗すべく、キューマは愛想笑いとお世辞を全力で駆使し始めた。

 

その行為が、自身を逃れられない泥沼へと誘うとも知らずに……

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