『男女比 1:30 』 世界からの侵攻 ~勇者パーティー(♀)が強すぎるので色仕掛けで何とかする~   作:ヒラガナ

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第3話 個別攻略、開始

大まかな自己紹介が終わり、再び話の中心にキューマは置かれた。

 

「まっ! 君がどこから来たのかは、近隣の村に人を出して調査すればいずれハッキリするよ。明日、ボクの方から村長さんに協力をお願いするから」

 

戦士が屈託なく微笑む。

 

「ありがとうございます! 危ないところを救ってもらったばかりでなく、記憶喪失の面倒まで見てくださるなんて。何とお礼を言えばいいか」

 

キューマは深いお辞儀をして感謝の意を述べた。

半分は本心で、半分は勇者たちへ取り入るための演技で。

 

「……むっ、面と向かった謝辞。凄まじい破壊力」

魔法使いが三角帽子のツバを引っ張って、自分の顔を隠した。照れた様子を見られたくないのだろう。

 

「男性の方にお礼を言われたのは二度目です。何だか面映(おもは)ゆいですね」

僧侶が赤くなる両頬に手を置く。

 

「うん! ボク、君のことが気に入ったよ! 記憶が戻るまでバッチリ警護するから」

任せて! っと戦士が控えめな自分の胸を強く叩いた。

 

(あったけぇ反応だな……俺をゴミの目で見た魔界の女たちとは雲泥の差だぜ)

 

良心を少々痛めながらも、キューマは勇者たちの性格を把握すべく言葉を続ける。

 

「でも、勇者様たちには何か目的があるのではないですか? 俺のことを気にかけてくれるのは嬉しいですけど、お邪魔では?」

 

「あ~そっか。ボクら魔界侵攻の途中なんだよね」

 

「魔王を撃退した今が好機。今夜休んだら再出撃」

 

「ワタクシの回復術で多少の怪我は治せますし、次は無理してでも魔界深部へ進まなければいけません」

 

「う~ん、じゃあボクらが侵攻中、この男性を守る人を用意しないといけないかなぁ」

 

魔界の住人のキューマにとって、危険極まりないことを話し合う勇者たちである。何としても止めなければ……

 

「提案、周辺警戒の軍から人を借りるのはどうか?」

魔法使いが挙手して述べる。

 

「軍、ですか?」

 

「ほら、あそこに軍隊の人たちがいるの」

キューマの疑問に答えるべく、戦士が窓の外を指さした。

 

夜景に目を凝らせば、黒々とした輪郭の山々が見えてくる。

 

「一番高い山、ブレイクチェリー山って言うんだけど、そこに軍隊の人たちが駐留しているんだ」

 

「ブレイクチェリー……」嫌な名前の山である。「どうして、あんな所に軍隊が?」

 

「それはね、あの頂に世界を渡る特異点があるからだよ」

 

特異点!?

 

「特異点からいつ魔物が侵攻して来るか分かりません。軍部の方々は昼夜問わず警戒をしてくださっているのです。危ないですから、くれぐれも山には近付かないでくださいね」

僧侶が優しい声で、しかし語気を強めて言う。

 

「ええ、もちろんです」

と、素直に頷くキューマだが、内心は反発していた。

 

境面渡りの鈴を使って人間界に来たキューマ。あれはあくまで片道切符である。

魔界へ帰るためには、自らの足でブレイクチェリー山の特異点に飛び込む必要があった。

 

(そうか、あの山が俺の帰還ポイント)

黒々とした山が、神々しく輝いて見えてくる。キューマは望郷の念と父への怒りを新たにして、ブレイクチェリー山を見つめた。

 

 

 

思いの外、収穫の多い情報収集は、瞬く間に時を消化していき――いつの間にか山裾の村に深々とした夜が訪れる。先ほどまでの肉食パニックが嘘のようだ。

 

話し合って分かったことは、勇者たちの自制心の強さである。

一緒の空間にいるのに、彼女らはキューマに発情しない。

目を鋭利にキラメかせることも、口から涎を出すこともない。

村人に追い回されている時に感じた、股間がキューッと縮む想いは湧いてこない。

 

(さすが勇者たち。何という淑女ぶり)

 

キューマは彼女らに対して、安心感を持ちつつあった。

 

「――男性の方を長々と拘束するのは失礼ですね。そろそろお暇しましょう」

 

僧侶が恭しく言う。

 

「え~もう。ボク、まだ話し足りないよ」

 

「明日は朝から出発なのですよ。準備もありますし、これ以上の長居は出来ません」

 

「……わかったよ」

「残念。そう言われれば引かざるを得ない」

 

僧侶に説得され、渋々納得する戦士と魔法使い。

 

そんな三人を大人しく見送るわけにはいかない。キューマは魔界の英雄となるべく声を上げた。

 

「明日の出撃、止めてくれませんか?」

 

「「「えっ?」」」

 

突然何を言い出すのか、と三人が驚愕する。

 

「だ、だって魔界ですよ。とっても危険なんですよね? 俺は嫌です。みなさんが傷ついて倒れたりしたら……そう思うと、怖くて怖くて」

 

顔を青くして震える演技をするキューマ。

じんわりと目から涙を流すほどの芸達者ぶりである。元から弱者寄りの彼はこの手の小細工が得意であった。

 

「泣いてるの、ボクたちのために? 嘘、どうして?」

「驚天動地。まさか男性が……」

「このような事があるなんて。ああ、神様」

 

見るからに男性と接点のなかった勇者たちだ。男性から心配されるなんて思ってもみなかったのだろう。動揺は計り知れない。

キューマは内心舌を出しながら、畳みかける。

 

「どうか、出撃を思い直してくださいませんか?」

 

「むぅ、そう言われても困る。魔界侵攻は王命であり、私たちに拒否権はない」

 

「ワタクシたちの進撃を望む民もいます。簡単に引くわけにはいかないのです」

 

「ボクたちは、小さい頃から魔界へ行くためだけにずっと訓練してきたんだ。今更止めるなんて出来ないよ」

 

「そこを何とか……っ!」

 

キューマも必死である。

勇者たちを止められなかったら、故郷が蹂躙され、悪友たちは連れ去られ、何より嫁をゲット出来ない。

 

だが、残念なことに彼がどんなに言葉を重ねようと、勇者たちは首を縦に振らなかった。

 

(ちっ、人間軍の鉄砲玉だけあって頭が固いな。もっと自分のことだけ考えて、楽に暮らせば良いのによ)

 

「みなさんの覚悟を踏みにじるようなことを言って、すみませんでした」

 

キューマは一時撤退して、仕切り直すことにした。

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

三人まとめて説得するのは無謀だった。反省である。

もし、三人の中でキューマの話に心が揺れた者がいたとしても、仲間の前では本音を出せないだろう。

 

で、あれば個別攻略だ。

 

(親父が言っていたよな。勇者パーティーの一人と駆け落ちして、戦力ダウンを狙う策。あれをやってみるか)

 

戦士、魔法使い、僧侶。

勇者パーティーはバランスの取れた編成となっている。

だが、それは一人でも欠ければ一気に崩壊するとも言える。

 

今晩中に誰か一人を「あなたをお慕いしています。どうか俺と一緒に逃げて幸せになりましょう」と口説き、勇者パーティーから離脱させるのだ。

 

しばらくは口説いた相手と二人旅となるが、適当なところで()いて、こっそり魔界へ帰還すればいい。

急にキューマが消えたとなれば、駆け落ち相手は彼を探すのに躍起になる。仲間を裏切った後ろめたさも手伝って、勇者パーティーに合流することはないだろう。

 

こうして、戦力が落ちた勇者パーティーの侵攻は、魔王軍によって阻まれる。

魔界を救ったキューマは、もてはやされ、嫁を難なく手にして、めでたしめでたし。

 

と、いうのが彼が描いたバラ色の未来図であった。

 

(今晩中に誰か一人を落とすんだ! 問題は誰にするかだけど……)

 

キューマは落第必至の頭を酷使して、決めた。

 

(……順当に行けば、戦士か)

 

消去法である。

 

僧侶は、見るからに真面目で融通が利きにくそうだ。

民を見捨てて自分だけ逃げるなんて! と突っぱねる姿が容易に想像できる。

 

よって、僧侶は却下。

 

魔法使いは、父親並の魔法を扱うため苦手意識を持ってしまう。

それに魔術に長けた彼女ならキューマが人間に化けた魔族だと見抜くかもしれない。

 

よって、魔法使いも却下。

 

残るは、警戒心が薄く考えるのが苦手そうな戦士。

前衛の要である彼女を引き抜けば、勇者パーティーは立ち行かなくなるだろう。

 

早速、キューマは戦士の部屋を訪ねた。

しかし、ノックしてみても返事はない。別の所にいるのだろうか……と廊下を歩いていると、庭先から荒い女性の吐息が聞こえてきた。

 

 

「……はぁ、はぁ、くっ!」

 

月明かりが照らす屋外で、戦士が舞っていた。

仮想敵を作って、訓練しているのだろうか。

木剣両手に何もない空間へ突きや斬りを放ち、時折防御の姿勢をとっている――ようだ。

確信した言い方が出来ないのは、彼女の動きが早すぎて、ザコのキューマでは捉えきれないからである。

 

(オーク戦士長が負けるのも納得だな)

 

そんな相手を今から口説かなければならない。

キューマはこれでもかとヘッピリ腰になって、小休止する戦士へそろそろ近付いた。

 

「あれ? まだ寝ていなかったの?」

 

話しかけるより先に、戦士がキューマの気配を感じ取る。

汗を滴らせる首筋と、火照る頬。子どもっぽい性格に反して、香り出す色気にキューマの胸が跳ねた。

 

魔界を脅かす勇者でなければ、お付き合いを申し込んでいたかもしれない。

 

「何だか寝付けなくて、ちょっと夜風に当たりに来ました」

 

「外に出るのは危ないよ。君を狙っている村人がまだ潜んでいるかも……まっ、その時はボクが退治してみせるけどね」

 

はっ! と戦士が木剣を振る。その一振りが巻き起こす風で、近くの木々が大きく揺れた。

強漢魔(ごうかんま)相手に過剰暴力ではなかろうか。明らかに下半身と上半身がサヨナラしてしまう威力である。

 

(ヒエッ! もし、魔族だとバレたら風圧で殺されるぅぅ)

 

この場から一刻も早くサヨナラしたいとせがむ己の足。それを必死に留めて、キューマは戦士への取り入りを始めた。

 

「怖くないんですか? たった三人で敵地に赴くなんて正気じゃないですよ」

 

「あはは、そうだね。命懸けだろうね」

 

「じゃあ」そんなことは止めて、俺と――

 

「でもさ」

キューマの言葉を遮って、戦士は天を仰いだ。星空よりもずっと遠い何かを見つめるように。

 

「ボクの目的のためにはどうしても魔界に行く必要があるんだ」

 

「目的って、魔界の男を捕まえて、男不足を解消することですか! おかしいですよ、勇者さんたちに危険な露払いを押しつけて、他の人は後から悠々と男を狙うんでしょ。あなたが貧乏クジを引く必要があるんですか!」

 

強者が優先される魔族の価値観から言って、なぜ強者である勇者たちが鉄砲玉のように不遇扱いされているのか分からない。

その理不尽さを加味した熱演によって、戦士の不満を掘り起こそうと試みた――結果。 

 

「……あんまり大きな声じゃ言えないんだけどね」

戦士は恥ずかしげに自分の頬を掻いた。

「ボクの目的は、世界のためだとか、そんな大それたものじゃないよ。すごく個人的なものさ」

 

「個人的?」

 

「魔界にね、会いたい人がいるんだ。その人を見つけて、結婚して、子どもをたくさん産みたくて、ボクは地獄のような訓練を十年以上耐えてきたんだ」

 

「……うえっ?」

 

「君の心配はとても嬉しいけど、それでもボクは魔界に行く。たとえ志半ばにして散ろうとね」

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

戦士をパーティーから離脱させるのは無理だった。

 

(なぜだ! 人間の女は男に飢えているんじゃなかったのか! しかも、想い人が魔界にいるって! どうやって人間界の勇者が魔界の奴と知り合えるんだよ! 特異点が発生したのは最近のはずだぞ!)

 

色々突っ込みたかったが、時間は有限だ。

戦士がダメとなれば、切り替えて次のターゲットに行かなければならない――という名目で、キューマはそそくさと戦士から離れた。

 

自分を振った相手と同じ場所にいたくない、というのが本音だが、もちろん恋愛弱者のキューマは真実から目を逸らした。

 

 

(僧侶にしよう! 回復役を奪えば、勇者パーティーが魔界の奥深くへ侵攻するのは不可能。ああいうお堅い女は恋愛慣れしていないから、俺の口説きでコロッと行くに決まっている!)

 

そういうわけで、僧侶の部屋に向かったキューマだが、またもや留守。

探し回った末に、宿屋のロビーの端にある簡易な祭壇の前に彼女の姿を見つけた。

 

「お祈りですか?」

 

膝をついて、祭壇に頭を垂れる僧侶に話しかける。

 

「……はい」

僧侶は祈りのポーズを解き、キューマの方へ振り返った。

 

「明日からの侵攻の無事を神に願っておりました」

 

「信心深いんですね」

 

ひなびた村のひなびた宿屋にまで祭壇があるなんて、人間界で広く信仰されている神だろうか。

 

宿屋の明かりは落ちているが、祭壇にはロウソクが灯されている。

淡い光の中にある神のご尊顔を覗こうと、キューマは祭壇に近付いたが……

 

「ひっ」

 

石を削って作った小さな像が二体、それぞれ女と男の形を成した物が祭壇に置かれていた。

 

その像のポーズが致命的におかしい。女の像が、男の像を押し倒している。

今、まさにむしゃぶり尽くそうと意気込む女。諦めの極地に達し、煮るなり焼くなり好きにしろと体を投げ出した男。

 

異様、と一言で片づけられないほど禍々(まがまが)しい。

 

「こ、これは……っ」

 

「女神様が天界より降り立ち、たまたま見つけた男を襲う場面を模した物です」

 

「ウエェェ」

 

「女神様はおっしゃいました。『汝、隣人を犯せよ』と。その教えに従い、ワタクシたちは男を犯し、次代を残そうと必死になっているのです」

 

人間とは絶対分かりあえない。キューマは魂で理解した。

 

キューマがドン引きしている事に遅まきながら気付いたのか、僧侶は慌ててフォローを入れる。

 

「あ、あの、男性関係にはお茶目な女神様ですが、五穀豊穣や厄除けなど、ワタクシたちの暮らしを見守ってくださる有り難いお方なのですよ」

 

「は、はぁ」

(でも、男を食べるんですよね)

 

どんなに取り繕うと、人間が信奉する女神とやらが強漢魔であることに変わりはない。

 

「正直なところを申しますと、ワタクシも教えがやや過激ではないか、と思うことはあります」

 

「えっ?」 

 

「こんな世界ですから、男性と見るや襲いかかって子種を(しぼ)ろうとする気持ちは頷けます。しかし、それは性急的過ぎます。せめて手を繋ぐワンクッションを入れて、身体を交わらせるべきではないかと」

 

「ワンクッション後のショートカットが半端ないですね」

 

キューマのツッコミが聞こえないのか、僧侶は持論を続ける。

 

「そんな生き方が主流ではありますが、ワタクシはたった一人の殿方を長年お慕いし、その方との間に強い絆を作ることも、また一つの生き方ではないかと感じるのでございます」

 

僧侶が遠い目をした。

先ほどの戦士の目と同様のものだ……ということは。

 

「も、もしや、どなたかお付き合いしてる方がいらっしゃるんですか?」

 

「お突き合いだなんて、そんなそんな。ワタクシが一方的に懸想しているだけです」

 

僧侶が頬を大いに赤らめる。

 

(ごふっ)

キューマは、鳩尾にいいのを喰らった気分になった。

 

「魔界に行けば、その殿方にお会い出来ます。幼き頃から一日千秋の想いで待った日がいよいよ……」

 

ロウソクの炎のせいだろうか。清純さが売りの僧侶の顔に、ドス黒い影が差していた。

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