『男女比 1:30 』 世界からの侵攻 ~勇者パーティー(♀)が強すぎるので色仕掛けで何とかする~   作:ヒラガナ

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第4話 痛みのわけ

意中の相手がいるターゲットを一晩で惚れさせるのは、いくら俺でも分が悪い)

 

別に意中の相手がいようがいまいが、いつも分が悪いキューマは、己に言い訳をして最後の標的へと向かうことにした。

 

(魔法使いだ! 彼女こそ勇者パーティー最大の火力。それを止めれば、魔界侵攻はおぼつかないはずだ。口下手みたいだし、きっと人付き合いに飢えているに違いない! 俺のリップサービスでイチコロよ)

 

三度目の正直、魔法使いは自室に居た。

 

「……こんな時間に何用?」

 

ノックした扉の隙間から魔法使いが顔を出す。やはり男慣れをしていないようで、表情に緊張の色が見える。

 

「ちょっとお話したいことがありまして、今よろしいですか?」

キューマは口八丁で彼女の部屋に入ろうと試みた。

 

すると。

「……しばし待っていてほしい。部屋を片づける」

 

魔法使いはキューマを拒絶せず、迎え入れる準備を始めた。

 

夜分、特に親しくもない異性を部屋に上げようとは、貞操観念が強い魔界の女性ではあり得ないことだ。

 

魔法使いは大人しそうな性格なようだが、やはり人間の女性。男性に対しては大胆である。

 

(しめしめ。個室で二人きりならムードを作りやすい。ここが勝負どころだ、必ず口説き落としてみせる!)

 

もう後がないキューマ。魔界の命運と己の結婚がかかった正念場を前にして、彼のプレイボーイ魂は大いに燃えた――

 

キシャアアアアアッ!!

コュルエエエエエッ!!

グググドドドドドド!!

 

――が、扉一枚挟んだ向こうから響く奇怪な叫び声によって、即鎮火した。

 

(こ、殺される!? 理屈じゃない、この先のモノに俺は殺される!)

 

耳に入ってくるのは、弱肉強食ピラミッドの上位者が出す音。

喰われる。性的ではなく、本来の食的な意味で。

 

任務を忘れて逃げようとしたキューマだったが。

 

「お待たせ、入って」

 

扉が開き、魔法使いがひょいと彼の腕を掴むと、室内へと引っ張り招き上げた。

細腕でなのに何というパワーか。伊達に勇者の称号を持っているわけではないらしい。

 

彼女の部屋の作りは、キューマのそれと同等のものだ。

にも関わらず、別空間の居心地を覚えるのはどういうことか。

 

キューマは震えた。

 

 

 

所狭しと置かれている用途不明の道具の数々。

トカゲの尻尾らしき物や何かの骨、まだら模様のキノコ、グツグツと煮える鍋に、木彫りの仮面。

部屋中に魔力が充満し、息苦しい。

 

「な、なにをしているんですか?」

 

「魔法アイテムの調合とエサづくり」

 

「エサ?」

 

「そう、あの子たちの」

 

魔法使いがベッドの上の箱を指さした。

薬箱のような大きさと形だが、魔力を秘めた鎖で厳重に縛られている。

それが『ドカッ! バガッ!』と中からの衝撃で跳ね、そのたびにキューマのチキンハートも跳ねた。

 

「私の使い魔たち。今は箱の中に封印しているが、いざと言う時は一瞬で解き放たれ、目標を無力化する」

 

「た、たのもしいですね」

 

「うむ、自慢の子たち」

ムフーと魔法使いがドヤ顔をする

 

「逃げる目標の行く手を阻み、糸を張って包囲していくスパイダー君。目標を執拗に追撃し、グルグル巻きにして放さないスネーク君。捕まえた目標を自身の身体に取り込み、長時間保存するビッグスライム君。頑張って育てた」

 

「……何だか、相手を倒すより捕まえるのに特化していませんか?」

 

「当然。倒すのなら私の魔法で事足りる。あの子たちは、私のターゲットを捕まえ、大事にする(意味深)ために用意した」

 

(あっ、この流れは)

 

口説き始める前から、キューマは自分の敗北を予感した。

 

 

魔法使いもまた恋する乙女であった。

相手は、他の二人と同様に魔界にいるらしい。

 

と、いうことでキューマの作戦は失敗した。仮に魔法使いを口説いて駆け落ちしたとしても、拘束の得意な使い魔がいる以上、彼女を欺いて逃げることは出来ないだろう。詰んでいる。

 

(人間相手なら色仕掛けは簡単だと思っていたのに、チクショウ! 嫌な人間界にまた来たって言うのに、こんな苦い経験をするなんて…………あっ? また?)

 

少女と相対する時にたまに来るズキッという頭痛。

それが、なぜか今に来た。それも今までにないほど強く――

 

(どうなってんだ、俺の頭は……くそっ、もやもやして何も考えられない)

 

耐えきれず、キューマは自室のベッドに倒れてしまった。

今夜中に勇者たちを止めないといけないのに……そう思っても睡魔は速やかに彼の意識を暗闇へと落とした。

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

翌日。

 

 

「おっはよ~。ちゃんと眠れた?」

 

「魔法通信で軍には連絡済み。もうすぐ護衛が来る」

 

「それを見届けましたら、ワタクシたちは出立しましょう」

 

勇者たちがキューマの部屋を訪れた。

これが最後のチャンスである。

 

目が覚めて、日光に当たりながらキューマは作戦を考えていた。

 

保身に走っていては勇者たちは止められない。

勝負に出るしかない。

 

「皆さん、聞いてください」

生涯これほどキリッとしたことがあっただろうか。キューマは持てる全ての力を表情筋に費やした。

 

 

「記憶喪失というのは嘘です。実は俺、魔族なんですよ」

 

「ほえっ?」

「まあっ」

「……」

 

何も気付いていなかった戦士。

思うところはあったのか、大きくは驚いていない僧侶。

もしかしたら察知していたのかもしれない魔法使い。

 

三者三様の反応だが、構わずキューマは話を続ける。

 

「勇者さんたちに接触して、魔界侵攻を妨害するのが俺の任務でした。しかし、あなた方は確固たる信念を持って魔界に行こうとしている。それを止めるのは難しいと思いました」

 

「変化の魔法を施した形跡があったので、警戒していたが……堂々カミングアウトとはやる」

「ええっ、ちょっと待って!? ボク、話に付いていけないよ」

「お静かに。今は、この方の言葉を最後まで聞きましょう」

 

「どうか、俺と取引してください! 勇者さんたちが魔界に行くのは愛している人と会うためですよね? 俺がその人物を探し出して、あなたたちの前に連れてきます。これでも魔界ではそれなりの地位を持っていますから、人を使ってすぐに見つけてみせますよ。だから、魔界侵攻を止めてくれませんか!」

 

この通りです! とキューマは土下座をした。魔界における最上のお願いポーズである。

 

魔界の王族が人間に土下座をする。

キューマ以外の兄弟なら絶対にやらなかっただろう。

だが、キューマは恥と共に日々を生きる男。どんなに意地汚くても目的を達成出来るならそれでいいと割り切れる、ある意味で器の大きい男だ。

 

キューマの渾身の提案に、勇者たちは沈黙した。

どうする……と目配せしている。

 

(イケル!)

その葛藤具合に、キューマは作戦が間違っていなかったと自信を持つ。

 

昨晩一人一人と話し合った末、勇者たちに人間の未来を担う使命感は薄い、とキューマは見抜いた。

彼女らは、個人的な望みで魔界侵攻を企てている。ならば、その望みを叶えてみせれば……と思い、彼は殺されるリスクを背負って正体を明かし、交渉に踏み切ったのだ。

 

 

「ワタクシ共としても、敵地で想い人を探すのは困難であろう、と感じていました。あなたが橋渡しになってくださるのでしたら願ってもありません」

 

「あの人と会えるのなら、王命の背くのも無問題。ただし、裏切りの可能性は否定出来ない。私の使い魔を監視としてあなたに付ける」

 

「いらないんじゃない? ボクは信じるよ。君は悪い人じゃないもん」

 

勇者たちの返事にホッとする。

提案を唾棄されることはなかった。とりあえず、一歩前進である。

 

「ありがとうございます! それでは早速、勇者さんたちの想い人についてお聞きしたいのですが……ええと、皆さん、同じ人を想っているんですか? それとも三人が三人で別の人を?」

 

「残念ながら同一の方をお慕いしております」

 

(残念?)

キューマを嫌な予感が襲った。

言葉の内容もさることながら、温厚な僧侶とは思えないほどトゲのあるイントネーションだった。

 

「ボクたちがまだ九才の頃に、無人の砂漠で一ヶ月サバイバル訓練をしたんだ。その時に会ったのがボクらの好きな人だよ」

 

戦士の台詞は、一言に多くのツッコミ所を与えてくれる。

九才で砂漠。勇者育成プログラムの一環だろうか、その恐ろしいスパルタぶりは置いておくとして。

 

「無人の砂漠なのに、想い人さんはどこからやってきたんですか?」

 

「ボクも最初ビックリしたんだけど『間違って転移しちまった。なにここ砂漠? 水もないとか死ぬ~』と、わめていた所を発見して、救助したんだ」

 

予想外に情けない想い人である。

そもそも転移って……魔界から人間界に飛んだのだろうか。特異点がまだ発生する前のことだ。境界を越えるには、あの鈴を使うしかない。

厳重に保管された鈴を使えるのは魔王の血族くらいだから、もしや知り合いか……と推理するキューマ。

 

「っつ!」が、頭を働かせれば働かせるほど、昨晩と同じ頭痛が激しくなってくる。

おい、その先は地獄だぞ。と無意識に警告されているようだ。

 

「それから私と彼の生活が」

「訂正してください。私たちと彼の、です」

「むっ……それから私たちと彼の生活が始まった」

 

魔法使いの言葉を咎める僧侶。二人の仲が一気に険悪になる。

 

(なにこの雰囲気。こわっ)

頭に続いて、キューマは胃までも痛くなってきた。

 

「私たちは勇者、生まれながらにして異能の力を持っていた。親さえ怯えさせる力。だが、彼は怯えなかった」

 

「男の方だと言うのに、ワタクシたちを信頼して頼りきってくださったのです。ワタクシが調理した食事を何の疑いもなく、食べるところなど……はぁはぁ、年上の方でしたのに可愛くてたまりませんでした」

 

「ボクの訓練の相手にもなってくれてね。ベタベタ触っても嫌な顔をしないから、つい本気で押し倒したくなっちゃったよ」

 

「二人ともハレンチ。彼の体毛をこっそり取って、魔薬を処方するに留めた私を見習うべき」

 

わいわいと楽しげに想い人との思い出を語る勇者たち。

 

(ああ、そういうことだったのか)

 

キューマを襲うことなく、淑女的に応対をしていた勇者たち。

てっきり彼女らは理性的なのだと思っていたが、勘違いだった。

 

勇者たちは一点集中型だ。想い人にだけ飽くなき性欲を発露させる立派な肉食女子だったのだ。

 

「それで、最終的に想い人さんは魔界に帰ってしまったんですか?」

 

「ええ、魔力が溜まったからと、もうこんな所にはいられないと」

 

「でも、ボクたちはもっと一緒にいたいし、食べたかったから最後に夜襲をしかけたんだ」

 

「が、誰が彼の初めてを奪うかで争っているうちに、彼を取り逃がしてしまった。一生の不覚」

 

九才にして、襲ったのか……

 

果たして、この肉食獣共を想い人に会わせていいのだろうか。

まず間違いなく想い人の貞操は散るだろう。その後、監禁されて一生大事にされ続けるかもしれない。

 

同胞をそんな目に遭わせるのは忍びない……とキューマが悩んだのは僅かな時間だけ。

 

(まっ、いいか。どこの誰かも分からない想い人さん、ご愁傷様。魔界の平和の礎になれるんだ、名誉なことだから色々と諦めてくれ。っ、にしても――)

 

勇者たちの話を聞いていると、どんどん頭痛が悪化してくる。早く聞き終えて、想い人探しに移らなければ。

 

「肝心な事なんですけど、その想い人さんの名前を教えてくださいませんか?」

 

「「「それは――」」」

 

勇者たちの声が重なった。

 

その時である。

 

キューマの指の爪が伸び出した。皮膚もだんだん青白くなっていく。

鏡がないから分からないが、おそらく髪も黒から銀へと変色していることだろう。

 

魔王がかけた変化魔法は、時間が経てば消えるものだったらしい。

キューマの身体が、本来のものへと変貌していく。それと同じタイミングで。

 

「「「キューマ(さんだよ)(様です)」」」

 

勇者たちの口から、想い人の名前が告げられた。

 

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