異世界で死にたくない最弱の女神   作:アイリスさん

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10話

『ひゃっほう。ステンノたん元気じゃった?』

 

一面真っ白な世界。不快な声が響いてきた。これ私の夢よね?あの〈主神(くそ虫)〉、遂に実力行使に出たのかしら?よし、起きよう。今すぐ起きよう。さあ早く目覚めないと。

 

『これこれ。ちょっとくらい戯れてもええじゃろ、ステンノたんのいけず~』

 

……糞キモチワルイ。何なの?この世界の私の安眠すら妨げるっていうの?本当にやめてくれない?お願いだから平穏に生活させてよ。

 

『おおう、そうドン引きされると流石にショックじゃわい。けど今日は伊達に夢枕に立った訳ではないぞい。お主にとって重要な情報を持って来たのじゃ』

 

重要、ねぇ。本当に?セクハラとかじゃ無いわよね?

 

『勿論。良いか?ワシを主神と崇める神殿にアムラエルのヤツが独断でお主の事を教えたのじゃ。お主を見付けて保護しろ、とな。じゃが神殿と合流してはならん』

 

神殿、ねぇ。本当に神様活動してたのね。まあ私が神殿に行ったら傀儡というか良いように祭りあげられて自由も何も無くなるだろうから、言いたい事は分かるけど。

 

『違うわい。神殿には魔族のスパイがおるんじゃ。魔族はスパイからお主の事を知って生け捕りにしようとしておる。神の力を解明したいみたいじゃな。だから神殿に行けば確実に魔族に捕まるぞい』

 

……ねぇ、待って?魔族って?この世界にも悪の敵対勢力とかいるの?私、それ教えてもらってないんだけれど?

 

『あっ…………まっ、まあそういうわけじゃ!アムラエルにはよーく言っておいたから心配するでない。良いか?上手く神殿からも魔族からも逃げ切るんじゃぞ?』

 

ちょっと!ちょっと待ってよ!無責任過ぎるでしょう!あっ、目が覚めそう、駄目よ逃げるなそれでも神様なの!?

 

 

 

──────

 

……もうイヤ。

最悪の目覚めね。まさか魔族?に狙われてるなんて。神殿勢力も信用出来ないし、当面このままこの街に潜伏しておくしかないか。まさか私みたいな最弱の小娘が女神だなんて、言わなければ分からないだろうし。でもアムラエルさんの事だから、私の特徴とか神殿側に伝えてるのかしら?それとも向こうには神の力的なものを見分ける能力があるとか?

 

考えても仕方ないわね。なるべく神殿勢力の目に付かないように振る舞うしかないか。どうせ私が起こせる奇跡なんてこの世界じゃ魔法で片付けられる程度のもの。自分にかけられた魔法陣すら解除出来ない者を女神だなんて思うわけない筈。

 

んー、もう日が登ってきて外が明るい。こっちじゃ日の出と共に起きて、日が沈む前に家に帰る人が多い。勿論ここくらいの規模の街なら街灯が灯っていて夜でも酒場なんかに出入りしたりして活動している人も少なくないけど。因みに街灯は魔道具みたい。地球みたいな電気は無い。使われるのはせいぜい魔術で攻撃する時の雷くらい?

 

「ニュクティ、朝よ?起きて」

 

私の隣で静かに寝息をたてて眠るニュクティ。ちゃんと……はしていないけど、屋根と鍵の掛かった扉のある場所で眠るのは久しぶりだし、今まで緊張の糸を張っていたぶん安心したんでしょうね。でも約束は守らないと駄目よ?

 

実は昨日。ゴブリンを殺した後に斡旋所へ戻った後、何処か安い宿はないか相談したの。ええ、昨日の受付のお姉さんに。ゴブリン三匹を退治した報酬は貰えたんだけど、どうも最弱の種類らしくて大した額にはならなくて。安宿に二~三泊して食料を買い込んだら幾らも残らない。それで、私の顔を覚えていた(多分私が美少女過ぎて忘れられなかった)受付のお姉さんは、思案した結果斡旋所の所長に相談。掃除や雑用をする代わりに空き倉庫の一室で寝泊まりする事を許可して貰えた。お姉さんは同情、或いは私みたいな少女が放り出されて何かに巻き込まれるとか私が売春するとかそういう犯罪を危惧したのかも知れないけど、所長のおじさんの方は違う。だって私、媚びたもの。美少女にねだられて陥落しない男なんていない。もし居たら同性愛者とか鋼のメンタルの聖人じゃないかしら?

勿論ニュクティはご機嫌ナナメになったけど、背に腹は代えられない。所長の周りや奥さんが目を光らせてるし一応良い人っぽいから所長が私に手を出してくるって事はそうそう無いとは思うんだけど、その時はその時。

 

そうして特別扱いを手に入れた私達は、こうして屋根と扉のある場所で眠りにつく事が出来た、ってわけ。そういう意味では超絶美少女女神(ステンノ)様々ね。

 

だから、今日から少しだけ早起きしないといけない。もぞもぞと斡旋所の制服に着替えてエプロンを装備。部屋の隅に立て掛けてある箒を手に取った。

 

「いつまで寝てるの?」

 

初日だしちゃんと二人で……と思ったんだけど仕方ないわね。昨日まで私を守ろうと頑張ってたわけだし、今日だけ寝かせておいてあげるわ。

 

箒片手に部屋から出た。噂をすれば、ね。所長さんが三階にある事務室に向かおうとしてるのが見える。こっちに気付いたみたい。一応恩人だし挨拶くらいしてあげようかしら。

 

「おはようございます、所長さん」

 

小首を傾げニコリ、と微笑みかける私。あざとい?ええ、わざとだもの。

 

態々所長さんの所まで駆け寄って、上目遣いで「昨日はありがとうございました」って妖艶に笑ってみせる。「いっ、いやいや、礼には及ばないよ、はっはっはっ」って誤魔化してるけど目は泳いでるし動揺してるのが丸分かり。ついでに私の制服の見えるか見えないかの微妙な隙間から胸を覗こうと視線をチラチラさせてる。チョロいわ、隙だらけね。でもそんなんじゃ駄目よ、ほら、後ろで恐ーいお姉さんが睨んでるわ。

 

「所長?何してるんですか?」

 

昨日の受付のお姉さん……イオリスさんにジト目で見られて、所長さんは慌て私から距離を取る。「いやいや、朝の挨拶を交わしただけだよ、はっはっはっ」って必死に誤魔化そうとしてるわ。

 

「どーだか。今日も仕事は沢山あるんですからさっさと事務室に行って下さいね。それとステンノちゃん」

 

「……何かしら?」

 

言いたい事は分かってる。あざとく媚びるような仕草は謹めって事でしょう?私は再び小首を傾げて何の事か分かりませんの意思表示。まあでもイオリスさんには当然効果ゼロなのよね。

 

「そういうの止めたほうがいいわよ?余計な敵を作っちゃうから」って溜め息混じりに話すイオリスさん。分かってるけどね。

 

「でも私、これしか出来ないもの。他には何も出来ない」

 

「なら私が最低限の事はこなせるように教えてあげるから……今朝は何か食べたの?」

 

イオリスさんの言葉にコクリ、と頷く。昨日市場で買った少し……ううん、固めのパン。ちゃんとニュクティのぶんは置いてきた。水筒にまだ水も入ってる筈だからニュクティなら食べられると思う。それにしても教えてくれるのね、イオリスさんはやっぱり良い人。こんな、自分が可愛いのが分かっていて誰にでも媚びるような子、普通は嫌悪するのに。

 

「ならいい。入口の掃除宜しくね。もう一度言うけど、男の人に変に媚びないようにね。男って馬鹿だから変に勘違いされるわよ?」

 

向こうを歩く所長さんにわざと聞こえる大きさで私に諭すイオリスさん。あ、所長さん、ビクッと震えてるわ。はーい、分かったわ。今度媚びる時はもっと上手くやるから。

 

通路で立ち止まってそんな会話をしてると、後ろからバタバタと足音が聞こえてくる。ニュクティ、起きたみたいね。慌ててる。多分目を覚ましたら私の姿が無かったから焦ったんでしょうね。私を見付けて安堵の表情をしてるわ、クスクス。

 

「おはよう、ニュクティ」

 

「おはようじゃないだろ、起きたら隣に居なくてビックリしたよ!」

 

他に何か言おうとしたニュクティは、イオリスさんが居るからか押し黙った。私はここで甘い言葉を囁いてくれても別に構わないのに。

 

…………。

ねえ、ここまでの私の言動というか思考、おかしくない?幾ら生きる為とは言っても、ここまで媚びを売ったり愛嬌を振り撒いたりする必要、無いわよね?しかも弄ばれて挙動不審になってる男の様子を見て楽しんでる自分までいる。これってもしかして私の精神が本当にステンノに侵食されてる?このまま放っておいたら自我まで侵食されて完全にステンノになるとか?流石にそれは無いと思うけど。それともこれがステンノになった『仕様』って事?

 

というかそもそもなんだけど、本当はもっと目立たないように生活する予定だったんだけど。うーん、このままだと何かの拍子に奴隷印を見られちゃうかも知れない。やっぱり早く拠点は移したほうがいいかも。

 

「疲れてるみたいだったから寝かせておこうと思って。駄目だったかしら?」

 

そんな私の思考を悟られないよう、普段通り振る舞う。「思って、じゃないだろ!本当に心配したんだぞ!」って食い下がるニュクティの頭を撫でてあげると分かりやすく大人しくなった。

 

「はぁ……それじゃ宜しくね?」って最早呆れ顔のイオリスさんに頭を下げて、一階のロビーへと向かう。普段は人がごった返しているロビーは、昨日は床は踏み荒らされ汚れていて適当に投げ捨てられたゴミやよく分からないものが散乱していた場所。昨日の夕方に職員の人に混じって掃除を手伝ったから、やり方は大体は把握してる。

 

「それじゃさっさと片付けちゃうか」

 

「ええ、そうね」

 

 

 

─────

 

その日から五日経った日の夕方。薬草採取の依頼から戻った私達は、何時ものように掃除の為にここの制服に着替える。この頃になると私やニュクティの事はすっかり知れ渡ってしまっていた。ほら、今も討伐から戻って来たハンターの男の一人が私に果実水をくれた所。

 

「ありがとう」

 

営業スマイルを向けると、彼は耳が赤くなってその表情は嬉しそう。でもチラチラと視線を私の顔から下に向けるのはいただけないわ。下心はもう少し上手く隠さないとね。

 

「おいっ!抜け駆けしてんじゃねぇ!」「そうだそうだ!」って仲間に引き摺られていくハンターの男。最近こういうのが増えて来た。流石に目立ち過ぎたわ。

 

帰り際のハンター達のちょっとした会話が聞こえてきた。

曰く「神殿が地上に降りた神様を探してるらしい」「神様だぁ?」「ああ、何でも例の『神託の聖女様』の言葉らしい」「うわ、じゃあマジかよ」「俺はステンノちゃんなら美の女神だって言われても信じるぜ!」「馬鹿かてめぇ!こんな所で点数稼ごうとしてんじゃねぇ!」。

後半は置いておくとして、『神託の聖女』?何だか嫌な予感がする。

 




変態ジジイこと主神、夢枕に立つ。

ステンノさんに起こされるとか羨まけしからん。

素顔を晒せば目立つのは仕方ないですね。

とりま次回ぶんまで投稿します。
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