「それでお姫様……じゃなくてステンノちゃん、その奴隷印だけど……大丈夫なの?」
それ、設定考えて無かった。イオリスさんにどう説明しようかしら。焼き印が残ってるし、女神の神核に弾かれてるだけで効果そのものは無くなってないからから『解呪した』っていうのも変だし。適当に『王家の秘薬』的なもののお陰で効かないとか言っておく?それか女神の神核の事は隠して神から授かった精神干渉無効スキル、とか?でもそれはそれでもっと面倒な事になる気もするし。何か案は…………あるにはある、わね。
「私の左手首にリング状のアザがあるでしょう?それが精神干渉を無効化する術式。お陰で、奴隷印は私には効果が無い」
ニュクティが眠ってて助かったわ。『いや違うだろ』って表情されるかも知れなかったし。苦し紛れだけどこれならほら、『王家秘伝』とか言って誤魔化せる……よね?
「へぇ~、やっぱり王族って凄いのね。道理で奴隷商から逃げて来れたわけだわ」
完全に私の事を何処かのお姫様だと信じてるイオリスさん、こんな適当に考えた設定信じてくれたわ。言ってみるものね。
「でも綺麗な肌なのにこんな痛々しい焼き印付けられて……可哀想なお姫様……」
あの時は痛かった。さっきの魔族にやられた時ほどではないけど、あんな痛みはそうそう無い。前世で死んだ時は痛みも一瞬だったし。
そうだ、あの魔族の事はどうなったんだろう。これだけの怪我しちゃってるし流石に無関係とは言い張れないか。所々暈して話してみるしかない。
「イオリスさん、あの魔族についてはどうなったの?」
「魔族……ね」
失言だったかしら。考えてみれば、私がアレを魔族だって証言しなければ誰もそうとは思わないかも。『これが魔族です!』ってイラストとかが出回ってれば違うけど、そうそう遭遇するような存在じゃないしね。
「ステンノちゃんが重症を負わされたって知ったウチのトップハンター達が『おのれ魔族め!』って怒り心頭で外へと出ていったわよ?でもニュクティ君の話だと討伐されてるのよね?その……魔族」
あ、魔族だっていう確信はあるのね。聖女が証言でもしたのかしら。
まぁ、アレは討伐されてるというか、偶然倒せたというか。アレが性別男で助かったわ。ステンノの宝具の即死効果は男性にしか効かないし、もしも女性の魔族だったら今頃私は……。
……って、ニュクティはイオリスさんに何て説明したのかしら。ニュクティから見たらあの魔族に覆い被さるように倒れていた私が討伐したように見えなくはないし。でも私の実力を良く知ってるニュクティだもの、流石に私がやったとは思わない……思わないよね?
これもカバーストーリーが必要?誰かに責任転換するとして、石化か……具体性を求めるとなると……私が証言しやすくてボロも出なさそうな……。
「……ええ。助けてくれた人が居るの。名前……までは聞けなかったけど、私と同じような紫の長い髪で、身長が高くて、スタイルが良くて……こう、冷たい感じの女性だったわ。瞳が光ったと思ったら、その魔族が石に変わっていて……」
ここは
「それってもしかして例の神様とか?ステンノちゃん良いなぁ、神様と会えるなんて。あ、でもステンノちゃんみたいな綺麗なお姫様に会った私も充分幸運よね!」
……ええ、そうね。イオリスさん、現在進行形でその女神と話してるんだけどね。
それじゃあその辺の証言はイオリスさんに任せるとして、私はもう少し寝かせてもらおうかしら。まだ体も右腕も痛いし。
「そうそう、聖女様がステンノちゃんに詳しく話を聞きたいって言ってたから明日の昼に予定を入れておいたから。粗相の無いよう……ってお姫様には必要無い忠告か」
は?え?不味いわね、それ。何とか逃げ出せないかしら……これじゃ折角入れ替わりで街の外へ行ったのに全部無駄足になっちゃうかも知れない……何とか誤魔化して……カツラとかで騙せないかしら?早朝にニュクティにカツラを探して来てもらって……駄目ね、持ち合わせが少な過ぎるし、やっぱりここから脱出……ってそんな事したら怪し過ぎるし……何とかして断るしかない。体調不良とか?体じゅうが痛いのは確かだし……。
「傷も癒してくださるそうだから、明日からは斡旋所に復帰できるわよ?みんなに心配かけたんだし元気な顔見せてあげてね?」
……これ、詰んでないかしら。
──────
魔族の死体……というにはあまりにも異様。魔法が通じ難い筈の魔族の上半身を石に変え即死させるなんて、とても人の所業とは思えません。こんな事ができるとすれば、この魔族よりも遥かに強い力を持った魔族、或いは……女神であるステンノ様に他なりません。こんな、街が目と鼻の先にあるような場所で魔族同士が争うとは考え難い。それにそれならば既にゼメリングの街は攻撃されているでしょうし、同じ魔族を簡単に殺せるような魔族ならば街は滅びていてもおかしくない。
「カッサンドラ様、これはやはり神の御業であると?」
付き人であるアイアースにそう問われ、私は頷きました。間違いありません。これはステンノ様の御業。漸くお会いできるのですね。
「この魔族の死体は神殿へ運んでください。彼等の弱点など新たな発見があるかもしれません」
私がそう指示するとアイアースは「畏まりました、聖女カッサンドラ様」と膝を着いて頭を下げたあと、他の連れに指示を出して回収を行う。強固なうえに魔法に対しても強い魔族にはずっと手を焼いてきましたが、これで少しは対抗策ができるかも知れませんね。
聖女、等と呼ばれてはいますが、私が出来るのは少々の癒しと御使いであるアムラエル様の御声を聞く事くらい。魔族との直接戦闘は神殿騎士の皆様にお任せしなくてはならない程度には弱い存在。ですのでどれ程ステンノ様の御業をお助けできるかは分かりませんが、早く御身を確保……いえ、保護しなくてはなりません。
とは言っても、それも明日の昼には叶う事でしょう。この魔族と接触し傷を負った証言者と面会する手筈になっています。証言者は紫の髪を持ち、類い稀な美貌の少女、名をステンノ。全てアムラエル様に見せていただいたステンノ様のお姿の特徴と一致します。近くまで行けば神性を感じる事が出来る私ならば、彼女がアムラエル様のおっしゃられた女神様かどうかなど一目瞭然。保護した後は外堀を埋めつつ距離を縮めていって……グフフフ。
……はっ!?……コホン。それでは一度街へと戻りましょう。明日が楽しみですね。待っていてください、ステンノ様。
……さて。そんなわけで待ちに待った翌日の昼下がりです。斡旋所の受付嬢の家で療養中との事で、わざわざ街外れまで足を運んできました。人払いをして、家の周りに防音の結界も張ってもらって。治療もありますし念の為にアイアースも含め関係者は皆、家の外で待機させました。平民がステンノ様と一つ屋根の下とは羨まけしから……コホン、何と恐れ多い事でしょうか。平凡な平屋の一室。この扉の先にステンノ様が。今、私はステンノ様と二人きり……ジュルリ。おっと私とした事が、つい涎が。
「失礼致します」
コンコン、とノックをすると、少し間を置いて「…………どうぞ」とお返事が。嗚呼、その御声すらも尊い。
扉を開け、中に入りました。そこにはこの世のものとは思えないお姿の少女が椅子に座っておられました。嗚呼、なんという事。言葉で表現するのが失礼なくらいの美貌。細くしなやかであり女性的な柔らかさのあるその華奢な御体。肌も髪も宝石のように輝き、その御顔は少女のあどけなさと女性の美しさを合わせ持った究極の美。それに最早言うまでもなく神性を感じられる。非の打ち所のない、とは正にこのお方の為にある言葉。嗚呼、尊い。実に尊い。どストライク中のどストライクです!あーもー✕✕✕したい!実物は尊過ぎて今すぐに手を出してしまいそうですハァハァ。ですが、期が熟すまでは自分の欲望を抑えなければ。
そのお体には包帯が幾重にも巻かれている。右腕にも同様に。左手には何故かベルト付きの革手袋を嵌めている。嗚呼、手袋などそのようなものを嵌めるなど、何と勿体ない。私の前だけで構いません。さあ、その素肌を私に晒してください!
「はじめまして。カッサンドラと申します。本日は宜しくお願い致します」
「ステンノよ。貴女が例の聖女?」
嗚呼~!誰ですか私の事を聖女だなんて教えたのは!ステンノ様から名前で呼ばれるチャンスだったというのに!!……いえ、落ち着くのです私。これからカッサンドラと呼んでいただけばいいだけです。カッサンドラちゃん、とかカッサンドラ様ぁ(ハート)、とか或いはご主人さm……とか呼んでいただくのはまだ先に、ステンノ様を篭絡した後に取っておくのですアッアッ。
「聖女……そうですね、周りの人間は私の事をそう呼んでおりますが……貴女様の存在に比べれば塵芥と言っても過言ではありません。私の事はどうぞ気軽にカッサンドラ、とお呼びください」
私はステンノ様の前まで来て両膝を付き、その左手甲に手袋越しにキスをしました。本当は!本当はその柔らかい肌丸出しの右手にチュッチュしたかったのですが!流石にここではまだ自重です。がっついて引かれでもしたら大変ですから。しかしながら私が下手に出た事で、ステンノ様は動揺してらっしゃいますね。ちょっと戸惑っている御顔も美しい、prprしたい。
「……じゃあカッサンドラさん?貴女一応聖女でしょう?立場はカッサンドラさんの方が上、私は只の街娘よね?どうして私の前で膝を付いてるのかしら?」
「何をおっしゃられているのです?私は只の人。貴女様は女神様。私が謙るのは当然の事です」
ステンノ様は呆気に取られているようです。神に連なる者かどうかをこうも容易く見抜くのは想定外だったのでしょうか?それとも、ここまで御身分を隠されていたのですし出来る事なら知られたくなかった?だとすると……何か事情があるのでしょうか?
「ええと……」
言葉に詰まった様子のステンノ様。そうですね!ここは話題を変えましょう。その包帯、聞いた所に依るとあの魔族との争いでお怪我をされているとか。アムラエル様がおっしゃられていましたが、ステンノ様はあまり争いの得意でない女神様。お怪我をされるのも仕方ありません。なので私が傷を癒して差し上げます。嫌がるステンノ様から無理矢理包帯を剥ぎ取っ……ではなく慎重に丁寧に包帯を外して、素肌に直接癒しの魔法を……いえ、いっそのこと私の舌で舐め回しながら魔法を……どさくさ紛れにその形のよいお胸を揉みつつ魔法を…………いや、ここは我慢、我慢です。なるべく普通に癒して差し上げなければ。そういうお楽しみはもっと仲良くなって私がイニシアチブを握れるようになってからグヘヘヘヘ。
(ガワは)神託の聖女カッサンドラ(やべーやつ)登場。その名はギリシャ神話のイリオス(トロイア)の王女カッサンドラーより。因みにアイアースはトロイア戦争に参加した小アイアースから。
次回は来月になります。