異世界で死にたくない最弱の女神   作:アイリスさん

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次話も早めに投下予定。


16話

あのまま一晩中体を触られたままだったらどうしようかと思ったけど、意外と早くカッサンドラさんの手は止まってたわ。恐る恐る顔を見てみたら、彼女は悦に入った、物凄く良い表情で眠ってた。寝相とかが悪いだけ?なるべく考えないようにしてたけどそれともやっぱり〈主神(エロジジイ)〉と同類の危険人物?これ絶頂して意識を失ってそのまま寝た、とかじゃないよね?そういうの要らないから、本当に。

 

兎に角その聖女のせいでどうするか決められずに眠ってしまい次の日を迎えてしまった。カッサンドラさんが起きる前に抜け出したいんだけど、その、ベッドから出られない。カッサンドラさん、いつの間にか私を正面から抱き締める体勢に変わってる。しかも足まで絡められているし、私の顔は彼女の大きい胸に埋まってる。位置がもう少し悪かったら窒息してたかも知れない。非力な私では、どうやっても彼女の拘束から脱出出来ない。

 

コンコン、ってノック。多分ニュクティね。あの子に助けてもらおう。「どうぞ」って返事をすると少しだけ遠慮がちに扉が開いた。

 

「ステンノちゃん、聖女様……って何してるの?」

 

イオリスさん?どうしてこんな早くに?……それは取りあえず置いておこう。先ずは。

 

「助けてくれると嬉しいのだけれど?」

 

私の状況を見て察した様子のイオリスさんは「ステンノちゃん力無さ過ぎね」って苦笑いを浮かべてる。事実だけど他人に言われるとちょっとムカッとくる、でもここは助けてもらう手前、我慢。

 

「起きてください聖女様。アイアースって方が迎えに来てますよ?」

 

イオリスさんに揺すられて漸く目を覚ましたカッサンドラさん。「ふぁぁ……」って小さく欠伸してる。早く手足を離してくれないかしら?

 

「どうしてステンノちゃんを抱いてたんですか?」って苦笑いのままのイオリスさんに言われて、カッサンドラさんはやっと状況を理解したみたい。慌てて私から離れて、顔を青ざめさせて言い訳を始めた。……ねぇ、そこは普通恥ずかしくて顔を赤くする所じゃない?何で青ざめてるの?ねぇ?

 

「もっ、ももも申し訳ありませんステンノ様!ついムラッと……じゃなくてその…………そうそう!実は私、お恥ずかしい話ですが抱き枕が無いと眠れないんです!それで無意識に抱き締めてしまって……ほっ、本当なんです!!」

 

これ、『ちょっと恥ずかしい』程度の反応が普通よね?こんな慌てた、必死過ぎる言い訳……もうこれクロよね?私にとって今最も危険なのってこの人じゃないかしら?

 

「アイアースが来ているのでしたね!急ぎましょうステンノ様!」

 

カッサンドラさんが誤魔化すようにローブを羽織って立ち上がる。若干引き気味のイオリスさんは「外で待ってらっしゃるみたいですよ」って告げて部屋から出ていく。私はといえば、余程慌てたのかイオリスさんの後を追うように部屋から出ようとしてるカッサンドラさんに左手を掴まれ引っ張られている最中。私まだ下着姿のままなんだけど、この格好でアイアースって人に会わせる気なの?仕方ない。左足首に意識を……ワンピースとサンダルを展開、と。髪を梳かしたりする余裕は無さそう。流石に苦笑いね。

 

玄関の扉がカッサンドラさんによって開かれると、そこにはやはりローブ姿の、黒髪黒目のイケメン青年が。

彼は「聖女様!やはりここにいらしたのですね!」ってちょっと怒気を孕んだ口調で話してる。

 

「皆心配しております。お一人で行動されるなど言語道断です!聖女様はもう少し自身の立場をお考えください!」

 

「違うのですアイアース、私はこの方々に用があって」

 

「違わないではないですか!」

 

この聖女駄目かも知れない。立場を考えずに勝手に行動、更には私に手を出そうとしてる、と。ちょっと選択を誤った、やっぱり会わずに街から脱出すべきだった。

アイアース?さんは聖女に腕を掴まれてる私に気付く。「そちらの御方は……やはり女神様……?」って口にしてる……この聖女、この人には言ったのね……。

 

「アイアース、違うのです。それは私の勘違いでした。それで、昨日の夜この方々に危ない所を助けて頂いて……」

 

「危ない所とは!?やはり危険に巻き込まれているではありませんか!」

 

あー、この二人のやり取り何時まで続くの?私そろそろ居なくなっても平気よね?手、離してくれないかしら。それにここ、イオリスさんの家の玄関だし迷惑にならない?

 

「兎に角、話は中で。アイアースだけ入ってください。他の騎士達はその場に」

 

私からは見えないけど神殿騎士達も来てたみたいね。それはそうよね、何せ聖女が一人で脱走してるんだもの。ホント、何やってるのかしらこの聖女は。

 

 

 

リビングの椅子に座る私。右隣にカッサンドラさん。テーブルを挟んだその正面にアイアースさん。ニュクティは私の後方の床に座ってる。アイコンタクトで分かってくれたみたいで、ニュクティは話が終わるまで黙ってくれてる。本当に出来た子。

因みにイオリスさんはお茶を四人分用意してくれてる。彼女には迷惑ばかり掛けて本当に申し訳ないわ。

 

カッサンドラさんは昨日寝る前に私と話した事……つまり私が聖女個人の奴隷兼従者になる、って話を私の意見を聞かずに勝手に進める。私の意思はどこ?カッサンドラさん、私が女神って知ってるよね?敬うとか私の意見を尊重するとか無いの?ねぇ、もしかしなくても完全に外堀埋めに来てる?

 

「成る程。ですが聖女様の勘違いというのはあまりにも……そちらのステンノ様が神ではないという証拠でも無い限りは皆納得しないと思いますが」

 

アイアースさんの言う事は尤も。神の力を感じられるカッサンドラさんが『ステンノ様は女神』って断言しておいて後から『やっぱり違いました』って言っても信じないでしょうね。でも証拠って?

 

「アイアースの言い分は尤もですね。分かりました。ではステンノ様……いえ、ステンノさん。皆の前へ行きましょう」

 

皆の前、って神殿騎士達の所?一体何を証拠にするの?確かに私は女神なのに何も出来ないけれど、だからって女神じゃ無い、って証明は無理じゃない?

 

カッサンドラさんは私の左手を掴み再び玄関へ。アイアースさんはその後を付いてくる。ニュクティは……少し待ってて、って意味を込めて目配せしたら分かってくれたみたいで椅子に座ってイオリスさんが淹れたお茶を飲み始めた。奴隷印の事もあるし、今の騒動が落ち着くまでニュクティは彼等から遠ざけておいた方がいい。下手にスパイに目を付けられても困るしね。

 

そんなわけで玄関先で少なくない騎士達に囲まれた私と聖女、それとアイアースさん。これから何をするのかと思ったら、この聖女……。

 

「これからステンノさんは私専属の従者として行動を共にしていただく事になりました。私を裏切らない証としてこのように自ら私の奴隷となってくださいました。その証拠を皆様にお見せ致します」

 

カッサンドラさんは私の左手甲を騎士達に見えるように持ち上げた。

やっぱりこれ決定事項になってる……。これだけの神殿騎士から逃げるのは無理ね。それにここで従わなかったら聖女を裏切るって事になるし、そうでなくてもやっぱり私が女神だって思うだろうし。完全に詰んだわ。

 

「ではステンノさん。私としても非常に、ひじょーに心苦しいのですが……私の奴隷となった証拠に私の左足の甲にキスを。誤解の無いよう申し上げますが、これは皆を納得させる為のやむを得ない行為なのです」

 

……はい?今なんて?足に……キス?え?は?冗談……って雰囲気じゃない。何この羞恥プレイ。でもこの場を切り抜けるには……もう仕方ない、スパイに狙われる事になるよりはいいか。

私は少しだけ躊躇したあと、聖女の左足を少し持ち上げる。履いてるサンダルを脱がせて、その甲に軽くキス。………………その瞬間、ほんの一瞬だけ、周りに気付かれないように聖女は愉悦の表情を浮かべた。嗚呼、駄目だこの人。やっぱり〈主神(あの変態)〉と同じ、私にとって危険人物だ。どうせ神託を受けられるのも〈主神(あの変態)〉と感性が近いからパスを繋ぎやすいとかそんなくだらない理由に決まってる。

 

こうしてまんまと丸め込まれた私は、渋々だけど神殿勢力に同行する羽目になった。だって危険人物(カッサンドラ)さんの支度が終わるまで、イオリスさんの家は完全に騎士達に囲まれてて逃げ道は無い。もう同行するしか選択肢が無いでしょう。これで周りやスパイに女神だと思われない……筈よね……なのがせめてもの救い……と思いたい。

 

「それではニュクティさんにはステンノ様の奴隷になっていただきましょう」

 

アイアースさんも家の外。イオリスさんは既に仕事。家の鍵は私達が出た後に届ける事になってる。幾ら周りに誰も居ないからって。折角奴隷から解放されたのに、よりにもよってニュクティに私の奴隷になれ、なんて何て事言うの、この聖女は。

 

「ステンノの、なら俺は構わないよ」

 

ニュクティも簡単に決めちゃ駄目。貴方の一生を左右するかも知れないのに。けれど神殿の人間は信用できないし……というかこの世界で信用できる人、私の味方ってニュクティくらいか。なら仕方ない……?

 

「ニュクティさんも問題ないようですね、ではステンノ様」

 

神殿に居る間だけでもいいか。もしかしたら聖女以外の周りは全員敵、なんて可能性もあるし。たとえニュクティ一人でも、絶対に裏切らない味方は必要だものね。

 

カッサンドラさんの話に依ると、主人が決まっていない状態の奴隷なら、その奴隷印に『自分の奴隷になれ』って念じながらキスするだけでいいみたい。手続きや魔法的な儀式は全部奴隷印の魔法陣がやってくれるみたいね。魔法が使えない人間でも簡単に手続きできるようにする為のツール、って所ね。

 

私はニュクティの左手甲にキスをする。カッサンドラさんの時と違って躊躇はしない。すると奴隷印が紫に光って、やがて収まる。これでもういいみたいね。それじゃ私からニュクティへの命令は……。

 

「いい?私からは二つだけ。一つ目は私を絶対に裏切らない事。二つ目は、私に性的な目を向ける不埒な人間から私を守って」

 

「俺はステンノに言われなくてもそうするよ」

 

ニュクティならそう言うと思ったわ。これで私は信頼できる人間を手に入れられた。それとそこの聖女様、私が二つ目の命令を口にした時「ふぁっ!?」って声を出して苦虫を噛み潰したような表情したの、バレてるからね?

 




外堀、埋められる

聖女「これで奴隷扱いできるからあんな事もこんな事もヤりたい放題だぜグヘヘヘ」

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