異世界で死にたくない最弱の女神   作:アイリスさん

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17話

借りていた制服を返すついでに挨拶の為に斡旋所に行ったのだけれど、私がこの街を離れる事を話すとちょっとした騒ぎになった。主に私と面識があるハンターの男達が面倒だったわ。膝を付いて項垂れたり、ギャーギャー喚いたり、最後にせめて私に触ろうとしたり、人によっては強引にプロポーズしてきたり。勿論彼等とそうなる気なんて更々無いから全部お断りしたけど、危うく揉みくちゃにされる所だった。ニュクティとイオリスさんがどうにかその場から逃がしてくれて、駄目押しに所長さんが『手を出そうとしたら婦女暴行と見なす』って言ってくれたお陰で収まった。所長さんに媚び売っておいて良かった。

 

別れ際「合わなくなったら何時でも戻ってきていいからね!」ってイオリスさんが言ってくれた。ええ、直ぐにとはいかなくても多分戻ってくると思うわ。だって、あの聖女は危険だし。

私が関わった人達は良い人だったし、魔族の件さえどうにかできたらこの街に定住するのも悪くないかも。その時は正式に職員として採用してくれると嬉しい。

 

イオリスさん、それから私が『何処かの国から逃げてきた姫』だとか変に他の人達に吹聴しないでね?これフリじゃないから。戻ってきた時にやりづらくなるから本当にやめてね?

 

元々大した荷物も無い。ニュクティと私のちょっとした着替え、それに少々のお金と非常食くらい。あとはニュクティの持ってるナイフくらいしかない。それらを纏めたものをニュクティが持って、私達はカッサンドラさんの馬車に乗る。本当は従者といえども聖女と同じ馬車には乗れないのだけれど、そこは聖女の鶴の一声、強権発動ってやつ。『聖女と同じ馬車の中が最も安全だから』というのがカッサンドラさんの言い分だけど、多分それだけじゃないよね、カッサンドラさんが私と一緒の空間に居たいだけだと思うし。ニュクティも一緒に乗せたのは言い訳の為でしょ?

 

それと、降臨した神を探すというのは形だけだけど続行している。理由は勿論、私が女神ではない事にしてあるから。まだ立ち寄っていない街へと赴き適度に捜索をして、適当な所で打ち切るつもりみたいね。その後は情報の提供を斡旋所なんかに依頼したりして『一応まだ探してますよ』アピールをしていくらしい。それでどの程度まで誤魔化せるかは分からないけどね。

 

「馬車の乗り心地はどうでしょうか?」

 

「……思った以上に揺れないわね」

 

私の向かいに座るカッサンドラさんに感想を聞かれ、素直に答えた。あの奴隷商の馬車は酷い揺れだったのに、これは殆んど揺れない。どうやら魔道具で衝撃を吸収してるらしいわ。うん、これならお尻も痛くならないし快適。因みにニュクティは私に膝枕されて眠ってる。だってそうでもしないとこの聖女、私に何してくるか分からないでしょ?

 

「それにしても、ステンノ様が膝枕せずとも……」ってもどかしそうに私を見るカッサンドラさん。別にいいじゃない。この子の主人は私。だから私がこの子をどう扱おうと勝手でしょう?

 

座っている椅子部分は深い赤色。黒にあちこちに装飾のある周りの壁、という馬車の内部。束の間の平穏を堪能する私と、ぐぬぬ、って言葉が聞こえてきそうな聖女を乗せた馬車がゆっくりと止まる。落ち着いた彫刻で飾られた窓に付けられた赤いカーテンを開けて外を見てみると、日が傾いて来ているのが分かる。どうやら今日は移動はここまでで、夜営の準備をするみたい。

周りは林だけど私達の陣取った部分は開けていて泉もある。街道沿いに作られた夜営の為の場所なんでしょうね。地球みたいに高速の長距離移動手段があるわけでも、そこかしこに宿泊施設があるわけでもない。こればかりは気長に行くしかない。漫画とか小説でよくある瞬間移動とか転移魔法とかポータル的なものは無いらしいわ。

 

「聖女様、宜しいでしょうか」

 

そんな時に、馬車の外から男性の声が聞こえた。「はい」ってカッサンドラさんの返事の後に、扉が開かれる。そこに居た人物の顔を見て、私は思わず息を飲んでしまった。

 

馬車の外に居たのは男性。白銀色の鎧を身に纏った神殿騎士。短く切られた金髪に蒼い瞳を持つ美青年…………うそ、でしょう?

 

「ステンノ様にはまだ紹介していませんでしたね。彼は筆頭騎士です」ってカッサンドラさんの言葉に続いてその青年が口を開く。

 

「初めまして、新しい従者の方。私はアルトリウス。神殿の筆頭騎士をしております。以後お見知り置きを」

 

彼は私に向かい頭を軽く下げた。アルトリウスって……彼はFGOを始めたばかりの頃の私が初めて引き当てた星五サーヴァント、アーサー・ペンドラゴン(プロトタイプ)をそのまま三次元にしたかのような人物だった。

偶然で片付けていいの?彼はもしかしてアムラエルさんが用意してくれた助っ人とか?もしかしてアーサー本人とか?けれどそれなら私を見ても態度を変えないのは何故?聖女の前だからあえてリアクションを取っていないだけ?それともステンノ、というかカルデアの記憶が無いってだけ?兎に角確かめないと……。

 

「アルトリウスさん、聞きたい事があるのだけれど少し良いかしら?」

 

「構いませんよ」

 

ニュクティを起こさないよう膝からそっと頭をどけて、私は立ち上がり扉の方へ。降りようとしている事に気付いたアルトリウスは手を差し出してエスコートをしてくれる。その手を取って、私は彼に支えられるように馬車から降りた。突然の私の行動を理解出来ないカッサンドラさんがポカンとしているけど、今は無視。

 

人が聞いていると答えにくいのかと思って、馬車から10m程度離れる。一定の距離を置いて付いて来てくれたアルトリウスの方を振り向いて、意を決し質問を投げ掛けた。

 

「カルデア、という言葉に聞き覚えはない?」

 

「カルデア、ですか?いえ、初めて聞きましたが」

 

カルデアの事は記憶に無い?ならステンノを知らなくてもおかしくはないか。けれどアーサー王自身の事なら……。

 

「それならブリテン、ならどう?マーリンという人物については?」

 

「申し訳ありません、どちらも初めて聞く名です」

 

そんな……どう見ても本人にしか見えないのに瓜二つの別人だっていうの?もしアーサー本人なら、と思ったのに……。

 

念のために剣も見せてもらったけれど、魔力を通しやすい金属で造られてはいるものの、星の聖剣(エクスカリバー)ではなかった。誰が見ても分かるくらい落胆した私を気遣ってか、アルトリウスは私を他の人達の視線から隠す位置に立って馬車まで連れて戻ってくれた。こういう行動も本人っぽいのに……。

 

再び手を取ったアルトリウスにエスコートされ、私は馬車の中へ。時間も大して経ってはいないしニュクティはまだ眠ったままだったわ。その代わり聖女の方は面倒な状態になっていた。気落ちしている私を見て、あれやこれやと色々と妄想していたみたい。

 

「ステンノ様、まさかアルトリウスのような男性が好みのタイプとか!?いけませんよ、彼は神殿騎士で貴女は女神様なのですよ?身分が違い過ぎます!」

 

フォローでも説得でもない、明らかに焦っていて思い留まらせようとしているカッサンドラさん。別にアルトリウスに一目惚れしたとかでは無いのだけれど……説明が面倒ね。

 

「別にそういうわけでは無くて、そう……古い知人にとても良く似ていたからつい、ね」

 

FGOのサーヴァントにそっくり、って言った所で彼女に通じるわけがないものね。知り合いって事にしておいた方が話が早い筈。あ……でも私『女神』なのに古い知人っておかしいか。でももう言ってしまったし。「知人……ですか」って彼女も何か納得しているようだし。

 

カッサンドラさん、「もしやステンノ様の想い人……女神と人間の禁断の恋……」とかぶつぶつ呟き始めた。いやいや違うから。FGOでは凄くお世話になったサーヴァントだし私が持ってた星五セイバーは他にはアストルフォと伊吹童子だけだったから死ぬ直前まで使ってはいたけれどそういうのじゃないから。

 

「その方は今はどうされているのですか?」

 

だから違うって……ああもう、どう言ったらいいの?「彼ならもうとっくに亡くなってるわ。別に未練があるとかそういう話じゃないんだけれど」って言ってみたけどこれ駄目ね、勘違いを加速させただけだわ。「人には寿命がありますものね。嗚呼、おいたわしやステンノ様。悲恋を嘆かれるステンノ様……尊いハァハァ」ってカッサンドラさん、聞こえてるから。

 

「ステンノ様には私がおります。私で宜しければ何時でも頼ってください。お話を聞くくらいは出来ますので」

 

「……ええ、ありがとう」

 

無理。説明すればするだけ勘違いされて泥沼に嵌まりそう。もう諦めよう。それとカッサンドラさん、ハァハァ、ってさっきから呼吸が乱れまくっているけど?貴女それ話を聞くくらいで終わらないつもりよね?絶対私の弱味につけ込もうとしてるよね?

 

私達がそんなやり取りをしている間、アルトリウス達騎士は周りの安全確認や夜営の為の下準備を手際良く行っている。

彼等の手が止まったのは、馬車の中の空気(というかカッサンドラさんの纏う空気)に耐えられなくなった私が外に出て馬車から離れた直後。別に私のせいってわけじゃない。あの時私達が捕まっていた奴隷商の一団を襲った魔猪が現れたから。こんな街道沿いに魔猪なんて出るの?それも、二匹。あんなのが頻繁に出没していたら旅なんて出来ないでしょう……私のせい、じゃないよね?

 

神殿騎士達は怯まず隊列を組んで、林からじわりじわりと寄ってくる魔猪二匹と向きあった。聖女とニュクティが乗ったままの馬車の周りを騎士達が囲んで守る。私はというと、魔猪から一番遠い、馬車よりも更に後方へと下げられた。降りて立っていた位置が丁度魔猪から見て馬車の後方だったからね。

 

戦闘自体は一瞬。突っ込んできた一匹の魔猪の頭が、騎士の持つ何やら刀身が淡く光っている剣によってアッサリ刎ねられた。何それ、凄い。奴隷商達が簡単にやられ、檻が壊され、私達が必死に逃げる事しか出来なかった魔猪相手にたった一撃。神殿騎士って強いのね。

 

もう一匹の魔猪も騎士達の方へと向かってくる。さっきと同じように一瞬で終わる……その勇姿を、私は見る事が出来なかった。突然何者かが右腕で私の口を塞ぎ、左腕で両手首を掴み動きを封じる。私が事態を飲み込めないうちに両手は後ろで拘束されて口に猿轡が。慌てて視線を向けるとそこには真っ黒な肌で、頭に二本の羊のような角の生えたゴブリン?が居た。あ、でもこのゴブリン背中に蝙蝠のような羽が……って、もしかしてコイツも魔族とか?これ不味くない?

 

誰か気付いて!私は必死に「んーっ、んーっ」って声なき声をあげた。騎士達はコイツと私に気付いてない!?どうしてっ!?まさか認識阻害系の魔法とかあるの?

 

「ステンノっ!」

 

馬車からニュクティが飛び出して来た。どうしてあの子だけ気付いたのかは分からない、奴隷だから主人の危機に気付いたとか?ニュクティの声にアルトリウスを含めた数人の騎士が気付いた。これできっと助けてもらえる……。

 

『チッ、何故気付イタ』

 

私を拘束しているゴブリンもどきが悪態をつく。あの時と同じ嫌悪感がする。やっぱりコイツ魔族か。魔猪を囮に使って私を誘拐しようとした?

 

一番近い位置に居た騎士の一人が、ゴブリンもどきに向かって走ってきて剣を振り上げた。まっ、待って!?私に当たるっ!?

 

『人間ッテノハ脳無シナノカ?コイツノ命ガ惜シクバ動クナ』

 

ゴブリンもどきの右腕が鋭利な刃物へと変化して、その刃が私の首に。刃の当てられた部分の肌が切れて、血が滲んでくる。痛い……。

 

「くっ、卑怯な!」って騎士の人が悔しそうに手を止めた。ゴブリンもどきは抵抗出来なくなったその人を鎧の上から右腕で何度も殴り付ける。その場に倒れ動けなくなった騎士の人の鎧の隙間から血が流れてくる。このままだとこの人は……それに私も不味い。この場を凌ぐ方法は…………いや、あるじゃない!

私は視線をニュクティと、その隣にいるアルトリウスに向けた。ニュクティは分かってくれたみたいで、アルトリウスにボソボソと何か言ってる。

私は意識を左手首へ。ゴブリンもどきが倒れた騎士も私も見ていない隙を見計らって礼装を展開。使うスキルは勿論、オーダーチェンジ。

瞬時に倒れた騎士とアルトリウスが入れ替わる。アルトリウスはゴブリンもどきに飛びかかって右腕を掴む。私の首から一瞬刃が離れ、右腕の刃が再び首を襲うより早くアルトリウスの剣がゴブリンもどきの刃と私の首の間へ滑り込んだ。ギリギリセーフ。これだけ隙が出来ればあとは……。

 

…………ガンド!

 

拘束されたままの左手から超至近距離で放たれたガンドが直撃。ゴブリンもどきの動きを封じたのは、ほんの10秒程度。このゴブリンもどき、行動阻害系に抵抗でもあったのかも知れない。でもその10秒のお陰で私はその場から逃げて『全体強化』を掛ける。

アルトリウスの剣がゴブリンもどきの左肩から袈裟懸けに二度切りつけ、あとは他の騎士達が数人で切り掛かって、ゴブリンもどきは漸く倒れた。後から聞いた話だと、ゴブリンもどきは魔族でもかなり弱い部類みたい。

 

私はというと、ニュクティ達に回収されて馬車の中へ。カッサンドラさんが首の傷を治療してくれて。もう少しで魔族に誘拐される所だった、って後から実感が沸いてきて怖くなった。そんな女神らしさの欠片も無い私を、カッサンドラさんは周りの全てから守るように覆い被さって抱き締めてくれた。この時のカッサンドラさん、下心の無い行動だったと思いたい所だわ。




17話です。アイアースに続き神殿サイドの人間、アルトリウスに出てもらいました。その名は皆様ご存知アーサー王のモデルとされる古代ローマのアルトリウスから。知っている方が殆んどでしょうがアルトリウスを女性名にしたのがアルトリア、ですね。

ステンノさんが神殿サイドに加入したので、スパイさんと魔族さんが動き出します。

次話は多分今日の夜中か明日くらいに。
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