異世界で死にたくない最弱の女神   作:アイリスさん

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ちょっとだけ予定早めに投下。


18話

ふん、魔族の癖に無能な奴等め。非力な女神一つ捕まえられぬとは。これでは魔王パイオス様に申し訳が立たぬ。

マルファスが石にされた件もあるからと搦め手を使えとは言ったがまさかあのような稚拙な陽動とは。もう少し頭を使えぬのか脳筋め。そんなだから我等のような人間程度も征服できぬのだ。女神に聖女が狙われているように錯覚させて行動を共にさせた私の努力を無駄にする気か阿呆共め。

 

折角女神の奴が自らの身分を隠して行動している絶好の機会だというのに、これ以上下手を打てば女神だと公言してしまうかも知れないではないか。そうなれば今のようなザル警備では無くなって迂闊に近付けなくなるやも知れぬ。聖女も女神も幸いにも私がパイオス様の僕とはまだ気付いておらぬ。今のうちにどうにかして身柄を押さえねば。やはり私自らやるほか無いな。脳筋には任せておけぬ。となるとどうやって女神から聖女を引き剥がすかが問題となるな。あの色ボケ聖女が女神を己の欲望の対象にしているせいで常に傍に居るのは非常に厄介だ。

 

さて、策を練らなくてはならないな。無能聖女からあの女神を遠ざけ、かつ女神に力を振るわせる機会を与えず捕縛するには……聖女の奴隷になっている点は利用できないか?いや、そもそも女神が人間の奴隷になどなるわけが無いな。恐らくあの奴隷印も神殿に入る為の口実か何かだろう。となれば別の策を……人質……は使えぬな。下手を打てばこちらが石に変えられる。寝込みを襲うのはどうか……無理か?あの色欲聖女、女神を自分の部屋で生活させると言っていたからな。部屋を守る神殿騎士共の目を掻い潜るのは骨が折れる。ならばやはり神殿へ戻る前に決着をつけねば。街道を往く今しかないな。

 

さて、今度はもう少しマシな魔族を送ってもらえるようパイオス様に具申せねばなるまい。そうだな……力は要らぬ、スピードに特化した者の方が良さそうだ。ナベリウス辺りが良いか。あとはどうやって女神を孤立させるか。先程見た女神の力の一端もなかなかに面倒だ。隙をついて意識を奪うか、或いは……。

 

「どうしました?考え事ですか?」

 

チッ、聖女か脅かしおって。もう少しで策が練れそうだというのに邪魔をするか。表情にだけは出さないよう気をつけねばな。適当に返事をしておくか。

 

「はい、聖女様。昼間のステンノさんが狙われた件について考えておりました」

 

全く嘘はついていない。聖女と私とで立場が相反するというだけの事。フム、そうだな……。

 

「ステンノさんは聖女様と間違われ襲われたのでは、と思いまして。魔族達は聖女様を狙い、神殿から遠出している今の機会を狙ったのではないかと」

 

「私を狙って……ですか」

 

「そうに違いありません。一層警備を強化すべきです。それとステンノさんには申し訳ないですが、聖女様に見せかけ囮に使うという事もできるのでは?」

 

女神の身分を公表される事に問題があるのだろう?ならば聖女を守る為という名目のこの案を無下にはできまい?何せ女神は『聖女の奴隷』という立ち位置。奴隷と聖女で人間にとってどちらが大切か、など考えるまでもない。

 

「ですかステンノさ……んを囮に使うなど……」

 

むむっ、迷っているな。ここで断られるのは面倒だ。

 

「しかし聖女様、ステンノさんは従者とは言っても奴隷です。聖女様は我々人間には無くてはならない存在。お気持ちは分かりますが、ご自身の立場というものをお考えください」

 

どうだ、女神の事を言い出せぬ以上、断る理由があるまい?首を縦に振るしかないぞ。

 

「自分の身可愛さ故に他人を危険に晒す事が聖女の行いとは思えませんが……」

 

「では他の者にも提案をしておきます。それに他に良い案がないかも合わせて考えておきましょう。聖女様、それで宜しいでしょうか?」

 

「……少し考えさせてもらえませんか?」

 

フム、これで何とか聖女と女神を離す事は出来そうだな。後は私の配下の者を女神の警備に潜り込ませればよい。神殿騎士さえ誤魔化してしまえばどうとでも出来るからな。

待っておれ女神よ。すぐにパイオス様の生け贄にしてくれるわ。

 

 

 

──────

 

俺達も馬車の中に戻った。

ステンノ、やっと落ち着いたみたいだ。歳下の俺が膝枕する側っていうのも変な話だけど今は仕方ないよな。って言ってもステンノって本物の女神だから実際はどのくらい年齢差があるか分からないけど。でも全然女神っぽくないんだよなぁ、俺より全然弱いし殆んど何も出来ないし。「ニュクティさん、あの」って向かいに座る聖女様が俺に何か言いたそうだけど、ステンノを守るのは俺の役目。その為に俺はステンノの奴隷になったんだ。奴隷なら絶対ステンノを裏切らないって断言できるから。ま、そんな事しなくても俺はステンノを裏切ったりしないけど。

 

初めてステンノに会った時は、こんな綺麗な人居るんだな、って思った。俺みたいな何処の馬の骨かも分からないような獣人にも凄く優しくしてくれるし、その、あの奴隷の格好のせいで見えちゃいけない所とかも色々見ちゃったし……って違う違う、だからってわけじゃないけど、傍に居るとドキドキするしずっと一緒に居たいって思った。

ちっ、ちちち違うぞ、俺の住んでた所は魔物のせいでもう無いし家族もみんな死んじゃって居ないし、ステンノと家族になれたらなって思っただけだぞ。べっ、べべべ別にステンノの事が好きとかじゃないぞ。

 

ステンノが女神だって聞いて、最初は凄く不安だったんだ。だって神様だぞ?俺とは全然釣り合わないだろ。でもステンノは普段通りに接してくれる。それにステンノ、「ニュクティを置いて何処かに行ったりしない」って言ってくれたしな。それに将来の事だって約束してくれたし。なら俺は傍に付いていてやらないと。

 

それにしてもさっきのゴブリンみたいなヤツはヤバかった。俺が気付かなかったらステンノを連れ去られてた所だった。神殿騎士ってのは一体何の為に居るんだよ。ステンノを守ってくれるんじゃないのかよ。やっぱり俺がやらないと駄目だ。

 

「聖女様、話が違うじゃないか。ステンノを守ってくれるって言っただろ」

 

俺が抗議の声をあげたら「ニュクティ」ってステンノがそれを遮った。何でだよ、もう少しで誘拐される所だったんだぞ。ステンノは俺の膝から頭をあげて、落ち着かせようと左手を俺の腰に回した。聖女様が『キーッ』っていう声が聞こえそうな悔しそうな顔をしてるけど無視だ。

 

「カッサンドラさんも聞いて。神殿の人間の中に魔族と通じてる者が居る。魔族の目的は、私」

 

ステンノは俺達にしか聞こえないくらいの小声でそう話した。聖女様が納得したような顔でそれに答える。

 

「…………成る程、そういう事でしたか。ステンノ様、暫く時間をください。私が何とかその者を突き止めますので。それまでは気付いていないフリをしていてください。ステンノ様に危害が及ばないよう警護は厳重にしますので」

 

聖女様の意見には反対だ。だって神殿の奴等がステンノを守れないのはさっきので分かっただろ。それならここから離れて魔族に見つからないように隠れて行動した方がいいに決まってる。

 

「それより今すぐここを離れた方がいいだろ。聖女様達と一緒に居たらまたさっきみたいなのが襲って来るって事だろ!」

 

「待ってニュクティ。あともう少し待てば犯人は分かる筈だから。それまではなるべくカッサンドラさんから離れないようにするわ。魔族は女神を判別できるから私とニュクティだけで行動するのは危険かも知れない」

 

うっ……でも本当に魔族と通じてる奴が分かるのか?いや、ステンノを信用してないわけじゃないけど。

悩んだけどステンノの言う事だ、「分かった」って返事をした。俺が守ればいいんだ。ステンノを魔族なんかに渡したりしない。とーちゃんだって『男なら好きな女を守るのは当然』って言ってたしな。

 

……いや違うぞ!?家族とか仲間とかの『好き』であって、男と女の『好き』じゃないからな!

 

「分かりました。ではステンノ様、今後行動する時はできる限り私から離れないようにして下さい。入浴や就寝など無防備になるような場合は必ず私と一緒に」

 

聖女様、顔が残念な方面に弛んでるぞ。息も荒くなってるし、どう見てもステンノに良からぬ事をする気だ。俺は魔族よりも先に聖女様からステンノを守らないといけないな。お風呂……はちょっと恥ずかしいけど、聖女様が近付かないように一緒に寝るくらいなら大丈夫だよな。

 

 

 

──────

 

たとえ歳下だろうが、私が信用できるのはニュクティだけだもの、たまには膝枕されたっていいじゃない。女神ステンノの振る舞いっぽくないのは自覚してるけど、ステンノ(オリジナル)と私は別人だし。

 

それは置いておくとして。今は出来るだけカッサンドラさんから離れないようにして、神殿騎士達に警護してもらうしかない。ニュクティも居るしきっとさっきみたいに何とかなると思う。さっきのゴブリンもどきの魔族が襲って来た件を考えると、やっぱり私が女神だって事はスパイにも魔族にもバレてるって思った方がいい。なら今ニュクティと二人だけで行動するのは自殺行為。一つ心配なのはカッサンドラさんに伝えた事で私がスパイが居ると知っている事を魔族側に知られるかも知れない事だけど……私の身の危険を考えたらカッサンドラさんに教えないってわけにはいかないよね。

 

もう少し経てば神託を使ってアムラエルさんと話せるから、スパイが誰かも分かる筈。カッサンドラさんと一緒っていうのは私の貞操の危機って意味で危険だけど、それまでの辛抱。彼女と同じ部屋で寝るっていうのは相当抵抗あるのだけれど、同じベッドで寝なければセーフ。何ならニュクティと一緒でいい。隣にニュクティがいればカッサンドラさんも迂闊に手は出してこないでしょう?ニュクティには刺激が強いかも知れないし万が一が起こるって考えもあるけど、そこは大丈夫。あの子は私の信頼を裏切るような事、しないでしょう?

 

「ステンノ様、夜営の準備ももうじき整うようですし先に体を拭いてしまいましょうか」

 

言われて意識を馬車のカッサンドラさんに戻す。日が沈む前には外も準備が終わるみたい。外には焚き火や騎士達の休むテントなんかがこの馬車を囲むように幾つも設置されてる。私達の寝床はというと、この馬車。足を今伸ばしている部分に板やら緩衝材やらを詰めて横になれるようにするみたい。聖女をテント(地べた)に寝かせるわけにはいかないからね。因みに私もそのベッドを使わせてもらえる事になってる。これも聖女様の強権。「ステンノさんは私と一緒に寝て頂きますので皆様そのつもりで」ってね。周りに『女性だからテントを使わせるのは可哀想』って見られてるか或いは『私が聖女のお気に入り』って見られてるかは分からないけど。

 

それで、その寝具の準備をする前に濡らしたタオルで体を拭く。ここにはお風呂なんてないし、まさか皆の前で水浴び、は出来ないし。

 

「ではステンノ様、私が御体を拭いて差し上げますので」

 

もう分かってる。ちょっとカッサンドラさんには頼みたくない。欲望駄々漏れだから。この人本当に聖女なの?

 

「ニュクティ、私の背中拭いてくれる?」

 

「俺っ!?」

 

「いけませんステンノ様!子供とはいえ男性に素肌を晒し、あまつさえ拭かせるなど!!」

 

貴女が一番危険じゃない。それにニュクティは私の肌なんて沢山見てるし今更でしょう。ニュクティもそんなに焦らないで。神殿に着くまでは暫く貴方にやってもらわないといけないのだし。

 

そうそう。寝る時は当然川の字になるんだけど、私とカッサンドラさんの間にニュクティを寝かせて「ニュクティを越えてこっち側には来ないでもらえるかしら?」って念を押しておいたわ。「私は抱き枕がないと眠れないのです!ニュクティさんを抱き枕にするわけには参りません、ステンノ様どうかこちら側に!」ってカッサンドラさんが必死の形相をしてたけど、その願いは聞けない。そもそも『抱き枕が』って言うけど、無いと眠れない筈のその肝心の抱き枕、貴女の荷物の何処にも無いじゃない。

 




スパイさん視点とニュクティ視点。スパイさんは一体誰なんだ(実質二択)

ステンノさんに石にされた魔族(マルファス)と魔王様の名前(パイオス)判明。マルファスはよくある鴉の悪魔から、パイオスはオルペウス教の両性具有の神エリカパイオス(パネース)から。
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