異世界で死にたくない最弱の女神   作:アイリスさん

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19話

…………なにこれ、何も見えない。カッサンドラさんは何処?ニュクティは?

 

先ず自分の状況を確認しよう。

 

取りあえず女神の神核は……うん、変わらず感じられる。これに関しては問題は無さそう。

 

視界は……うん、両目を覆うように何かが付いてる、瞼を開く事ができない。

口は……地球で言うところのボールギャグっていうの?玉口枷とかいうやつね。それらしき物が付けられてる。それに声が出せない。これは魔法か何かかしら?

手は……後ろ手にされて両手首を縛られてる。掌には袋みたいな何かが被せられてて自由に開いたり指を動かしたりは出来ない。

足は……うん、両足首を縛られてる。

つまり何者かに縛られて動けなくなってるって事ね。しかも膝を折った状態でギリギリ私が入れるくらいの何かの中に入れられてる……これ何だろう、足や体が当たる感覚からすると箱っぽい?

 

つまり今、私は縛られ拘束されて箱の中に押し込められてる、と。成る程ね……うん、もしかしなくても多分駄目だわ、これ。

 

こうなる前の状況を思い出さないと。ええと確か……。 

 

 

 

 

 

……そう。確か、寝苦しくて夜中に目が覚めたんだっけ。馬車の前側から見て左にカッサンドラさん、真ん中にニュクティ、右に私って位置で眠った筈だったんだけと、カッサンドラさんは真ん中辺りに位置を変えていて、ニュクティはその分私の方へと移動している。当然私は二人に押される形で端に追いやられていて、馬車内の黒い壁とニュクティに挟まれて凄く狭い所で寝ていた。こうなった理由はだらしない表情で寝ているこの聖女でしょうね。私の方へと手を伸ばしてるし。ニュクティは彼女に押されて移動したんでしょう。これならニュクティと二人で野宿していた頃の方が余程ゆっくり眠れた。

 

このままの体勢で寝ても疲れるだけ。それに変に目も冴えてしまったし、一度起きて外に出て気分でも変えてこようと馬車からそっと降りた。

馬車から最も近い焚き火の傍へ。数人の神殿騎士がそれを囲むように座っている。その中にアルトリウスの姿を見つけ、私は吸い込まれるようにフラフラと彼の下へと歩いていった。だって仕方ないでしょう?前世とは全く違うこの世界で唯一、自分が見知った姿の者が目の前に居るんだもの。頭では別人と理解していても感情がそれを許さない。懐郷の念を感じずにはいられない。私にはそんな気無いけれど周りの人間には『イケメン筆頭騎士に恋焦がれる少女』に見えたかも知れない。

 

私に気付いて「こんな時間にどうかしましたか?」って声を掛けてくれたアルトリウス。ちょっとだけ答えに詰まった後、私は「ええ、ちょっと眠れなくて」って無難に、しかしぎこちない笑みで返す。故郷の知ってるキャラクターに似てるから懐かしくなってつい、なんて言えないしね。

『アイツ噂のあの娘と……羨ましい』『アルトリウス……ま た お 前 か』みたいな視線が向けられてるけどそういうのはもう慣れたものじゃない?それをアルトリウスがどう思ってるかは置いておいて、焚き火にあたり座っている彼の直ぐ左隣に私はちょこん、と腰を下ろした。

あざとい?そんなつもりは無いんだけど、どうも私の行動は意識しないとあざとい方向にいくみたいね。左に腰掛けたのも偶々なんだけど、多分無意識に私の発言が彼の右脳に行くように女神の神核がそうさせたんじゃないかしら?ほら、左耳から入った言葉は右脳に伝わるらしいし。理論的に考える左脳じゃなくて感覚の右脳に訴えるように。

それに揺らめく焚き火に照らされた私の横顔は、多分男性には魅力的に映るでしょう?

……っと。別にアルトリウスを落としに来たわけじゃないし、適当に世間話でもして時間を潰そうかな。

 

「眠れない、となると原因は聖女様でしょうか?」

 

「よく分かったわね」

 

「聖女様は()()()()が過ぎる部分がありますから」

 

ふぅん、そっか。神殿騎士だものね、聖女がどういう人間かなんて把握してるか。何せ()()だものね、彼女。

それにしてもさっきから何か凄い違和感を感じるのだけれど何だろう?

…………分かった。敬語。アーサーの見た目で敬語で話されるから変な感じがしてたんだ。アーサーはマスターに敬語使わないもの。それにアルトリウスは神殿騎士筆頭で私は従者で奴隷(って事になってる)だし、敬語は要らないんじゃない?

 

「ねえ、筆頭騎士様が奴隷に敬語使う必要ないんじゃないかしら?」

 

ちょっとジト目で見つめてみる。他人行儀はやめてタメ口で話してって意味だからね?分かりなさいよ、アルトリウス。

 

「聖女様の従者の方に失礼が無いように、と思ったんだけどな。キミがそう言うならそうしようか」

 

流石騎士様。私の言わんとした事を理解してくれたみたいね。それにしても喋り方や声も相まって、本当にアーサーと話してるみたいに感じる。嗚呼、ちょっと地球に居た頃を思い出す。そういえば星五セイバー、アーサー・ペンドラゴンは初心者ボーナスで貰った石で回したガチャで出たんだっけ。懐かしいな……。

 

「懐かしい?僕とは初対面だと思うが」

 

声に出てたみたい。適当に誤魔化してもいいんだけど、言い訳に使わせてもらおうかな。恋慕で近付いたわけじゃないって理解してもらう為の。

 

「貴方は私が昔お世話になった人に似てるの」

 

「そうか」

 

あれ?聞かないの?ねえ、こんな美少女が意味あり気に言ってるのに気にならないの?それも何だかちょっとムカツクかな。気遣いも出来ますアピールとか要らないからね?貴方男でしょう?私に靡かないの?

 

「ねぇ、聞かないの?」

 

「それは僕が聞いてもいい話なのかい?」

 

「ええ。別に色恋の話じゃないもの」

 

私はただ、騎士内にも味方が欲しいだけだから。決してこのアーサー似の彼が気に入ったからこんな事話してるわけじゃないから。

だから彼には少しだけアーサー・ペンドラゴンの事を話してあげた。円卓の騎士王にして星の聖剣の担い手、物語に出てくるような白馬の王子様を体現したような人。

……別にアーサー・ペンドラゴンを持ち上げてるわけじゃないんだけど、知らない人が聞くと私がアーサーに憧れを抱いてるように聞こえるわ、これ。

 

「驚いた、それ程の人物が居たのか。けどやっぱり僕が聞いていい話じゃないな」

 

あーほら、完全に勘違いさせたわ。アルトリウスがあの聖女に変に吹聴したらこれまた面倒な事に……口止めはしておこう。

 

「だから別にその人の事は何とも……はぁ、まあいいわ。でも面倒になりそうだから聖女様には黙っていてくれない?」

 

「ああ、約束しよう」

 

その『約束しよう』って言い方もアーサーそっくり。本当に本人じゃないのかしら?

 

ま、取りあえず今はこれでいいか。後で誤解は解くとして……あれ?アルトリウス、何か取り出したみたい。皮で出来た水筒と、ポールペンくらいの大きさのスティック状の……あれって何だろう?

 

「良かったら食べるかい?」

 

じっと見ていたせいね、食べたいんだと思われたみたい。でも気になるのは事実だから、貰ってみよう。

アルトリウスから一本手渡されたそれを落とさないよう両手で持って、その先端1cmくらいを噛る。チーズ味の……何だろう?サラミっぽい食感だけど肉じゃない。でも悪くは無いかなぁ。食べてる姿は端から見たらちょっと小動物っぽかったかしら。

 

さてと。そろそろ戻ろう。彼にも仕事があるだろうし、私も寝ておかないと。それにその……ちょっと催してきちゃったし。

「そろそろ寝るわ。話を聞いてくれてありがとう」「ああ、僕で良ければ何時でも言ってくれ」って言葉を交わし、私は泉の方へと歩く。背中の向こうでアルトリウスが他の騎士達にからかわれてるみたいだけど、私と二人きりで話してたんだし仕方ない。

 

一人で行動するのは危険なのは分かってるけど、流石におしっ……花を摘みに行くのに騎士に付いて来られるのはちょっとね。

 

…………用を済ませ、馬車へと急ぎ戻ろうとしたんだけど……どうもおかしい。さっきまではそんな事無かったのだけれど、やけに眠くなってきている。それも急激に。まるで、そう。睡眠薬でも盛られたかのような……遅効性のものを夕飯にでも盛られた?それか魔法か何か?それともまさか、さっきアルトリウスに貰った食べ物だったりする?まさか彼がスパイとか?

 

駄目、眠過ぎてもう思考が回らない。

瞼が閉じられて、私はその場に倒れ眠りに落ちた。

 

 

 

 

 

…………ああ、そうだったわ。そうやって眠ってしまって。それで今は何かの箱の中、ってわけか。でも今なら多分まだ間に合う筈。箱の中に閉じ込めてるって事は、私を発見されたら不味い場所にいるって事。つまりここでアクションを起こして誰かに見付けてもらえれば助かる。声は出せないけど、必死に体を揺すって箱を蹴って音を立てる。

けれど、何の変化もない。これだけ音を出せば誰かしらは気付くと思ったんだけど、まさか防音の結界とか使ってる?そんな念を入れなくてもいいのに。

 

あれ?何だか持ち上げられたような感覚が……もしかして助けが来たの?

 

『成る程、女神はこの中か』

 

「はい」

 

…………違うわ。多分魔族とスパイの誰かの会話。聴覚にも何かされてるみたい、エコーとかボイスチェンジャーとかが掛かったような声で二人の会話は聞き取りにくい。ほんっと、どれだけ運が無いのかしら、私。

 

何かが外されるような音がして、スパイか魔族かは分からないけれどどうやら腰を掴まれ担ぎ上げられたみたい。何処へ連れて行く……って魔族の勢力圏に決まってるか。ほぼ無力な私じゃ逃げるのは絶望的だし、誰か見付けて助けてくれないかな。

 

というか思い出したけど、アムラエルさんって私の事モニターしてるんじゃなかった?このままだと私、本当に魔族の所に……。確か私を欲してるのって『神の力の解明』が目的なんでしょう?それってアムラエルさん達にとっても都合が悪いと思うんだけど。手出ししてくれてもいいのに。

 

何だか浮遊感が。もしかして私を担ぎ上げてるこの魔族、飛び上がった?聞き取りにくいけど翼がはためいてるような音もしてるし。幾ら神殿騎士だって空から行かれたら追いようが無いんじゃ?

叫ぼうにも声は出ないし玉口枷もされてるし。あ、もう風を切って飛んでるっぽい。風圧が凄い。諦めたくはないけど、これはもう無理。本当に誰か助けに来てよ……。

 

 

 

でもこんな簡単に私を誘拐できるのならどうしてカッサンドラさんを狙わないんだろう?彼女が聖女の地位に居た方が都合が良いって事?て事はスパイはある程度高い地位にある人物?やっぱりアルトリウスなの……?




ステンノさん、誘拐される。

次回はステンノさんにとって驚愕の事実が。

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