さて、最初は自分の能力の確認かしら。FGOと全く同じ、ならば身長134cm、体重30kg。筋力E、耐久E、敏捷B、魔力Ex、幸運Ex、だった筈。先ずは攻撃手段かしら。FGOでは確かこう、魔力を飛ばしたりして攻撃出来たような……。
右手を前に突き出して集中してみるけど、何も起きない。というか、神核は感じられるのに魔力は流れも何も全く分からない。え?こういうのって異世界転生の主人公とかって呼吸をするように出来るものなんじゃないの?
幾らやろうとしても駄目。何も起きないし何も感じられない。誰かに魔力的な何かを教えてもらわないといけない感じなのかしら。これは少し困った。
仕方ない。…………あれ?
芝生に座り込んだ私は、ふと視線を向けた左手に何か付いてるのに気が付いた。
この左手首に付いてるリング状のアザ、何かしら?右手で擦ってみても落ちない所を見ると汚れとかじゃない。うーん、と首を右に傾げた私の耳に、柔らかな女性の声で何処からともなく『申し訳ありません』と聞こえてきた。
申し訳って……ああ、何だかもう嫌な予感がする。
『余り時間も無いですし自己紹介を。私はアムラエル。地球で言う所の天使にあたる者です。つまりは貴女が会った主神の部下です』
「アムラエルさんね……それで?いい知らせと悪い知らせどちらかしら?」
あ、声もFGOのステンノと同じか。まぁそれは今は置いておくか。
初手謝罪だったんだし、どう考えてもいい知らせなわけないと思うけど。ワンチャンあるかも知れないでしょう?けれどアムラエルさんの返事は『悪い知らせですね』だった。……正直聞きたくない。けど聞かないわけにはいかない。
アムラエルさんによると、私はFGOに登場するサーヴァント『女神ステンノ』のスキルの殆んどが使えないらしい。あの主神が嘘をついたわけではない。FGOのステンノは『サーヴァントとして現界』している為にそれに合わせて強くなっている、本来の女神ステンノは最弱の、蹂躙されるだけの存在、という設定だった。
今の私はサーヴァントではなく女神ステンノのコピーなわけで、そうなるとサーヴァントなら使えるだろうスキルの悉くが使えないという訳。私の持つスキルで使えるのは女神の神核、それと吸血のみらしい。
それと例の主神の加護というのは、神の側から私の様子をいつでも観測でき、私が最悪の状態に陥った場合に運を少し引き上げる、例えば大凶を小吉にするとかそういう類いのものらしい。
……それ、いざって時本当に役に立つの?
簡単に言うと、私はちょっと運がいいかも知れない程度の、絶世の美少女女神(但し最弱の存在)。
頭痛がしてきた。魔力Exと幸運Exはどこ行った?
『本当に申し訳ありません。魔力はその体に満ちてはいますが、貴女が意図的に攻撃や防御などに使う事はできません。もう貴女の魂と体は固定されてしまっていますので、これから変更も出来ません。せめて私が一緒にあの場に居れば〈
変態って!今アムラエルさん、あの神様の事を変態って言ったわ!え?ステンノ狂いって?まさか私、あの神様の欲望に利用されたって事?そう言えばなんだか自分の思考が妙に二次元の女性的になっているのももしかしてあの神様のせい?
『そうです。主神の加護も、ステンノ様と同じ容姿の貴女のあられもない姿を覗き見する為のようです。………嗚呼、地球にいらっしゃる本物の女神ステンノ様に何と申し上げたらよいのか……〈
あ、覗きはされないと思っていいのね。トイレ(大)もしない体か。それだけは良かったかも。何せこの世界に地球みたいなトイレットペーパーやウォシュレットは無さそうだし。でもトイレ(大)をしないって事は、排泄は全部トイレ(小)で出るって事?女神的な力でどうにかなるって事かな?まぁ考えても仕方ないか。
月一度使えるらしい『神託』を利用して説明してくれたアムラエルさんは、謝り倒して話を終えた。『経緯はどうあれ貴女は既にこの世界の神の一柱。出来る限り力になります』って言ってくれたし。
うんわかった。私、今後は〈
はぁ……何だかもう疲れた。泉の水で顔を洗って気分を落ち着かせて、次に私が採るべき行動を考える。うん、先ずは人間の住む街に出たい。私ことステンノは不老不死(普通に生活するぶんには)だけど一人では生きてはいけない程度には弱い。安定した生活環境を手にいれないとテスターどころじゃないもの。
でもどうしよう。どう見てもここは深い森の中。街ってどっちの方向かしら?アムラエルさんに聞いておくんだった。次に話せるのは一月後だし……一ヶ月もここでサバイバルなんて絶対無理。せめて何か道具とかないの?
座って考えようと、元いた巨木に再び寄り掛かろうと幹に近づくと、地面に刃物が落ちているのが見えた。あそこって私が元々座っていた所よね?剣身20cm程度、幅2cm程度の刃を持つ……ボロック・ダガー。あー、これ絶対〈
刃物は無いよりはマシだけどこれはちょっと……絶世の美少女が持ち歩く武器じゃない……。適当なナイフが見つかったらさっさと捨てよう。
一応武器も手に入れたし、それじゃ最初はココを起点に周辺を探索してみようかしら。生水が危険とか言ってられない。ココを離れたら水にはありつけないかも知れない以上、少しの間はココから遠出は出来ない。夜は……この巨木にどうにか登ったり出来ないかしら?今はステンノと同等の筋力しかないからなぁ。縄梯子みたいなものを手に入れないと。その辺に落ちてたりしないかしら。
最悪の運は回避出来る的な事を言ってたし、何とかなる。多分。最初は南に向かっ……この世界の南ってどっち?そういえば今って何時くらい?太陽はあそこに見えるけどここは地球じゃないから同じとは限らないし。
最初はこの泉の真っ直ぐ向こうに向かって歩いてみよう。果物でも木の実でも、兎に角食べ物を手に入れないと……。
芝生もどきの生えている地面をゆっくりと歩く。私の髪と同じ色の、薄い紫のサンダルはまるで私の足の一部のようにフィットしていてとても歩きやすい。有難いけどもっと別の所に力を入れて欲しかった。
森に生えている木と木の間は、私が3人入る程度の距離。それが視界一杯に広がっていて、森の終わりは見えない。一体何処まで広がってるのかしら。街、たどり着けるのかなぁ……。
そんな事を考え注意散漫に歩いていると、右足首が何かの枝に引っ掛かる。バランスを崩して盛大に前方へこけた。顔面は守ったけど、お陰で地面についた左の掌が痛い。
そんな不注意で音を立てたのがいけなかった。遠いけれど、前方にいる何かが此方を見ている。虎……うん?虎??それにしては周りの木々と比べても随分大きいような……あ、駄目ね完全に私を見てる。段々と近づいてくるその口には長いキバが二本。サーベルタイガーっぽい。でも大きさがね……私の身長の3倍くらい……3~4mくらいあるんだけど。これ、不味くないかしら?転生初日に死亡とか洒落にもならない。
サーベルタイガーっぽい何かを刺激しないように、ゆっくりと後ずさる。私の動きに合わせて、ヤツは少しずつ近づいてくる。悲鳴とかは駄目よ私、ここは冷静に、落ち着いて。何処かに逃げ道は……。
と。突然サーベルタイガーの口元に小さな魔法陣が発生。ヤツの口と同じくらいの大きさの竜巻が現れる。ちょっと!?動物が魔法使えるとか聞いてない!あ、魔法使えるから魔物か!ってそんな場合じゃない!サーヴァントのステンノなら兎も角、私がアレをまともに受けたら不味い!
竜巻はとんでもない速度で私に真っ直ぐ向かってきた。反応できたのは自分でも奇跡だと思う。体へ直撃コースだったそれは、全身をひねりながら右側へ跳んだ私の左腕を掠めた。それだけで左腕には無数の切り傷が。かまいたち的な魔法みたい。傷からは血が滲む。痛い、ものすごく。私の血の匂いに興奮したのか、サーベルタイガーもどきが「ガルルル」と私に向かって吠える。
こんな森の奥に助けなんて期待できない。逃げなきゃ喰い殺される!
私が走り出したのと同時に、サーベルタイガーもどきも私に向かって走り出した。
2話です。ハメられた事に気づいたステンノ様(仮)。最弱の彼女がいかにして生きて行くか。