不味い、ひっっじょーにマズイです(滝汗)。
現在、野営地を中心として広範囲を探し回っています。聖女こと私を含めた全員で、です。
理由は簡単。ステンノ様の行方が知れないからです。影も形もありません。
これはもしかしてもしかすると、私がグイグイ行き過ぎたせいでステンノ様が逃げてしまったのでは……?私の数々の変態行為に嫌気が差したという事なのでは……?
「何でだよ!?何で何処にも居ないんだよ!」
私の右隣には、走りながら焦り辺りを見回すニュクティさん。左隣には護衛のアルトリウス。
そっ、そそそそうです。ステンノ様がニュクティさんを置いて何処かに行くなんてあり得ない筈です。きっとアレです、お花を摘みにでも行ったのでしょう。それで戻ろうとしたら皆ステンノ様を探して駆けずり回っているから恥ずかしくて戻るに戻れなくなっているに違いありません。大丈夫ですよステンノ様。さあ早くその羞恥に染まったお顔を見せてください。
「聖女様、これはもしかすると……」
やめて下さいアルトリウス、私だって最悪の事態を考えたくなくて現実逃避してるんです。その先は言わないで下さい。
「大丈夫です、ステンノ様はきっとその辺にいらっしゃる筈です。ですからもう少し遠くも探してみましょう」
そう口にはしてみますが、私の中の不安は大きくなる一方です。嗚呼、立て続けに魔族の襲撃があったというのに私は何故ステンノ様の護衛をもっと強化しなかったのでしょう。こんな事になるなら初めから『ステンノ様が女神様』だと公言しておくべきでした。
ステンノ様がいらっしゃらない事に気付いたのは今朝の事。目が覚めた時にはステンノ様はベッドには居らず、馬車から降りた所を見た者もいない。昨夜の番をしていたアルトリウス達の証言通りならば、もしかすると夜中に馬車を出たまま戻っていないのかも知れません。
ステンノ様の神気を辿れたのは近くの泉まででした。そこからはプツリと途切れてしまっていて行方を追う事が出来ませんでした。嗚呼、一体何処へ行かれてしまわれたのでしょうか。こんな事なら初日のあの時のうちに襲ってしまえば良かった……いやいや違う、今はそれは置いておきましょう。
おや?ニュクティさんが街道の真ん中辺りで立ち止まりました。何か見つけたのでしょうか?しきりに周囲をキョロキョロと見渡していますね。
「……は?お前誰だよ?どこから喋ってるんだ?」
ニュクティさん、誰かの声でも聞いているのでしょうか?幻聴……などでは無さそうですが。
「え?何?あむらえる?それがお前の名前なのか?」
それを聞いた瞬間、はしたなくも私は思わず「ブーッ!?」と吹き出してしまいました。ファッ!?御遣いアムラエル様!?まさかニュクティさんに神託!?ナンデ!?!?ホントに神託!?待ってそうなると『神託の聖女』としての私の立場というものがアワワワワ。いやそれよりニュクティさんでも神託を受けられるとなるとステンノ様を手籠めにしようとしたとかナンとか言われて私は不敬罪でお払い箱になる可能性ががががが。
……じゃなかった。今このタイミングで神託、という事はやはりステンノ様に何かあったという事!どうにかして私もアムラエル様の御話を聞かなくては!
けれどニュクティさん経由となると細かいニュアンスが伝わらない所も出てくるかも知れませんね。私への神託は先日あったばかりなので次は数ヶ月後という事になりますし、こういった場面では不便ですね。うーん、今後は私も神託を受けた場合はそういう所にも注意してよく噛み砕いて伝えるべきでしょうか。
「聖女様、それとアルトリウスも。あむらえる?が手を繋いでくれってさ」
手を?ニュクティさんは一体何をしようと……いえ、これはアムラエル様の御指示、という事はこの行為には何か重要な意味がある筈です。躊躇する必要などありません。これが相手がステンノ様だったら良かったのに。
っと、繋ぎました。私がニュクティさんの右手を、アルトリウスが左手を。何が起こるのかと思っていると、ピリッと何かが体を走り抜けます。次の瞬間には声が聞こえてきました。
『ニュクティを通じて貴殿方に一時的にパスを繋ぎました。私の声が聞こえていますね?』
紛れもなくアムラエル様の御声。本当に神託が……これ本当にヤバいですね、私がステンノ様に色々してきた事をニュクティさんにバラされたら天罰どころでは済まないのでは?嫌な汗が止まりません。
それにしても何故ニュクティさんが神託を?私の事を誤魔化すついでに聞いておきますか。
「一つだけ質問を。どうしてニュクティさんが神託を受ける事が出来るのですか?」
『……あまり時間がありませんが説明しましょう。それはニュクティがステンノ様の奴隷となった事で『女神の眷属』と見なされたからです。眷属となった事でニュクティには一定の祝福が与えられています。神託を受けられるのもその一端です』
成る程、ステンノ様の奴隷となったからですか。つまり私でもステンノ様の奴隷になれば眷属となれるわけですか。ステンノ様の奴隷……よくよく考えてみるとなんと甘美な響きなのでしょう。ステンノ様の為だけに生き、ステンノ様だけを見る。それも悪くな…………いやしかし奴隷ではステンノ様に手を出せない!これは由々しき問題です!!やはり私が奴隷になるのではなくステンノ様に私の奴隷になってもらい…………ふぅ、危ない危ない。せめてこの場では自重しましょう。顔は変にニヤけたりしていないでしょうか?うん、大丈夫そうですね。
私は「アムラエル様の御言葉に納得しました」と言わんばかりに頷きました。キリッ
『では改めて。私はアムラエル。この世界の〈主神》の遣いです。これから話す事は重要案件ですので貴殿方に拒否権はありません。ニュクティ、それにアルトリウス』
いつになく真剣な声色のアムラエル様。これは私に関する事では無さそうですね。それに「なんだ?」「はい」とそれぞれ答えるニュクティさんとアルトリウス。二人に重要な任務……嫌な、ええ、とても嫌な予感がします。
『貴殿方二人には女神ステンノ様の救出に行ってもらいます』
ステンノ様の救出ですか。それは確かに最・重・要・案件ですね。子供とはいえ獣人のニュクティさん、それに神殿騎士の中でも随一の実力を持つアルトリウスならば大概の場所は大丈夫だとは思いますが……その行き先には一抹の不安が。
「それで僕達は何処へ向かえば宜しいのですか?」
相手がアムラエル様だというのに。そう訊ねるアルトリウスは冷静ですね。私が初めて神託を受けた時なんて、ビックリしすぎて地面を転げ回った挙げ句に勢い余って用水路へ落ちたというのに……。やはり幼い頃から『騎士であれ』と育てられた者は違いますね。私など聖女の力に目覚めるまではホンのちょーーーっとだけ可愛い女の子が好きな只の町娘でしたからね。
『貴殿方の行くべき先はドーリス大陸、魔王パイオスの居城です』
ドーリス大陸!?!?このペイシストス王国より遥か南東、魔族の本拠地ではありませんか!しかも魔王の居城って……いや待ってください、まさかこの短時間でステンノ様を誘拐しドーリス大陸まで到達していると?一体どのような移動手段を使ったというのですか!?ペイシストスからあそこまで恐ろしい程の距離があるというのに。早馬を休まず走らせても一体どのくらいの日数が掛かることか……。これは流石に黙ってはいられませんね。
「御言葉ですがアムラエル様!ドーリス大陸はこの地より遥か遠く、とても数日で辿り着ける距離ではありません!そんな距離を、しかも敵の本拠地にニュクティさんとアルトリウスのみというのは流石に……大規模な救出部隊を編成し向かわせるべきではないでしょうか?」
『許可出来ません。一刻を争う可能性があります。それに大規模な部隊を出せば甚大な被害が出ますよ?魔王の力は貴女の想像以上なのです。神殿騎士が束になったとしても敵う相手ではありません』
そんな!どうやっても時間が掛かるというのに一刻を争うなんて?!それに魔王……魔王の力はそれ程だというのですか。神殿騎士達は人間の中でも精鋭中の精鋭。それが戦えば甚大な被害が出るなんて。そんな相手からどうやってステンノ様を救出しろというのですか。
「では僕達にどうやって救出に向かえと?」
アルトリウスの言う通りです!どうすれば短期間で救出に向かい戻って来れるというのですか。それこそ瞬間移動でも出来ない限りは不可能……え?まさか出来るのですか?
『よいですか。救出にはこの国内に魔族が作った転移ポータルを利用します。ニュクティとアルトリウスの二名がこのポータルで直接魔王の城へ潜入、ステンノ様を連れて脱出して下さい。ポータルまでの案内は私がします』
唖然とする他ありません。転移……ポータル?そのような魔法があるのですか!?しかも魔族はそれを利用できて……んえっ?この国内に?って事は魔族はやろうと思えば何時でも、しかも内部からこの国に攻め込める?もしや人類は私が思っているよりずっと危ない状況まで追い込まれているのでは?
ですがそれならばどうして魔王は人間を滅ぼさないのでしょう?神殿に態々スパイを潜り込ませてまで……ん?確かステンノ様は魔族の狙いは自分だと言っておられました。となるとステンノ様を捕らえる為にスパイを?という事は……そもそも魔王は始めからステンノ様を手に入れる事だけが目的だった?ならばステンノ様を捕らえた今、人類は用済みという事に…………。つまり現状のままだと人類を滅ぼす為に近いうちに魔族が大攻勢をかけてくる……?
少し冷静に考えましょう。
ステンノ様の存在が鍵、という事はステンノ様の存在そのものに何かがあるのでしょうか?それならばステンノ様をいち早く奪還し、今一度人類の側に付いてもらえれば状況も変わる?
ならばアムラエル様のおっしゃった事も尤もですね。魔王がいつ私達を滅ぼす為に仕掛けて来てもおかしくない状況の今、アルトリウス達に賭けるしか無さそうです。
「ならば善は急げ、ですね。ニュクティさん、アルトリウス。ステンノ様をお願いします。私はこの場に残り魔族のスパイを探します」
私が付いて行っても足手まとい。やる事は一つですね。ステンノ様を魔族側に引き渡した裏切り者を捕らえなくては。
「お任せ下さい」と頭を下げるアルトリウスと「勿論だよ」と真剣な眼差しを向けるニュクティさん。頼みましたよ。貴方達にはアムラエル様が付いているのです。私の将来の嫁(意味深)……じゃなくてステンノ様を必ず救い出してくれると信じていますよ。
『それとカッサンドラ』
アムラエル様が私の名を!私にも為すべき事があるのですね!お任せ下さい!!ステンノ様の為ならばどんな事でも成功させてみせます!
『……ステンノ様の御迷惑になるような言動は控えなさい』
うっ……釘を刺されました。これはまさか今まで私がステンノ様にしてきた事がバレていると……。
私は「…………ひゃい」と気の抜けたような返事をし、その場に項垂れます。
ですが……こんな事ではめげません。ステンノ様の心と体、全てを手に入れるその時までは……!
『……そういうところですよ、カッサンドラ』
うえっ、心を読まれました!?
反省の色の無い聖女様、窘められる。
次回はニュクティとアルトリウスによるスニーキングミッション。「待たせたな!」とかは言ったりしない。