異世界で死にたくない最弱の女神   作:アイリスさん

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25話

囚われた尖塔の最上階の牢獄の中。何故か魔族が用意した純白のドレス姿の私は、テーブルに置かれた金属で出来たスプーンをじっと見詰める。出された目の前の食事は、コーンもどきのポタージュ、コッペパンもどき(持った感覚は柔らかい)とバター、蒸し野菜にマヨネーズよねこれ?、それと鳥?肉のネギ塩炒め。それに微かにレモンの香る水。………私とニュクティがゼメリングに居た時より上の食事。しかも温かくて作りたて。なにこれ。もしかして魔王パイオス……もう一人の方の私って内政チートとかやってるの?私はこんなに何も出来ない役立たずって言っても過言ではないくらいなのに。ズルくないかしら?

 

……ああ、今こうやって考えてみると、そういえば私の前世の記憶って歯抜けになってるのよね。両親の事は分かるし確か父さんの趣味が家庭菜園だったのは覚えているけれど、どんな種類を育てていたのかとか内容はさっぱり思い出せない。父さんに畑の事とか色々教えてもらった筈なのに、その悉くの記憶が無い。それに私、料理が得意で調味料なんかも自家製で色々作っていた筈なのに、その具体的な内容の記憶もスッポリと抜け落ちている。他にも考え出したらキリがない程、私の記憶には抜け落ちが多い。多分、私の魂が普通の人の三割しか無いから相応の分しか覚えていないんでしょうね。もしかするとパイオスの方は優しさに関する記憶や人間味がごっそり抜け落ちてるのかも。その人間味は全部私の方に回った、とかね。

 

はぁ。パイオスの方は記憶の方も言葉通りチート転生なのね。なんて不公平なんだろう。幾ら元は一人の人間だったって言われても、ね。私にも『女神の神核』っていう一応のチートは載ってるけれど。

 

ポタージュを一口。思わず「……美味しいわ。ズルい」と不満が溢れる。何もステンノじゃなくても前世の知識でほんの少し生活しやすくなる程度でも良かったのかも。それでもどうせ〈主神〉が私に対パイオスのトラップを仕掛けたんだろうし。

 

さて、それじゃこっちのコッペパンもどきは……あぁあぁ、柔らかい!私の手でも力を入れなくても簡単に千切れる!口の中でモゴモゴしない!美味しい!あぁもうっ!

 

それにしても私にこんなまともな食事を出すっていうのはどういう事なんだろう。私に死なれたら困るっていうのは分かるけれど、私は(普通に生活する分には)不老不死なわけだし、食事が粗末でも死ぬわけじゃない。例えばだけど同化したら今の私の記憶も引き継ぐとか?どうせパイオスの記憶になるから食事もいいものを出す?それはありそう。だって、父さんの趣味が家庭菜園だったって思い出したの、ついさっきだし。

 

あっ、ネギ塩炒めは……うん、美味しい。久しぶりのマヨネーズも美味しいわ。うぅ、凄く悔しい。

 

 

 

食事の事はいいとして、いや良くはないけれど置いておく。ここから脱出する際の問題は、やっぱり私が弱過ぎる事と、魔力操作の稚拙さね。我ながらもう少し上手くなれないのかしら?例えばそう、針金程度の細さまで魔力を圧縮して撃ち出せたりすれば、少ない出力でも相手の急所を貫通させたり出来そうじゃない?まぁその魔力圧縮が上手く出来ないから机上の空論なんだけどね。せめてもう少し魔力操作が出来るか出力が有れば……。はぁ。魔力が使えない状態でも宝具は使えたのになぁ。

 

……あれ?そういえば。あの〈主神〉、嘘はついてないって言ってたわよね?それでアムラエルさんは、私は女神の神核と吸血以外のスキルは使えないって確かに言ってた。それが嘘じゃないっていうのなら、どうしてあの時ステンノの宝具が使えたの?宝具は別枠だから?それとも…………。

 

そうよ、あの〈主神〉が他に何の策も用意してないなんておかしいもの。なら仮に私を救出に向かってるであろう人間が失敗したりしても、私だけはどうにか逃げられるような手を用意してる筈。

なんで今まで気が付かなかったんだろう。これも魂が別たれてる弊害かな?

 

兎に角試してみる価値、あるかも知れない。でも私、fateのセリフとかを丸暗記する程は知ってるわけじゃないのよね。こういう時は、ええと。

 

「アムラエルさん?今もモニターしてる?見てたら返事をしてくれない?」

 

天井を見上げて数分。随分と遅れて声が聞こえた。

 

『………………はい、ステンノ様。ええと、返事が遅れてしまい申し訳ありません』

 

何か取り込み中だった?まぁそうよね、私だけに掛かりきりって訳にもいかないでしょうし。それじゃ魔族が近づいて来ないうちに用事を終わらせないとね。

 

「ちょっと聞きたいのだけれど、()()()()()()()()()()()()()()()って出来る?」

 

『はい、出来ます』

 

うん、それなら何とかなるかも。問題は上手くいくかどうかだけれど……私の身体が『FGO』のステンノだっていうのなら出来る筈……と信じたい。出来るわよね?自信無くなってきた。問題があるとすればこの世界が地球じゃ無いって事だけれど……こういう時くらい〈主神〉が何とかしてくれるよね?

 

「それなら、これから私が言う図に当たるものを投影してくれるかしら?」

 

──────

 

「これで、よし」

 

魔力を通したスプーンで、頭の中に投影された図形を床に描いた。あとは私次第。

 

私の中に意識を向ける。魂と完全に混ざり、私そのものとなった女神の神核を見つけるのは最早容易な事。儀式に使う触媒は、私自身。

 

右手は胸に当てて己の中の神核の存在へと向け、左手をスプーンで描いた図形の真ん中に置いて、魔力の流れる向きを図形の方へ。準備はこれだけ。触媒が()()()()()()じゃないから上手くいくかは賭け。あとは……さっきアムラエルさんに引っ張って来てもらった言葉を紡ぐだけ。

 

大きく深呼吸。スーっ、ハーっ。ちょっと緊張する。もしもこれで出来なかったら黒歴史確定ね。きっと後々まで〈主神〉におちょくられるに決まってるわ。

 

覚悟、決めよう。

 

 

 

「…………告げる!

汝の身は我に!汝の剣は我が手に!

聖杯のよるべに従い

この意この理に従うならば応えよ!

 

誓いを此処に!

我は常世総ての善と成る者!我は常世総ての悪を敷く者!

 

汝 三大の言霊を纏う七天!

抑止の輪より来たれ 天秤の守り手!

 

夢幻召喚(インストール)!!!』」

 

 

 

───────

 

何だ?塔の最上階が一瞬光ったような……。何かの見間違いか?だってステンノは魔法とか全然だった筈だしな。

 

「ニュクティ、何かあったのか?」

 

アルトリウスが俺の様子に気付いて声を掛けてきた。まぁ気のせいだよな。「いや、別に」って答えた。

 

「それにしても本当にやるのか?」って俺の質問に「ああ。魔王やその直属の配下に見つかる訳にはいかない」って真面目な表情のアルトリウス。アルトリウスはこの尖塔の地面と接している部分、つまりは今俺達が居る場所に無理矢理侵入口を作って中に入ろうとしてるんだ。ああ、分かってるよ、ハルパーなら多分出来るさ。でもそれってこの塔を一階から上まで登るって事だろ?うへぇ……幾ら俺が獣人だっていってもこの高さはなぁ。

 

何か都合良く入口とか無いのかよ?例えばほら、転移ポータルみたいに瞬時に上まで行けるようなヤツとか。適当にこの辺に隠されてるとかだと助かるんだけどな。

こう……プスッと。

 

うおっ!?ヤケクソで地面にルールブレイカー刺したら本当に入口が出てきた!!この金属の蓋を開けて……やったぞ!魔法陣だ!

 

「お手柄だな、ニュクティ」

 

強硬突入しようとしてハルパーを構えてたアルトリウスがこっちに向かって来た。あとはこの魔法陣が上に通じてるのを祈るだけだ。よく考えたらあの連絡通路が使えなくなった時用に別のルートを作っておくのは普通の事だもんな。これは行けるに違いないぞ。待ってろよステンノ、今助けに行くからな!

 

 

 

ってカッコつけたのは良かったんだけどな。転移してみたら塔の真ん中くらいだ。何だよ、最上階まで行ってくれないのかよ。半分でも登るだけで一苦労だぞ?しかも帰りは疲弊してるだろうステンノを連れて降りなきゃいけないんだぞ。もう少し手加減してくれてもいいだろ。

 

仕方ない、今は急ごう。上位の魔族が俺達の侵入に気付いてる可能性だってあるんだ。時間が惜しい。それに早くステンノの無事を確認したいしな。

 

幸いな事に、ここから螺旋階段の上まで見通せる。見た所だと魔族らしき姿は無いな。今のうちだ……って言ってもどれだけあるんだよ、この階段。気が遠くなりそうだ。

 

 

 

──────

 

………………。

 

これ以上無いってくらい、上手くいったわ。

 

頭には、白と黒のカチューシャ……ううん、ミニボンネットって言った方がいいかな?

着ているのは胸の部分だけレース状になっていて辛うじて隠せるけれど他は総シースルーで丸見えのローブ。だから当然、私の髪と同じ色のインナーも見えている。まぁこれは見せ下着、よね?だからセーフ……セーフなんだから。

 

左右の手には金色の腕輪が四つ巻かれてる。左手は親指以外の四本の指に、右手は小指と親指を除く三本の指にそれぞれ嵌めた銀の指輪から鎖が伸び、手の甲にある金色のアミュレット……ええと確か……そう、『女神のきらめき』だっけ、それに繋がってる。

 

背にはローブ同様シースルーの羽衣。それにリング状に輝く後光。

つまり今の私はステンノ第三再臨の姿。今の私の事を考えると、FGOで私が育てたレベル100ではなくて第三再臨可能な60程度、って考えていた方が無難かしら。

 

あとは力の確認だけれど、右手に魔力を集めて……うん、もう分かった。さっきまでと違って格段に扱いが上手くなってる。他のスキルも今なら使えそう。これなら脱出出来るわ。先ずは魔力を纏わせたままこの足の鎖を……。

 

 

バギンッ

 

 

出来た!私でも壊せた……!嬉しい、凄く嬉しいわ。これで時間限定とはいえ足手纏いを卒業出来るって思うと……ちょっと涙が出てきた。

よし、それじゃこのままあの扉を壊して外へ出よう。集中して、魔力を右手に……。

 

私が魔力を放とうとしたその時。「ステンノ、無事かっ!?」って声と共にニュクティとアルトリウスが肩で大きく息をしながら扉を開けて入って来た。あっぶない、もうちょっとで二人に魔力をぶつける所だった。二人とも、鍵はどうやって開けたの?

 

……あ、ニュクティの手にあるその破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)か。アムラエルさんの仕業かな?私を助ける為に随分奮発したのね。

 

あれ?アルトリウスもニュクティも、何だか私を見たまま呆けてない?ボーッと見つめてるみたいだけれど。もしかして私に魅了されちゃってる?女神に見とれるのは仕方ないけれど、今は駄目よ?無事に帰ってからにしてくれる?

 




自分を触媒にFGOのステンノを夢幻召喚。ステンノさんは気付いてませんが、彼女には主人公補正という強い味方がいます。


ステンノ(魅了されちゃってるのねフフッ)
アルトリウス(神々しいな)
ニュクティ(何か背中で光ってる……)
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