ぽかん、って表現がピッタリの二人。うーん、どうも私に見とれてるってだけではなさそう。
まぁそうよね。幾ら私が『男性の理想の具現』って言ってもそれだけならそういう反応にはならないか。いざ助けに来てみたら私は思いの外元気そうで、しかも神々しく光ってるわけだし。
「助けに来てくれたの?ありがとう」
部屋の中央に立ったまま微笑む。今の私なら守られる立場ではなくて二人を守る側になるのかしらね?夢幻召喚は宝具を使ったら強制解除になりそうだから
「いや、確かに助けに来たんだけど……その格好はどうしたんだよ?」
うーん、ニュクティも私の事好きならもう少しこの姿の虜になってくれてもいいと思わない?夢幻召喚したお陰でステンノとしての魅了の力も上がってると思うんだけど……まあいいわ。説明してる時間も惜しいし。夢幻召喚が時間経過で強制解除とかだったら困るしね。「後で纏めて説明するわ」って返して、部屋を出ようと思ったのだけれど一度立ち止まる。私だけなら気配遮断A+があるから見付からずに逃げられると思うけれど、アルトリウスとニュクティはそうはいかないだろうし……陽動が必要かしらね?
ええと確かFGOのステンノの攻撃モーションに……こう、敵に十字の光を爆発させるヤツがあった筈よね?分類としては遠距離攻撃魔術的な。あれ、今の私ならできるよね?
私は格子の填まった窓の方へ。窓を開け、その格子越しに外を覗く。ここから離れた、城の中央を挟んだ反対の位置の、この尖塔よりも二段階程度低い塔。狙いはアレでいいかしら。魔力が届くといいんだけれど。両手を胸に当てて、向こうの塔まで意識と魔力を伸ばすようなイメージで……うん、行けそう。威力は下がるかも知れないけれど目的は破壊じゃなくて陽動だからね。
私の足元が微かに円形に光り、一瞬だけれど魔法陣が浮かび上がる。その直後、向こうの塔の先端に十字の形の光が現れて爆発が起こる。思った通り威力はそこそこで塔の形も残ってるけれど、これで注目は向こうにいった筈。
「女神様、今のは!?」
あれ?アルトリウスが思いの他驚いてる?でも気にするのは後でね。それからその『女神様』っていうのは止めてくれない?
「今まで通りステンノ、でいいわ。敬語も無し。これは女神としての命令」
「はい、分かりま……あ、いや、分かった」って答えたアルトリウスに軽くウィンクした私は、二人の手を取り部屋を出る。あ、ニュクティもアルトリウスもちょっと顔が赤くなった。うんうんそうよね、欲しかったのはその反応よ。フフッ。ちょっと楽しいわ。
二人の手を引いたまま、螺旋階段を走り降る。今までが嘘のように足が軽い。筋力は変わってないと思うのだけれど、魔力の流れ方の違いかしらね?これは敏捷Bになってるわ、間違いない。……何だか
それにしてもこの階段を下まで降りるの?二人ともよく登ってきたわね。それならもう少しだけ休ませてあげれば良かったかも。言ってくれれば良かったのに。
私は二人から手を離して、右手に魔力を集め、人のカタチを形成。例えるならば、古代ギリシャの兵士。装備は簡素な装備とラウンドシールド、それに剣。アルトリウスの身長より少しだけ高いかな。
FGOのステンノの攻撃モーションにその兵士で攻撃するものがあるんだもの、今の私に出来ないわけない。『人が空想できる事全ては起こり得る魔法事象』ってね。ま、今の私は人というより女神だけれど。
魔力で造った兵士が二人を掴んでそのまま螺旋階段の中央に空いた空間に身を投じた。行儀よく階段を降りていたら時間も体力も消耗するし、ショートカットね。さて、それじゃ私も行こうかしら。私はその後を追うようにフワリ、と吹き抜けに身を投げ出す。暫くは自由落下。私の落下軌道にはキラキラと光のエフェクトが残っている。
二人の話だと途中に転移魔法陣があるんだっけ。
高さ残り半分を過ぎた辺りで、魔力制御をしてフワリと階段へと戻った。うん、多少の無理は平気みたい。
二人の方はというと、私の魔力製の兵士がガキン、と壁に剣を突き刺して停止。兵士に放られて階段へと戻った。直後、役目を終えた魔力製の兵士は霧散して消滅。ちょっと強引だったけれど二人なら大丈夫……な筈。
「二人とも、大丈夫?」
「あ、ああ。僕は大丈夫だが……」
「ビックリしただろ!言ってくれよ!」
ニュクティは何時も通りね。これで変に避けられたらどうしようかと思った。アルトリウスはまだ遠慮してる?大人として分別があるのは良い事なんだけど、それだと私が気にする。
仕方ない、ちょっとサービスしてあげようかしら。アルトリウスの方へ近付いて、彼の右手に抱き着いてみる。ほーら赤くなった。「いや、あの、女神様?」って焦ってる焦ってる。そうよね、今の私にこんな事されたら焦るに決まってるわよね、知ってるわ。それと「女神様」じゃ返事はしてあげないからね?
「…………分かった、降参だ。降参するから手を離してくれ」
そうそう。フランクにしてくれた方が楽でいい。私は元々そんな偉いわけじゃないものね。
アルトリウスに絡めていた両手をパッと離してあげた。ホッとしてるみたい。このくらいで許してあげよう。今は先に進まないといけないしね。
腕を組んだせいで拗ねた様子のニュクティの右手を繋いであげて、側に設置されていた魔法陣に乗る。この城に転移した時と同様に、少しだけ体が浮くような感覚。次の瞬間には地面に設置された蓋の下にある地下室。数段しかない階段を慎重に上がって外の様子を窺うニュクティとアルトリウス。ああそっか。警戒しないと普通は見付かるものね。
念の為にこの辺で気配遮断が機能してるか試しておきたい。
私は二人の間をスルリ、と抜けて地面に立ってみた。周りには誰も居なさそう……いや、居たわ。丁度爆発のあった塔の方向へと走る不細工で肌が土色の、上半身がやたらと大きく腕も長い何かが数匹。ええと、トロールっていうの?下半身だけ鎧を着けてて、手には剣を持ってる。うーん、魔族……には見えない。下っ端の魔物か何かかしら?トロール達は私の目の前を不恰好に走り右から左に通過していく。こんなに目の前に居る私の事は全く気付いてないみたい。うん、ちゃんと気配遮断は使えてる。
……そのあとニュクティに怒られたけどね。「勝手に居なくなるなよ」って。アルトリウスにも「あまり一人で動かないでくれ」って釘を刺されたし。突然二人の前から消えたのは謝るけど必要な事だったんだけどな。
さて、今のうちに転移ポータルへ急ぎましょうか。って言っても私は目隠しされてたから場所は分からないから二人に付いていくだけなんだけど。
流石に侵入者を警戒してか、私を助けに来る時に数体の魔族を殺してる事もあってか。なんだろう、まるで最初から私が脱走してポータルに向かうのが分かってたみたいに警備兵の数が増えていってる。最初のうちは数も少なくて不意打ちで倒すとかやり過ごすとかしてたんだけれど、途中からはそうもいかなくなった。アルトリウスはもうハルパーを抜刀したままの状態で敵を見つけ次第切る、私も魔力を飛ばし牽制したり魔力製の兵士を作りだして斬りかからせたりスキル『魅惑の美声A』で誘惑して動きを止めたりね。目的の通路以外の所にはあちこちに中~上位そうな魔族が徘徊してて、彼等に見付からない為に私達はポータルのある部屋へと真っ直ぐ進むしか無くなった。夢幻召喚してなかったらここまで来られなかったわ。
「キリが無いな!」
アルトリウスがそう愚痴りながらハルパーを横に薙ぎ払った。私と同じくらいの大きさの蝙蝠が上半身と下半身に綺麗に分かれて床に落ちて、絨毯にその血が染み込んでいく。これでもう何体目?アルトリウスもニュクティも肩で息をしてる。本格的に魔族が出てきたらちょっと不味いかも。私も、二本足で立つライオン頭の何かの脳天を右手の魔力で叩き割って、その場で両手を膝に置いて荒い呼吸を繰り返す。どうして持久力は増えて無いの?そろそろ辛くなって来た。
なんだろう、嫌な予感がする。何かおかしい。
私達の動きを分かってるのならもっと警備兵の数を増やしたり、私達が苦戦するような強力な魔族を何体も置いたりして脱出困難にするわよね?それなのに私達が通らなきゃいけない道は何ていうか、比較的弱い部類の兵しか配置されてないような……わざと他の経路を通らせずポータルがある部屋へと追い込まれていってるような。
これ、もしかして罠だったりする?他の場所へ逃げられないように誘導されてる気が……。
「あそこを通らないとポータルのある部屋には行けないんだが……」
アルトリウスが視線を向ける先は、二人が最初に踏み出した大理石の回廊。身を隠すような物は少ないけれど、柱の影に身を潜めながら様子を窺う。赤い絨毯の向こうには黒く大きな影が居る。目的の部屋はその先。
つまり、あの魔族を何とかしないと脱出出来ない。嗚呼、これ完全に待ち伏せされてる。もしかして今までのは全部、あの魔族を引き立たせる為の演出とか?何て悪趣味なの?
……アレは影じゃない。黒く巨大な盾を左手に、同じく黒く飾り気のない、鍔の無い大剣を右手に持った黒い鎧。兜はしてなくて代わりに虎のようなマスクをしてるから実体はあるみたい。背中には鶏のような一対の翼も生えてるし、ライオンの鬣のような暗い黄色の長い髪も見える。
『我が名はキマリス。女神を置いていけ。さすれば苦しまずに殺してやろう』
私達に気付いてるのか。なら逃げるのは無理かも。だからって素直に正面から戦ったりしないけどね。
私は静かにキマリスに向かって歩き出す。念の為に柱に隠れながら。キマリスが私に気付く様子は無い。うんうん、ステンノの気配遮断を破れない程度って事ね。それならいけるかしら?
キマリスを通り過ぎて、後ろへ。そーっと近付いて、トントン、と右肩を叩いてみた。流石に気付いた様子のソレが私の方を振り向く。
『女神だと!?何故後ろに居るのだ!?』
キマリスの言葉で、ニュクティ達もそこでやっと私が移動してた事に気付いたみたい。私を助けようと慌てて姿を見せるけど、ちょっと遠いから間に合うような距離ではないかな。ニュクティ達が私に近すぎてもしもの事があったら困るから。
「覚悟はよろしいかしら?」
お決まりのセリフを口に出して、私はキマリスに微笑む。ええ、宝具『
「終わったわ」
相手が一人、それも男性で良かったわ。これでどうにか脱出できる。一瞬呆気にとられていた二人が我に返り、私の方へと駆けてきてくれる。
……っ、何!?視界がブレる!?体から力が抜けていく……駄目、立っていられない……。
「直に見ると凄いな……っと、大丈夫か!?」
感嘆の声もそこそこに、アルトリウスはフラついて倒れそうになった私を抱き止めてくれた。
彼の腕の中の私は夢幻召喚が解けて、純白のドレスの姿に戻った。ああ、やっぱり宝具を使ったら戻ったわね。それにしても反動があるなんて聞いてない。まだ頭がクラクラするわ。
「無理に女神の力を行使したんだろう?少し休んだ方がいい」
ん?
アルトリウス、何処でそういう話になったの?まあでもそんなに間違ってはいないからいいか。立ち止まって訂正してる暇は無いし。追っ手がすぐそこまで来てるかも知れないしね。早くこの城からオサラバしよう。
「平気よ。それより急がないと」って言いながら、私はアルトリウスから無理矢理離れて扉に手を掛け開いた。
直後。突然私の右脇腹に何かがぶつかった。そのあまりの衝撃に私は横に吹っ飛んで壁に激突。
なに……?何が起きて……?壁にぶつかった左腕が痛い。それに頭もぶつけたみたい。ジンジンと痛む左側頭部を左手で触ると、掌にはベッタリと赤い血が付いていた。あー不味い、のかしらね?
あ……右の脇腹が痛い……痛い、痛い、痛い!!肋骨!肋骨が折れてる!!痛い!漫画とかの主人公はよく『肋骨が何本か持っていかれた』とか言って平気な顔してるけど!そんなの嘘じゃないの!痛い痛い痛い痛い!
倒れたままその場で蹲って、慌てて右脇腹を押さえようと左手を回して……触れた瞬間、更に激痛。思わず「あ゛あ゛あ゛あ゛っ」て声をあげた。
それから吐き気がして、噎せながら内容物を吐き出す。私の行動一つ一つが肋骨に響いて、新たな痛みを運んでくる。
私の口から出てきたものは血だった。真っ白だったドレスも、私の鮮血で所々赤く染まっている。最初の一撃で内臓の何処かをやられたのか、それとも折れた肋骨が何処かに刺さってるのか。
『危うく殺す所だったか、危ない危ない』って声がすぐそこで聞こえて、私はハッとして顔をあげた。目の前には全身が紫の毛で被われた……体長が私の二倍くらいある、背に翼竜のような小さな翼のある大猿?が居たわ。まだ居たなんて……最後の最後で油断した。今の私じゃどう足掻いたって勝てないのに……。
調子に乗って宝具なんて使わなければ良かった。折角此処まで来たのに。
『チッ。アイツには『生かして捕まえてこい』って言われてるからな……
この猿……舐め回すかのように、値踏みするかのように私の全身をマジマジと見てる……あれ、コイツ何だか股関部分が膨らんでない?『グヘヘ』、じゃないでしょう!?嘘でしょ!?気持ち悪い!!絶対、絶対にイヤ!!
詰めの甘いステンノさん。
お約束だぜヒャッハー(貞操の危機)な状況に。
次回はステンノさんの過去にすこーしだけ触れる、かも知れない。
エウリュアレの霊衣だけじゃなくてステンノ様の霊衣も出してくれていいのよ運営さん?