異世界で死にたくない最弱の女神   作:アイリスさん

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27話

何でなの?何で私の役回りはこんなのばっかりなの?ボロボロに傷付けられた挙げ句、こんな醜い人間ですら無いヤツに犯されるの?やだ、やだやだやだぁ!

 

怪我と痛みのせいで体が上手く動かない。ニュクティは少し離れた位置にいるし魔族相手じゃ手出しはきっと無理、アルトリウスは私同様吹き飛ばされていてまだ立ち上がってない。誰も助けてくれない。

どうしたら良いの?逃げられない!

 

大猿モドキが私の首を掴んで床に押さえる。『獣人のガキ、手出しするなよ?でないとコイツの首を捻切るからな』と威嚇する。痛みに悶える私のドレスは片手で引き裂かれて、紫に変色した右脇腹を含めて素肌の大部分が露にされた。

 

助けて!助けて!お願い助けて!

 

涙が滲む私の視界の先に、やっと立ち上がってハルパーを構えるアルトリウスの姿が映る。この大猿モドキもアルトリウスに気が付いて彼を睨む。

 

──仕方ないのぅ、落ち着くがよいぞ。手ならまだお主の左手にあるじゃろう?──

 

こんな時に〈主神(ろくでなし)〉の声が聞こえた気がした。左手?左手だけでどうしろって……。

 

あっ………………。

ええと。

 

 

 

「…………ガンド」

 

私の左手の指先から放たれた赤い光が大猿モドキの顔に直撃。大猿モドキの全身が痙攣して動きが完全に止まる。

 

ニュクティが扉の向こうへと走り出す。

アルトリウスが大猿モドキの手から私を奪って、背中と膝の裏に手を回して抱き上げ走る。アルトリウスとニュクティは魔法陣へと到達して、ポータルが起動する。私達の姿は城から消えた。

 

 

 

ペイシストス王国側のポータルへと戻った直後、ニュクティが破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)を地面に突き立てると転移魔法陣が消滅。同時に破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)が音もなく砂のように崩れ落ちた。

 

助かった……の?

 

体が痛い。右脇腹は酷い状態だし、ドレスは服の意味を為さないくらいボロボロだし。こんな状態でアルトリウスにお姫様抱っこされてるとか恥ずかしい……。

 

「大丈夫か!?」

 

全っ然大丈夫じゃないわ、ニュクティ。今回()駄目かと思ったもの。それこそ取り乱してガンドの存在を忘れるくらいに。

 

私の姿を見かねて。アルトリウスが自分のマントを外して私の体を包む。血が滲む頭には、ドレスを切り取って即席の包帯にしたものを巻いてくれた。頭と体の内外の痛みは治まる気配は無いけど、寒さは少し和らいだ気がする。生憎この辺に回復に使えそうな血は無さそうだし、カッサンドラさんと合流するまでの辛抱かな。拐われた時は確かここまで来るのに一時間程度だったよね?それなら少し我慢すればいい。大丈夫、そのくらいなら多分どうにか耐えられる。

 

「ステンノ様がこの傷では急がなくてはならないのだが……馬での長時間の移動はキツイだろうな」

 

「私なら平気、だから。行って、アルトリウス」

 

か細い声ながらもそう返した私。

 

 

 

ええ、そう返事をした少し前の私を殴ってやりたいわ。だって、馬で最速でも2日も掛かるっていうのよ?どれだけ速かったのよあの魔族!しかも、幾らアルトリウスが私を落馬しないように抱いてくれているっていっても走ってる最中は大きく揺れて、その揺れの度に私の体が悲鳴をあげる。右脇腹や内臓、左側頭部なんかに特に響く。痛い、なんてものじゃない。確かにパイオスに魔力を奪われたアレに比べたらマシだけど、そもそもアレと比較するっていうのがおかしい。痛いっ、痛いっ、痛いっ!!こんなんじゃカッサンドラさんと合流できる前に死ぬかも知れないわ。もう泣きたい。いや既に泣いてるけど。情けない事に泣きっぱなしなんだけれど。

 

「やはり痛むか。やむを得ないな。ニュクティ、少し休んでいこう」

 

「分かった」

 

アルトリウス達は私の体を気遣って休憩を多めに取りながら進んでいる。だから中々進まない。馬で移動せずに横になっている間は痛みが多少マシになるから有り難いのだけれど、治るのがどんどん先延ばしになるのはそれはそれで辛い。

 

……辛いわ。転生する時はこんな事になるなんて予想も出来なかった。もっと平凡な、普通の人生で良かったのに。もうあんな結末にならな………………ん?あんな結末って何だっけ?まあいいわ。体が休息を求めてるし少し眠ろう。ついでに眠ってる間にカッサンドラさんの所に着かないかしら。

 

──────

 

夢。

そう、それは夢。

 

一面何もない荒野に片膝を付いて、何かを支えに立ち上がろうとする誰か。その誰かから少し離れた位置にいる、これまた何かを支えにしてやっとの思いといった様子で立つ誰か。二人とも像がぼやけていて誰かはハッキリとは分からない。でも、二人の身に付けているものの色合いが似ているのは分かる。

 

私は誰かに向かって叫び続けている。でも言っている内容が私の耳に聞こえて来ない。

私が叫び続けている相手は、どす黒く染まったオーラを纏う誰か。その相手もぼやけていて誰かは分からない。でもきっと私にとって大切な人だったんだ。だって心の中に懸命に、けれど悲痛に、この誰かを想う気持ちが溢れているから。

私はそのどす黒い誰かの腕を、振り落とされまいと必死に掴む。両足が失われ、あちこちが痛む体で懸命に。

 

不意にどす黒い誰かの動きが止まる。私は遠くで立っている誰かに何かを叫んで。誰かの声が聞こえて。綺麗な光が現れて、私とそのどす黒い誰かを包んだ。

 

 

 

……そこで夢は途切れた。

 

──────

 

 

 

…………んっ……。

何だか変な夢を見た気がする。

 

目覚めてみると、私は見覚えのある馬車の中に居た。簡易的に組み立てられたベッドの上に横たわった状態でシーツが掛けられていて、体には何も身に付けていない。その代わり傷は全て治っていた。神殿所有の馬車か。良かった、眠ってる間にカッサンドラさんと合流出来たのね。もしかして向こうから私達の事を迎えに来てくれたのかな?

 

「お目覚めになられましたか!良かった……良かったですぅ……」

 

右から聞こえた声の方を見ると、涙を流して喜ぶカッサンドラさん。嗚呼、ずっと付いていてくれたのかな?目にはクマが出来てるし、少しだけ窶れたようにも見える。私に欲情する変態……だけれど、本気で心配してくれたのかな。本当は色々と言いたい事があるのだけれど。以前私にベタベタと触ったりとか変な所に手を伸ばしたりとか触れなくても治癒できる事とか今現在私が一糸纏わぬ姿な理由とかだったり。今回だけ見逃してあげる。今回だけ、ね。

 

「……ハッ!?だだだ大丈夫ですよステンノ様!ステンノ様の意識が無いのをいい事に貞操を奪ったりはしてませんから!ほほほ本当ですよ!」

 

…………もしかしてやろうとしたの?やっぱり見逃すの辞めようかしら?

 

ジト目で睨んでみた。カッサンドラさん、「ジト目!ステンノ様のジト目!ご褒美!ハァハァ」って呟いてるわね。ハァ、何だかもういいわ。

 

「それからステンノ様、これはどうされたのですか?」

 

ほんと、切り替えの早い人。私はシーツが落ちないように体に巻いて、上半身だけを起こした。カッサンドラさんの手の中にあったのは、金属製のスプーン……え?何これ?

 

「ステンノ様の着ていらしたドレスに引っ掛かっていたものです。ステンノ様の魔力が残っていたので、何か大切な物なのかと……」

 

私の魔力?もしかして、魔法陣を描くのに使ったヤツ?

スプーンを受け取り、マジマジと眺める。うん、やっぱりあの時私が使ったものだわ。食事するのに使って、そのまま魔法陣を……。

 

「確かに私が使ったものだけれど。…………カッサンドラさん、貴女これ妙な事に使ったりしてないわよね?」

 

「ブフォっ!?つつつ使ってません!確かにあんな事やこんな事に使おうとしましたけどアムラエル様に怒られたから思い留まったので使ってませ痛ダダダダダダしゅみましぇんしゅみましぇん」

 

話の途中のカッサンドラさんの左の頬を右手で思いきり抓ってやったわ。成る程ね、だから意識の無い私にも手を出さなかった、と。

 

…………変態!変態!この変態!!

 

声にはしない。だって喜びそうなんだものこの人。どうしたらいいの全く。

 

やっぱり少しお仕置きしておこう。スプーンに魔力を通して、こう、ハンマーみたいに一ヶ所に固めて……カッサンドラさんの頭に振り下ろしてみた。ゴチン、と心地好い音が響いて「ギャフンッ」ってカッサンドラさんが変な声を出す。現実でギャフンって言うなんて変わってる。

 

でもこのスプーン、いいかも知れない。何ていうか、魔力の指向性が操作しやすくなる感じがする。魔法使いの杖みたいな。私の魔力に合ってるとかなのかな?暫くはこれ使ってみようかな。某赤髪ショタコンの軍用ライトとか某超能力者の女王が使ってるリモコンみたいな感じなのかも。……ずっと後の世になった時に女神が使った聖遺物とかになったりして。それは考え過ぎか。

 

頭を押さえて「痛いです……」って涙目のカッサンドラさんに「ニュクティを呼んでもらえる?」って伝える。今後の事を話し合っておかないとね。目立つであろう神殿勢力と行動を共にするの、どう考えても危険だもの。

 

 

 

───────

 

 

 

『女神に欲情している隙に逃げられたそうだな』

 

玉座に座るパイオスが、目の前で膝を付いて頭を垂れる紫の大猿の姿をした魔族・グシオンを睨みつける。

 

『お言葉ですが魔王様!何をしても良いと言われたではありませんか!俺が女神を犯す事で二度と歯向かえないよう心を折る為に必要な事だったのです!』

 

頭は下げたまま、グシオンが叫ぶ。己の欲望のせいで取り逃がしたのは事実で、只の言い訳に過ぎない。

 

『我は『捕獲の為ならば何をしても良い』と言ったのだ。誰が交尾しても良いと言った?無能め』

 

パイオスは視線を一層鋭いものへと変え、用意していた通りにグシオンを罵る。そう、用意していた通りに、だ。

 

『ですが魔王様!』

 

『黙れ。お前の部隊に任せてやったというのにこの体たらくとはな。女神を逃がすなど大失態だ。責任の追及は免れぬぞ』

 

グシオンは元々思考がお粗末で、パイオスの事を良く思っていない。言わば昔ながらの魔族の典型。グシオンから見れば若造であるパイオスに仕えるのも限界であった。彼は魔族の内部の『反パイオス派』の急先鋒であったのだ。

 

『……おのれパイオス!若造の分際で!此処でお前を殺して俺が魔王に君臨してくれる!!』

 

故に、グシオンはまんまと挑発に乗った。それがパイオスの計画通りだった事も知らずに。

グシオンが体を起こし、バネのように跳ねてパイオスへと向かい跳んだ。両手の爪に魔力を目一杯纏わせ、パイオスの喉へと突き出す。

 

『ふん、無能め』

 

パイオスが左手を挙げて横に薙ぎ払う。ぶつかったグシオンの両手は掌から肘までが粉々に砕けた。

 

『グシオンよ、『無能な味方は敵よりも厄介』という言葉を知っているか?』

 

『おのれ若造が!』

 

次の瞬間にはグシオンの頭が夏の西瓜割りの西瓜のように破裂した。パイオスが血に塗れた左手を宙に向けると、傍に控えていたブエルが最高級の純白の布でそれを丁寧に拭いていく。

 

『予定通りだな。これで不穏分子共と無能を正当な理由で潰せる』

 

『流石は魔王様。ですが態と逃がした女神の方は如何なされるのですか?』

 

『何も問題は無い。その為にアレと接触したであろう?お陰で位置ならばもう我の力で何時でも割り出せる。此処に置いておくと面倒が起こる。神の加護を無視できる方法を確立するまでは適当に泳がせておけ。それとスパイは処分しろ。ヤツにもう用は無い。それに他のポータルの位置を口にされては困る』

 

『御意』と頭を下げてブエルが闇に溶けた。『フンッ』と鼻を鳴らしてグシオンの残骸を見下すパイオスが不敵に笑う。

 

『さて、神よ。次の手を見せてもらうぞ。次は何だ?オーディンでも引っ張り出すのか?』




意味深な夢を見たステンノさん。どんな意味があったのかは後になれば分かりますよ多分。

今回の脱出劇はパイオスさんの掌の上でした。



数百年後の任命式に出た新米聖女「何で任命式で貰うのがスプーン?」
E:ステンノさんと同じデザインの白いワンピース
E:ステンノさんが使ったスプーン

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