異世界で死にたくない最弱の女神   作:アイリスさん

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28話

 

『お前がポータルの位置をバラしたのでしょう?』

 

私の影に潜んだブエルの、トーンの低い声が響く。何故だ!私は散々お前達に協力してきたではないか!私が裏切る筈無いだろう!

 

「ちっ、違う!私じゃない!神託だ!聖女が神託で!」

 

『聖女が神託を使えるのは数ヶ月に一度。それは確認済み。ならばお前が口を割った、しかないでしょう。今更見え透いた嘘をつくなど愚の骨頂。パイオス様を欺いた報い……受けるがいい』

 

本当だというのに!何故信じてくれない!ふざけるな!パイオス様は『協力すれば征服した暁には人類を治める王にしてくれる』と約束したではないか!金と権力、それに女!人間のは全てくれると言ったではないか!こっちは聖女を奴隷にしてあの体を自由に出来る日を楽しみにしていたのだぞ!聖女め、毎日毎日あの体を私に見せつけて……どれだけ我慢していたと思っているのだ!クソッ、魔族は低能だから困る、こんなところで死んでたまるか!

 

「お前では話にならん!魔王様と話をさせろ!」

 

『まだそのような口を……』

 

私は自分の影に宝玉を投げつけた。いざという時の為に用意しておいた、相手に猛毒、麻痺、聖属性の大ダメージを与える秘宝だ。幾ら魔族といえども、これを受けては無事では済むまい!

 

「ざまあみろ!大人しく魔王様に話を繋がないからだ!」

 

パイオス様と話をさせないからこんな目に遭うのだ!会って直接話して理解させる!私は間違ってはいないのだ!

今回は向こうに非があるのだ、何か詫びの品を貰っていいところだ。

そうだ、あの女神がいい。パイオス様の目的とやらが終わったらあの女神を頂くとしよう。生け贄だとは言っていたが殺すというわけでは無いようだしな。大方、神の力を奪うとかなのだろう。あれだけ美しいのだ、夜伽もさぞ楽しませてくれるであろう。聖女と女神、毎晩代わる代わる可愛がってくれようぞ。

 

何だ?右腕が引っ張られたぞ?何かあったのか?

 

「…………ギャアアアア!?」

 

腕が!私の右腕が!右腕の肘から先が無い!血が、血がぁぁぁあ!

 

『ギャーギャー喚くな、耳障りなヤツ』

 

痛い!止めろ!痛い、止めてくれ!体を切り刻むな!痛い!止めろ!止め……。

 

 

 

 

 

 

 

 

『フンッ、漸く静かになった』

 

……出来上がったのはバラバラに切り刻まれた肉片の山と血の池。ブエルは影から実体化し、その人間だったモノを魔力で包み宙に浮かせる。

 

『愚かな人間。魔王様がお前達ごときとの口約束を守るとでも思っていたの?』

 

呟いて、ブエルは肉片の山と血の下に出来た影の中へ、それらと共に沈んだ。目的は果たした。後は報告を済ませる為に魔王の元まで影移動で戻るだけ。

 

後に残ったのは静寂。他の者や神殿騎士達から遠く離れた林の中だったのが災いし、気づく者は居ないだろう。あの秘宝が起こした閃光に気付いた者が居たとしても、もう何も残っていないので彼が死んだ事すら分からない筈だ。精々、スパイだとバレて失踪したと認識される程度だろう。

 

 

 

 

 

 

影に溶けた腹心を待つパイオスは、玉座に座して脚を組んで、未だに転がったままのグシオンの残骸を眺めていた。

 

最も近い位置にあったポータルの場所が割れたのはスパイのせいではないだろう事は分かっていた。神の仕業。この分では他のポータルの位置もバレていると思っておくべきだろう。だが。

 

『やれやれ。ポータルの位置、か。くだらぬ』

 

パイオスにとって、転移ポータルの存在は然程重要ではない。今までならば利用価値もあったが、ステンノが現れた今となっては有っても無くてもどちらでも構わない。ステンノの魂さえ取り込めれば勝ちだ。大した戦士の居ないこの世界の人類など準備運動にもならないような取るに足らない相手だし転生勇者が新たに現れた所でどうにか出来るわけが無い。

何故ならば。同一の魂であるパイオスとステンノ、二人は……。

 

 

 

───────

 

「それから報告しなければならない事があります」

 

カッサンドラさんの表情が真剣なものに変わった。もしかしてスパイを捕らえたとか?

 

今は一面の平原の中に停まっている馬車の中で、私とカッサンドラさんが向き合ってる。今は彼女と今後について話してるところ。ニュクティは『ステンノのやりたいようにしていいよ。俺は付いていくからさ』って言ってくれた。ニュアンス的には私が神殿と別行動したいのを分かってくれてたみたい。ニュクティは内心、神殿側と一緒なのは反対みたいだしね。やっぱり私の身を危険に晒した原因になった、っていうのが気に入らないみたい。

 

「アイアースが姿を消しました。状況を見るに恐らくは彼が……」

 

アイアースってあの黒髪黒目のイケメンだっけ?そっか、彼がスパイだったんだ。随分と懐に潜入されてたのね。そりゃ私の情報も筒抜けな筈よね。でも居なくなったなら好都合じゃない?パイオス側は、私が聖女達と共に行動してるって思ってるだろうし。そういう風に偽装して私は別の国へ逃れれば暫くの間は安全そう。

 

「アムラエル様は『スパイは一人』だとおっしゃられていましたし、これからは私達と共に在れば安全です。ですからステンノ様、今後は私達と神殿で過ごすというのは如何でしょうか?」

 

「イヤよ。私が貴女達と一緒に居るのは魔族側も知ってるもの。別行動するべきだと思うのだけれど」

 

カッサンドラさん、「でっ、ですが!」って焦ってる。この人の場合は私を傍に囲っておきたいだけな気がするし、何より貞操の危機を感じるし。変態な所を除けば悪い人では無いんだけど……。

 

「そもそも私が誘拐された原因、何だったか覚えてる?カッサンドラさんが強引に私を引き入れたせいじゃない?」

 

「うっ……それは、その……」

 

こういう言い方は卑怯だけど。この人諦めてくれなさそうだし。それに神殿へ行くなんて窮屈そうで御免だわ。私だって出来るならこの世界を堪能したいし。

 

「ですがステンノ様の身の安全を考えますと、やはり騎士達の傍に居られた方が……」

 

安全、ね。確かに私とニュクティだけだと心許ないかもね。夢幻召喚(インストール)するのも事前準備がいるわけだし。あ、そもそもカッサンドラさんは夢幻召喚(インストール)の事知らないんだった。それならこういうのは?

 

「ならアルトリウスを護衛に付けて。その上で魔族用に私の身代わりを立てるか神殿が女神を保護して共に行動してるって偽の情報を流すかする、これなら私は神殿の保護下にもあるし魔族の目も欺けるんじゃない?」

 

「ですが……うぐぐっ」

 

もう一押しかな。何か無いかしら。うーん。本当はこの人相手にこういう事はやりたく無いんだけど仕方無いか……。

 

「カッサンドラさんの事は信頼してる。安全が確保出来たら神殿に行くから。今だけ我慢してくれない?その代わり神殿に行った後は貴女の隣で大人しくしてるわ」

 

猫撫で声で、彼女の左肩に両の掌を乗せて左の耳元で囁いてフーッ、と軽く息を吹き掛ける。……ホント、女の人相手に何やってるのかしら私。

 

「しっ……しっ……仕方ありませんね!!ではアルトリウスを護衛として付けましょう。彼ならばステンノ様を守ってくれます」

 

チョロい。私がいうのも何だけど、ホント大丈夫かしらこの人。カッサンドラさんの顔の緩み具合が凄まじい。聖女がしてはいけない表情してるわ。

安全が確保、って事はパイオスが居なくなる事前提なんだけど分かってる?

まぁいいわ。これで聖女の言質も取ったし。晴れて自由ね。神殿に行かずに済んで正直ホッとしてる。

 

「それからステンノ様!くれぐれもアルトリウスと妙な仲にならないようにしてくださいね!私は信じて待ってますからね!」

 

カッサンドラさんが赤い顔で、両掌で私の両掌を覆い握る。いや、私は貴女のモノでも何でもないのだけれど?それよりそっちこそ上手くやってね?私の道中の身の安全はカッサンドラさん達神殿側の演技に掛かってるんだし。

 

 

 

話を終えて馬車を降りた私は、芝生の上に座って話をしているニュクティとアルトリウスを見つけてそちらへと歩く。流石に私が女神だって事はこの場にいる神殿騎士達には伝わってしまっていて、何も言わずとも私の後ろに護衛の為に数人の騎士が付いて来てる。仰々しいわ。王族じゃないのだから……ああ女神だったわね。蹂躙されるだけの最弱の存在だけど。

 

「少しいいかしら?」

 

「ああ」って答えたアルトリウスに、私の後ろの騎士達の視線が突き刺さる。勘違いしてもらったら困るのだけれど、アルトリウスめ不敬だ!って視線では無い。どっちかというと羨ましいとかズルいとかそういう嫉妬の類いね。アルトリウスには敬語を使わずフランクに話すように強制した事、みんなに話したし。『アルトリウス ま た お 前 か』って表情してる騎士達の様子はちょっと笑えたわ。だからといって彼を貶めるような事をしないのが神殿騎士達のデキる所ね。文句があるならアルトリウスを倒せるくらいの実力を付けなければ!って所。

 

「何かあったのか?」ってニュクティ。周りに人が多い。ここでみんなに知られたら面倒な事になりそうだし馬車で話そう。

 

「二人に話があってね」

 

馬車の中へと移動した私達。カッサンドラさんも居るのはまぁ仕方無い。

 

「………………という結論になったのだけれど。二人とも、付いてきてくれるわよね?」

 

「決まってるよ、ステンノが行く所なら俺はどこでも行くよ」

 

「そういう事ならば、謹んでお受けしよう」

 

うん、決まりね。それから向かうならここペイシストスの西にあるミュケーナ王国。魔族の居るドーリス大陸からも遠いからね。というか、大陸とか国の名前とか初めて知ったわ。へぇ、この国ってペイシストスって言うんだ。

それと、神殿は中立組織で国を跨いで活動してるみたい。神殿騎士ってその存在自体が人間側の切り札的なモノだから、国に属していると融通が利かないから駄目みたいね。何かあればミュケーナの神殿を頼ればいいって。そういう事態に巻き込まれないようにするのが一番ね。

 

あ、そうだ。これだけはやっておかないと。

私は上を見上げた。

 

「ねぇ、ハルパーって返さないと駄目なんでしょう?別の剣を貸してくれない?」

 

『……まあそうじゃな。あまりゼウス(あやつ)に借りを作りたくないしのぅ。それにお主もメドゥーサ()の首を刎ねたソレは好かぬじゃろうしな。うむ、代わりを渡しておくかの』

 

ちょっと!この〈主神(ろくでなし)〉、なに余計な事を口走ってるの!ホラ、お陰で馬車の中が微妙な空気になったじゃない!もう、説明するの面倒ね……。

 

「あの……ステンノ様……色々と聞きたいのですが……その……今の御声ってまさか……」

 

恐る恐る、といった調子で私に尋ねるカッサンドラさん。あ、もしかしてカッサンドラさんってアレの声聞いた事無いの?

 

「察しの通りよ。この世界の神ね」

 

私の返事を聞いてカッサンドラさんが気を失って倒れたわ。ニュクティは開いた口が塞がらない状態、アルトリウスは「神よ」って祈り始めた。ねえ貴方達って御遣いのアムラエルさんとは話してるのよね?私とも正面から向かい合って話してるよね?何だか扱い違い過ぎない?ちょっと納得いかないのだけれど?

 




アイアースさん、聖人どころか欲望の塊でした。野郎なら仕方がない。

変態が敬われている事に納得いかないステンノさん。まあ相手は神様だからね仕方無いね。

次回はアルトリウスの剣を貰ってからミュケーナ王国へ。
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