異世界で死にたくない最弱の女神   作:アイリスさん

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31話

昼を過ぎた辺りかしら。やっと……やっと着いた。もう足がパンパンだけれど何とか歩いて……ごめんなさい誇張したわ。だって今日は途中からアルトリウスに抱えてもらっての移動だったもの。足が痛くて歩くの辛かったんだもの。夢幻召喚すれば楽に移動出来たけど、もうそれなりに人通りもある街道でそんな事したら私が女神ですって公言しているようなものだし。何せ後光まで付いてるものね、あの姿。お姫様抱っことか多少恥ずかしくてもバレるより余程いい。それにフードを被っていれば私だって分からないし。

 

開けた平原の先に見えてきたのは二重の城壁。外側はアルトリウス三人ぶんくらいの高さ、内側はその七割程度。ぐるりと街を囲んでいるそれは、遠くない昔は前線基地だったんでしょう。何処に対する、なんて今は和平が結ばれてるペイシストスに決まってる。大きい都市ね。これ東京ドーム何個入るかしら。外側の城壁には所々に大きな何かがぶつかって破壊されたような跡がある。殆んど修理が終わっている箇所もあれば、これから修理する場所も。これってあの大蛇の仕業なのかな?

 

先ずは城門へ行かないとね。っていっても街道から真っ直ぐ進めば着くから迷ったりはしないけどね。あ、そろそろ降ろして欲しい。

 

さてと。それじゃ街に入る審査の列に並びましょうか。大きな街だし列も長い。門はまだ遠くに……あれ?あの門の傍に居る人、私達の方を見てない?あのプレートメイルって確か……騎士団のだっけ?まさか私達の事を待っていたとか。ちょっと大蛇を退治しただけなのに本当に目を付けられてた?私の自意識過剰だったらいいのだけれど。

 

駄目だわ。あの騎士団の人、完全に私達の方へ向かって歩いて来てる。まさかとは思うけどこのまま王子様の所へ連行されたりとか……どうしよう。

 

「アルス様とそのお連れ様方。そろそろ着く頃だと思いお待ちしておりました。私は第三騎士団のファイスと言います。王太子殿下より御三方にミノアの街を案内せよと仰せつかっております」

 

兜を脱いで挨拶してくれたファイスさん、顔は何ていうか普通ね。異世界もの特有の、関係者は美男美女しかいないっていうお約束は無いみたいね。まぁこれは現実だしそんなもの。私やニュクティ、アルトリウスの顔面偏差値がおかしいのよね、これに関しては。

 

「申し出は有難いが、僕達のような平民が王家の御手を煩わせるわけにはいかない」

 

すかさずアルトリウスが口を挟んだ。そうよね、これ明らかに私達の事監視しに来てるもの。何とか断れないかな?

 

「ですがこれは王太子殿下のご命令ですので。それに騎士団としましても大蛇を退治した御三方に何もしないわけには参りません。コチラも沽券に関わりますので」

 

数日前には何も要らないって事で解決した話を蒸し返した……これは絶対何かある。私達に何かの嫌疑を……って事では無いとは思うけど、でもそうなると何かしら?他の場所で大蛇が暴れ始めたから退治を手伝えとか?王子様が同行しないなら考えてもいいけれど……。

 

「……分かりました。案内して頂けるというのなら同行しましょう」

 

あれっ?アルトリウス折れちゃうの?「ではコチラへ」って街の方へと向き直して前を歩くファイスさんから後方へ少し距離を取って付いていく私達は、ファイスさんに聞こえない程度の小声で話す。

 

「どうして折れたのかしら?」

 

「そうだよ、どう考えても何か企んでるだろアイツ」

 

「確かにそうかも知れないが、王太子の命令となればここで騒ぎを起こすのは得策じゃ無い。『街の案内だけ』ならば問題は無いだろう。相手の出方にも依るが数日の辛抱だ」

 

そっか。王子様の命令を無下にしたとあれば『平民』の立場である私達は何をされるか分からないものね。

数日の、か。本当にそれで済めばいいけれど。

 

列から離れた私達。案内されたのは別の入口。具体的に言うと騎士や貴族、街の有力者なんかが態々列に並ばなくて良いように作られた通用口。つまり今の私達、V.I.P.って事。王太子殿下の御客様って扱い。

 

私達はそのまま待機していた馬車に乗せられて、数々の露店が並ぶ活気ある通りを抜けて、高そうな店が両側に建ち並ぶ大通りを抜けて。街の一角の宿が幾つも建っている区画へ。馬車が止まったのはその中でも最も高級そうな、白い壁に赤い屋根を持つ小さな城のような五階建ての建物。え?ここ?幾ら私達が大蛇を単独で倒せるパーティって言ってもそこまでするの?ちょっと何だか怖くなってきた。

 

先にファイスさんが中へと入って、手続きをしてくれて。中世、というより明治時代の日本の洋風建造物のような西洋風の内装の、シャンデリアが眩しいロビーで待たされていた私達は無事お泊まり客になった……のだけれど。

私達を案内してくれるこのホテルの制服……というかタキシードとかメイド服とかを着た係員が2グループ。そのうち男性2人がニュクティとアルトリウスに付いて、女性2人が私に付く。そこまでは分かるんだけれど、アルトリウスとニュクティは二階への階段を上がって直ぐ、つまり二階にある部屋へと案内されて行った。私はそのままメイドさんに連れられて更に上へ。

 

結局私が案内された部屋、最上階の所謂スイートルームなんだけど?貴族の使うような高級な家具ばかりがある。この装飾過多なテーブルと椅子だけでも値段幾らするのかしらね?幾ら支払いが王子様持ちって言っても私に対してちょっと過剰過ぎやしない?アルトリウスとニュクティは二人部屋って言ってたよね?私は一人でこの部屋なの?この階の空間ほぼ全部使ってるよねここ?何をどうしたらこの扱いになるの?まさか私、王子様に気に入られたとか?いやでもあの時フードで顔は隠してた筈……。

 

暫く呆然と立ち尽くしてた私の背中の扉からノック音。「失礼致します」って声が聞こえた。あ、さっきのメイドさんの声。「どうぞ」って返事をすると扉が開き、紅茶セットと菓子の乗ったワゴンを押してメイドさんが入って来た。

 

「紅茶を御淹れ致します」

 

「えっと……ええ」

 

高そうな紅茶なんて飲むの何時振りだろう、なんて事しか考えられなくて。もういいか。取りあえずこの紅茶を飲んで少しゆっくりしてから判断しよう、うん。

 

あ。そういえばファイスさん、案内するとか言ってたっけ。今日どの辺を見て歩くのかとか予定を聞いておかないと。

 

「ええと、あの、ファイスさんの」

 

「本日は1日お休みになられ、お疲れを取られますようにとファイス様より仰せつかっております」

 

やられたわね、これ。数日どころか1、2週間くらい足止めされるんじゃないかしら。こうなってしまった以上、向こうの真意は聞かせてもらわないと。

 

…………まあ一先ず休んでからね。疲れているのは確かだし。頼んだらマッサージとかしてくれるかしら?お風呂は入れるのかな?取りあえず布団が凄く柔らかそう。あんなフカフカのベッドで寝るなんて本当に何時振りだろう。折角だし今だけは思考停止して堪能しておこう。

 

 

 

 

───────

 

 

私達騎士団と彼女……ステンノ嬢達とが別れてから6日が経った。彼女がミノアの街に滞在して早3日だ。

シュリーマンのアドバイス通りに直ぐにミノアの宿への手配をし、王宮に戻る前に伝達の魔法を使って国境や彼女が立ち寄ったであろうペイシストス内の街の間諜へと手紙を飛ばした。

 

足取りは意外にも簡単に分かった。彼女がゼメリングの斡旋所発行の登録証を使っていたからだ。ならば彼女は主にゼメリングで活動していたという事。情報が集まるのも早かった。

 

今は私は宮廷にある自室でシュリーマンの報告を受けている。

 

「それで、ゼメリングの間諜からは何と?」

 

「はい、殿下。ステンノ嬢に関してですが……婚姻において身分差を気にする必要は無いかも知れません」

 

「何だと?シュリーマン、どういう意味だ」

 

彼女はゼメリングに登録したハンターなのだろう?身分差を気にする必要が無いというのはどういう事だ?

 

「順に説明します。先ず彼女はゼメリングで登録した頃はその美貌以外は特に目立った様子は無かったようです。受ける依頼も雑務や薬草等の採取が主だったと」

 

「何だと?あれだけの腕を持っていながらか?」

 

雑務だと?どういう事だ?明らかに彼女が受けるべき適正なレベルよりも下の依頼を受けていた?何の為だ?稼ぐならハンターとして大物を狙った方が早いだろうに。

 

「そうです。不思議でしょう?まるで実力が露呈するのを避けるかのように下位の依頼を受けていたわけです。…………時に殿下、ラケダイ王国の第四王女の事はご存知ですか?」

 

「ラケダイ?ああ、ペイシストスの遥か東の東にある小国だったな。確かそこの第四王女は病で床に伏していると聞いた事がある」

 

そのラケダイの王女が今の話と何の関係があるのだ?しかしラケダイの第四王女か……確か魔力の影響で紫がかった髪の、美貌の王女と評判で魔法の腕も宮廷内で一、二を争う程の実力と聞いた気がする。名は確かステ…………ん?

 

「我々の調査では……実は第四王女は病に伏しているわけではなく行方不明なのです。それとゼメリングで気になる噂がありまして」

 

「気になる噂だと?」

 

「はい、殿下。『ステンノという少女は実は某国から逃げ出してきた姫である』という噂です」

 

……!成る程な。火のない所に煙は立たないというわけか。

 

「それにステンノ嬢の素手を見たことのある人間は彼女の手を『シミ一つ無い透き通った、高級な陶磁器のような綺麗な手だった』と言っています。平民の、しかもハンターの手がそのように綺麗な筈がありません。つまりステンノ嬢は只の平民ではない」

 

「そうか!彼女の正体はラケダイ王国の第四王女ステノ、という事だな!シュリーマン、良くやった!これで身分の問題は解消した!直ぐに彼女を迎えにいくぞ」

 

立ち上がろうとした私の右腕を、シュリーマンが掴む。何だ?彼女を迎える当たってもう問題は無いだろう!王宮でじっとしている場合ではないのだ、手を離せ!

 

「お待ちください殿下、あのアルスという剣士の方が問題なのです」

 

何だと!?あの男に問題があるのか?まさかステノ姫を誑かす犯罪者だとでもいうのか!?許せん!ならば即刻首を刎ねてしまえば良いだろう!

 

「落ち着いてください殿下。あのアルスという剣士……あれはあのアルトリウスです」

 

「何だと?アルトリウスというと、あの神殿騎士筆頭のか?」

 

どういう事だ?神殿騎士筆頭がステノ姫を秘密裏に護衛している?分からぬ。姫は神殿と何かの協力関係にあるのか?それとも別の何かか?

 

「はい、国境警備の兵士に証拠付きで名乗り出ていますので間違いありません。極秘任務だという事です」

 

一国の姫を巻き込まねばならない任務?何だ?神殿騎士筆頭が直々に出るような任務とは……。

 

「ステンノ嬢……いえ、ステノ姫はゼメリングで単身で魔族に襲われた、という話があります。にも関わらず生還したとなると……」

 

成る程な。ステノ姫は魔族に関する重大な何かを握った、若しくは知ったという所か。それで魔族に狙われ、アルトリウスを護衛にし身を隠すように旅をしているのか。それなら話は全て繋がるな。

 

「ならば我々が姫を保護する大義名分もあるな。魔王が女神に倒されるまで保護しておけばラケダイ王国に恩も売れる。ラケダイには『姫と一緒に居るうちに親密になり婚姻を結んだ』と言っておけば良いだろう。改めて姫を迎えにいくぞ」

 

これも神の、いや女神の思し召し。彼女を我が国に導いてくださった事、感謝致します。

 




本人の知らないうちに設定が出来上がっていくステンノさん。
名前が似てる、特徴が似てる、噂を流したどっかの受付嬢、のせいで完全に勘違いされた模様。

イオリス「ごめんねステンノちゃん、喋っちゃった☆」


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