異世界で死にたくない最弱の女神   作:アイリスさん

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34話

謁見の間。壁の色合いが白、玉座が赤というだけでパイオスの玉座の間とよく似ている部屋。階段三段ほど高くなった玉座に向かって赤い絨毯が伸びている。その絨毯の両サイドに兵士……多分第一騎士団が左右に各六人ずつ規則正しく並んでる。

 

この絨毯だけでも高そうね。壁は……総大理石造りかしら。この部屋だけで幾ら掛かってるんだか。

 

二つ並んだ、金で彩られ座席部分に赤い布の張られた玉座の私から見て右側に座している人物。丁度アルゴリスに深い皺を追加して老けさせた……って言ったら失礼ね、年期と同時に威厳を感じさせる顔のミュケーナ王。

その御前で片膝を突き頭を下げる王子。その右側の半歩後ろで同じように頭を下げる私。ハァ、早く終わらないかしら。

 

「面を上げろ」

 

王の言葉で王子が顔を上げた。私はそれを横目で見て、少し遅れてから顔を上げる。

 

「父上、只今戻りました」

 

「うむ、話は聞いている。そのほうが?」

 

そのほう……あ、私の事か。自己紹介だっけ。カーテシー、っていうんだっけ?左足を斜め後ろ内側に引いて右足の膝を曲げて、両手でスカートの裾を持ち上げる。あ、これ不味い。筋力が足りない私の右足がプルプルしてる。ロングドレスのスカートに隠れて見えてはいないだろうけれど。早く終わってくれないと足が限界を迎えて倒れるかも。貴族令嬢ってやっぱり大変なのね。

 

「はじめまして陛下。ステノ・アミュクラース・フォン・ラケダイ、ですわ」

 

ステノ姫のフルネームはさっき王子が令嬢達に言ってたからね。あれは正直助かったわ。アルトリウスにそういう話を聞くの忘れてたからね。それにしてもこの状態で軽く頭を下げるの凄くシンドイ。そろそろ無理、早く、早く終わらせてお願い。

 

「二人とも楽にするがよい。しかし噂以上の美貌だな」

 

やっと楽に出来る。助かったわ。あと一秒でも遅かったら右足が限界で倒れてたかも。

 

ステノ姫本人も多分綺麗なんでしょうけれど、私ステンノだからね。私が美しいのは当然じゃないかしら。まあそのせいでこんな面倒事に巻き込まれているからそれが良い事とは一概には言えないけどね。

 

「私の婚約者ですぞ、父上」

 

「すまぬすまぬ。あまりに美しかったものでな」

 

二人の間の雰囲気は穏やかね。関係は良好……かしら。となると第二王子?とか他の王族との仲が気になる。乗っ取るなら国王と親密な第一王子を排除して傀儡として弟妹を立てるって方法もあるし。

 

「それで式はいつ頃挙げるのだ?早くワシを安心させろ」

 

「はい、準備などもありますのでひと月後に予定しています」

 

…………ん?式ってまさか結婚式?ひと月後って、そんな話聞いてないけど!?問題が落ち着いたら解放してくれるって話じゃなかったの?既成事実を作って逃げられないようにしに来た……?

カッサンドラさんの時の二の舞は避けたいし、ひと月以内に解決してオサラバしなきゃ。元婚約者を殺した犯人と、大蛇の発生原因と、国家転覆を狙ってる貴族令嬢探しと。これを私が自由に動ける時間内で探さないと。

……やる事が多いわ。頭痛くなってきた。この場で夢幻召喚して退場してやろうかしら?謁見終えたら王子に文句の一つも言ってやらなきゃ。

 

「そうか。して、我が息子よ。ステノ姫の警護は問題無いな?」

 

「万全を期しております」

 

アルトリウスとニュクティが居るから人間相手程度なら守りきれるとは思うけど、お風呂とか寝室とか男性が付き添えない場所もあるし。私が気を付けなきゃいけないのはそういう暗殺されやすい場面かしら。例のスプーンも持ち歩いた方がいいかな。逃げるだけなら最悪オダチェン礼装展開すれば何とかなりそうだけど万が一って事もあるからね。例えば国家の乗っ取りとか婚約者殺しとかした者が人間じゃ無かった、とかだった場合ね。

 

「うむ、もう下がって良いぞ。式を楽しみにしておるぞ」

 

「はい父上、では後程」

 

っと。挨拶はしないとね。「では陛下、失礼致しますわ」って口にして一礼。私は王子の後に付いて謁見の間から退出。あー疲れたわね。早速文句を言ってやりたい所だけど、部屋に移動するまで我慢。城の通路なんかで下手に王子と口論なんてしたらスキャンダルの格好のネタになるものね。流石にその程度は自重くらいする。

 

王子、それと謁見の間を出てから合流したシュリーマンさんの後ろを付いて歩く。こうやって並んで歩くと、二人とも身長高い。180cmくらいあるかしらね。にしても、アルトリウスもそうだけど180cmってこんなに見上げるようなものだったっけ?確か記憶だともう少し近い……っと、そうだ今私ステンノだから134cmしかないんだっけ。

通路は魔王城に似てはいるけど、床はフローリングのような板張り、壁は大理石ではないけれど白い……なんだろう、石灰とか石とかだと思う。天井からは等間隔でシャンデリアが釣り下がってるけど、魔王城の方が豪華だったというか……要するにそれ程の驚きは無い。王子達から見たら私が城内のこういう装飾を見慣れてるように見えたかも。だから余計にステノ姫本人だと勘違いしたかも知れない。

そうだ、例の本物のステノ姫も探したり出来ないかしらね?私の代わりにこの王子に上手いこと擦り付け……じゃなくて、くっ付けるとかすれば私は晴れて自由になるし。

 

「着いたよ、今日からここが貴女の部屋だ」

 

城の本棟から離れた四階建ての離宮の最上階。その最も南に位置する部屋が私に宛がわれた部屋。辿り着くには階段を上がり、一本道の通路を必ず通らないといけない。つまり城内からの侵入者に対してはこの通路さえ押さえておけばいいって事。他に侵入出来そうなのは窓くらいかしら。通路を塞がれたら私の逃げ道は窓しかなくなる、とも言えるけれど。

 

部屋の壁は淡いピンク色。天蓋付きの同様の淡いピンク色のベッドが置かれ、赤いクロスの張られた柔らかそうなソファ、それに足の部分に細かい装飾が掘られた木製の丸テーブル。それと細かな調度品が周囲に置かれてる。それから奥に黒く塗られた扉があって、中はクローゼットで私用のドレスや服。何だか魔王城の監禁部屋を思い出す。いや、ここもある意味監禁部屋、って言ってもいいのか。

 

部屋の中には一人の、メイド服を着た侍女が立っていた。長い黒髪にホワイトプリムの、茶色の瞳の女の人。身長は当然のように私よりも高い。多分……160cmくらいあると思う。スラッとした鼻筋に顔の各パーツもバランスの良い配置の人。ただ年齢は不詳。二十代……よね?多分。

 

「お久し振りです、王女殿下。ダナエでございます」

 

今私、表情保てているかしら。冷や汗が背中を流れるのが分かるわ。だって()()()()()って事はこの人ステノ姫と面識があるって事でしょう?ダナエ?さんの笑顔が怖い。

 

「…………ええと」

 

「ああ、申し訳ございません。私の事など覚えていないのは当然です。ラケダイで侍女をしていたと言っても王女殿下と直接お会いした事などありませんし、お姿をお見かけしたのもほんの数回、しかも離れた所からでしたし」

 

……そうなんだ、ならバレてないって事よね?いや、そもそも隠さないといけないのって王子が私の話を全く聞いてくれないせいなんだけど。

 

「改めて宜しくお願いします、王女殿下」

 

「ええ、よろしく」

 

表情が引き攣ってない事を祈りつつ、ぎこちない挨拶を返した。「ではダナエ、姫を頼む」って言って王子は部屋から出ていったわ。別室で待機してるニュクティとアルトリウスを呼びに行ったようね。彼等の部屋はこの階、通路沿いの一室になるみたい。

 

パタン、と扉が閉まり王子達の足音が遠くなって、やがて聞こえなくなる。そうして完全に離れるのを待っていたようにダナエさんが口を開いた。

 

「それで、王女殿下を騙る貴女は何者でしょうか?」

 

……当然そうなるわよね。これは王子の勘違いを説明しないと駄目そう。王女殿下の名を騙るとか大問題よね、ええ、知ってたわ。まあ私には『女神が理由があってやった事だから』っていう切り札があるけどね。

 

「何処から説明しようかしら」

 

一応私が女神だっていう所は伏せて話した。神殿の極秘任務で旅のハンターをしてるってね。それであの王子が話を聞いてくれなかった事も。ダナエさん「ああ、殿下らしいですね」って呆れてたわ。あの王子大丈夫なの?それとこのダナエさん、ラケダイでステノ姫の専属をしていた時期があるって。そりゃバレるに決まってるわね。

 

「それにしてもステンノ様は見た目はステノ王女殿下にソックリですね。性格は真逆といいますか、ステノ王女殿下はお転婆でしたので」

 

待って、どういう事?見た目ソックリ?つまり(ステンノ)みたいな絶世の完璧美少女が天然で存在してるって事?凄い、是非会ってみたいわ。並んだらまんまステンノとエウリュアレね。

……いやでも。(ステンノ)がステノ姫に似てる、じゃなくてステノ姫がステンノに似るように〈主神〉に調整されて生まれた、って考えた方が自然かも知れない。この展開も〈主神(アレ)〉の構想通り、って事じゃない?つまり私の選択は今の所正しい、って事でしょう。

 

「フォローはお任せください。それと相応の教育もさせて頂きますのでそのつもりで」

 

「えっと、お手柔らかに頼むわ」

 

その後ニュクティとアルトリウスが部屋に合流して、ダナエさんがアルトリウスの右手甲にある神殿騎士の証を確認したりしてたわ。

 

あ……ダナエさんのせいで王子に文句言うの忘れてた。

 

 

 

 

───────

 

「ご機嫌よう、殿下の新しい婚約者様」

 

ダナエさんの案内で城内を歩いていたら変な連中(令嬢数人)に絡まれたわ。この先頭の令嬢、ええと確か……何て言ったっけ、着いた時に王子の腕に抱き着いてた人。名前聞いた気がするけど憶えてない。

 

「どなただったかしら?」

 

私がそう答えると、彼女は明らかに苛立った様子。頬がピクピクいってる。頑張って笑顔は作ってるみたいだけど。

 

「メレグロス公爵が娘、アネイラですわっ!」

 

そうそう、アネイラ嬢ね。王子情報だと元婚約者の事故に関わってる可能性がある、曰く『疑わしいが証拠が何一つ無い。暗部の人間と繋がっている様子も一切無い』って危険人物。今度は薄い赤のフリフリのドレスか。私より頭一つ高い背、相変わらずの金髪縦ロールに濃い目の化粧、それでその化粧のせいでキツ目の顔に見える。何か如何にも悪役令嬢です!って感じの人。あと胸が大きい。

この人、素が折角綺麗なのに台無しね。気付いて無いのかしら?それにしてもダナエさんが居るとはいえアルトリウスとニュクティが傍に居ない今を狙って来たのねこの人達。

 

「それで、公爵令嬢の貴女が私に何の用かしら?」

 

出来れば関わりたく無いのだけれど。私の知らない間に勝手にボロを出して勝手に逮捕されてくれない?話すのも面倒。

 

「殿下の婚約者様に御挨拶を、と思っただけですわ」

 

「そう。態々ありがとう。私は用があるからこれで失礼するわ」

 

すれ違いざま、軽く頭を下げてその場を去ろうとした私の右足が何かに引っ掛かる。バランスを崩して倒れそうになったけどどうにか持ち直した。

 

「あーらワタクシとした事が申し訳ございません、足が滑ってしまいましたわ」ってアネイラ嬢の発言の後、取り巻き達がクスクス笑う。成る程ね、アネイラ嬢が足を出して私を転ばせようとした、と。

 

白々し過ぎる……何これ、ホントくっだらない。でも挨拶、ね。仕掛けて来るのはこれからって事か。それもこんなイタズラじゃ無くて命の危険があるような。心しておかなきゃ。

 

彼女達をそのまま無視して私はその場を立ち去った。当然私からは確認出来なかったけど残された彼女達、特にアネイラ嬢の表情は私への殺意と憎悪に染まっていた。

 

 

 

 

 

──────

 

「何なのですかあの女!あの余裕の態度も気に入りませんわ!」

 

人払いがしてあるお陰で部屋の中にも周囲にも人影は無い。アネイラは怒りに任せバンッ、と部屋のテーブルを叩く。

 

「ラケダイの第四王女?一体何処から湧いて出てきたというの!」

 

『まあそう荒れるな』

 

彼女の上……天井の方から男の声だけが聞こえる。苛立つアネイラが上を見上げ、その男の声に向かい怒鳴り散らす。

 

「折角あの忌々しい女を亡き者にしてやったのに!これでは全て台無しではありませんか!」

 

『誰が聞いているとも分からぬ、口にする言葉は選べよ』

 

「分かっておりますわ!」

 

ドカッ、と天蓋付きのベッドの真っ白なシーツの上に座り腕を組む。自身を落ち着かせるようにフーッと息を吐いて、再び天井の誰かを睨む。

 

「今度も上手くやってくれるのでしょうね?」

 

『ああ、問題無い。ステノ姫(アレ)を殺ればよいのだろう?』




カーテシーはソコソコ右足に負荷がかかる、やれば分かる。
悪役令嬢さんと黒幕の影をチラ見したところでまた。
ステノ姫もいつか何処かで出てくるでしょう多分。

次回は来月に。
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