異世界で死にたくない最弱の女神   作:アイリスさん

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35話

 

あれから一週間。何事も無かっ……些細な事はあったけど、今の所は命に関わるような状況にはなっていない。些細な……例えば何故か頭上から物が降ってきたりとか、防犯の為って思い付きで別の部屋で寝て翌朝自室に戻って来たらベッドの天蓋の柱が折れてて私が横になっていたであろう位置に刺さってたりとか。

分かってる。結構危ない目には遭ってる。常に誰かと一緒に居るから回避は出来てるってだけ。

 

それで。

当然のように両手にシルクの手袋装備の私は今、夕食を囲んでいるのだけれど。ボロが出ないか不安しかない。だって面子がテーブルの左奥にミュケーナ国王、その隣にサロニ王妃、右手奥に第一王子、その隣に私だもの。こんな事ならフランス料理とかのマナー本でも読んでおくんだった……いやでも前世で読んだ事がある、若しくはフランス料理のマナーくらい知ってたけど思い出せないって可能性もあるわけで。ああもう、なるようにしかならないか。困ったら『ラケダイではこうだった』ってしらばっくれよう。

王妃はストレスのせいか本人が気を付けているのかは知らないけどスラリとした体型、顔は……パーツは悪くないわね。瞳は青、王家の血じゃないみたいで髪は金。歳の割には老けていない。美容にも気を使ってるからかしら?今日は青いドレスを着てるわね。女の人みんな当たり前のように私より身長があるの何とかならないのかしら。

 

置かれたグラスに赤ワインが注がれる。お酒は前世ではそれなりに飲んでいたけれど、この体になってからこんなふうに落ち着いて飲むの初めてかもね。だってこの世界は日本と違って油断ならないからね。

 

「フム、では我が息子の婚約に乾杯するとしよう」

 

王様がグラスを掲げる。このワインもそうだけど、料理から何から毒味はされてる筈だからそこは気を抜いてもいいよね?それじゃワイン一口…………う…………思ったより雑味が……前世の洗練されたワインと比べるのは善くないけど……イマイチ、かしら。まあ飲めなくはない、かな?

 

飲み過ぎて酔っても危険だし、水を飲んでおこう。赤ワインのグラスの隣に置かれた水の入ったグラス、この中の氷って魔法とかで作ってるのかしら、それとも冷凍庫とか……まあ魔道具があるんだし冷凍庫があってもおかしくないわね。丁度適度に氷が溶け出して冷たそうだし、一口。

ゴクン。

 

これ炭酸水じゃ無いよね?口の中がピリピリしてきた。あれ?何だか体が痺れて……心なしか呼吸が辛いような……え。

姿勢を維持できなくなった私は、目の前のグラスを両手で払いのけるようにして右側に向かって倒れ、椅子から落ちて床に転がった。体が寒い、呼吸が苦しい、全身が痺れる。まさか毒?どうやって?

 

「ステノ!」って王子の声と誰かに指示を出す王様の声が重なった。視界に入ってる範囲でだけど王妃の驚き慌てた様子も。

……駄目、もう頭が回らない。

 

「治癒師を呼べ」って王様の声が。

業を煮やしたのか絶対に足が付かない自信からか毒殺を仕掛けてきた。今後は……直接手を出してくる事を覚悟した方が良さそう。

 

 

 

 

 

私を診た治癒師に依ると、やっぱり毒。私の症状からみて毒性はそれ程でも無いのでは、って言ってたけど。そんな筈は無い。大蛇の毒でも死ななかった私が呼吸が苦しくなって動けず倒れるくらいだし致死性の毒じゃないかしら。詳しく調べるのはこれからみたいだけど。

 

ワインもそうだけど、水といえど毒味はされてるし、グラスも王族用だから洗ってから厳重に保管されてた。何処で混入されたかは分からないらしいわ。あの何だっけ……そうアネイラ。彼女が付け入る隙なんて何処にも無かったしね。彼女にもし協力者が居るのだとしたらステンノのような高レベルの気配遮断スキルを持ってるか、王族の身近な人物って事になる。彼女が犯人でも尻尾を掴めないのは無理も無いわね。

 

にしても、まさか早々にベッドに寝込む事になるとはね。周囲から隠すように抱えて部屋まで運んでくれたのはアルトリウス。薬の効果もあってか症状は今は落ち着いてるわ。それと城内には今回の事は箝口令が敷かれてる。

 

ピンク色のネグリジェ姿で部屋のベッドに横になって……やる事が無いとそれはそれで退屈。スマホでも有ればなぁ。FGOの周回プレイとかもう懐かしいわね。あれから新規のサーヴァントは誰が実装されたんだろう。

 

「なあ、もうこの城から脱出してもいいんじゃないか?大蛇とかよりステンノの命の方が大事だろ」

 

ずっと傍に付いて手を握ってくれてるニュクティが心配そうに口にする。アルトリウスは扉の外を見張ってくれてるわ。因みにアルトリウスの格好は第三騎士団と同じ鎧。ニュクティは小さな執事服姿。なかなか似合ってるわ。

 

そうね、私だって自分の命の方が大事。でも人間相手にやられっぱなしっていうのもね。どうにかしてあのアネ……何だっけ……そうだアネイラ、を牢獄へぶち込んでやらないと。

 

「分かってる。でも乗り掛かった船だしね。これで相手も私には毒は効果が薄いって分かったと思うし、今後は直接殺しに来ると思うから。そうしたら幾らでもやりようはあるでしょう?貴方の力も貸して欲しいし。ね?」

 

私は右手でニュクティの頭を撫でる。頬が赤くなったニュクティは視線を逸らす。ホント、この子の反応は素直ね。

それにまだ体はダルいけれど痺れは取れてる。準備だけはしておかなきゃ。

 

コンコン、とノックがした。「失礼します」って入って来たのはダナエさん。その手には羽ペンと羊皮紙。これもその準備の一つで、さっき彼女に頼んでおいたのよね。

 

「言われた通りお持ちしました」

 

「ええ、ありがとうダナエさん」

 

「何度も言いますが、ダナエ、で結構ですので」

 

本当の身分は兎も角、ここでは私はステノ姫でダナエさんはその侍女、って立場だから『さん』付けするなって何度か言われたのよね。私としては信頼出来そうな歳上のダナエさんを呼び捨てにするのは憚られる。あのカッサンドラさんの事ですら『さん』付けしてるし。

 

「分かったわ、それなら他の人間が居る時はそうする。これで妥協してくれない?」

 

「頑固なところだけはステノ王女殿下と同じですか。仕方ありませんね。それで妥協しましょう」

 

フフッって笑ったダナエさんから、1m四方の大きめの羊皮紙数枚と羽ペンを受け取った。今からここに書くものはアムラエルさんに私の頭の中に投影して焼き付けて貰った魔法陣。毎回描いてもいいのだけれどどうしても時間が掛かるからね。なら予め魔法陣だけ用意しておけば早いでしょう?ゲームとか小説とかの魔法のスクロールみたいな感じね。ま、詠唱は毎回しなきゃいけないだろうけど。

ヨロヨロとベッドから降りようとして……「まだ駄目だろ!」ってニュクティに止められる。それはそう、なんだけど早ければ早いに越した事は無いと思うの。もしかしたら今夜にも暗殺に来るかも知れないでしょう?

 

「大丈夫だから。備えはしておかないとね」

 

「それでダナエにはあの事話したのか?」

 

まだ話してないけど、どうしようか。私が件の女神だっていうの、ダナエさんに言っておくべき?彼女には色々お世話になってるし、私の事を黙ってくれてるし。それに彼女は私側に引き入れておいた方がいい気がするのよね、何となくだけど。ほら、後で王宮から逃走する時に手を貸してくれそうじゃない?

 

「…………そうね。ニュクティ、カーテンを全て閉めてもらえる?それと一応アルトリウスに『絶対誰も通すな』って言っておいて」

 

「分かったよ」

 

「あの、ステンノ様。今から何をなさるのですか?」

 

見てのお楽しみ、ってね。

さて、羽ペンに魔力を通して。頭の中の魔法陣をサラサラと羊皮紙に描いていく。アッサリと描き上がったそれを床に置いて。それじゃやりますか。

 

「…………告げる!」

 

 

 

 

───────

 

「羊皮紙は……成る程、一回で駄目みたいね」

 

羊皮紙は夢幻召喚一回でボロボロになった。ゲームとか同様使い捨てか、まあ仕方無いわね。

 

「あの……ええと……そのお姿は……?」

 

流石のダナエさんも驚いたか。何処からどう見ても女神、だものねこの姿だと。

 

「言ってなかったかしら?私、例の女神だから」

 

わざとらしく言ってみる。人を驚かすのってちょっと楽しいわよね。あ、ダナエさん腰を抜かして座り込んだわね。流石に目の前に女神が現れたとなればね。

 

さてそれじゃ誰かに見付からないうちに元の姿に戻りましょうか。宝具を使わなくても多分任意に解除出来ると思うのよね。あ、ニュクティが私の手を見てる?違う、私の手の甲を……って、駄目よ、駄目!『女神のきらめき』見つめ続けたりしちゃったら目が潰れちゃう!

 

「ニュクティ、駄目よ!目を離して!」

 

「うえっ、わっ、分かったよ」

 

ふぅ、危ない危ない。『女神のきらめき』は女神ステンノのきらめきそのものの具現。眩くも美しい恒星以上の、女神そのものの輝き。まともに見たら目が幾らあっても足りないわ。

 

もう危ないし解除、と。やっぱり思った通り任意で解けるわね。

これでいざって時の準備は大丈夫ね。

……あ。もしもこの件の黒幕が魔族だったら今ので私の居場所がバレたかも知れない。そこまで頭回らなかったわ。その時は逃げるしかないか。魔族でもパイオスや幹部クラスでも出て来ない限りは何とかなる……よね、多分。

 

あとは護身用にスプーンだけ携帯して、と。

 

今日はもう流石に仕掛けては来ない、とは思うけど。一応ニュクティ達の部屋で寝かせてもらおうかな。ニュクティやアルトリウスと一緒に寝るなんてこれ迄何度もあったから今更だし。それに彼等の方がカッサンドラさんと寝るよりも余程安全だしね。

 

 

 

 

───────

 

「はぁ!?死んでない!?また失敗しましたの!?」

 

アネイラめ、ヒステリックに叫びおって。イチイチ喧しい令嬢だ。こっちは目的の為に利用しているだけだというのに。あまり煩いようならコイツから消してくれようか。

 

しかしステノ姫め、毒では死ななかったか。大蛇の毒を受けて生き延びたのは知っていたからな、致死量を大幅に越える毒を盛ったつもりだったが……ステノ姫自体に毒への耐性があるのか、はたまた魔法で抵抗したか。

 

『煩い。自分の部屋の中でも警戒しろ。周りに聞かれたらどうする。こっちは何も組むのはお前でなくとも構わんのだぞ?』

 

少しばかり殺気を込めて睨んでやったら「ひっ…………もっ、申し訳ありません。イライラしていて少しばかり口が過ぎましたわ」と怯えて謝ってきたか。フン、始めからそうしておれば良いのだ。

 

『兎に角これでステノ姫には毒が効き難いのが分かった』

 

「効き難い?効かない、ではなくて?」

 

つくづく頭の悪い女だ。効かないのであれば口にしても何の変化も無い筈だからな。倒れた上にベッドに伏す羽目になった、という事はそれなりに効き目はあるという事。

 

『そうだ、効き目が有るならばやりようはある。これ以上警備が厳しくならないうちに仕掛ける』

 

殺るならばステノ姫に警護が居ない隙だ。やれやれ、半端に力を持った相手はこれだから面倒だ。前の公爵令嬢相手の時は馬車を崖から横転させ炎上させるだけで良かったからな。

 

魔法が使える程度の一介の王女ごときに負ける要因も無いが……あの美貌は殺すには少しばかり惜しいな。アネイラの代わりに俺の女にでもするか?




毒殺未遂に遭ったステンノさん。次は犯人と直接対決……?

昨日ミス・クレーン引けました。呼符で☆5は都市伝説だと思ってました。

今月の更新はゆっくりめで。今月中に片付けないといけない書類が……
ウマ娘と戯れてるから遅くなる訳では決してない、それは理由の半分だ
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