今話と次話早めに投下します。
その次は……来月になるかもです。
ハァ。
溜め息も出る。だって私は今、王子と二人きりなんだもの。この人と恋愛ごっこや夫婦ごっこをする気なんて更々無い。いい加減諦めて解放して欲しい。
私の今日の格好は、装飾の無いシンプルな淡い青のロングドレス。それと『王子と二人きりになる』って言ったら、何故かダナエさんにフリルの付いた薄紫色の布地の少ない下着を着せられたわ。だから私は王子と一緒になる気は無い、って言ったよね?女神だってバラしたよね?ね?……あっそうだあの人は王子側の人間だったわ。
王子の方は私に合わせたのか、青のフロック・コート。
そういえば此処に来る時に国のお金が目当ての侯爵令嬢……ええと……確かメネー嬢、だったわねあの冴えない顔の人、その人が凄い目つきで私を睨んでたけどアレ放置でいいのかしらね?王子がそれでいいなら私の関与する事じゃ無いんだろうけど。
私達の警護に付いてるのはシュリーマンさん。本当はニュクティかアルトリウスに居て欲しい所だけれど、シュリーマンさんが居る代わりに二人に休んで貰う事になった。二人とも私のせいでずっと気を張ってくれてたし。シュリーマンさんなら王子の腹心だしね。
念の為に魔法陣を描いた羊皮紙を数回折って巻いたものを右足の太股のホルスターに付けて持ってきてるし。取り出すにはドレスのスカートを捲る必要があるけど、緊急時にそんな事気にしてられないからね。
今居る場所は、王家以外の人間は立ち入れない、城の一部を改装して作られた庭園。つまりは城の中にある広い部屋、かな。中は国中から集められた珍しい植物や、綺麗な花で彩られた花壇なんかが整然と並んでいる。ほら、よくある西洋の城の手入れされた庭園って感じね。
窓はあっても小さくて人間が出入りするのは不可能だから、入口は実質一つ。つまりシュリーマンさんがそこさえ守っていれば不審者は侵入出来ない。
別の言い方をすると、私もこの空間から逃げられないってわけだけど。二人きりなのをいい事に妙な事しようとしたら股関でも蹴り上げてやろうかしら。
部屋の中なのに、お誂え向きにベンチまであるし。え、座るの?私も?ハァ。
「それでステノ姫、そろそろ考えてくれたかい?」
「考えるも何も外堀を埋めて選択肢を無くしてるのはそっちじゃないかしら」
この王子の態とらしさ。でも見ていなさい。貴方の思うようにはいかない事があるのを教えてあげる。
ん、何だか鼻につく臭い……薬品臭いような?植物に与えてる栄養剤か何かかしら。過敏に反応したらおかしいのかも。
いや、違うみたい。王子も「何の臭いだ?」ってちょっと顔をしかめてる。
足元に霧が立ち込めてきた。何これ。シュリーマンさんを呼んだ方が良い事案かも知れない。そうしているうちに霧が増えて、ベンチから立った私達の頭くらいまでになって。王子が突然私に抱き着いて来た。ちょっと、こんな時に何考えてるの!本当に股関蹴り飛ばしてや……って違う、凭れ掛かって来ただけね、それも王子ってば眠ってる。どう見てもこの霧のせいね。でも私全然眠くならないけど?取りあえず王子はベンチに横にしておこう。私一人じゃ運べないし。
「ステノ姫!殿下もご無事ですか!」
異変を察知したようで、シュリーマンさんが走って来るのが見える。兎に角ココを離れないとね。直ぐ気付いて来てくれて助かったわ。
「良かった。シュリーマンさん、手を貸してくれる?殿下を連れていかないと」
「姫はコチラへ!早く!」
え?あれっ?王子はベンチに横になって眠ったままなんだけど放っておいていいの?シュリーマンさんは私の右手を掴んで無理矢理引っ張り植物の中を通って何処かへ走る。シュリーマンさんが掻き分けた草が私の手や顔に当たってくすぐったい。ドレスにも擦れて汚れるし、足元も土だし。それに待って、入口って反対方向でしょう、何処へ行くの?こっちの方向に非常口でもあるの?
壁際まで来て、漸くシュリーマンさんは立ち止まった。ココ、何も無いじゃない。隠し通路とかがあるようには見えない。
私の方を振り返ったシュリーマンさんが「あの霧が効かないとは。やはり面倒な相手だな」って呟いた。何を……言ってるの?
「これだから
「シュリーマン……さん?」
状況を飲み込めない私の両手の掌を左手で掴んだシュリーマンさんは、そのまま私を壁に背中から押し付けた。「ちょっと、痛いじゃない」って抗議した私の口がシュリーマンさんの右手で塞がれた。掴まれた両掌は私の頭の上で壁に押し付けられて。丁度両手を鎖で壁に拘束された捕虜のような格好。
互いの顔が触れるかというくらいまで近付いたシュリーマンさん。私とこの男の体の距離もほんの数センチしかない。
「そう睨むな。俺と取引しないか?お前と俺で組んでこの国を乗っ取るというのはどうだ?お前はアネイラより遥かに良い女だ。殺すには惜しい。だが断ると言うなら……」
私の左の耳元でそう囁いたシュリーマンさんがその右足で私の左側の壁を蹴った。足が当たった部分が破壊され、クレーターのような円形の窪みが出来て城壁の破片が辺りに散らばる。まさかこの人が乗っ取りの黒幕なの?
鎧を着ていない軍服姿のシュリーマンさんの、軍靴での蹴りの筈なのに人間にしては異常な力の強さだわ。こんな威力のものが私に当たったら……。額から冷や汗が。
手を貸すつもりは無いけれど、どうしたらいいの?とんでもない力で拘束されていて両手は全く動かせない。せめて手がもう少し低い位置にあればガンドが使えるかも知れないのに。
「と言ってもお前の意思に関わらず俺に従ってもらうがな」
シュリーマンさんの背中から、蠢く何かが何本も生えてくる。黒、紫の鱗に赤い瞳を持った蛇が何匹も。外見は大蛇とそっくり。大蛇達もこの男が?
落ち着け私。あの〈
「安心しろ、人払いの結界を張ってやった。これで心おきなくグボァッ!?!?」
私は右足を思いきり蹴り上げた。この体、筋力は無くても柔軟性はあるからね。右足の爪先は見事にシュリーマンさんの股関にヒット。流石のコイツも思わず私から手を離しその場に両膝を付いた。よし、上手くいった。
股関を押さえたままのシュリーマンさんが私を睨む。悪いのはそっちでしょう、当然の報いだから。
それじゃ、ニュクティ達と合流する為に少しでも時間を稼がないと。不本意だけれど王子も連れて逃げる必要があるし。
私は礼装を展開して、右足太股に付けておいた羊皮紙を広げる。シュリーマンさんはまだ動けてはいないけどそろそろガンドで足止めする必要がありそう。
「……ガンド!」
私の左手の指から放たれたガンドがシュリーマンさんに直撃。両膝を付いたままその場に硬直してるわ。これで夢幻召喚する時間くらいは稼げ……。
「その格好……
羊皮紙に右手を置いたまま、思わず止まってしまった。この男、今カルデアって言った?カルデアって……まさかこの礼装を着た女って
……駄目、考えるのは後にしよう。今は、そう。一先ず詠唱に集中しないと。
「告げる!」
私の様子に気付いたシュリーマンさん、必死に体を動かそうとしてる。
焦る気持ちを抑えて私は必死に言葉を紡ぐ。これが間に合わなかったら……ニュクティ達が気付くより早くシュリーマンさんに捕まれば私に逃げる術は無い。
「───汝 三大の言霊を纏う七天!
抑止の輪より来たれ 天秤の」
痛っ!?何!?左手の二の腕と左足の脛に痛みが…………あ、紫の鱗の蛇が腕に一匹、足に二匹噛み付いてる。
痛いっ、また……今度は右足の甲に一匹。あっ、嫌だ、痛い、痛い、首の右側にも噛み付かれた。体が痺れてきて力が抜けていく。私はその場にアヒル座りでへたり込んだ。呼吸が……段々苦しくなってくる。体が上手く動かなくなって……不味い。あと少し、なのに。
「守り……て……『
なんとか詠唱を終えてステンノを夢幻召喚出来たけど既に私の体は痺れ、幾ら呼吸を繰り返しても息が苦しい。噛み付いていた蛇は魔力で振り落としたけど、視界がぼやける。幾らサーヴァントの力があっても、行使する側の私がこの状態では……。
焦点が上手く定まらない私の瞳に、こっちへ歩いて向かってくるシュリーマンさんが映る。そうだ、逃げないと。幸いまだ思考は回る。向こうに魅了が効いてる様子も無いし、体の制御を魔力任せにしてこの場を脱しないと。もう王子にまで気を回してる余裕は無い。
「そうか、ステノ姫。お前あの盾持ちと同じデミ・サーヴァントか。ならばマスターのあの女も何処かに居るな?丁度いい。お前をカルデアへの見せしめに八つ裂きにしてやる。あの女の絶望する顔を見るのも一興。精々苦しみ泣き喚いて死ね」
やっぱりこいつカルデアを知ってる。でもFGOにシュリーマンさんが出て来るようなイベントとかあった?それとも本編のほう?記憶が歯抜けなせいで私が覚えてないだけ?
私は全身に魔力を回して、その噴射で後方へと下がりながら逃げる。毒の回りが早い。体はもう殆んど動かせないし重いし、呼吸も辛い。魔力を制御するのがやっと。
シュリーマンさんが右手を翳す。その腕より二回り程太い大蛇が現れて、私に向かって飛んでくる。撃ち落とさなきゃ。右手を上げようとしたけど動いてくれない。魔力弾での迎撃すら出来ない。魔力の制御も徐々に鈍り急激に失速した私は、庭園内の観葉植物の並ぶ地面に落ちた。もう少しで部屋の出口なのに。
右掌に魔力の刃を辛うじて展開して、私が倒れたところに向かって来た大蛇の頭に突き刺す。大蛇は力尽きたのか消滅したけど、私のほうもそろそろ限界。これ以上は夢幻召喚を維持出来そうもない。……そうだ、宝具があるじゃない。
───宝具・
…………うそ、効いてない!?どうしてっ!
平然として歩いて来るシュリーマンさんは「漸く捕まえたぞ、カルデアの犬め」って吐き捨てて私の首に右手を向けた。その手から現れた紫の鱗の蛇が、夢幻召喚が解けてドレス姿に戻った私の左の鎖骨辺りに噛み付く。あ、あ、何かが、毒が、私の体に流れ込んでくる。自分の体じゃ無いかのように、まるで糸の切れた操り人形のように自分の意思では指一本も動かせなくなった。呼吸が、幾ら酸素を取り込んでも苦しいまま。嫌だ、イヤ、死にたくない。
「殺す前に犯しておくか。その方が奴等の絶望も深くなるしな」
またなの?でも今回は流石に助けは……。
ボロボロと涙が溢れてくる。絶望に染まった私の顔を、舌なめずりして眺めるシュリーマンさんのその舌は人間のものでは無く蛇のそれ。
「それはさておき、だ。さっき俺の股関を蹴りやがった右足にお仕置きしないと、なぁ?」
シュリーマンさんが、私の右足の脛を踏みつけた。動かせなくとも脳天を突くような激痛は感じて。私は文字通り泣き喚いた。シュリーマンさんは私の、変な方向に複雑に折れた右足脛を眺めた後にニヤリと笑う。
「さて、次はどうする?ここか?」
シュリーマンさんは、いとも簡単に私のドレスのスカート部分を破り捨てた。当然私の太股や下着は露にされた。私が、私が貴方に何をしたっていうの。王子に無理矢理連れて来られただけなのに。
「何だ、姫は欲求不満だったのか。なら遠慮なくヤらせてもらうとするか」
何も。何も打つ手が無い。私、今度こそここまでなんだ。本当に、もう……。
「やめろ、シュリーマン!」
そんな時。シュリーマンさんの背中から聞こえた声の主は、王子。起きたのね。でも無理よ、カルデア絡みならシュリーマンさんは多分サーヴァントの類い。只の人間の王子が勝てる相手じゃ無い。状況は全く好転してない。単に私が蹂躙されて殺されるのが少し伸びただけ。
「あーあ、見られちまったか。やむを得ませんね殿下。この女を始末したら次に殿下を殺して差し上げますよ」ってニヤニヤしながら話すシュリーマンさんは、視線を私から王子の方へと変えた。
「だから殿下、邪魔しないでくれませんかねぇ」
「……そうはいかない。ステノ姫、今助ける」
アネイラ嬢除いたら黒幕シュリーマンしか居ないからね、知ってた()
金的喰らって悶えるシュリーマンはどうやらカルデアを知ってる様子。怪力、大蛇から想像できる彼の真名は……
ステンノさんがピンチに陥るのはもはや平常運転。