異世界で死にたくない最弱の女神   作:アイリスさん

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ということで37話投下。


37話

王子が腰に差していた剣を抜いて構えた。それと向かい合う一方のシュリーマンさんは身の丈と同じくらいの長さの、私の腕くらいの胴回りの黒い蛇を生み出す。蛇はまるで棒のように頭から尻尾の先まで一直線になって固まり、彼はそれを槍のように構える。

 

「シュリーマン、まさかお前が魔族だったとは」

 

「魔族?あんな『只の世界の歯車として造られた』下等生物と一緒にしないでくれませんか。コッチはれっきとした蛇神の子孫なんでね」

 

毒蛇や大蛇を大量に生み出して王子を嬲り殺しにも出来る筈なのにそれをしようとしない。人払いの結界があるから目撃されない自信があるのね。きっとシュリーマンさんにとっては余興、つまり本命は私で王子はお遊びなんだ。

 

王子が踏み込んで剣を振り下ろし、シュリーマンさんが蛇の槍を右手一本で振るいそれを受け止める。ガキン、と金属音。勿論シュリーマンさんが使ってる蛇には傷一つ付いてない。

 

「何て力だ。今まで隠していたのか」

 

「当たり前でしょう?乗っ取る予定の国の王子に教えるわけないでしょう?……ったく、殿下相手に敬語が癖になってやがるな」

 

王子の方は表情にも全く余裕が無い。シュリーマンさんはヘラヘラと笑いながら、まるで子供のチャンバラの相手をするかのように王子の剣をいなしている。やっぱりまるで相手になってない。王子だって一応騎士団の団長の筈なのに。

 

「そろそろ実力差くらい分かったでしょう。その辺で横にでもなってて下さいよ」

 

シュリーマンさんの手数が急激に増える。蛇の尾の方を王子に向けて何度も突きを繰り出してる。一方の王子は避けるのがやっと。頭や胸なんかを狙った突きを剣でなんとか防いだりはしてるから致命傷にはなってないけど傷が増えていってる。

 

まぐれ当たりでも何でもいい、シュリーマンさんの動きを止められるような箇所に攻撃を当てて。そうすれば私を抱えて逃げられるでしょう?こういう時くらい王子様らしい所を見せて。でないと私が……。

 

遂にというべきか、剣が蛇の槍に弾かれ王子の手から落ちる。その隙を見逃さずシュリーマンさんが王子の溝尾を蹴り飛ばした。まるでサッカーボールのように転がりながら飛んでいってた王子が壁に激突。その場に倒れ込む。

 

「ぐっ……くそ……」

 

「さて殿下。そこで貴方の大切な女が犯され殺される所でも眺めてあの世で後悔でもしてて下さい」

 

王子は立ち上がれそうにない。持っていた蛇槍をその場に突き立ててその蛇に王子の監視を任せたシュリーマンさんが、今度は私の方へと向かい歩いてくる。ヤダ、死にたくない、犯されたくない、私の体はどうして動いてくれないの?本当に私に出来る事は無いの?

 

再び涙が溢れ出てきたわ。私の目の前まで来たシュリーマンさんは私の泣き顔を見て口角をつり上げて……私の左脇腹を蹴り上げた。激痛と共にゴロゴロと地面を転がり、十m程先で止まった。

 

「ゲホッ、ゲホッ、ゲホッ」

 

私は喉の奥から込み上げてきた血を吐き出した。只でさえ息が苦しいのに、それに体の内側の痛みも追加された。これ、シュリーマンさんが殺す気が無くても犯されてる最中に私死ぬんじゃないかしら……。

直ぐに追い付いたシュリーマンさんに、私のドレスの残りも破かれた。

「やめ……やめろ、やめろシュリーマン」って遠くで口にしてる王子の声が聞こえる。遠くで……そうだ。

礼装の展開くらいは出来る。オダチェン礼装のオダチェン礼装たる所以、最後に見せてあげるわ。ほんのちょっとかも知れないけれど、シュリーマンさんの鼻を明かすくらいしよう。

 

礼装を展開、使うスキルはオーダーチェンジ。私は向こうの壁際へと瞬時に移動し、代わりに王子が私の居た位置に。

 

「この(アマ)、ふざけた真似を」

 

シュリーマンさん怒ってるみたい。どうかしら、簡単に貴方の思い通りにはなってやらないんだから。そろそろガンドも使える筈だし。幸い私の右手の指はシュリーマンさんの方を向いてる。もう少しだけ抵抗してやるんだから。……コイツに犯されるなんて絶対イヤだもの。

 

シュリーマンさんの元へ、私の側の地面に刺さっていた蛇槍の蛇がウネウネと体をくねらせて戻っていく。今度は何?あ、シュリーマンさんの手元でまた槍に戻ったわ。それを投擲の構えで……私の方を狙って……。

 

「興醒めだ。もう死ね」

 

投げられた蛇槍が真っ直ぐ私の方へ向かって来る。このままだと私の脳天に当たる……こっちは動けないのに。うそ……。

死への恐怖に思わず両目を瞑った。もうすぐあの槍が私を貫いて……。

 

1秒、2秒、3秒、4秒。あれ、私、死んで無い?あの状況で蛇槍が外れるなんて有り得ない。そういえば風の音が聞こえたような。

 

恐る恐る目を開く。私の目の前には一頭の馬が立っていた。白く綺麗な毛並みに立派な鬣の、体格の良い馬が私に背を向けている。何これ。この馬、何処から来たの?蛇槍は何処へ?

 

「ニッカール!」って王子の声。この馬の名前?もしかして王子の馬なのかしら。結界は人払いは出来ても馬には効かない?もしも私と王子を助けに来たとしたら、何て賢いの。この馬に乗れれば逃げられるかも知れないけど今の私じゃとてもそんな事出来ないし。

 

ニッカール、と呼ばれた白馬が右前足で地面を蹴ると部屋の中にも関わらず暴風雨が吹き抜けた。ピンポイントでシュリーマンさんに吹き付けた暴風雨が彼を吹き飛ばして向こうの壁へと激突させた。馬が風を操れる?もしかして蛇槍から私を守ったのも今の風?助けてくれるの?風の魔法が使える馬……この馬、魔物か何かかしら。

 

私の心の中に直接『人の子よ、借りは返した』って声が響いて、目の前に居た馬は突然霞のように消えた。今のってニッカールの声?でも待って、消えないで私を逃がしてよ、お願いだから。

 

 

 

「ステンノ!」

 

入口から声がした。ニュクティの声だわ。まさか今の馬が結界を消してニュクティ達を連れて来てくれた?そういえば『借りは返した』って、あの馬と何処かで会ったかしら?白馬……思い当たるような事、無いけど。

 

そんな事を考えている間にニュクティが私の所へ到着。私はオダチェン礼装展開したままだから裸は見られなかったわ。自力では動けないし上手く喋れないから私の状態伝えられないのよね。礼装を着ていても右足の状態には気付いたみたいだけど。

 

「王子にやられたのか!?」って王子を睨むニュクティに「違う、アイツだ、シュリーマンだ」って向こうに飛ばされたシュリーマンを差し示す王子。少し遅れて庭園に入って来た、騎士団の鎧を着たアルトリウスがいち早く殺気に気付いてシュリーマンさんに天羽々斬を向けた。

立ち上がったシュリーマンさん、二人に気付いたわね。私を支えるニュクティを一嘗したあとアルトリウスを見て……驚きの声をあげたようね。

 

「天羽々斬だと!?何故その剣がここにあるのだ!くそっ、くそくそっ、これだからカルデアは!」

 

明らかに動揺してるシュリーマンさん。天羽々斬が大蛇キラーだって知ってるんだ。だとすると彼の正体は八岐大蛇かそれに連なる何かか。

 

「アルトリウス!」ってニュクティの声に「分かった!」と一言だけ答えたアルトリウスが、剣を構えシュリーマンさんへと向かって走る。シュリーマンさんはその腕より太い胴回りの大蛇を何匹も生み出して放つけど、アルトリウスはそれを一匹一匹確実に切り落としていく。アルトリウスの剣技もあるけど、天羽々斬の効果もあってあっという間にその距離は縮んで……アルトリウスが振り下ろした天羽々斬は、シュリーマンさんの右肩から左脇腹にかけてを切断。力を失ってドサリ、とうつ伏せに倒れるシュリーマンさん。勝負あった、のかしら。流石は八岐大蛇退治の神剣ね。

 

王子は漸く立ち上がって、動けない私を抱え上げる。ニュクティは牽制の眼差しを王子に向けつつその左隣を歩いて、私達はアルトリウスが注視したままの倒れ伏したシュリーマンさんの所へ。

 

「もう少し、だったというのに。もう少しでこの国と八岐大蛇(我が先祖)の力を手に入れられたというのに。前世では我が子に、今世でも貴様等ごときに邪魔されるとは……」

 

そこまで口にして、シュリーマンさんは息絶えた。その死体は頭が四つある、人間の倍はあろうかという大蛇に変わったわ。これで終わった……のよね?シュリーマンさんが黒幕ならこの国の大蛇騒動は終結するよね?

 

私はそこで漸く意識を手放した。本来なら首を咬まれた時点で気を失っててもおかしくはなかったけど、もしもその時点で意識が無くなってたら確実に死んでいたわ。

 

 

 

 

 

 

 

それから。王宮内は慌ただしかったわ。ううん、現在進行形で慌ただしい。

先ず私が騎士団の副団長に襲われた、っていう事自体が大問題。私はステノ姫だと思われたままだし、下手するとミュケーナとラケダイの戦争に為りかねないし、そうなると当然非はミュケーナ側にあるし。

それに第一王子の側近が国家転覆を狙ってた犯人かつ大蛇騒動の元凶だったっていうのも問題だし。

 

私は結局、毒のせいで数日寝込んだ。正確にいうと、3日間目を覚まさなかった。足は治癒師が数日掛かりで治癒魔法を施してはくれたから治ってはいるけれど少しリハビリが必要。普通に歩くと違和感があるし少し痛むから、どうしても右足を少し引き摺る感じになる。あの時シュリーマンさんの血を飲めていればここまでの状態にはならなかったと思うけど仕方無いか。

 

それと私がシュリーマンさんに下着姿にまでされた事を知ってニュクティが王子をずっと睨んでたわね。気を失った時に礼装が解除されて、そしたら私が着てるのが下着のみで、王子の腕の中だったからね。嫉妬とか色々ね。

 

アネイラ嬢は拘束、幽閉。多分死刑になるんじゃないかしら。アネイラ嬢もシュリーマンさんも繋がってる証拠は何一つ残してない、と思いきや。シュリーマンさんが死ぬと解ける隠蔽魔法でシュリーマンさんの部屋から出てきた物的証拠のお陰。シュリーマンさんも自分だけが死に損にならないようにしてたみたい。

 

ま、一番の問題は、王子が『ステノ姫以外とは結婚しない』って宣言しちゃった事なんだけどね。他の令嬢達も諦めざるを得なかったようだし。

私はニュクティとアルトリウスと一緒にこの国脱出するから後の事なんて知らないけどね。

ペイシストスにも一度戻らないといけないし。私は本調子には程遠いうえ、右足の違和感を治してもらう為にカッサンドラさんに会いにいかないといけない。事の顛末……というか、FGO(私の前世の平行世界?)のサーヴァントの生まれ変わりがこの世界に流れて来てる可能性っていうのも一応神殿には報告しておいた方がいい。

 

八岐大蛇(蛇神)の子孫で天羽々斬を知ってる、カルデアに子がいる、って事を考慮するとシュリーマンさんは多分、酒呑童子の父親の『伊吹弥三郎』の生まれ変わりじゃないかしらね。

……どうして私そういう事は憶えてるのに料理の事とかは何一つ憶えて無いのかしら。どうせならもっと日常の役に立つ知識を憶えてたかったわ。

 

兎に角、今回も何とか生き延びたわ。というか主神の加護って『どんなにボロボロになろうが生死を彷徨おうが生き延びられる』っていう効果なんじゃないかしらね。

 

そういえば。結局あの私を助けてくれたニッカールって馬、何だったのかしら。王子に聞いても『野良で休んでいた所を拾った、名前は何故かニッカールが思い浮かんだ』って言ってたし、あの後何故か姿を消しているし。

 

ま、いいわ。私達は昨日の夜のうちにもう王都デロスを出発したしね。私の気配遮断にかかれば城を出るなんて簡単だったわ。大丈夫、ちゃんと『聖女に会わないといけないからペイシストスの神殿へ行きます』って書き置きしてきたから。結婚?本物のステノ姫がすれば良いと思うけど。

 

 

 

 

 

────────

 

 

 

 

「エニュ、もうすぐゼメリングだよ!ほら、街が見えてきた!」

 

いやー、遠かった。ラケダイ近辺じゃ目立つから馬車なんて使えなかったし、ずっと歩きだったもんね。二人旅だしエニュには迷惑掛けちゃったかも。

 

「はいはい、子供じゃ無いんだからはしゃがないでよね」って何時もの調子のエニュは弓使い兼レンジャー。使い込んだ皮のマントと皮の胸当て、それに皮の腰巻きに茶色の布製レギンスっていうオシャレの欠片も無い格好の、背はワタシより少し高いショートカット赤髪の女の子だよ。顔はその辺の貴族令嬢よりよっぽどカワイイ。じゃなきゃワタシ一緒に旅なんてしないよ!

 

「アナ、アンタ今失礼な事考えてなかった?」

 

「考えてないよ!エニュは折角カワイイのにもったいないなーって思っただけだもん」

 

「はいはい、アナに言われると嫌味にしか聞こえないわ……っと、魔物の気配よ」

 

おっと、どうやらエニュが獲物を見付けたみたいだね。それじゃお仕事といきますか。

なーんだ、ゴブリン5匹かぁ。いや待てよ?これは新必殺技を試すチャンスじゃない?

 

「ワタシに任せて!」

 

ワタシは前方の獲物に向かって飛び出す。大きくジャンプして、両足に螺旋状に魔力を纏ってゴブリンに向かって体全体を回転させながら足から突撃!必殺、ええと……。

 

「必殺!ジャンピングきりもみ回転バーストアタック!」

 

叫ぶのはお約束だよ。だって勇者なら必殺技は声に出すよね?

よし!予定通りゴブリンを粉砕した!でも命中したのは2匹だけか。うーん、この技は多人数相手には使えないか……フムフム。

 

「アンタまた新しいの考えて……その変な技名叫ぶのも何とかならないわけ?」

 

「ムムムっ、変なとは失礼な!カッコいいでしょ!」

 

あれー?エニュが頭抱えてるよ何でよ?

因みにエニュが残りの3匹を倒してくれたよ。全部一発で頭を射抜いてる。エニュの弓は百発百中だからね!

 

「それにそのミニスカートでそんな攻撃したらはしたないでしょ。丸見えだったよ?私は下にレギンス履けって言ったよね、アナ?」

 

「えー、ヤダよレギンスなんてゴワゴワして動き難いし。スコート穿いてるんだしいいじゃん。本当はこのスカートも動くのに邪魔なんだけど」

 

ワタシの格好は上はエニュと同じで使い古した黒の布の服の上に皮の胸当て、下はスコートを穿いた上に皮で作ったスカート。ワタシもエニュも足元は皮靴。あ、ワタシ普通の魔法も得意だけどこうやって手足に魔力を纏って体術で攻撃する方が好きなんだよね。

 

「馬鹿!スカート穿かずにスコートだけなんて痴女じゃないの!今でもアブないってのに……はぁ。アンタにお姫様が務まらないの、納得だわ」

 

「ナンダトー!!」

 

もう、ワタシがお姫様が嫌になって飛び出したのは事実だけど、エニュもそんな言い方酷いよね!

 

「あ、お姫様で思い出したけどさ。ミュケーナの話は放っておくの?アナ、アンタ本当にそれでいいわけ?百パーセント偽物なわけでしょアレ」

 

「いいのいいの。だって考えてみてよ?()()()()()()()にラケダイのステノ姫をやってくれるんだよ?お陰でワタシは晴れて自由なんだよ?」

 

最近聞いた話。ミュケーナの王子様がラケダイのステノ姫を婚約者に迎えた、って話。本当ならそんな事有り得ないんだよね、だってワタシが本物のステノ・アミュクラース・フォン・ラケダイだもん。今はハンターのアナ、って事になってるけどね!

 

「いや、アンタが良いならいいけどさ」

 

「いーのいーの。ほらエニュ、早くゼメリングに行こうよ!」

 

 




ということで。無事……ではないけど切り抜けたステンノさんは再びペイシストスへ。

次回からステノ姫(本物)が始動。ゼメリングに居るという事は何処かでステンノさんと……

これで7騎揃いました。
アサシン  →ニュクティ
キャスター →カッサンドラ
セイバー  →アルトリウス
ライダー  →アルゴリス+ニッカール ←new
ランサー  →シュリーマン  ←new
アーチャー →エニュ     ←new
バーサーカー→ステノ姫    ←new

伊吹弥三郎ことシュリーマンは反英雄。自分で大蛇生み出して人間襲わせ、自分で退治して結果人間救うというマッチポンプだけど。

色々残念なステノ姫は  バ ー サ ー カ ー
です。
え?ニッカール?暴風雨を操る悪魔、らしいですね。
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