異世界で死にたくない最弱の女神   作:アイリスさん

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40話

「ステンノ、起きてくれよ。そろそろだってさ」

 

「……んっ……そう…………ふぁぁぁあ……」

 

ニュクティに起こされて、私は目を擦りながら欠伸をする。やっとか。程良い振動のせいで眠ってたみたい。馬車だと歩かなくていいから楽ね。前世みたいに車や電車なんかが有ればもっと速く着くんでしょうけど、無いものは仕方ないか。ニュクティに膝枕されてたみたい。ごめんね、重くなかったかしら?あ、ニュクティの顔がちょっと赤い。ふぅん、そっかそっか。

 

荷台の隙間から見えるのは、十m程の高さの堅牢そうな城壁に円形に周りをぐるりと囲まれた、例によって川の傍の平地に造られた巨大な城塞都市。

城壁の外周はどのくらいかしら。ここからでは端が全く見えない。東京ドームとかそういう次元じゃ無い。ミュケーナのデロスも大きかったけど、ここはそれ以上に大きい。

その城壁の南に巨大な門があって、それとは別に北と東西に兵士の詰所と繋がっている小さめの出入口がある。

城壁の内部は一番外側に一般の人達の為の市街地があって、水路を挟んでその内側が商業施設、更に水路があってその内側には高い壁を挟んで貴族街。円の中心には城壁の外からでも分かる、青い屋根に白い壁の巨大な城が聳える。

 

そうね……前世で例えるならアトランティスのような円形構造の都市。それが、目の前に広がる王都トロン。

 

……なのだけれど、私達が用があるのはこの都じゃ無い。その城塞都市に隣接するように建てられた、これまた周囲をぐるりと城壁で囲まれた城……じゃなくて宗教施設。トロンの城と比べれば小さいけれど、あくまでも比べればって話。前世で例えるなら最も近いのはサグラダ・ファミリアかしら?本部だけあって豪華というか……この施設を造った予算とか何処から出てるのかしらね?御布施だけではやっていけなそうだけど……いやでもこの組織って世界各地に在るんだったわね、それなら御布施くらい集まるのかも。

 

私達の乗る馬車の前方で先導していた二頭の馬から降りたアルトリウスともう一人の神殿騎士が、門の両端に立つ二人の守衛……あれも神殿騎士なのかしら……に何かを話してる。

続いて門に横付けされて止まった私達の馬車。って言っても乗り合い馬車だから大層な扉とかは付いてないのよね。後方に回り込んで来たアルトリウスが右手を差し伸べてくれる。私は立ち上がりその手を取って慎重に、なるべく右足に負担が掛からないようにゆっくりと荷台から降りた。私のすぐ後からニュクティも続いて降りる。

 

「「お待ちしておりました!」」って守衛は声を揃えて、何と私の前で膝を地面に付いて頭を垂れた。ちょっ、ちょっと、そういう堅苦しいの止めてくれないかしら?

 

「そういうのはしなくていいわ。二人とも仕事があるのでしょう?」

 

「「お心遣い有り難き幸せにございます!」」

 

あ、これ駄目ね。私が何を言っても守衛さん達聞いてくれなさそう。確かに私は『この世界の女神』ステンノだけれど、中身の私自身の意識はそれに全く追い付いて無いのよね。だから露骨な神様扱いは止めて欲しいのだけれど……現地の人間からしたらそうはいかないものね。何せあの〈主神(ヘンタイ)〉ですらあの扱いだったものね。仕方ない、さっさと中へ移動しよう。

 

アルトリウスの先導で門を抜けると、縦に伸びた塔が幾つも連なった大きな建物が眼前に広がった。私達の姿を見付けた人達は一人も例に漏れずに膝を付いて頭を垂れてる。その全ては私の方を向いて。落ち着かない……やっぱり来るんじゃ無かったわ。

 

塔の中の、天井がやけに高い、宗教施設らしく白と金を基調とした通路をゆっくりと歩く。両側に等間隔で真っ白で何本も縦に線が掘られた柱が並ぶ厳かな雰囲気の通路。採光用にあちこちに張られた硝子からの光に照らされて幻想的に見えるわ。なかなか凝ってる。

 

通路の先にはぽっかりと空いた円形の空間があった。中庭……にしてはえらく広い。この世界独特のあの芝が敷き詰められていて、中央には一階建ての神殿。そうね……ギリシャのパルテノン神殿のような建造物があったわ。これだけでもゼメリングの斡旋所よりも遥かに大きいのだけれど?

 

「聖女様はあの中だ。二人とも、行こうか」ってアルトリウス。

カッサンドラさんと会うのも久し振りね。あの人も少しは大人しくなっててくれると有り難いのだけれどね。

 

 

 

あ。カッサンドラさん、入口に立ってるのが見える。私が着いたって報告を受けて居ても立っても居られなくて出てきた、って所かしらね。私の姿に気付いて走って来る。あの法衣って裾が足元まであるし走り難くないのかしら?

 

「ステンノ様ぁぁぁぁあーーヘブシッ」

 

そのまま私に抱き付こうとしたカッサンドラさんだったけど、ニュクティが出した右足に引っ掛かって私の目の前で地面に転倒したわ。顔面から。相変わらずだったみたいね。顔良しスタイル良しだし()()が無ければこの人モテるんでしょうけど。

 

うつ伏せに倒れたまま、土と芝まみれの顔をムクリと上げたカッサンドラさんの姿は……なんだろう……前世の漫画かアニメか何かを見ているような気分だわ。

 

「ステンノ様!お会いしとうございました!その御姿、柔肌の感触、あの御胸の張り具合……嗚呼、ステンノ様を想い夜も満足に寝られぬ日々でした!」

 

「言ってる事が不穏過ぎるのだけれど……まあ良いわ。久し振りね、カッサンドラさん」

 

というかニュクティに足を掛けられた件は良いのかしら?気にしてないのなら私は別にとやかくは言わないけど。カッサンドラさんが私にしてきた事を思えばニュクティの行動も残当だしね。

 

「話は伺っております。嗚呼、おいたわしや。ステンノ様の美しいお御足が……今直ぐに治癒して差し上げます」

 

やっと起きたカッサンドラさんは私の足元に座り込んで、私の右足に頬擦りしたあと丁寧……じゃなくてネットリと撫で回すように右脚を擦る。同時に右脚に治癒魔法の温かい感覚。もう何て言うか……この人はもう少し普通に治癒出来ないの?なんだか「ステンノサマ ノ オミアシ ハァハァ」とか聞こえるし。

 

でもお陰でやっと違和感から解放された。動かしてみたり歩いてみたりしても痛みも無い。流石は歴代屈指の聖女……これで歴代屈指、いや歴代最高なんだっけ?コレで……。アルトリウスは若干引き気味の苦笑いだし、ニュクティは睨んでるままだし。

 

「話があるのは聞いてるかしら?少し時間を取って欲しいのだけれど?」

 

「はい、ステンノ様。勿論です。それと、コチラからも一つお話する事がありますので。詳しくは神殿の中で」

 

私とニュクティは大理石で出来た長方形のテーブルに椅子が幾つも並ぶ、多分会議室とかそういう用途であろう部屋に通された。

部屋の壁には前世でいう所の宗教画が描かれている。聖女らしい人が洗礼を受けているような図とか、〈あの変態(主神)〉が何か地上とかを照らしてるような図とかね。

それとテーブルの上座に当たる位置の椅子の後ろには〈あの変態且つろくでなし(主神)〉を何倍も美化したような像が有る。直接会った身としてはこれには異議を唱えたいわね。確かに精悍な顔つきではあったけど、もっとジジイ然としてたわ。

 

『いやいや、ワシそっくりに出来ておるじゃろう!』

 

って、都合の良い時だけ脳内に話し掛けてくるの止めてくれない?それより〈主神(このヘンタイ)〉、今度は私に何をさせる気なのか教えなさいよ。

 

『…………』

 

……何よ、今度はダンマリなの?ハァ。もういいわ。

 

そんな脳内の出来事を片付けて。適当な椅子に腰掛けた私とニュクティ。カッサンドラさんは本来上座の椅子なんでしょうけれど私が居る手前そこに座るわけにもいかず、下座に当たる椅子に座ったみたい。

 

「では先ずはコチラの話から。罰当たりにもゼメリングにステンノ様の偽物が現れまして。現在身柄を此処へ護送中です。もうじき着くかと思います。勿論魔法が使えないよう拘束してはいますが、万が一に備えて騎士達を向かわせてあります」

 

……うん?偽物?なんで私?私になるメリットなんてある?斡旋所では駆け出しだし、財を築いていたわけでも無いし。あ、それとも駆け出しだからこそ、かしら。普通新人なんて人にそう憶えられてるものでもないから成り代わっても分からないと思ったのかしら。

まさかゼメリングの斡旋所で私がちょっとした有名人だとは知らなかったんじゃない?

成り代わろうとした理由は借金取りとかに追われてた、とかなのかしら。

 

「ステンノ様を女神だと知っていて入れ替わろうとしたに違いありません。ステンノ様がミュケーナへと行っていて不在の時に現れるなどタイミングが良すぎます。きっと魔族の息が掛かっているに違いありません。ステンノ様、危険ですのでくれぐれも近付かないようにして下さい」

 

あー、そっか。魔族の手先って可能性はあるわね。少なくともハッキリした事が分かるまでは近寄らない方が良さそう。それにしても仮にそうだとするとコチラの動向が魔族に知られていたって事になるけど……まだスパイが居るのかしら?結論は犯人の尋問待ちか。

 

「ええ、分かった。極力近付かないようにするわ。それじゃ、私の方だけど……」

 

 

 

 

 

───────

 

 

 

 

 

「ねえエニュ」

 

「何よ」

 

「ワタシ、お尻が痛いんだけど」

 

「安心して、私もだから」

 

ワタシ達の居る場所は鉄格子に囲まれた囚人用の馬車の中だよ。今この馬車はペイシストスの首都であるトロンに向かってるんだ。当然囚人用だから揺れが酷くてさ、そのせいでお尻が痛いんだよね。魔法が使えたら痛みの軽減も出来るんだけどなぁ。例の手枷ホント邪魔だなぁ。

 

「コッチの話聞いてくれないなんて神殿も酷いよね」

 

「……アナ、ごめん。私があんな策実行しなければこんな事にはならなかったわ」

 

珍しくエニュがしょげてる。でも策を考えたのはエニュだけどさ、ワタシもそれに乗っかったわけだしね。ワタシには責任が無いって事にはならないよね。

 

「ワタシだって乗ったんだから同罪だよ。それよりさ、変じゃないかな?」

 

「言われてみれば……確かに変ね」

 

そうそう。だってさ、ワタシ達身分詐称と不敬罪なんだよね?身分詐称はともかくさ、ラケダイ王家に対する不敬罪ならラケダイに向かうでしょ。なのに何で反対方向のトロンに向かうの?

 

「ステンノって子の身を案じるあまりゼメリングの人達が暴走気味に私達を捕まえた、ってのは百歩譲って分からなくもない。でも神殿がそれを鵜呑みにするっていうのはおかしいわね」

 

「でしょ?だからワタシ達が神殿本部に護送されてるって事はさぁ、実際にそのステンノって子が行方不明になってるって事じゃないかな?」

 

それならワタシ達が問答無用で捕まったのも神殿本部へ向かってる理由も分かるんだよね。絶妙なタイミングで入れ替わろうと現れたワタシ達ならステンノって子の行方を知ってる、最悪ワタシ達がステンノって子を誘拐した真犯人、と思ってるとかね。

 

「だとしたら暫く牢屋から出られないかも知れないわね。拷問とかも受けるかも。私は最悪諦めるけどさ、アンタは大丈夫なの?一応王女様でしょ?」

 

「大丈夫って……何の話?」って首を傾げたワタシに「貞操よ、貞操。神殿とはいえ、そういう拷問もされるかも知れないでしょう?」って真顔でエニュが言ってる……貞操って……ウソだよね?仮にも神殿だよね?ワタシとしてもラケダイ第四王女としてもそれ大問題なんだけど!?

 

「どどどどうしよう!?そうなる前に逃げないと!それかパパ!パパに助けに来てもらおうよ!」

 

「ラケダイ王家と連絡なんて取れないでしょ。逃げるしかないと思うけど、そうなると全世界に指名手配って事になるわね」

 

まあいざとなれば逃げられない事も無いけど、世界に展開してる神殿だもんね。脱獄なんてしたらそりゃ世界が敵になるよね。あーもー、どうしよう。

 

…………よし、未来のワタシに丸投げしよう(思考放棄)

 




ステンノさん、神殿本部に着いて聖女と再会。

一方のステノ王女も神殿本部へ。

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