異世界で死にたくない最弱の女神   作:アイリスさん

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43話

そろそろ終わらせないと。肉体的にもそうだけど、精神的にも限界なのよね。丁度足元には芝が生えてるし、このまま横になってしまいたい。痛い、辛い。もう意識を手放してしまいたい。でもその前に。

 

『女神の気まぐれ』。ステンノのAランクスキル。本来のコレは『気まぐれ』という言葉通り良くも悪くも、プラスにもマイナスにも影響がある使い難いもの。でも私の持ってるコレはFGOの効果準拠だと思う。私のスキルって多分、私が生存しやすいように付与されてると思う。『吸血』なんか当にそう。

FGOにおける『女神の気まぐれ』は味方の攻撃力をアップし、神性特性を持つ味方の攻撃力を更に上げるスキル。ステノ王女は〈主神(あのバカ)〉が力を与えたんでしょうし、きっと神性を得てる筈。だから二重の効果はあると思うのよね。

 

「私そろそろ限界だから。御膳立てはしてあげるからブエルの対処は頼むわ」

 

「えっ、ちょっと、女神様……って、うぉぉお、何コレ!?力が漲ってきた!?」

 

やっぱりね。どうやら女神の気まぐれ(スキル)の効果は予想通り。ステノ王女がチラチラと私に視線を向けながら効果に困惑してるわね、上手く発動してくれて良かった。あとは……。

ーーー宝具・女神の微笑(スマイル・オブ・ザ・ステンノ)ーーー

 

はぁ。やっぱり女性相手に即死は効かないのか。まあいいわ。ブエルに混じっていたパイオスの魔力の気配が消えたし。王女様、あとは頼んだわね。

私の周囲から光が消えて、元の格好に戻った。浮力を失った私の体はドサッ、という音を立てて地面に落ちる。ああ、ここまで考えて無かった。痛い。左手と左足に衝撃と激痛が走り、再び涙が滲んでくる。

 

「女神様!?」

 

「私は大丈夫、だから。それより」

 

私の様子に気を取られて完全にコッチを向いてしまっている王女にそう言って、私はブエルの方を睨んだ。肝心のブエルはというと両掌を握ったり開いたりして『フム、成る程』って何かを確認している様子。間違い無いわ。宝具の効果、あったわね。

 

「ハッ、そうだった!」って我に返った王女がブエルの方へと向き直した。

 

「これなら!女神様、ありがとう!……ございます」

 

あ、取って付けたような敬語なんて使わなくてもいいのに。今更よね。危険人物(カッサンドラさん)だけ他人行儀に敬語使わせておけばいいのよ。

 

踵と背中に風魔法の竜巻を再展開した王女は、ブエルの元へ高速で向かっていく。ブエルも気付いて王女の左拳を受け止めたけど……明らかにさっきまでのような余裕は無い。端正な顔を歪めて、どうにか止めましたって様子ね。

 

「よしっ、今度はイケる!サンダーレイジ!!」

 

王女の左拳から雷を纏った魔力が、ブエルの両手を伝い全身へと流れた。今度は表情が苦痛に歪んだブエルが翼をはためかせ上空へ大きく後退。すかさずその後を追って王女も空へ。

 

「ここでお前を倒す!神様に仇なした事を後悔しろっ!」

 

『仇なす……か。成る程、何も知らないとは愚か。所詮は木偶か』

 

「なんだとぉ!!」

 

サンダーレイジを纏った左拳を、今度はブエルが左拳に黒色の魔力を展開して受け止めた。少し押されはしたみたいだけど。スキルと宝具で支援してコレとか、もしかしてブエルってパイオスの魔力ブーストが無くても相当強い?顔で選ばれた、或いは治癒が得意な腹心だから傍に仕えてるってだけじゃ無いのね。

 

って、この話の流れって不味くないかしら?

 

『時間ももう少しあるな……ふむ、無知なお前に少しばかり教えてやろう』

 

ちょっ、ちょっと、やっぱり不味いわ。もしも私がパイオスの一部だったって知られたら王女はどう思うか。……私が生きているとパイオスが更に強くなる可能性がある、って王女が知ったら、この場で私は彼女に殺されるかも知れない。ステンノ()は所詮は異界の女神だし。王女だって世界平和の為ならやむを得ないって思うに決まってる。だからカッサンドラさんやアルトリウス達には私とパイオスが元は一つだった、って怖くて言って無い。まだ覚悟が……。

 

『そうだな……ある時、主神の存在を脅かす力を持つ者が現れた。主神は保身の為にその者の魂を二つに裂き、悪……主神にとって都合の悪い方を地上へ落とし、善……都合の良い方を天界に残し神の一柱にして監視の意味も込めて己の陣営に引き入れた』

 

「魂を……二つに……?それって……元は女神様と魔王が一つだったって事?」

 

あ……ああ……ああ……。

 

「って、そんなあからさまな嘘に騙されるかっての!女神様が魔王と同じ存在なわけ無いじゃん!!」

 

全く信じる様子の無い王女が、再びブエルに肉薄しようと高速で飛んでいく。でもブエルも一定の距離を取って飛んでいて、その差はなかなか縮まらない。

 

『さて、どうだろうな。信じられないのならそこに転がっている女神にでも聞けばいいだろう』

 

落ち着こう。ステノ王女は『魔王と私が元は同一人物だった』ってくらいで殺すような人間じゃ無い。きっと私を生かして魔王をどうにか排除しようって考えてくれるに決まってる……決まってるよね?大丈夫だよね?どっちにしても今の私には選択権無いけれど。いや、敢えてここで『ブエルの言った事はデタラメだ』って否定する事も……いやでも今後の事を考えたら正直に告白すべきなのかしら……。

 

「デタラメ言うな!……っクソ、さっきより速い、ワタシと同じくらいのスピードのせいで追い付けない!」

 

『我々魔族は、お前達人間の数が増えすぎないよう調整するという目的の為だけに生み出されたのだ。生物としての尊厳も個人の生の意味も何も無い、只の歯車としてな。パイオス様はそんな我々を解放してくださると約束された。愚かな神を滅ぼし、『物』でしかない魔族をまともな生物に昇華してくださると。ふむ、仇なす、というのはあながち間違ってはいないな』

 

「魔族が……ワタシ達人間の数を調整する為の歯車だって?またそんなデタラメを!神様が正義でお前達魔族が悪だから敵対してるんでしょうが!そんないい加減な話誰が信じるか!」

 

『神は魔族を貶めた敵であり、我々は己の正義に基づいて行動しているに過ぎない。魔族の尊敬を取り戻す戦いを、な。

正義の反対が全て悪だとでも思っているのか?陣営が変われば見方も変わる。人間とてそうであろう?物事に絶対など存在しない。全ては相対なのだ』

 

「魔族が正義だっていうの?冗談はやめてよね!」

 

『お前の掲げる神の正義も只の一側面。相対的なものでしかない。正義の反対はまた別の正義。絶対の正義など存在しない。そんな事も分からぬとは……これだから人間は愚かなのだ』

 

残念だけど、ブエルの言う事も一理ある。この世界の主神がアレだから余計にね。私は……王女に何て言い訳しようかしら。

 

あ。ブエルの左手により大きな魔力の塊が現れた。彼女の後を追う王女に向かって勢いよく放たれ……あれ?あの魔力の塊、全く違う方角に……私の方に向かって来てない?

 

「くっそぅ、しまった!女神様!!」

 

『さて、下らないお喋りはここまでだ』

 

ブエルは天高く飛び立って、その姿はすぐに見えなくなった。代わりに黒く高密度の魔力の塊が私の方へとどんどん近づいて来て、その後を慌ててステノ王女が追っている。間に合わなかったら私、ここでジ・エンドかしら。ああ、空はあんなに良い天気なのに。

 

「だぁぁぁあっ、間に合えぇぇぇぇッ!」って叫びながら王女が向かって来る。制御よりも速度を優先したみたいで背中の竜巻が一層大きくなった代わりに王女の体が上下左右にブレてる。

 

黒い塊が私に直撃する寸前。王女の体が私と塊の間に滑り込んできて、直後に衝撃。当然のように私は意識を手放した。

 

 

 

 

 

──────

 

 

 

 

 

『ブエルよ、御苦労だった。して、実験の結果はどうだ?』

 

黒を基調に赤で彩られた玉座の間の再奥に座するパイオスが、今さっき帰還したばかりの、膝を付き頭を垂れるブエルに向かい問う。『はい』と返事をしたブエルは、頭を下げたまま言葉を続けた。

 

『パイオス様の見立て通りでした。やはり女神を殺して体から魂が抜け出た所を捕獲するのが最も有効かと。それから女神の『宝具』の効果も予測通りでした』

 

『やはりか。ならば我は予定通り抜け出た魂を捕獲する術式を確立させる。お前は魔力供給の持続時間の延長方法を模索しろ。試した通り今のままではポータル無しの運用は難しそうだ』

 

『御意。それと念の為報告があります』

 

『気付いていたぞ。神の木偶であろう?我の敵では無いがアレはお前では苦戦するだろうな。何せ本来『魔王ブエルを倒す筈だった勇者』の筈であろうからな』

 

 

 

 

 

───────

 

 

 

 

 

 

……様々な彫刻の彫られた白い天井。高さはそうね……さっきのパルテノン神殿モドキと違って低い、5m程度かしら。大理石の床で出来た、四畳半程度の部屋。窓は無し。壁も大理石、私は中央にある祭壇の上に寝かされていた。前世の教会の十字架の代わりに、人間より大きめの主神の像が置かれた祭壇。

左腕の肩の先辺りが温かい。瞼を開いて見れば、膝まずいたカッサンドラさんが今にも泣きそうな表情で治癒魔法を施している最中だった。そっか、私、助かったのね。

 

「カッサンドラさん?ここは……神殿内かしら?」

 

「ステンノ様!!」

 

私が目を覚ました事に気付いたカッサンドラさんが思わず抱き着いてきた。あの、痛い、左腕の傷が凄く痛いから。

 

「ステンノ様が目を覚まされなかったらどうしようかと……」

 

「彼女は?」

 

私の一言にすぐに反応したカッサンドラさん、「彼女ならば隣の部屋で休んでいます。ステンノ様を助け戦った者を牢に入れるわけにはいきませんから」って。ま、そうよね。流石にあの状況を見たら味方だって分かる。

 

「それに……」

 

「私と同じ顔だったから、かしら?」

 

「はい。これはきっとステンノ様と関係のある方なのだと思いまして」

 

普通の人間だったら多分親戚とか生き別れの姉妹とか、関係あるどころの話じゃ無いんだろうけどね。私が女神なせいで恩恵とか加護とか眷属、的な感じに思ってるのかしら。後でちゃんと彼女が本物のステノ王女だって説明してあげないと。それから彼女にも私の事を説明し……はぁ。

 

それはそうと。今の私の、この申し訳程度しか体が隠せていない包帯だけの姿なのは置いておくとして。私の左腕と左足、カッサンドラさんの治癒の割には治りが遅くない?火傷は治ってきてるみたいだけど、失った部分はそのまま……って、もしかしてカッサンドラさんの治癒じゃ欠損部分って治せない……?

 

「その……申し訳ありません。私の治癒魔法では……。切られた腕や足が残っていれば時間が経っていなければ繋ぐ事も出来たのですが」

 

考えてる事が顔に出てたかしら。カッサンドラさんはそう謝ってきたわ。そうなのね。切られた腕も足もブエルのせいで吹っ飛んじゃってる筈だし無理もない。

って事は治癒に関してはブエルの方が上、かぁ。ホント、厄介なのが敵にいるのね。

 

まあカッサンドラさんの治癒魔法で治せなくても慌てる時間では無い。私にはまだ『吸血』がある。パイオスの魂を奪って3割になってから試してないから何とも言えないけど、多分前回のあの時よりも効果は上がってると思うのよね。問題は血を吸う相手だけど。カッサンドラさんかステノ王女あたりとか或いは魔族とか。

…………あ。

 

「カッサンドラさん、魔族の血とか保存したりしてないかしら?」

 

「魔族の、ですか?はい、ステンノ様が石にした魔族の下半身なら魔法で保管していますし、研究の為に血も保存していますが、それが何か?」

 

ラッキーな事に、私が宝具で倒したあの魔族のが残ってるのね。なら試さない手は無い。もしもそれで駄目ならもうカッサンドラさんから直接吸血してやるわ。カッサンドラさんなら喜んで吸わせてくれるわよね?

 




どこかのタイミングでパイオスがステンノさんを殺しに来る事確定。今回のブエルの行動はその前段階の実験。

次回はステンノさんが聖女様から吸血する所が見られる……?


ちっ、違うからね!FGOの新章やりつつ艦これイベントこなしつつキャンサー杯に向けてウマぴょいしてたから今月更新ゆっくりだったわけじゃないんだからね!

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