異世界で死にたくない最弱の女神   作:アイリスさん

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final phase 『たとえ君が覚えていなくとも』
46話


改めて思うけど、前世のような自動車や電車みたいな交通手段は偉大だったと言わざるを得ないわね。馬車で日にちをかけて移動している現状を考えるとホントそう思うわ。新幹線なら550km以上の距離を2時間半程度で移動できるんだもの。この世界でも誰か高速移動手段を発明して欲しいものね。あ、それか転移ポータルを普及させるとか?国家間だと色々問題が出そうだけど神殿間で使えば平気じゃない?神殿なら中立組織だしね。

けど転移の知識は魔族……でもあの転移ポータルの魔法陣ってFateっぽかったのよね。パイオスってその辺の知識も持ってるのかしら。だとするとアイツも夢幻召喚も使えたり……いや触媒が無いから無理かしら?

 

馬車……今私が乗っているモノは神殿が用意した偽装用の例の乗り合い馬車。豪華絢爛な馬車なんかで移動したらバレバレだからね。実際に乗ってるのが女神()その眷属(ニュクティ)、それに一国の王女、って重要人物なんだし。

 

荷台部分から見える外は木々に囲まれた、私にとっては懐かしく印象深い風景。この世界に転生してから大した時間は経ってないのに、あの滝壺に落ちた時の事ももう随分昔の事のように感じられる。強制イベント発生し過ぎなのよ全く。もっとゆっくりしたいわ。やっぱり〈主神(アイツ)〉只じゃおかないわ。

 

並走してきた大きな川は、森が深くなっていくにつれて徐々にその規模が小さくなっていき、今や小川程度の大きさ。もうすぐ滝壺が見えてくるんじゃないかしらね。

 

うん、音が聞こえてきたわ。水が高所から落ちて弾ける音。大きな音なのに不快にならない滝の流れる音。

 

馬車は少し遠くに止め、私達は滝へと近付く。此処でやる事は水浴びとか林檎の確保とかね。

ああ、水浴びは何の問題も無い。御者はエニュ、さっきも言った通り乗ってるのは私と王女とニュクティだけ。今回の旅はこの四人のみ。神殿本部がブエルに襲撃を受けてあまり人員に余裕が無いっていうのと、折角『女神は神殿本部に居る』事にしてあるのに護衛に騎士を付けたら意味が無いっていうのと、神殿騎士が束になるよりステノ王女一人の方が余程強い、っていうのが理由。

アルトリウスなら着いてきても良かったかも知れないけど、今回みたいに神殿本部の結界を壊せるような幹部クラスの魔族が来る可能性があるからね。私が無事なら神殿は滅びてもいい、って訳では無いから彼は残らないといけない。ま、実際そうなったら撃退するのは困難な気はするけど、体裁は大事だから。

 

そう言えばカッサンドラさんが「私も!私も一緒に連れて行って下さい!後生ですから!」とか言い出して騎士達に全力で止められてたわね。「ステンノ様とステノ王女に挟まれる私のヘヴンがぁぁあ!!」とか叫んでたっけ。私と同じ姿の王女にも欲情するとか……どうやら彼女は『私の容姿』が目当てみたいね。あの人、聖女なのにあんなに煩悩まみれとか良いのかしら?

 

それは今は忘れよう。

ああ、そよ風に乗って甘い匂いが。ひっっっさし振りの林檎の香り。ほら、王女が「ナンかスッゴい甘い匂いする!」って騒いでてエニュが「ホントね。甘い匂い……何かのトラップとかじゃないでしょうね?」って一応警戒してる。そういう甘い匂いで誘い込んで獲物を仕留める魔物も一応は居るらしいしね。

 

やがて見えてきた滝と、滝壺の傍に生えている背の高くない林檎のなる木。カッサンドラさんが『神の果実』なんて名前を付けてたっけ。知恵の実、とか言われるよりはいいけど。

 

「うおー、シャクシャクで瑞々しくて甘い!こんなの自然に出来るとか凄くない!?凄いよね!?」

 

「アンタねぇ……いつも思うけどアナって気品の欠片も無いわよねぇ」

 

「気品でハンターは出来ないんだよ!」

 

「はいはい、そうね」

 

木へと走って無警戒に手を伸ばして早速林檎を頬張る王女と呆れるエニュのやり取りを少し遠目から眺める。この二人って何ていうか、互いに遠慮が無い。それだけ信頼関係が築けてるって事だろうけど。私とニュクティの関係みたいな?

 

「ねえアナ、なーんかさ、この木変じゃない?こんな低いうえに子供でも届きそうな位置に実が付いてるにも関わらず動物なんかに食べられた形跡も無し」

 

「うーん、言われてみれば……エニュの言う通りだよね。まるで」

 

王女の視線が私へ。ええ、そうでしょうね。多分というか絶対私に食べさせる為の物だったんでしょうし。

 

「まーいーんだけどさ……って、あれ?あそこに何か居る……いや、アレって骨?」

 

ジーっと私を見ていた王女は視線を手元の林檎に戻そうとして、直ぐ近くの地面に転がっていた例のサーベルタイガーモドキの死骸を見付けたみたい。既に骨だけになってるわ。例の狼モドキとかに食べられた後、とかかしら。

 

「コイツ……頭蓋骨が硬いモノで叩かれたように潰れてる。何か危険な奴にやられたのかも知れない。一応警戒するか」

 

「そうねアナ、まだこの近辺にいるかも知れないし」

 

危険な魔物とかにやられた訳じゃなくて、私と一緒に崖から落ちただけなんだけれど……一応言った方がいいかしら?変に神経磨り減らす必要も無いんだし。

 

何故かニュクティが「あのさステンノ、あの骨って前にステンノが言ってたヤツか?」って私に聞こえる程度の小声で言ってきた。え?そうだけど?あの二人に知られると何か不味い事とかあった?首を傾げた私の様子に浅く溜め息をついたニュクティ。え?何?ってイマイチ理解出来てない私を見かねたのか、ニュクティは今度は王女達に聞こえるように声を張った。

 

「なあ二人とも。ソイツって崖から足滑らせて落ちただけなんじゃないか?」

 

ニュクティがそう言って遥か上に見える崖の方を指差す。ええ、確かにソッチの方から落ちたのよね。今思ってもよく助かったと思うわ。

 

「崖ってあそこから?いやいや幾らワータイガーだって流石にあそこからなんて落ちないよ。ニュクティ君は知らないかも知れないけどね?ワータイガーって以外と頭良いんだよ?大体ワータイガーじゃなくてもあんな分かりやすく切り立った崖から落ちるなんてそんな間抜けな奴居ないって、アッハッハッハッ」

 

えっとぉ…………。つまりアレかしら。王女の言う通りなら私は動物より馬鹿で間抜け、って事かしらね?言わなくて良かったわ……。もし私があそこから落ちたって知られたら恥ずかし……アレ、待って。私に一言確認してからあんな事を言ったって事はつまり、ニュクティはそれを察したって事で……あれ?実はニュクティにもそういう風に思われ……ナニコレ、羞恥プレイかしらね?あ、顔が赤くなってくのが自分でも分かるわ。あ゛あ゛もうこれ漏らした時と同じくらい恥ずかしいわ。

 

あ。王女の隣に居るエニュが私の方を見て、崖の上を見て……ハッ、っていう表情をしたと思ったら顔を背けたわ。

良く考えたら私、あの崖の上に多分ボロック・ダガーがあるって二人に話したわ。つまりエニュはニュクティの言葉と私の反応から事態を察し…………恥ずかしい……もうイヤ、帰りたい。

 

「ねっ、ねえアナ。ほら、命の危険があったりしたらもしかしたら気付かなくて落ちるって事もあるんじゃない?」

 

嗚呼、エニュに気を使われてフォローされてる……お願いもう別の話題にして。

 

「エニュ、何言ってるの?命の危険があったら余計に近付かないって。でもまあ、中にはそういう間抜けな個体も居るかも知れないか」

 

これ以上話を広げないで。真っ赤になった顔を思わず両手で覆った。ニュクティに「そんな落ち込む事じゃないよ、ほら、俺だってあの時ステンノと一緒に川に落ちただろ?」って慰められてるわ。ステノ王女、そんな私の様子を見たあと崖を眺めて、「…………あっ」って間抜けな声を出したわね。どうやら察したようね。はいはい、そうよ、どうせ私はノロマで間抜けな女神よ。

 

「あー……ええとぉ…………スミマセンでしたぁ!」

 

今更謝っても遅いわ。どうやって仕返ししてや……あっそうだボロック・ダガー自体が罰ゲームじゃない。ならこれでボロック・ダガーの形に関する件はチャラ、ね。私の精神的ダメージが大きかったような気がするけど。

 

 

 

 

───────

 

 

 

 

「馬車ごと運ばせるとかおかしいでしょ……ワタシそんなにおかしい事言って無いよね?」

 

「女神様侮辱するとか状況によってはアンタ死刑よ?この程度で許してもらえて良かったじゃない」

 

私の数歩先でそんな会話をしながら視線を地面まで下げて話す王女とエニュ。

 

って事で。ステノ王女に馬込みで馬車ごと崖の上まで運んで貰った私達は、私があの時投げ捨てたボロック・ダガーを捜索中。ええと、確かこの辺りだったような気がするのだけれど。なにぶんにもあの時は無我夢中だったからよく覚えて無いのよね。

 

「アレじゃないか?」ってニュクティが私の視線の遥か先を指差す。ニュクティ、あんな遠く、しかも木々で視界も遮られてるのによく見えるわね?でも見付けたなら良かったわ。

 

二人にも知らせて、一応周囲を警戒しながら近づく。うん、確かにボロック・ダガーね。あの時の姿のままね。少しくらい形が変化してくれてても良かったのに。

私に続いてニュクティがそれを見て。「うわぁ……」って言葉を洩らしたわ。まあ、そりゃそういう反応になるわよね(遠い目)。

 

「神様の武器ってどんな……ブフォッ!?」

 

続いて身を乗り出してそれを手に取ろうとしたエニュの反応。思わず吹き出して頬を真っ赤にしてるわ。貴女もこれで分かった?〈主神(アイツ)〉そういう奴なのよ。

 

「どれどれ、ワタシにも見せて……へぇ、何か変わった形してるね?」

 

あれっ?王女の感想はそれだけ?何でこんな形してるの、とか神様のヘンタイ、とかそういうのは無いの?「ちょっとアナ?アンタ何でそんな普通なのよ?」ってエニュでも予想外の反応だったみたい。

 

「いや何でって……むしろ何でワタシ以外みんなそんな恥ずかしがってるの?確かに見たことないような変な形してるけど」

 

あぁ、ステノ王女、そういう……。私だけじゃなくてニュクティとエニュも理解したようね。まさか……いえ、王女だからこそか。男性器の形、知らないのね。これはどうしよう、言った方がいい?いやでもさっきの件の細やかな仕返しの続きって事で黙ってよう。

 

「コホン……そうね、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

私が態とらしく咳をしてそう言うと、ニュクティとエニュは「えぇ……!?」って表情をしつつも私の仕返しに乗って黙っててくれたわ。大丈夫よ王女様。もう少ししたらちゃんと教えてあげるから。

 

「まーいーや。それじゃステンノちゃん、これ有り難く……え……何これ」

 

王女がボロック・ダガーを手に取った瞬間、驚きの声を洩らしたわ。流石に駄目な武器だったかしら。でもそれなら仕方ないわ。例のスプーンみたいに私の魔力を通して多少でも使い易くしてあげ……。

 

王女は立ち上がると、右手に持ったボロック・ダガーに軽く魔力を通して前に向かって軽く薙いだ。瞬間、王女の前方に生えていた多数の木々が倒れる。丁度王女が横に薙いだ辺りの幹から折れてね。

ステノ王女は「凄いよコレ!流石神様の武器だね!」って興奮した様子なんだけど。何で?私が使った時はあのサーベルタイガーモドキの牙に弾かれたのに……。

 

『アレが本来の使い方じゃぞい。お主の前世のゲームであったような理●の杖とかルーン●レイドとかの武器の強化版と考えてくれれば良い。流石に『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』程の威力は無いがこの世界ではステノ王女程度が使えば間違いなく最強武器じゃ』

 

…………は?何それ聞いてないわ!そういう事はちゃんと説明してよ!!

 

『柄の部分から魔力を吸って高威力を叩き出す武器でな、故に手を離すと威力は普通の武器と変わらなくなるんじゃ。高位の術者ならば送り込む魔力をコントロールする事で威力の加減が可能じゃぞぃ』

 

どうしてそういう事を最初に言わないの!?つまりあの時サーベルタイガーモドキに投げつけないで切りつけてたら私わざわざ逃げなくても良かったって事!?

 

『まあ、そうなるな。あんな虎ごとき真っ二つじゃろうて』

 

もうっ、この〈主神(クソジジイ)〉!!

 

『まあそう怒るでない。ワシとてお主の恥ずかしい映像を纏めておいた秘蔵フォルダをさっきアムラエルの奴に消されたのじゃし、お相子というヤツじゃよ』

 

怒るに決まっ……待って今何て言ったの?私の恥ずかしい映像って……?

 

『おっとついつい口が滑ったわい。また何かあったら知らせるぞい。それじゃアディオス』

 

アディオス、じゃないこのヘンタイ!ああもう!




そんなわけで終章始まり。パイオスさんやステンノさんの秘めらた過去が明らかに……なるかもです。

最初に持っていたモノが実は最強武器だった!はあるある。
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