異世界で死にたくない最弱の女神   作:アイリスさん

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48話

「知らなかったとはいえ誠に申し訳ございませんでした。私に出来る事があれば何でも致します。ですのでどうか、どうか御慈悲をぉぉ」

 

イオリス嬢、床に頭を擦り付けるようにして土下座しています。まあイチ平民が王女殿下を偽物扱いしたのですから無理も無いですね。

 

「いやほら、ワタシとしては結果的にはそれで良かったというか、お陰で最悪の事態を防げたというか……ねぇ、ステンノちゃん」

 

「……そうね」

 

おや、『ちゃん付け』で許される程にステンノ様と親交を深めましたか。王女殿下はこちらが注意しないとそれこそ誰とでも一切の壁を取っ払って話されますからね。因みにニュクティ様は椅子に座っておられるステンノ様の膝の上です。何気にあの姿は和みますね。

いえ、確かにあの誰とでも気さくに話せるのは長所ではありますが、気さく過ぎるのは問題ですね。ダナエこと私も王女殿下の侍女であった頃に散々注意をしたものですが、やはり直ってはいませんでしたか。そのせいでドレスを着ていないとどう見ても王族に見えず。それで今回、名を騙る偽物として捕まったわけですし少しはステンノ様を見習って……いや、流石に女神様と人間のオーラを比べる、というのはステンノ様に失礼ですね。

とはいえ王女殿下にはもう少し王族としての自覚とそれに見合った立ち振舞いを…………っと、話が逸れました。

 

どうもステンノ様の様子からして何やら引っ掛かるような事があるようですね。神殿本部で戦った、という魔族に何かあるのでしょうか?まあ重要事項であれば後で話して頂けるでしょう。

 

「兎に角さ、ワタシはもう気にして無いから」

 

「イオリスさん、他でも無い王女がこう言っているのだしそろそろ顔をあげてくれないかしら?」

 

イオリス嬢、折れて土下座を止めましたね。王女殿下達に促されて漸く椅子に座ったようです。やれやれ、これで殿下が話を進められます。

 

「さて、こちらとしても色々と聞きたい事はあるのだが、先ずは私がここに赴いた真面目な理由を話そうか」

 

そう殿下が前置きをして話し始めます。

 

「ステノ王女がデロスの城を発って数日後の事だ。私は夢で神の声を聞いたんだ。『ステンノと合流しろ』とね。始めは何の事か分からなかったよ。ステノではなくステンノ、とハッキリ言われたからね」

 

殿下の話を聞き、ステンノ様が溜め息をつき、右手で額を押さえていらっしゃる。お気持ちは分かります。神様には殿下にはもっと分かりやすくおっしゃって欲しかった所です。あの時のステノ王女殿下=ステンノ様と知っていたのは私だけ、それ以外の人間には理解出来ませんからね。

 

「もしかしたらステンノ、という人物についてステノ王女が何か話していた可能性を考えて、ダナエを呼んで話を聞いた。するとどうだ、私達と城で過ごしていたのは実はステノ王女ではなく女神ステンノ様だと言うじゃないか。これは間違い無く私への天啓だ、という事になってね。急いで準備を整えて神殿本部へと向かったわけだ」

 

殿下の『女神ステンノ様』という言葉を聞いて「へっ?女神……様?」と心底驚いた声をあげてステンノ様に視線を向けるイオリス嬢。ステンノ様は再び溜め息をついていらっしゃいます。どうやらイオリス嬢には伝えておられなかった様子。ニュクティ様が『何勝手にバラしとんじゃい』と言いたげな表情をしていますね。

 

「ああ、イオリス嬢にも知ってもらった理由は他でも無い。下手に私とステンノの間違った噂を広められない為、それとこの斡旋所にもある程度協力してもらう為だよ。勿論ステンノが女神様だという事は無用に広めないでくれ」

 

そう。これは必要でした。斡旋所側がステンノ様の正体を知っているなら問題無し。知らないなら話しておかないといけない。コチラとしても協力してもらうのにはある程度知ってもらっていた方が何かと話が早いですからね。それにイオリス嬢には過去にステンノ様の事を『某国の姫だ』とした不用意な噂を流したという前科がありますし。仮に殿下の権限でステンノ様に特別待遇を与えたとして、ステンノ様が女神だと知らなければまた妙な噂を立てるかも知れないですし。只でさえステンノ様と王女殿下が瓜二つですからね。

 

「ああ、私がステンノと行動を共にするに当たってだが、心配には及ばない。実は治癒魔法が使えるようになった」

 

殿下はそう仰りナイフを手にして、殿下自身の左手の甲に傷を付けました。殿下は直ぐに右手を翳すと、私達の世界では凡そ見たことの無い魔法文字らしきものが宙に浮かび上がって傷が治ります。王女殿下に散々魔法を見せられた私も、同行している魔法使い達も知らない文字。ですが、どうも女神様は知っておられる様子ですね。ステンノ様は目を細め「ルーン魔術……?」と何かを小さく呟いてやや驚かれています。察するにあれは恐らく神の世界の文字なのでしょう。これも主たる神の導きに違いありません。

 

ああ、使えるようになった経緯は殿下は話されない方が良いでしょうね。何せ殿下は道中でイッカクと呼ばれる、二本の角を持ちその内の一本が真っ直ぐ伸び1m程度の長さがある、バイコーンの上位種の魔物のその角で右脇腹を貫通された挙げ句1日程意識不明になりましたからね。

あれには一同焦りました。バイコーン自体は速攻で退治しましたが、何せ一瞬の隙を突かれましたからね。貫通した怪我を治せるような治癒魔法を使える者は生憎近くの街まで行かねば居ない状況。下手に殿下から角を抜けば失血死しかねないので丸1日角が刺さったままでしたし。その後に目を覚まされた殿下が覚えたての治癒魔法?で他の治癒術師達に混じって御自分の傷を治し始めたのには驚きました。ただ魔法の制御が上手く出来ないらしく全治には至らず、それに治癒術師達の腕も最高というわけでは無かったので流石に傷跡は残ってしまいましたが。

 

 

 

ステンノ様が「ふぅん……他には?主神は他には何か言って無かったかしら?」と殿下に確認をされておられます。殿下は「いや、神がおっしゃられたのはそれだけだよ」と。ステンノ様はこれから何をするのか、何が起こるのかを知っておられるのでしょうか?それとも別の何かが気になって訊ねられたのか。

 

「そう。ならこの場は一時解散でいいかしら?他に何かあるなら明日にしてくれない?私達はこの街に着いたばかりだしゆっくり休みたいのだけれど」

 

「それもそうだな。これは申し訳なかった。ではステンノ、また明日の同じ時間にここで、という事で大丈夫だろうか?今後の方針も決めておきたいからね」

 

ステンノ様は殿下に「ええ。それじゃまた明日」と返し、ニュクティ様を膝から降ろして椅子から立ち上がり、二人で部屋から出て行かれました。ハッと我に返ったイオリス嬢が慌ててその後を追って退出。

 

はぁ。殿下には全くもって呆れますね。そこは『良ければ私の泊まっている宿に来ないか?』とステンノ様を誘うところでしょう?それで一緒の部屋に泊めないと。肝心な場面で行動しなくてどうするのですか。いえ、相手が女神様だと分かってしまった今では手を出すのが如何に不敬であるか等百も承知ですが、だからといってこれだ、と心を奪われた相手にまともなアプローチをしないというのはヘタレの極みです。全く、そうならないよう折角私が城でステンノ様は女神だという事を黙っていたというのに、無理矢理にでも押し倒して唇を奪うなりヤッて既成事実を作るなりしておかないからこういう事になるのですよ殿下。後の後悔先に立たず、というやつです。

 

おや、ちょっと目を離した隙にエニュ嬢が「殿下、無礼を承知で言わせていただきますが」と殿下に詰め寄っていますね。

 

「ああ、構わない」

 

「では失礼して。女神様の許可も無しに敬語を使わないというのは流石に不味かったのではありませんか?」

 

「いや、私も最初はそう思ったのだがね。エニュ嬢やステノ王女が普通に話しているのを見てステンノはそういった態度で話されるのが嫌なんじゃないか、と思ってね」

 

殿下、そういう所は良く見ておられるのに、どうしてもう一歩踏み込まないのですか。はぁ。ミュケーナ国内ではもう殿下とステノ王女殿下が結婚するものだ、という認識が広まってしまっていますし。もういっそのこと偽装でもいいからステノ王女殿下(ラケダイの残念王女)と結婚させてしまうべきでしょうか?そうすれば王女殿下の日頃の行動も少しはマシになるやも知れないですし。

 

「ねえダナエ、またワタシの悪口考えてたでしょ」

 

「はい、王女殿下。その通りです」

 

因みにですが王女殿下は魔法を封じる手枷を付けて逃げられないよう縛り上げたうえで私が上から座って拘束しています。この方はこうでもしておかないとちょっと目を離した隙に居なくなっているのですよ。魔法さえ無ければ王女殿下はまだまだ私に敵わないようですからね。何を隠そう、王女殿下に戦い方を教えたのは私ですので。

 

「ワタシの扱い酷くないかな!?……取りあえず上に座るの止めてよぅ」

 

「では逃げないと約束して下さい。ラケダイ王国に突き出すような真似は致しませんので」

 

「逃げないよ……ステンノちゃんの護衛が今のワタシの任務なんだから」

 

実際問題として王女殿下の身柄を拘束してラケダイに連れて帰るように、とラケダイ国王陛下より仰せつかってはいるのですが。今は状況が状況なので初めから見逃すつもりでしたがね。

 

 

 

 

 

───────

 

 

 

 

はぁぁ。

頭、痛い。今日はもう全部投げ出して寝てしまいたい。私が何をしたっていうのよ。

ニュクティと一緒に会議室(多分)から出た私は、思わず頭を抱えたわ。

王女やエニュだけじゃなくて王子が合流するのはもう仕方無いと諦める。でもその王子がルーン魔術を使えるようになってるってどういう事なの?それってつまり、やっぱり私や王女だけでは対処が難しい脅威が迫ってくるって事よね?だから治癒特化・戦闘能力ゼロで戦闘中に味方の足を引っ張る可能性があって自身も命の危機に陥りやすいカッサンドラさんではなく、治癒含めルーン魔術を使えて戦闘にもそこそこ参加可能な王子を仲間にさせたって事よね?

それってさ、この間のブエルと同等かそれ以上が来るって事でしょう?ブエル以上って……もうパイオスが来るって事なんじゃないの?幾ら王女や王子が居て、仮にそれに加え此処にアルトリウスが居たとしても勝てる要素、無くないかしら。せめて私がグランドクラスのサーヴァントとかだったら可能性あるけれど、今の私はよりによって宝具火力の望めないステンノだし……転生する姿を決める時にせめてエウリュアレにしておけばまだマシだったかも知れない。ホント、自分の迂闊さにウンザリする。はぁ。もういっそずっと夢幻召喚状態で過ごしてやろうかしら。

 

「ステンノ、大丈夫か?」

 

「ええ、ありがとう。大丈夫。ちょっと面倒な事になったなって思っただけだから」

 

ニュクティ、心配してくれるのは嬉しいけど。

ニュクティには最悪の場合避難してもらうしかない。この子の力ではパイオスと戦うのは無理だし。街の人達の避難誘導、とか適当な役目を押し付けて戦場から離すしかないか。

 

 

 

そうして少しの間その場で思考してたら、ニュクティにスカートの裾をちょいちょいと引っ張られた。気付いて顔をあげると、目の前には恐る恐るといった様子のイオリスさんが居たわ。あー……ええっと……。

 

「あの。女神……様?」

 

「その……イオリスさん、敬称も敬語も無しにしてくれると有り難いわ。それから正体を隠していた事は謝るから」

 

 




変換ツールとか日頃から使いこなしてる作者様方は凄いなぁ、と小文字化を初めて使ってみた感想。

そろそろ色々と回収していきます。次回はニュクティが羨まけしからん事に……

本文とは一切関係ありませんが、2部6章でキャスニキ超強化来ましたねぇ……ええ、本文とは全く関係ありませんが。
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