異世界で死にたくない最弱の女神   作:アイリスさん

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水着カーマガチャ爆死した。


50話

カラカラカラカランッ、と幾つもの何かがぶつかり合う音がして、私は頭上を見上げる。

一秒が何倍にも引き伸ばされた世界で、私へ向かって勢いよく落ちてくる鉄パイプの山。『危ない』とか『ヤバい』とか思う私。そうしている間にも一本、また一本と押し寄せる鉄パイプ達。あるものは太股に刺さり、あるものは脇腹を抉り、またあるものは胸を貫通し。そうでないものも私の体を押し潰し、全身の骨を砕かんと降り注ぐ。身じろぎ出来ない私にはその全てを受け入れる事しか出来ない。肉が抉れ、骨が砕け、血が噴き出す。本来なら一瞬であった筈の痛みは、スローモーションの世界の私の全身を巡り、神経を、脳を焼く。あまりの痛みに耐えられないと判断したらしい私の脳はエンドルフィンのような脳内麻薬を分泌しはじめ、急激に痛みは遠退き。漸く顔を上げた私の目の前に一本のパイプが落ちて来て、胸の中心辺りにその先端がめり込み、肋骨が砕け、心臓が潰され鉄パイプがそのまま背中側へと貫通した所で意識が途切れて。

 

 

 

 

 

 

……そんな夢から目を覚ました私は、申し訳程度に掛けていた掛け布団(粗末、と言ったら失礼だけれど事実)を払い除けて、簡素なベッドからゆっくり降りる。寝る前に抱き枕にした筈のニュクティは、何時の間にやら隣のベッドに移動していてスヤスヤと寝息を立てている。

硝子なんて上等な物は使われていない、細長い板を平行に何枚も並べただけの窓代わりの木製ルーバーの隙間からは陽の光は全く漏れておらず、外にはまだ夜の闇が広がっていた。時計が無いから正確な時間は分からないけど多分夜中。

 

それにしてもこんな時に前世で死んだ時の夢、ね。不吉な予知夢か、はたまた何かの隠喩か。どちらだったとしても録なモノじゃ無い。偶々見ただけ、だと思いたいけど恐らく何かの前触れなんでしょうね。

 

これから来るであろうパイオスに対抗する手段は思い付いてない。まあ、一眠りしたくらいで討伐方法が思い付くなら苦労なんてしないのは分かってたんだけど。でも眠った事で少し落ち着いたのは確か。目も冴えちゃってるしパイオスについて少しは考えを纏めておこう。

 

先ず。現状考えられるパイオスの唯一の弱点は、私。正確には私に魂を吸収される事。

パイオスの魔力で強化されたブエルにこの世界の最大クラスの魔法が効いて無かったのを見るに、彼らの魔法で打ち倒すっていうのは非現実的。オーディンのルーン魔術なら分からないけれど、肝心の王子が満足に使いこなせてないからこれも非現実的。ステノ王女に渡したボロック・ダガーが何処まで通じるかは不明だけど、王女の魔力がこの世界が定めた範囲内ならば討伐は難しいかも知れない。かといってステンノ()にパイオスを倒せる力があるかっていうと……正直無理ね。やっぱりグランドクラスかそれに準ずるくらいのサーヴァントじゃないと。

 

さて、どうやってパイオスを無力化したものかしら。というかパイオスから魂を引き出すのってどうやるのかしら?パイオスは私の体から直接引き出せるみたいだけど、私はそれ出来ないし。……パイオスを殺せば体から魂が勝手に出てくるわけだから触れるだけで済みそうだけど。

 

ああ、そっか。パイオスが私を殺す方向に変えたのはそういう事か。私を殺せば魂が体から抜け出る。私の魂を守る仕掛けは体の方に在って、魂が離れれば無防備に出来るって事か…………なら余計に死ぬわけにはいかないじゃない。只でさえ化け物のパイオスに、これ以上力を与えるわけにはいかないし。何より私は消えたく無い。

 

それに。パイオスにはこう……うーん、上手く言えないけれど、前にも何度か感じた事がある気がするような災厄の気配を感じるっていうか……ん?何度か感じた、って何?私の前世ってそんなに波乱万丈だった?中身は思い出せないけれど、きわめて普通の人生だった筈なんだけど。

 

それにだってほら、次があるのなら普通の人生を生き…………ん?あれ?私今何て思った?あれ?

さっき考えてた筈の言葉なのに、もう霞がかかったようになって思い出せなくなってる。過去に関する重大な何かだったような気がするんだけど。何だっていうの。やっぱり過去に何かがあって、それがパイオスとして形成される原因になった、とか?

はぁ。思い出せないものはどうしようも無いか。兎に角、パイオスに殺されるなんて御免。私の傍にこの世界でも有数の戦力が居る間になんとかしないと。

 

ん?ノック音?こんな夜中に誰かしら?「起きてる?エニュよ」って声。彼女か。何の用だろう。

 

私は掛けていた鍵を外し、扉を開けた。そこに立っていたのはエニュだけ。ステノ王女は居ないみたい。それと、エニュは私を見るなり何故か驚いた顔をしてる。

 

「ちょっと、何て格好してるの!」って言って私の手を取り部屋へと入ったエニュが急いだ様子で扉を閉めた。格好って…………あー、そういえばショーツ一枚の姿のままだったっけ。

 

「全く、ステンノは幾ら女神様だからって無防備過ぎよ。少しは気を付けてよね」

 

「大丈夫、流石に貴女達の前だけだから」

 

「なら良い……いや良く無いから」って言ったエニュの視線は何故かニュクティへ。ニュクティは変わらず眠ったまま。

 

「……一応聞くけどさ、ニュクティ君と変な事してないよね?」

 

変な事?もしかして私がニュクティに手を出したとでも?してるわけ無いでしょう。流石にこんな子供に手を出すようなショタコンじゃ無いんだけど。そんな下らない話よりこんな夜中に一人で来た要件は何かしら。

 

「無いわ。少なくとも私にそういう嗜好は無い。それより私に何か用があるんでしょう?」

 

「そうだった。『女神様』にとって重要な話をしに来たんだった。パイオスは明日の午後には来るわ。正確な時間は不明だけど」

 

……は?

パイオスが?いや待って。どうして貴女がそれを断言できるの?神託でも貰った?それとも独自のネットワークでも持ってるとか?

 

「ふぅ」って息を吐いて椅子に座ったエニュが、見上げるようにして私の瞳を覗き込むように見つめて来る。私は少し混乱して呆然としてたけど我に返って対面の椅子に座って質問を投げた。

 

「どうして貴女が?」

 

「まあその話は後でするとして、ステンノはどうする?パイオスと戦う?それとも逃げる?今なら私やアナ、王子殿下を囮に使えばステンノだけは逃げられるかも知れないし」

 

質問に質問で答えないでよ。

どうせ今逃げてもいつまでも逃げられるものじゃ無いでしょう。現に今の私の居場所を呆気なく見つけてるわけだし。

 

「戦うしかないんじゃない?逃げても貴女達を失ったら対抗出来る可能性すら無くなりそうだしね。なら今やるしかないでしょう」

 

「ステンノならそう言うと思ってた。魂を分けられてどんなに精神的に弱くなってたとしても根っこの部分は変わらないみたいね」

 

魂を分けられた、ってどうして知ってるの?……まさかエニュって〈主神(アイツ)〉の関係者だったりするの?

話があちこちに飛んで思考がついていかない私の右胸に、エニュの左手が触れた。

え?今度は何?もしかしてエニュもカッサンドラさんとかと同類なの?……って思った私の右胸、エニュの触ってる辺りを中心に痛みが広がり、激痛となって私を襲った。

 

「あ゛……が……」って呻いて、私は椅子から落ちて床にうつ伏せに倒れた。激痛が走ったままの右胸を両手で抑えるけど、そんな程度で痛みが和らぐ筈も無い。まさか、エニュはパイオスの手先?痛い、苦しい、駄目、思考が回らない。

 

「エ……ニュ……貴……女……な……にを……」

 

「パイオスと戦うのでしょう?下準備よ」

 

痛みは次第に増していく。パイオスに無理矢理魔力を抜かれた時よりはマシだけど、流石にこれ以上は耐えられそうにない。このままだと彼女の前で無様を晒す羽目に……。

そう思った所で、痛みの範囲が徐々に狭くなっていく。私の拳大程度の範囲まで狭まって、その位置が胃の辺りな事に気付くと、今度は猛烈な吐き気。思わず右手で口を覆う。

 

「うっ…………オエェェェェ」

 

そうして私はやっとの思いで何かを吐き出した。床にはピンポン玉程度のサイズの黒っぽい何かが転がる。

未だに床に伏して「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」って呼吸を乱す私に、エニュが近寄って来る。まだ力も入らないから抵抗出来ない……どうしよう……。

 

「大丈夫だった?でも上手くは行ったみたいね」って言って、エニュは私の体を優しく抱き起こす。どういう事?敵では無い?私が今吐き出したアレに何かあるの?説明してよ。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

「あー、ちゃんと説明するから焦らないでよ、ステンノ様。先ずは呼吸を整えて」

 

アヒル座り状態のエニュに背中から包み込まれるように抱えられる形で寄りかかって、ゆっくりと呼吸を整えていく。すぅ、はぁ、すぅ、はぁ。落ち着いて来たわ。どうやら体に違和感は無いみたい。

 

「それで、私が吐き出したアレは何?」

 

「憶えてないのもまあ仕方ないか。アレはステンノ様の中に溶けてた『主神の加護』の核を成してたもの。パイオスとの戦いの前に必要だったから取り出させてもらったの」

 

アレが……あんな何かの残骸のようなモノが主神の加護の核だっていうの?どう見たって只のガラクタにしか見えないのに。

私は黒っぽい何かの欠片のようなモノを恐る恐る拾いあげた。破片の端に白い模様のような何かの一部らしきモノが付いてる。何の欠片だろう、これ。

 

「それで、これを使って何をするの?」

 

「その前にステンノ様」

 

そう言って、エニュは私にハンカチを差し出した。ああ、ハンカチで拭けって事?まあ私が吐き出した物だしね。一応綺麗にした方がいいか。

そう思って受け取ったハンカチを黒っぽい欠片へと向けたけど、エニュに「違う違う」ってハンカチを持った右手を掴まれて。ハンカチはそのまま私の頬へ。

……どうして。

どうして私、泣いてるの?この黒っぽい欠片を見てから何故か涙が流れ出て来る。全く見覚え無い物なのに。なんで。

 

「憶えてなくても、記憶は永遠に消えたとしても魂は憶えてるって事ね。その欠片は、ステンノ様にとって掛け替えのない存在だった者の残滓、ってトコらしいわ。ま、そのうち分かるでしょう」

 

魂の奥底から滲み出すように私の心に拡がっていくのは、自身への不甲斐なさ、私が知らない誰かへの親愛と懺悔と後悔、やるせなさ。

もしかするとパイオスと戦う、という事は。私が忘れてしまった私の過去を精算する事なのかも知れない。

 

「ステンノ様、泣き終えて落ち着いたら全員叩き起こしに行くわよ?あまり時間も無いからね」

 

私は頬を濡らしたままエニュに頷いた。この様子だとエニュは明らかに()()()()、〈主神(アレ)〉の関係者で間違い無さそう。ならこの欠片が対パイオス戦の切り札って事で間違い無い。今や名前も姿も分からない、私にとって大切な誰かが残してくれたこの欠片が。

 




某アレのワクチン(2回目)の副反応で熱出して数日動けんかったです。

下着一枚で扉を開けるステンノさん。
そんな彼女の過去も少しずつ明らかに。

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