異世界で死にたくない最弱の女神   作:アイリスさん

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53話

魔王が来る、なんて急に言い出すなんて。エニュがそんな能力持ってるなんて初めて聞いたんだけどなぁ。っていうかさ、それなら何でブエルの時は気が付かなかったんだろ?何か条件でもあるのかな?

 

エニュの言葉を疑う必要も無いし、まー来るっていうなら迎撃しなきゃだね。幸いステンノちゃんの魔力の隠蔽は終わってる。召喚を終えるまでの時間稼ぎくらいならワタシと王子で何とかなる、多分。

 

剣を鞘に納めて平原にポツンとある岩に腰掛けてた王子は戻って来たワタシに気付いて声をかけてきた。

 

「そっちは終わったのか?」

 

「終わったよ。それと王子もそろそろ動けるようにしておいて。エニュの話だと来るみたいだよ」

 

「予想よりも早いな……分かった」

 

王子はステンノちゃん曰く『ルーン魔術』とやらを使い始める。初めて見るモノだから良くは分からないけど多分身体強化とかそういうのだと思う。うーん、未知の魔法に凄く興味が……全て終わったらワタシにも教えて欲しい……って、ワタシも準備準備っと。

 

丁度ワタシが一通りのバフを付加し終えて、防御結界を張り終わった時だった。何の前兆も無く突然上空に何かが現れた。本当に突然過ぎて一瞬何が起きたか分からなかったくらい。

一つだけ言えるのは……現れた力の塊は、ワタシの想像を遥かに越えてたって事。

 

時間稼ぎくらいなら何とかなる?はははっ、さっきまでの自分に『無理だ』って言ってやりたいね。アレは人間が対峙していい相手じゃ無い。今なら分かるよ。魔王との戦いに、神々が何故ワタシ達人間にこれだけ力を貸したのか。

 

王子は上空を見つめて「アレが魔王か……」って呟いて冷や汗を流してる。ワタシも……ワタシも嫌な汗が止まらない。恐怖で足が震えてる。自分が中途半端に強くなったせいで、魔王との力の差が分かってしまう。

 

「は……はは……ワタシ達、時間稼ぎなんて出来るのかな?」

 

「だが……私達がやるしか無いだろう」

 

だよね、王子。そんなの分かってはいるよ。でも正直アレは不味いよ。ステンノちゃんに気付かず、かつワタシ達相手に遊んでくれるくらいじゃないとちょっと厳しいかなぁ。

 

『ふむ……出迎えはお前達か』

 

思っていたより穏やかな声で、魔王はワタシ達に語り掛けてきた。ああアレだ、絶対強者の余裕。

 

「貴方が魔王だね?まさか単独で転移魔法が使えるなんて」

 

この辺り一帯は調査済みなんだよ。隠れた魔法陣の類いも無い。勿論、上空にも。だから魔王が突然現れたとなれば、ヤツ自身が自由に転移魔法が使えるって事になる。つまり、この地上の何処にも安全な場所なんて無いって事。それこそヤツを倒さない限り。

 

『転移魔法……そんなチンケな代物と一緒にされるとは心外。……しかし『世界が選んだ勇者』に『大神(オーディン)の加護を受けた王子』か。中々に興味深い。良いだろう。我が直々に遊んでやろう』

 

……よし!幸いにも遊んでくれるっていうなら何とか時間稼ぎになる。それにステンノちゃんにもまだ気付いてないっぽいし、これなら……!

 

『だがその前に面倒事を片付けなくてはならぬ』

 

面倒事…………魔王は視線はそのままに、平原のワタシ達の方ではない王子の左後方へとゆっくりと左手を向ける。その指先に槍の穂先のような形の魔力が収束して……って、その方向ってステンノちゃん達の!!魔王のヤツ、最初から全部分かって……!!

 

「やめろぉぉぉぉお!!」

 

ワタシは叫びながら魔王へと突進する。駄目だ駄目だ駄目だ、アレを止めないと。まともに受けたらエニュや力を解放してないステンノちゃんじゃ耐えられない!

 

ワタシが振るったボロック・ダガーは魔王の左手に軽く払い除けられて、ワタシの手からすり抜けて明後日の方角へと飛ぶ。背中に何かの衝撃を受けて、気付いた時にはワタシはうつ伏せの状態で地面に転がってた。我に返って顔をあげると、視線の先のエニュが倒れ、胸の辺りの前後から赤い飛沫が飛んだステンノちゃんが座り込んだのが微かに見えた。

 

うそ……でしょ……。

 

エニュとステンノちゃんが……こんなあっさり…………。

 

『命を捨てて庇ったか……実に殊勝な事だ。お陰で女神は即死は免れたようだが……まあ放って置いても直に死ぬだろう』

 

「…………お前ぇぇぇぇえ!!!」

 

頭の中で何かがブチッ、と音を立てて切れたのが分かった。立ち上がって地面を蹴って、ワタシは両拳に全力で魔力を込めて魔王に何度も殴りかかる。

 

『これで障害は粗方無くなったか。女神(アレ)が死ぬまでは宣言通り遊んでやろう』

 

ワタシの渾身の拳は、何度撃っても魔王には届かない。左手一本で簡単に止められる。何で!何でなの!何でエニュとステンノちゃんが死なないといけないの!何でワタシはこんなに弱いの!

 

『いい加減別の攻撃をしろ。単調過ぎてつまらん』

 

魔王が魔力を乗せた右手を雑に払う。ワタシは左脇腹にモロに直撃を受けて、王子の所まで吹き飛ばされた。

 

「ゲホッ、ゲホッゲホッ」

 

激痛のする左脇腹を左手で押さえつつ、咳き込む。口にあてたワタシの右手には、赤い血が付く。くっそぅ、ちょっと食らっただけでコレか。でも逃げるわけにはいかない。どうにかして魔王を倒して、エニュとステンノちゃんの治癒に行かないと。

 

「大丈夫か!?」

 

「ありがと。何とかね。それより王子、何か奥の手とか無いの?」

 

「あったらとっくにやってる」

 

魔王が気だるそうにゆっくりとワタシ達の方へと歩いて近づいてくる。

 

『ああ、それとさっきの攻撃に女神(アレ)の治癒を阻害する魔術を乗せておいてやった。助けるにはお前達が我を殺すしか無い。どうだ、少しはやる気になっただろう?』

 

くそっ、何て事を……!

絶望って言葉の意味、初めて分かった。神様、こんなヤツどうしろっていうのさ。

 

『返してやる。少しは我を楽しませろ』

 

魔王はボロック・ダガーを拾ってワタシに向かって投げ付けてきた。コレが有っても無くても結果は変わらない、って事か。完全に舐められてる。くっそぅ、何か手は……。

 

 

 

──────

 

 

 

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」

 

何が……起きて……。

 

体に力が入らない。過呼吸気味に早く呼吸を繰り返すけど、息が苦しい。酸素を取り込めている気がしない。

震える右手を、刀のようなもので貫かれたような縦長の傷口がある、脈に合わせて熱さと痛みを伝えてくる左胸へ。ベッタリと付着する赤い液体。

 

ああ、そうか。私、死ぬのか。

エニュが庇ってくれなかったら即死だったけど、この状態なら大して変わらない。

間違い無く左肺をやられてる。なんだっけ……確か、外傷性気胸だっけ?呼吸困難になって死ぬのって苦しいんだっけ。それとも失血死が先かしら?さっきから血が止まらないし。止血の方法も分からない。吸血が出来れば何とか助かるかも知れないけど、生憎血なんて近くには……でもエニュの血なら……無理。エニュの所まで行けるような状態じゃない。体が満足に動かない。這っていくのも無理。

 

傷口を心臓より上にすれば少しは違うかも。右側を地面に、左半身を上にして力無くその場に横たわる。嗚呼、少しだけ出血が弱まったような気がする。

直後、猛烈な吐き気。横になった体勢のままで胃から上がってきたモノを吐き出す。

 

「オエェェェェ、ゲホッ、ゲホッゲホッゲホッ」

 

口から出てきたのは当然、大量の赤い液体。

流石に無理、かな。呆気ない終わり方。ステノ王女、アルゴリス王子、ごめん、召喚出来なかったわ。エニュも私の為に命を張ってくれたのにごめん。それとニュクティ、ごめんなさい、戻れそうにないわ。

 

体が動かない。酸素が足りない。このまま眠ってしまえば、苦しまず少しは楽に死ねるかしら。死んだら私はパイオスに取り込まれ……駄目だ、ボーッとしてきて上手く考えられない。もういいか。瞳を閉じ…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『───先輩、諦めちゃ駄目です!まだ終わってません!起きてください───先輩!………先輩!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……誰の……声?

瞼を開いて、声を感じた正面へと霞む瞳を向ける。そこには座って泣きそうな表情で私の右手を両掌で握るニュクティが居た。

 

「ルリカ、諦めるな!まだ終わってない!起きろ、起きてくれ………………気付いたかルリカ、確りしてくれ!」

 

私が目を開けた事に気付いたニュクティが、その顔を私の顔へと近付ける。

 

「大丈夫かルリカ、今助けるからな」

 

思考の回らない、虚ろな表情の私の口の前に自分の右手を差し出したニュクティは、ナイフをその親指に向ける。……血を吸え、って事?

 

「……アムラエルか?こんな時になんだよ?は?どういう意味だよ!何で駄目なんだよ!じゃあどうしろっていうんだよ!……このままじゃルリカが死んじゃうだろ!」

 

ニュクティは指を傷付ける直前にその手を止めて、空に向かって何か話してる。でもその内容が頭に入って来ない。

 

兎に角ニュクティだけは、助けないと。パイオス()に殺させるわけには……。

 

詠唱、途中だったから……まだ有効……かしら……。

 

「抑止……の……輪……より……きたれ、天秤……の……まも……り……てよ」

 

だめ、もう、いしきが……。

 

 

 

 

………………。

あれ?呼吸が……少し楽になってる。

左胸の傷口は塞がって無くて絶えず痛みが襲ってくるけど出血量が……血が殆んど止まってる。どういう事?

 

私はどうも上半身を起こされニュクティに寄りかかり包まれるように抱かれ支えられてるみたい。背中にニュクティの温もりを感じる。

霞がかかったようだった思考がさっきよりもハッキリしてる。体の方は……駄目ね、相変わらず満足に動けそうに無い。

 

「ああ、気が付いたようだね」

 

ニュクティとは違うその声が、私の上の方から聞こえた。アルトリウス、貴方どうやって此処に?あ……って事は私を助けてくれたのはカッサンドラさん?

 

そう思って私は彼を見上げた。

そこに居たのは……。

輝く白銀に青を(あしら)った鎧を纏った、金髪碧眼の騎士。顔は確かにアルトリウスとそっくりだけど、備わっている風格が、覇気が全く違う。

それに。その右手には白亜に輝く鞘に納められた、金色の鍔を持つ聖剣。

 

「ア……」

 

私は声を出そうとしたけど、上手く言葉が紡げない。せめてもう少し体力を回復しないと喋る事も儘ならないみたい。

彼はパイオスの方を一度チラリと睨んだ後、そんな私に微笑みを向けて語る。

 

「まだ喋らないで。無理をしてはいけないよ。どうやら鞘の力でも魔王の呪いと拮抗するのがやっとらしくてね。やはり倒さねば完治は難しいようだ」

 

彼は鞘に納められたままの聖剣を手に戦場へ向かうべく背を向けて……思い出したように私の方へもう一度向き直って口にした。

 

「…………約束(誓い)を果たしに来たよ、マスター」

 

サーヴァント・セイバー。真名・アーサー・ペンドラゴン。前世の私がFGOで初めて召喚した星5サーヴァント。どうやら召喚は成功したみたい。これも因果…………ああニュクティ、アーサーに嫉妬して私を渡すまいとするのは構わないけれど、それで私を強く抱き締めるのは止めて。傷口に激痛が走る事には変わり無いから。

 




書いたり推敲したりしてる時間が取れなくなってきた(先週も休み無くなった)ので次回は恐らく来年。

プロトアーサー召喚。
あれだけアーサーアーサー言ってたので。
彼のアヴァロン(鞘)は聖剣の拘束具ですが本話ではアーサー王伝説の力(治癒、或いは傷を負わない能力)を付与。

感の良い方は気付いたと思いますが、ステンノ改めルリカさん……というかパイオスさんが何者かについては次回以降回収していきます。
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