どう……すれば。
パイオスの攻撃が
これでパイオスを止められないならもう打てる手は残っていない。
『理解しろ、貴様では『比較の理』を持つ我には勝てん』
薄ら笑いを浮かべそう言い放つパイオスに、奥歯を噛み締めるアーサー。
比較の理……。よりにもよって……アーサー王伝説においてキャスパリーグはエクスカリバーの刃をはね退けた挙げ句アーサー王に重傷を負わせた相手。フランスに於いてはアーサー王を殺害したって話(勿論イギリスでは全力で否定されているけど)まである獣。その力を受け継いでいるならアーサーとの相性は最悪。
……駄目、本当にほんの僅かだけど押されてる。
そうか、ここまでか。
最初から私に勝ち目なんて無かったんだ。私は大人しくパイオスに吸収されて消える運命だったんだ。
「くそっ、我々は見ている事しか出来ないのか」
「ワタシが……ワタシがもう少し強かったら」
私の胸の傷を治癒しながら唇を噛む王子と、自身の力の無さを嘆く王女。
違う。災厄の……比較の理の獣はそんなレベルじゃ無い。二人は良くやってくれたと思うわ。本当に。私みたいな使えない駄女神をここまでよく助けてくれたと思う。
今考えてみれば、
やっぱりパイオスとの最初の邂逅で是が非でも奴の魂を消滅させなきゃいけなかった。
「ルリカ、しっかりしろよ!まだ終わってないだろ!」
自らが背もたれになるように、座り寄り掛かる私を全身で抱え支えていたニュクティが私の左の耳元にそう声をかける。どうやら今の私の表情を見て諦めてしまったのを感じ取ったみたい。
「神造兵器、なんだろ?これから本領発揮するんだろ?」
いいえ、ニュクティ。
ニュクティが私の右手を強く握る。私を鼓舞する為か、或いは芳しく無い今の状況に好転して欲しいとの祈りが込められているのか。或いは恐れか、それとも。
今の私にはニュクティと目を合わせるような気概は微塵も無い。俯いて視線を逸らす。
『雑種……貴様、神造兵器があの程度の力しか無いなどと思っているのではあるまいな?』
『諦めるのかいマスター君?君らしくもない。切り札はまだマスター君の手の中に在るというのに』
…………
ふとニュクティに握られた自分の右手に視線を落とす。
…………そっか。まだ、終わってなかった。そうよね。
アーサーのマスターとしてまだやれる事がある以上、諦める場面じゃ無かったわ。
体は……うん、王子と王女のお陰で多少なら動けるかも。全身に微かながら気力が戻る。弱々しいながらも私は握られたニュクティの右手を握り返す。私の表情が変わったのを見て、ニュクティが声を掛けてくれる。
「ルリカ、俺に出来る事はあるのか?」
「…………ええ。私をアーサーの所まで連れて行って」
私の右手の甲には、確かに三画の令呪がある。ええ、私達の切り札。どうにも思い出せないけれど確かに何処かで見た、
───────
先ずはアーサーの所へ行かないと。令呪があるからアーサーが私のサーヴァントだというのは疑いようが無いと思うけれど、某正義の味方さんのように正しくパスが繋がっていないという可能性はゼロじゃ無い。何せ地球とは縁も所縁も無いこの異世界に無理矢理召喚しているんだもの。
それで、もしもパスが繋がっていないならやらないといけない事は……最も効率的なやり方は……ええと……何でfateの製作陣はあんな設定にしたの。私にその気が全く無くてもどうやったって勘違いされるじゃない……あっそうか元々はエ●ゲだったんだった。今の私の顔、真っ赤になってたりしてないかしら?大丈夫かな?
見かけ上とはいえ『女神の想い人』って立ち位置を確立した方がこの異世界におけるアーサーの格が跳ね上がるんだけどそれはそれとして……。
『くんずほぐれつ乱れたルリカたんのあんな姿やこんな姿!うおぉぉぉお漲ってきたぞい!』
『主神の癖にこの状況で発情するとかどんだけ馬鹿なんですか!死んでくださいこの変態ジジイ!』
『ちょっ、落ち着け!それはイカンじゃろやめるんじゃアムラ……プゲラッ!?』
なんか脳内で声が聞こえたような……。
とっ、兎に角。アーサーとパスが繋がっておらず、かつ地球と違って知名度ゼロなせいで彼が弱体化しているという状況を覆さないといけない。だから令呪持ちで優秀な魔力タンクの私がその……えっと……彼に
「もしもアレが君に向いたらどうするつもりだ?私は反対だ。この場で治癒しつつアーサーが勝つ事に賭けるべきだ」
「無謀過ぎるよ!幾らワタシでもあんな攻撃防げないから!もしも受けたらひとたまりもないからね!」
まあ、王子も王女もこういう反応になるわよね。ええ、知ってたわ。でもここで退くわけにはいかない。アーサーがサーヴァントである以上、受肉でもしない限り時間制限だってある。文字通り今がパイオスを倒すラストチャンス。
それに多分、私達が向こうに移動するくらいは出来る筈。パイオスも多分アレで出力全開なんだと思うし。そうじゃなきゃとっくにアーサーを倒してるか、もしくは同時に私にも攻撃を向けてる筈だもの。
「パイオスを倒すなら今しか無い……勝算ならある。お願い二人とも、聞き分けてくれないかしら?」
私の言葉に「しかし!」「けどさぁ!」って王子も王女も渋る。あまり猶予も無いし、二人が納得しないならニュクティと私だけで無理矢理向かうしかないんだけど……。
「……あーもー分かったよ!ワタシがあそこまで運ぶから!その代わり絶対勝つって約束してよ?」
王女が折れた。王子は「正気か!?」ってまだ納得してないみたいだけど。……仕方ないな。
「お願い、アルゴリス王子(スキル:魅惑の美声)」
王子相手にあんまり魅了スキル使いたく無いのだけれど……今回はやむを得ないか。「あ、いや、分かった」って頬を染めてボーッとした様子で答えた王子には悪いけど、放ってさっさと行かせてもらう。
王女が私を抱き上げる。瞬間左胸に激痛が走って苦痛に顔が歪むけど、まだ耐えられる痛み。治癒魔法のお陰ね。
背に風魔法を展開して出ようとした王女をニュクティが呼び止める。
「待ってくれよ、俺も行く!」
「ニュクティ君は危険……いや、分かった」
王女はニュクティの背中にも風魔法を展開すると、一気にパイオスの方……ではなくエニュの方へと向かう。風魔法だけで六つ同時展開とかやっぱりチートだわ、このお姫様。
エニュの方へと向かった理由は恐らく一つ。あるものの回収。そう、召喚魔法陣の中央に鎮座している、あの人間一人隠せる程の巨大な盾。あの盾、何処かで見た筈なんだけど……思い出せない。
「ニュクティ君、これ持って!いざって時は頼んだよ」
『力を貸しますニュクティさん!先輩をお願いします!』
「俺にこんなデカイの持ち上げられるわけ……うおっ、なんだこれ、何故か持てるぞ!?」
どうやってかあの盾を持ち上げ構えたニュクティを前に、私をお姫様抱っこした王女がそのすぐ後ろからアーサーの場所まで風魔法で文字通り吹っ飛ぶように一直線。細かい制御よりも速度を優先したみたい。左胸の傷に思いっきり響いて痛いんだけど……仕方ないか。
予想通り。パイオスは私達に攻撃を向ける余裕は無いみたいで妨害は受けずにアーサーの所へと辿り着けた。けど……出力が上がった。周りから見ても分かるくらい徐々にアーサーが押され始めてる。不味い、もう時間が無い。「何故来た!」って私を見て叫ぶアーサーに精一杯の笑みを向ける。
「分かってるでしょう?マスターとして貴方を助けに来たわ」
「君は……。そうか、
いつも……?アーサーの言ってる事は分からないけど、私はやれる事をやるだけよ。
ニュクティと王女に支えてもらいながら、やっとの事でアーサーの隣へ。自力で立つには左胸が痛くて無理ね。倒れそうになって、アーサーの左側に寄り掛かるようにして抱き着いた。ニュクティの嫉妬混じりの視線が……今は気にしてる場合じゃない。
「『令呪を以て命ずる……私のありったけの魔力を使ってパイオスを倒して』」
そう口にして、私はアーサーに唇を重ねる。勿論舌も絡めて体液を混ぜ合う事も忘れない。誰よ、体液が一番だとか設定作ったのは。
直後、私の体からごっそりと魔力が抜けるのが分かって。体じゅうを激痛が走り抜けて。同時に『
……夢を見た。
───夢。パスで繋がれたマスターとサーヴァントは互いの過去を夢のような形で見る事がある、と何かで読んだ。ならばこれはアーサーか私の魂に残る遠い記憶なのだろう。目覚めればきっと忘れてしまうような、アーサーと交わった今しか思い出せない儚く消えてしまうだろう霞のような───
『マシュ……マシュ!!』
どうやら私は叫んでいるらしかった。私、というか私が夢を通して見ているこの誰か、この視界の主の女性。
周りは見渡す限り何も無い、一面の荒野。
存在しているのは、この視界の主と生き残った二人のサーヴァント、それと視界の主……面倒だしもう私でいいか……が必死にしがみ付いている一体の異形。災厄の獣。ラスボスもかくや、という四本足の巨体の頭部らしき位置に二本の鋭利な角を持つ、様々な動物のキメラのようなソレは、私の発した声に反応したのか動きが止まった。巨大な頭の中心にある人間の……女性らしき顔が私の方へとその紫の瞳を向け、口を開く。
『……セ……ンパ…………イ…………?』
『マシュ!』
私が叫んだのは、どうやらキメラの体に埋まっている彼女の名前らしい。彼女は動きを完全に止めて、苦しそうに唸っている。
『二人とも、今しかない!わたしごと!マシュを!』
必死に叫ぶ私。伝わってくる死への恐怖。けれど、同時に感じる安堵。
『ごめん、マシュ。犠牲がわたしと彼女だけで済むのなら。それで人類が救われるというのなら。やむを得ない……よね?貴女も助けてあげたかったけど……でも許してくれるよね?だって、もうこれしか手段が残って無くて』
そう漏らす私の体は両足を失い、辛うじて上半身が動く程度。
私はそれでも気力で異形と成り果てた彼女を掴んでいた。
きっと私が離れれば、彼女は再び自我を失い今度こそ人類を滅ぼすのだろう。
『貴女に人類を滅させたりしない……だから』
暫しの沈黙。
『ああ、マスター』と決意の表情で頷くアーサー。
『ええ。貴女の覚悟……確かに受け取りました、マスター』と悲痛な心情を振り切りエクスカリバーを構えるアルトリア。
二人の騎士王の持つ聖剣が黄金に輝き始める。二つの眩い光が大きく膨らむ。
……嗚呼、何て綺麗なんだろう。
『マスター、約束しよう。マスターが再び世界を救う時が有れば、僕は今度こそ君を助ける為に舞い戻ろう。マスターが世界を滅ぼす敵となるなら、僕は必ず君を止める為に現れよう。例えマスターが覚えていなくとも、僕が覚えていよう』
アーサーが私に向かってそう叫んだ。
嗚呼、そうだ。そうだったよね。
『『
二本の聖剣から放たれた二つの黄金の極光は一つに交わり、巨大な光の柱となって私と異形の彼女を飲み込んだ。
『もしも次があるのなら……わたしも……普通の人生を生きてみたいな─────』
嗚呼。
消えていく直前。私……視界の主の彼女の魂に、
次回、エピローグ。
瑠璃華(パイオス)さんの正体、というか前世の更に前世?が何者であったかを何処まで描写したものか悩んだ結果、半年近く更新してなかった……というわけで56話を隈無く読むと分かる、ようにしときました。例えば文中とかの不自然な空白とか。