異世界で死にたくない最弱の女神   作:アイリスさん

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7話投下しときます。


7話

「…………てよ、起きてよ、ねーちゃん」

 

その声と共に左肩に手を乗せられ体を揺さぶられて、仰向けの状態で私は目を覚ました。どうやら河原に打ち上げられていたみたい。日がだいぶ低い位置に見える。

私の顔を心配そうに覗き込んでいた獣人の子は、気がついた私を見てホッとした様子に変わった。

この子と一緒に川に流されたのか。お陰であの魔猪から逃げられたわけだけど、着ている麻袋もどきは水を吸って重くなっているうえに冷たい。早く脱がないと風邪を引くかも。

 

山からは出られたのかな?辺りには木々が生えてるけどさっきまでのような鬱蒼とした森ではない。木々の距離は結構空いてるし、地面は土も多く見える。見た目は地球のちょっとしたキャンプ場のよう。少し遠くに土で出来た広い街道らしきものも見える。ただ、行き交う馬車や人の姿は全く見えないけど。

 

うん?体の右側からパチパチって音と共に熱を感じる。眼球だけ動かして見てみると、枝が幾つも折り重なって火が燃えていた。焚き火。その側には細い枝に頭から刺さった魚が二匹突き立てられてジュウジュウと音を立てて肉汁を溢していた。まさかこの子が?

 

「これ、キミが?」

 

「そうだよ。小さい頃にとーちゃんに教えて貰ったんだ」

 

茶色の犬耳がペタン、と垂れているこの子は、遠くを見るような目をして答えた。小さい頃って……この子の歳じゃそんな昔の事でもないでしょうに。この子の家族に何かあった、のかしらね?

 

体を起こして、焚き火に近付く。暖かい。それと同時に肌に張り付く麻袋もどきが気持ち悪い。チラリ、と獣人の子の方を向くと察してくれたみたいで、私に背を向けてくれた。脱ぐ所、見ないんだ?ふーん、良い所あるのね。それとも性的な耐性が無いのかな?

 

麻袋を脱いで、水気を搾る。それで大まかに体を拭いて焚き火に当たり残った水分を飛ばして。左足首に意識を向けるとワンピースや下着、サンダル一式の姿になった。うん、このスキルも無事ね。

 

「もういいわ。気を使ってくれてありがとう」

 

私の声に反応しその子はこちらに振り向いて、驚いている。ま、当然よね。着替えなんて何処から出したんだって思うわよね。

 

「奴隷印も効いてなかったよな?ねーちゃんってもしかして魔術師とかか?」

 

「残念だけど違う。精神干渉系って私には全く効果無いの。服も、たまたまこれは出せる、ってだけ」

 

少し残念そうにしてるわね。期待させちゃったかしら?でも実際あれこれできるだろうって思われても困る。私、なんにも出来ないうえにこの世界の知識ゼロだもの。

 

この子が集めた棒の中から2本拝借して、この麻袋もどきに通して焚き火の側の地面へと突き刺す。乾かしてこの子に着せようと思ってね。この子もさっきまでの私同様麻袋もどき一枚しか着てないから、サイズが少しだけ大きい私の着ていたものを着せれば少しはマシかな、って。

 

「貴方の服、まだ濡れてるじゃない。ほら、脱いで乾かした方がいいわ」

 

「だっ……大丈夫だよこのくらい!ねーちゃんは自分の心配だけしてろよ!」

 

強がる獣人の子を強引に万歳させて、麻袋もどきを剥ぎ取る。さっきと同じように搾って枝を刺して焚き火の側へ。当然この子は裸なんだけど、小さい子の裸なんて別に、って感じだし。何ならこの子、銭湯とかでもまだ女湯に入れるくらいの年齢だしね。それに私、どっかの赤髪サラシ空間移動能力者と違ってショタコンじゃないし。

 

流石に体調崩すだろうしそのままにはしない。しゃがみ込んで焚き火にあたりはじめたその子の後ろに周り込んだ私は、そのまま背中を包み込むようにこの子を抱いて座った。これならこの子も暖かいし風邪引いたりもしないでしょう?

私の胸がこの子の背中に当たってるのはわざと。どうしてか、なんて考えるまでも無い。

今ここでこの子に捨てられたら、私は確実に行き倒れる自信がある。少なくともこの子の能力があれば、暫くは生きられる。だから相手が歳下のこんな小さな子でも媚びる。流石に処女まではあげられないけどね。まあこの子の歳ならそんな心配は薄いでしょう。せいぜい『しゅきしゅきちゅっちゅっ』とかくらい。これがもし大人の男だったら『ヤりたい犯したい』みたいになったかも知れないけどね。生きる為ならこの子との『恋人ごっこ』くらいなら幾らでも付き合ってあげる。

 

「これならキミも暖かいでしょう?」

 

「はっ、離れろよ!」

 

ホント、ウブね。ちょっと綺麗なお姉さんに後ろから抱き締められたくらいで耳まで真っ赤にしちゃってる。でも今はこれでいい。私が捨てられる、死ぬような事態が遠ざかるなら。

 

「あら、いいじゃないこのくらい。それとも私に触られるのはイヤ?」

 

「うっ……そうじゃ……ないけど……。ねーちゃんはズルい……」

 

日が落ちて来た。今は遠くに見える山際が真っ赤に染まっていく。今日は二人居るし、焚き火の炎を消さないように番を交代しながら見張りかな。早くベッドで眠れるようにならないかしら。ベッド……新しいの買ったばっかりだったベッド……。

 

麻袋もどきが乾いたあとに、二人で並んで焼けた魚を食べた。暖かい食べ物は本当に久しぶり。この世界に来て初めて食べた焼魚は良く言えば素材本来の味。悪く言えば、薄い。塩か醤油が欲しい。あと大根おろしも。日本の濃い味に慣れた私の舌だと、この世界の食生活は苦労しそう。

 

「キミはこれからどうするの?」

 

日も沈んで、すっかり暗くなった。焚き火を中心にして私達の周りだけが赤く照らされている。これから向かう先なんて人の居る場所に決まっているんだけど、念の為にこの子には確認をしておきたい。私と意見が食い違ってここでお別れ、なんて事になっても困る。

 

「街に向かおうと思うんだけど、俺は別にこのままでも構わないけど……ねーちゃんはそのままだと不味いんだよなぁ」

 

この子の言い分だと、今の私が問題になる部分は3つ。1つ目と2つ目は左手の奴隷印と首に付けられたままの奴隷用の首輪。私がどんなに取り繕っても、この2つが見られれば奴隷商に捕まってアウト。3つ目はそれに加えて私が綺麗過ぎてろくな事にならないって事。誰かに捕まればスケベ貴族の愛玩奴隷一直線。

 

「最低でも首輪だけは外さないと。何か道具でもあれば俺の力でも何とか出来るかも知れないんだけど」

 

そういえばこの子、サーベルタイガーもどきの牙だけで鎖を砕いてたわね。歳の割りにかなり確りしてるし……なかなかの掘り出し物だったかも。あの時篭絡しておこうと思った私の勘も捨てたものじゃない。

 

道具を手に入れるにしても何にしても結局、街の近くまでは行かなきゃいけない。なら後はあの街道沿いに歩いていくだけなんだけど……どっちの方向かしら?私達が流されている途中に街が1つあったって可能もあるし……。

 

「とにかく明日だな。ねーちゃんは寝てなよ。俺が火を見てるから」

 

うーん、寝たいけどお言葉には甘えられない。この子にも寝てもらわなきゃ。私の生命線に倒れられでもしたら一大事だし。

 

「駄目よ。火の番は交代制。キミだって眠いでしょう?」

 

「キミ、じゃない。俺の名前はニュクティだ」

 

少しムスッとした顔で答えるニュクティ。名前で呼んで欲しかったのかな?いいわ、呼んであげる。

 

「じゃあニュクティ。火の番は交代制、これは譲らない」

 

「分かったよ、えーっと……ステンノねーちゃん」

 

ああ、違う。名前で呼んで欲しかったんじゃなくて、私の事を名前で呼びたかったのか。成る程ね。それならキミのささやかな独占欲に応えてあげるわ。

 

「ステンノ、でいいわ。これから一緒に居てくれるんでしょう?」

 

「じゃあ、ス、ス、ステンノ」

 

顔を真っ赤にして私を呼び捨てにするニュクティ。はい、私に御執心なの確定。もしかして初恋とかかしら?だとしたら悪いわね。キミの期待に心から応える気は無いし。キミは将来はイケメンになりそうだし、別の良い子を捕まえる事をオススメするわ。

 

 

 

先にニュクティを寝かせて、煌々と燃える炎に木をくべる。真っ暗な夜空に浮かぶ、地球よりも遥かに大きく燦然と輝く星々。昨日までは見上げる余裕なんて無かったっけ。今日こそは、ううん今日からは何も問題が起きないと良いんだけど…………。

 

 

 

──────

 

それから四日。街道を川下に向かって歩いた。ニュクティが言うには、川は普通、壁に囲まれた人間の街の中を通っていて、その出入り口には格子が付けられているらしいわ。だからもし川上に街があったら、私達はその格子に塞き止められてなきゃおかしいんだって。『とーちゃんに教わった』って言ってたけど……随分と物知りなのよね、この子。本当にこの子の父親って何してたのかしらね?

 

やがて見えてきた巨大な壁。私は何の疑問も無く街へ入る為の長蛇の列に並ぼうと思ったんだけど、ニュクティに止められる。

 

「駄目だよステンノ。夜まで待とう」

 

「どうして?」

 

やっと街に着いた嬉しさで、私はこの時にはすっかり忘れていた。そうよね、今の私の姿で街に入るのは不味いのよね。ニュクティが居なかったら奴隷に逆戻りする所だった。

思う所はあるけど、一旦渋々離脱。なるべく目立たないよう注意しながら川沿いに街から離れる。暫く歩いて、遠くに街の姿が窺えるくらいまで来て、今日の所は野宿の準備を始める。四日も野宿すれば少しは慣れたわ。流石にそろそろお風呂に入りたいけど。これだけ街が近いと水浴びも躊躇われるしね。会った事もない誰かに見られるなんてゴメンだわ。

 

「水浴びも駄目ね。人に見られたら嫌だし」

 

私に鈍感系主人公は無理ね。俺も嫌だ、ってニュクティが小さな声で呟いたの、聞こえたわ。そうよね、大好きなお姉さんの裸を見ず知らずの誰かに見せるの、嫌よね?ふふっ、知ってるわ。

 

私達は街へと入ろうと並ぶ長蛇の列を遠くから眺めながら時間を潰した。肩を寄せあって座って、ね。端から見たら仲の良い姉弟みたいに見えたかも知れない。種族が違うから無理かも知れないけど。

 

そうして日が落ちて。私達は街へと静かに近付く。長蛇の列が出来ていた門へ、ではなく格子で封鎖されている街の中へと流れる川の入り口へ。

 

「見てて、ステンノ」

 

ニュクティは周りに誰も居ないのを確認し、器用にその格子を外してみせた。ホンットこの子、掘り出し物ね。




ハイスペックショタ獣人を落としにかかるステンノさんの回。次回は地下水路侵入。

ニュクティの名はギリシャ神話、リュカーオーンの末子ニュクティーモスより。最初はリュカーオーンから取ってリュカにしようかと思ったんですが、ホラ、その名前は色々あるのでやめておこうかな、と。
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