異世界で死にたくない最弱の女神   作:アイリスさん

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9話

ここの領、というかこの国の税は単純。物の値段に税が乗っている。つまり消費税みたいなもの。農民の穀物のように現物で納める事もあるけど、こういう街に住んでいる人達が納めるのは消費税。ただし比率は5割。これでも良心的なほうらしいけど。

 

そもそも精密な戸籍が無いらしいの。どの住所に誰と誰と誰って人が住んでいるとかが把握できてない。だから『それなら物の値段に税金乗っけよう』ってなったみたいね。ほら、商売人は領内に届けを出さないといけないらしいから。ケースバイケースな部分もあるみたいだけれど、一般の領民が気にするのは基本この物の値段に乗っかる税金だけで大丈夫みたい。

 

だから暫くこの街で生活する私達が納税を気にする必要は無い。でもかといってこの斡旋所で受けられる仕事だけでは貧乏生活からは抜けられないのは確かね。そうじゃなきゃスラム街なんてとっくに無くなってるでしょう?斡旋所で仕事を貰えるっていうのは、お金を使う人が増えればその分税収も増えるだろうって考えがあるから。

 

そんなわけで、私はニュクティに腰に手を回された状態で受付カウンターへと歩いている。くっ付くのは構わないけど、よく考えると手を回すのはコートの中にして欲しいかも。ほら、コートの上からだと下手をすると私の体のラインが出て何の為にコートを着ているのかわからないような事に……。

 

カウンターに居たのは女の人。歳は若いわね。金髪で顔は……まあ普通。普通よりは上かしら?……だって、この世界で普段から目にしている女性の顔って鏡や水面なんかに映ったステンノ()の顔よ?そろそろ普通が分からなくなってきたわ。ナルシスト?違うわ。だってこの顔、元々私のものじゃないでしょう?

 

それは置いておいて、男の人だと面倒になるかも知れないから良かったわ。

 

「本日はどのようなご用件ですか?」

 

「登録をお願いしたいのだけれど」

 

一見すると身寄りの無いスラムの姉弟にしか見えない私達にも、受付のお姉さんは態度を変えず淡々と話を進める。こういう境遇の子達の相手、慣れてるんでしょうね。

 

「では二人とも。誓約書を読んで、ここに血判をお願いします」

 

少し焦ったけれど、落ち着いて右手の手袋を外した。これが左手の血判でないと駄目、とかだったら奴隷印を見せなきゃいけない所だったわ。

親指の先に針を刺して。誓約書に血判を押した。その誓約書に書かれた7桁の番号と同じ番号の入った革製のブレスレットを渡された。この数字で管理してるらしいわ。駄目になったら交換してくれるみたい。失くさないようにしないとね。

 

文字、は書けないけど読むことは出来た。何ていうか、文章を翻訳機に入力してその翻訳されたものを見ている感じ。でも文字が読めるのは助かったわね。張り出されている依頼は全て文で書かれてる。当然文字が読めないと内容が理解できない。ニュクティが言うには「だから文字が読めるヤツが居ないと、読めるヤツが居るグループに入らないといけない。そうなると後から入ったヤツは下っ派扱いだから取り分が減る」んだって。

 

「ああ、それと二人とも顔を見せていただけますか?一応犯罪者かどうか確認しないといけないので」

 

ああ、そうよね。もしも私達が犯罪者ならここで取り押さえないといけないものね。……ええ、不法侵入の犯人だけれど、バレてないなら何の問題も無いわ。

 

ニュクティはそれほど気にせず頭を覆っていた布を外し、犬耳……ごめんなさい、狼耳をピョコピョコと動かし受付のお姉さんに顔を見せた。ええ、ニュクティって犬じゃなくて狼の獣人。本人から聞いたから間違い無いわ。

 

私は少し遠慮がちに、受付のお姉さんにだけ見えるようにフードをずらして顔を見せた。横や後ろの人達には見えてない筈、多分ね。ほら、私の顔を見て流石のお姉さんも困惑してる。ええ、そうでしょう?こんな貧民の子が絶世の美少女だなんてアンバランスだもの。それとも何処かのお伽噺に出てくるようなヒロインに見えたのかしら?まあ実際は〈主神(変態)〉の愛玩具、なんだけれど。

 

「……ゴホン。では依頼は今日から受けられますので。自分の身の丈に合ったものを受けて下さいね」

 

動揺をすぐに抑えて、お姉さんは営業スマイル。驚く程簡単な手続きが終わって、私達は依頼の貼ってあるボードへと行こうとして……止めた。人が多いの。あの中に入っていくのは躊躇われる。まあ正直言って痴漢とか、もっと面倒な被害に遭いそうだしね。この世界は日本と違って人権や命が軽いだろうし、着いた初日に行方不明、とかになりたくないしね。

 

少し時間が経てばこの人数も減るんじゃないかしら?何処かで食べ物でも調達して来るのがいいんじゃない?門の外で魚でも捕るとか。私じゃなくてニュクティがやるんだけどね。

この革製のブレスレットがあれば門から外に出ても大丈夫みたいだし。ほら、このブレスレット、領民の証の代わりだからこれが有れば通行税は掛からないってわけ。

 

それじゃあ先ずは門を目指そっか。幸いここからは近いし。外へ出て行う依頼も少なくないから、斡旋所は敢えて門の側に作ってあるみたい。

 

 

 

私達が門へと向かった後。一段落ついた受付のお姉さんとそのすぐ後ろで作業していた男の人が顔を見合せていた。

 

「さっきの緑のフードの子、凄い美人じゃなかったか?」

 

「そうそう!凄い美少女だった!僻みの一つも湧かないくらい完璧な美少女!あんな子居るのね……手も綺麗だったし、文字も読めるし……何処かの元令嬢とか訳有りね、あれは」

 

「はぁ~、あんなカワイイ子なら是非お近づきになりたいね。養ってやりたい!」

 

「なーに言ってんの。奥さんに言うわよ?」

 

「うおっ、冗談、冗談だって!言うなよ、絶対言うなよ!フリじゃないからな!」

 

なーんて会話をしながら、ね。

 

 

 

───────

 

街からの距離はどのくらいかしら?開けた草原の向こうに小さく壁と門が見えるくらいだから……それなりに遠い。この辺まで来ると例え街道沿いでも川で何かをしていても見てくる人はそうそう居ない。私が水浴びでもしていたら別だけど。そろそろ飽きてきた、って言ったらニュクティに悪いけど、塩気の足りない焼魚を河原に座って食べながら今後の事を考えていた。

 

中規模の大きさの都市ゼメリング。それが、私達の流れ着いた街の名前。考えなきゃいけないのは、私達の住む場所。生活するにはお金が必要だし、それにこの奴隷印を消してもらうのにお金を貯めておかなきゃ。先に吸血を試しておきたいけど……血がね。

 

「でもスラム街なら空いてる小屋の一つくらい見つかるんじゃないかしら?」

 

「ステンノには危な過ぎるだろ」

 

うーん、さっきからこれ。ニュクティは絶対折れない。スラム街が危険かも知れないのは分かるけれど、宿なんて使っていたら日々生活するだけで疲弊しちゃう。だったら斡旋所で抱き着いて私の体のラインを出さないで欲しかったのだけれど。

 

仕方ない。この際安い宿を探すしかないか。斡旋所で紹介してくれないかしらね。

それなら先ずやる事は、仕事でもらえる額と食料の相場の把握。それじゃ街へ戻らないと。

…………ちょっと遠くまで来過ぎたかしらね、あそこまで歩くのか。私の体力だと……はぁ、食べた分のカロリー使っちゃいそう。

 

あら?河原の向こうに人が居る。街道からは逸れた場所に、三人。大きさからいって三人とも子供……?暗い緑色の肌なんて初めて見たわ。あれは何ていう種族?

 

直後、ニュクティに右手を引っ張られて地面に伏せられた。え?まさか私に発情したとか?ダメよニュクティ、貴方まだ子供でしょう!?……と焦ったけど違う。ニュクティも私の隣に同じように伏せて、小声で「ゴブリンだ」って一言。

 

ああ、あれがゴブリンなのね。RPGでよく出てくる雑魚モンスターの。こんな開けた場所に居るなんて、はぐれとかかしらね。

 

やり過ごせるならそれに越した事は無いけど、何故かこっちに向かってくる。街のほうへと行こうとしたけど追い返されたとか?それとも私達を見つけたから?

 

どうして私達のほうへと一直線に向かってくるの?まだ認識されてないと思いたいけど、ゴブリン三匹との距離はどんどん縮まっていく。その姿が見えてきた。醜い顔に、粗末な腰布、その手には棍棒。典型的なゴブリン。私が捕まったらどうせエロ同人誌的な展開になるんでしょう?なら撃退するしかないんだけど……武器が無い。主神の加護って『ちょっと幸運になります、但し不幸が寄ってきます』ってスキルなの?そういうの本当にやめてくれないかしらね?

 

「よし」ってニュクティは低い体勢のまま、腰から黒い15cmの刀身のダガー?ナイフ?を取り出した。……うん?待って、それ何処で手に入れたの?

 

「ここで待ってて、ステンノ」って言って飛び出すニュクティ。ああもう!オダチェン礼装展開、『全体強化』!

 

流石獣人、ニュクティは速かったわ。魔猪の時に見せたキレは伊達では無かった。一匹目の頭にナイフを突き立て、その足で二匹目へ。取っ組み合いにはなったけど、無事ゴブリンの胸にナイフを突き立てた。三匹目は私がガンドを飛ばしておいたお陰で余裕を持って殺していた。

危なげなくゴブリンの討伐を終えて、ドヤ顔で戻って来たわね。この辺はまだ歳相応の顔。この感じならちょっとした魔物の討伐ならいけるんじゃないかしら?何とか生活はできそうね。

 

「どう?上手く行っただろ?」

 

「ええ、見直したわ」

 

頭を撫でてあげると、ニュクティは嬉しそうに笑顔を見せた。

 

……うーん、やっぱりこれ私、ニュクティに力づくで襲われたらアウトじゃない?今後は距離感には気をつけようかしら。ほら、どっかの異世界転生もので『女神は処女を失うと力を喪失する』なんて設定あった作品もあるし。

あ、それとニュクティ。その黒いダガーについてちょーっとお話があるわ。

 

因みにだけど、ゴブリンの血じゃ私の左手の奴隷印は消せなかった。やっぱり解呪の魔術とかでないと駄目みたいね。或いは破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)、とかね。

─────

 

地球で言えば最も近いのは大理石。その物質で出来た、ギリシャの神殿とそっくりな、一階建ての建造物。中のその一室は会議室になっており、同じ大理石に近い素材で出来た長方形のテーブルが設置されていた。そこに配置された椅子には白をベースにした法衣に身を包んだ、それなりの歳の神官がずらっと座って並んでいる。

 

上座に当たる位置、すぐ後ろに本物を10倍は美化したであろう主神らしき大理石像が聳える椅子に、遅れて入ってきた法衣の女性が座った。歳は二十。神々しさを備えた美貌を持つ、歴代最高と称される『神託の聖女』と呼ばれる人物がゆっくりと口を開く。

 

「先程御使い様よりお言葉を賜りました。『主に連なる一柱が地上に降り立った。傍に使え御技を助けよ』との事です」

 

「なんと!」「おお神よ!」等とどよめく一同。その老人達の中でも一番若いであろう神官が恐る恐るといった具合に口を開く。

 

「それはつまり、近頃勢力を伸ばしてきた魔を打ち払う為に神が自らお力を貸して下さる、という事でしょうか?」

 

聖女は頭を左右に振り「分かりません。私の力ではこれ以上のお言葉は理解する事が出来ませんので」と力なく答える。

 

歴代最高の聖女ですら、神託は4ヶ月~半年に一回程度、それも大飢饉や大災害といった人間全体に危機が及ぶような場合に一言二言でその旨を伝えられるのみなのだ。それでも前もって危機が分かればある程度対策が立てられる。その神託が今回は今までとは異質。当然彼等にはその真の意味を理解するのは難しかった。

 

「何処に降臨されたかお探ししなくては始まるまい」と一番歳老いた神官が発言し、「そうだ」「先ずは御身をお探しせねば」「各地の神殿にも捜索を依頼せねば」と発言が飛ぶ。と言ってもその一柱がどんな姿をしているのか全く分からない以上、手探りでそれらしい人物をしらみ潰しに当たっていくしかない。

 

「では、宜しくお願い致します」と聖女が発言し、席を立った。聖女もアムラエルに詳細は聞けなかったが、全く情報を貰えなかったわけではない。彼女は偽物が仕立てあげられ御輿にされ悪用される事が無いよう、その女神の情報については公表せずに今は彼女の心の中に留めておく事にして、皆に聞こえないようポツリと呟く。

 

「………無事お会い出来る事を祈っております、女神ステンノ様」

 




聖女様にはバレてるステンノさん。無事?登録も済ませませた所で、また次回。

まったく、といいつつも時間があって投稿できる時には投稿しておきます。
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