Infinite ARMS -ALLICE- 作:X-ARMYのキャロルちゃん推し
日本国、表向きは無人島とされているその地下のとある秘匿された研究室にて。
「A11番の様子は?」
「深く眠っています。肉体的な疲労は無いはずなので、精神的なものかもしれませんが」
「アレが? まさか。そんなタマならここまで生き延びてねぇよ。Aっつったらここの研究所が人体研究を始めて最初期の製造番号だぜ?」
白衣を着た男が二人、ガラスの向こうで眠る少女と手元の機器を見比べながら会話している。
「正真正銘のイレギュラーだ。ガラスの子宮で育ったくせに、ほかの
「大人の知性、ですか。じゃあ抵抗とかあったんですかね?」
「ほんの最初だけだ。それが気持ち悪いところでな、こいつは自分が何をされるか、どうなるかもわかってて──その上で、抵抗しねぇんだ。諦めたみてぇに」
やや言葉遣いの荒い方の男は、口元に厭らしい笑みを浮かべた。
「だからよ、俺は期待してるんだ。こいつに知性しか残らなくなったとき、どういう反応を示すのか。その為に目も潰したし、今日は四肢を切断した」
「あ、あの怒涛の実験申請は先輩だったんですか。道理で」
「明日は耳も潰すつもりだ。はは、楽しみだな……精々楽しませてくれよ?」
後輩である男は『どうかしてる』と思ったが、それを自分が言うのは滑稽な話だった。ここの研究者はどこか頭のネジが外れた犯罪者ばかりだ。非合法の研究所とは得てしてそういうものである。
▽
やあやあ。初めまして。私は『A11番』、ここで実験用モルモットをやっているよ。因みに転生、或いは憑依というやつだ。前世もしっかりと覚えているとも。平和な日本でそれなりにオタク文化を楽しんでいた私は、気が付いたら幼女になっていた。
混乱してあることないこと口走ったのが悪かったのか、一人の研究員に目をつけられて、そこからはもう地獄。その研究員は特に私の脳に興味があるらしくて、感覚器をそぎ落とすことで脳のリソースを思考につぎ込めるようにしたいらしい。ほら、目が見えなくなった代わりに耳がよくなった、みたいな話聞くでしょう?つまりはあれの延長線ってことだね。まあこうやって心の中で一人で延々としゃべってるわけだし、効果はあるんだろうと思う。
因みに、今は自室で寝っ転がってるって状態。四肢が無いから寝返りも打てないし不便なことこの上ないけど、まあ諦めた。歯も抜かれちゃったから舌噛めないし、本当に考えることくらいしかやることがない。仕方ないから前世で観た作品でも思い出してみようか。
うーん。よし、今日は『ARMS』にしよう。
『ARMS』は漫画だ。私のお気に入りのね。主人公の
彼は友人であり左手にARMSを持つ
……え?知らない? でもさ、アレは知ってるんじゃない?家に入ってきたテロリストに人質に取られた主人公のお母さんが、「しょうがない子ね」とか言いながらいつの間にかハンドガンを持ってて、テロリストの頭を吹っ飛ばすシーン。そのあと銃撃戦に発展して、敵も思わず「馬鹿な! 普通の主婦がなんであんな武器を……? M60だぞ!?」とか言っちゃうの。
もしくはARMSが覚醒するときのセリフ「力が欲しいか? ──力が欲しければ……くれてやる!」ってやつ。
あ、駄目?そっか。ところでさ、さっきからしきりに鳴り続けてるこのサイレン何事?
しかもサイレンとは別にすごい音もするんだけど。うわ、なんかだんだん大きくなって──
▽
その
その鉱物は、旅の途中でとある惑星の引力に惹かれた。大気圏の摩擦に耐えるために組織組成を硬質にし、宇宙にありがちな隕石の形となって地上に落下した。墜落地点はとある島だったが、奇妙なことに、その島に近づくにつれわずかに速度が減衰していった。どうやら島を覆うように斥力の層が展開されているようだ。
好都合だと鉱物は考えた。以前別の星に墜落した時には、落下の衝撃で一部が破損してしまったのだ。しかも地面に埋まり、脱出するのに労力を要した覚えがあった。それを少しでも避けられるならと、鉱物は抵抗を受けやすい傘のような形に変形した。
やがて斥力層を押し通り、島の地表へと着地した──のもつかの間、さらに地表をもぶち抜いて鉱物は地下へと進むことになった。幾つもの
地上に出る方法を模索する鉱物の元に、何か音が響いてきた。
「一体どうなってる!」
「いてぇ、いてぇ」
「観測されていた隕石です!」
「数値が安定しません!基準質量をはるかにオーバーしています!」
初めて感じ取る音だった。それに惹かれるように鉱物は体の一部を変性し、硬質な触手にして音源に伸ばす。
「クソ、施設の復旧を急げ!惠良技術のあるものは負傷者の確認と手当を──」
「局長っ!後ろに!」
「あ? ……おい、なんだよこれ。まてやめろ、やめろ!」
音源と接触。同時に鉱物に音源の「記憶」という電気信号が流れ込んできた。音源はどうやら群れで生活する存在のようだった。
故に鉱物はその日、生まれて初めて感情を知った。自分を知るものが誰もいないという孤独を。その激情に突き動かされるように、鉱物は音源──いや、人間との接続を繰り返した。施設の隅まで触手を伸ばし、記憶と知識を覗き見ては悲しんだ。
ああ、どうして誰も私を知らないのだろう。私は一体何なのだ?
どうして一人なんだ?
ふと、鉱物の耳にわずかに声が聞こえた。きっとこの施設にいる最後の人間だろう。壁を貫き、通路を拓き、その人間の元へと向かう。
「すいませーん。誰かいらっしゃいますか?」
その人間は腕や足と呼ばれる器官が無かった。先ほど見た記憶からこの人間は実験体なのだということが分かる。鉱物はその頭に触手を触れさせ、融合して知識を覗き見て、
そして、泣いた。
ああ。私の名前は……