ガラルの悪のジムリーダー   作:アタランテは一臨が至高

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withダイゴ

 

「それではこれより、はがねタイプ愛好会第46回ミーティングを始める」

 

 男が発した意味の分からない言葉に、パチパチと拍手が返される。

 

 暗い部屋の中心に置かれた円卓。スポットライトが照らすそこには、俺を含めて5人の人間が存在していた。

 

 はがねタイプ愛好会――その名の通り、はがねタイプを愛してやまない人間たちの集まりだ。

 メンバーとなる方法ははがねタイプに対する強い愛を面接で示すか、招待されるかの2通りしかない。そのため、ごく一部の限られた存在しか加入することが出来ない秘密のクラブとなっている。

 

 また、メンバーには非常に有名な人物が多いため、会議中はみんな鋼の仮面――目元だけを隠す、2世代四天王のイツキがつけているようなものを被り、お互いを会員番号(コードネーム)で呼んでいる。

 もっとも、有名人の度合いがヤバ過ぎて全くもって意味をなしていないのが現状だが。

 

 俺ははがねタイプのジムリーダーに就任してから2年目に招待状が届いた。

 正直に言うと加入するつもりは全く無かったが、一度気まぐれで参加したところものすごい勢いではがねタイプの沼に引きずり込まれてしまった。結局はNOと言えない日本人の性が発揮され、今では皆勤賞を取るレベルで参加している。

 会員番号はNo.13。現在の会員の中では末席である。

 

「それではまず出欠確認からいこう。会員番号順にお願いできるかな」

「No.2の方は欠席されているので私から……会員No.3、出席しています。本日もよろしくお願いしますね」

 

 No.3と名乗った少女――ミカンだ。髪型と白ワンピで即座にわかる。本当に仮面が意味をなしていないのだが、大丈夫だろうか。

 彼女はジョウト地方のアサギシティのジムリーダーで、若手ながらジョウトジムリーダー最強の一角とされる非常に優秀な少女だ。得意タイプは、当然のことながらはがね。

 

「No.4、此処に」

 

 鎧に包まれた大柄の肉体に騎士然とした態度。どう見てもガンピだ。本当に正体を隠す気はあるのか?

 彼は影が薄いと評判のカロス四天王の一人である。本気で覚えてないって言う人もいるんじゃないだろうか。尤も、現実で出会ったならばインパクトがデカ過ぎて絶対に忘れられないが。

 

「No.7だ。今日は5人か、結構集まったな!」

 

 灰色の坊主頭が褐色の肌に映える中年の男性。元ガラルチャンピオン、ピオニーだ。不仲ではあるもののローズ委員長の弟でもある。……あの人と違い、随分と人間味のある人だが。

 

「あー。No.13、いまーす」

 

 末席である俺は最後から二番目に声を出す。俺も特に自分のことを隠す気はないので仮面以外の変装とかはしていない。そのため、ジムリーダーというトップトレーナーの一員である俺の正体は皆わかっているだろう。……まあ、ここにいる面子を考えると俺の肩書で威張れることは何一つとしてないのだが。いや、一応お互いがどういう存在かはみんな建前上は知らないはずなんだけど。

 

 そして最後に挨拶をし、同時に司会も務めるのは出席したメンバーの中で最も会員番号の若い者、即ち最古参の者と決まっている。

 

「これで全員だね。みんな忙しい中、出席してくれてありがとう」

 

 そりゃあ、()()()()()()()()退()して趣味に生きてるヤツよりは皆忙しいだろうな。

 

「No.1であるボクが、今日の司会を務めさせてもらう」

 

 元ホウエンチャンピオン。一番強くて凄い男、ダイゴ。伝説の存在である彼は、このはがねタイプ愛好会の創設者(No.1)でもある。

 

「それでは早速だが本日の議題を発表しようと思う」

 

 ダイゴは両手を顎の前で組み合わせ、参加者たちの顔を一瞥する。

 やがて、誰もがダイゴの次なる言葉に耳を傾けているとわかると右手の指をパチンと鳴らした。

 音と同時に彼の背後にモニターが出てくる辺り、誰かしらが裏方として働いているのだろう。こんな下らないことに付き合わされて、ご愁傷さまだ。

 

「……デデン! 今日の議題は、『はがねタイプの中で、どの色違いが最も美しいのか』だ!」

 

 毎回思うんだが物々しい雰囲気を出しといてしょうもない話を始めるのはなんなんだ。

 暗い部屋で円卓を囲む強者たち……と来たらなんかすごいことを始めそうだと思うだろ。もう、次は欠席しようかな。

 

 クソほどどうでもいい話を始めるダイゴを横目に、次回のミーティングをサボる言い訳を考え始める。……前回も同じこと考えていたな。前の議題は確か「鉱物を食べるはがねタイプに与えるエサはどの金属が最も良いのか」だったか。当然どうでもいいとしか思わず二度と出席しないと心に決めたのだが、ダイゴに「また次も、来てくれるかな?」と無邪気な笑顔で聞かれてしまい、その聞き方をされたら断れない日本人である俺は今回も出席することになってしまった。

 

「おや、No.3(ミカン)が早速手を挙げているね。意見を聞こうか」

「はい! やっぱりハガネールの色違いが一番美しいんじゃないでしょうか。あのキラキラとした黄金の輝きと言ったらもう……」

「む。貴殿、我には異論があるぞ。はがねタイプの色違いと言えばまずギルガルドを挙げるべきであろう。あの禍々しい漆黒の色には、人々を魅了するものがある」

「おいおいわかってねえな、やっぱりダイオウドウのあのチラリと顔を覗かせる黄色い模様が……」

「ふふ、思ったより白熱する議題だったようだ。まあ結局、メタグロスの色違いが一番格好良くて美しいんだけどね」

 

 ……コイツらただ単に自分の好きなポケモン挙げてるだけじゃないのか?

 余りに生産性のない議論に、口を挟もうとも思わない。……もっとも、このミーティングにおいて自分から発言しようと思ったことなんてほぼないのだが。

 

「やっぱりはがねタイプの魅力を最大限に引き出すためには光沢を重視するべきだと思うんです。だからあのキラーンとしたハガネールの色が一番良いんですよ」

No.3(ミカン)、貴殿は未だ純粋な少女の身。それ故、芸術というものに対し深い理解を得られておらぬ。光り輝くものは確かに大衆の目を引き付けるが、逆に総てを吸い込む黒の美しさを理解できる人間は少ない。パッと見の外見に囚われるのではなく、じっくりと長い時間眺めればどちらが良いのかは自ずから理解できよう」

No.4(ガンピ)、そいつはどうかな? 芸術には俺も詳しかねェが、気分が落ち込んじまう暗い色よりは明るい黄色とかの方が良いんじゃねえか?」

「けっきょく メタグロスが いちばん つよくて すごいんだよね」

 

 うーん、やっぱり自分の推しを色々理屈付けて1位にしようとしているとしか思えない。当然、これといった推しがいない俺は黙り込むことになる。

 ……というか、色厳選とかやってた人種じゃないしな。そもそも持っていた色違いの数が少ない。イベントとかではなくただの幸運によって初めて入手したのは確かホーホーだったか。ソウルシルバーで、ピカチュウをトキワの森で探していたら出てきた記憶がある。

 

 掘り起こされたかつての記憶に思わず昔を懐かしむ。色違いというのはポケモンにおけるレアものの代名詞だ。どんなポケモンであれ、出てきたら思わず歓喜に叫んでしまうものだろう。この世界においてもその価値観は変わらぬようで、今でも滅多に見かけることはない。

 

 一番気に入っていた色違いは何だったか。やはり、イベントなどによる配布で得た色違いよりも自力で捕まえたものの方が特別感は強い。まあ、昔の映画で色違いのポケモンが配られたときはソフトを両バージョンとも持って行ってそれぞれ別の色違いを1匹ずつもらい、当然の如く狂喜乱舞したのだが。

 

「――という訳で、ハガネールが1番なんですよ! No.13(カイ)さんもそう思いますよね?」

「え? あ、うん。俺もそう思う、うん」

「ほら! No.13(カイ)さんだって賛同してくれましたよ? やっぱりハガネールが一番格好いいんですよね!」

「むむ。No.13(カイ)、考え直すことを勧めよう。我が思うに最もはがねタイプの美しさを際立たせるのは……」

 

 マズい。かつて持っていた色違いのことを考えていて全く話を聞いていなかった。迂闊に同意しちゃいけない内容だった気がする。適当にはぐらかしておくべきだったか。

 

 俺はほとんど議論に参加しないとはいえ、曲がりなりにもジムリーダーである以上ポケモンに関する知識はかなり豊富な部類に入る。前回の「エサに適した金属」に関する議論の場でも、マクロコスモス社員の仕事内容の一環としてはがねポケモンの世話については把握していたため意見を求められればすぐに返すことは出来ていた。

 

 そういった事情もあり、この場に出席している限りは普通に議論の相手として認められてしまっているのだ。……今思えば、知識が全くない風に装ってとっととメンバーから除籍してもらったほうが良かったか……?

 

「メタグロスもかっちょいいけどダイオウドウだって負けてねえよなあ、No.1(ダイゴ)の旦那」

「けっきょく ボクが いちばん つよくて すごいんだよね」

「旦那……?」

 

 ダイゴはこれ大丈夫なのだろうか。3回に1回くらいの割合でダイゴは最終的にこうなってしまうのだが、今日は随分と早かった気がする。

 

 こいつ(No.1)がこの状態になるとマトモな司会進行が望めないので、大体の場合No.2かNo.3――つまり、今日の場合はミカンが代わって司会を務めることになるのだ。

 

「はい! じゃあ、このまま話し合ってても余りラチが明かなそうなので……いつものように、多数決で決めることにしましょう!」

 

 ミカンの提案に出席者たちは黙って頷く。

 というかどんな議題でも基本お互いに譲れない主張がぶつかり合うので、多数決で一旦の結論を出すというのはこのはがねタイプ愛好会において今までもよく使われてきた手法なのだ。

 

「お三方はそれぞれギルガルド、ダイオウドウ、メタグロスに一票ですよね? 私は勿論ハガネールに一票ですから……No.13(カイ)さん! どうぞ、今日の結論を決めちゃってください!」

「えっ」

 

 なんか俺に全責任が回ってきた。

 ミカンは何かを期待するような目でこちらを見つめてくるし、ガンピは当然わかっているだろうと言わんばかりに睨んでくる。ダイゴは相も変わらず虚空を見つめているが、ピオニーだけは好きに選んでいいぜ!という風に親指を立てていた。……ピオニーだけ圧倒的に大人だな。

 とにかく、ものすごい視線を感じる。

 

 ……ここであえて別のポケモンの名前を出したらどうなるのだろう。チラリとそんな発想が頭に浮かんだが、流石に怖いのでやめておく。特に、正気を失っているダイゴ辺りが何をしてくるかわからない。チャンピオンというのは人に向けてはかいこうせんを打たせるひこう使いがいるように、決して油断してはならない人種なのだ。

 

「うーん……」

 

 周りの視線を一身に浴びながら俺はじっくり10秒ほど考えて、今日の結論ともなる言葉を吐く。

 

「ハガネール、かな」

「なっ」

「本当ですか!? やったー! 流石です、No.13(カイ)さん! アナタならわかってくれるって私信じてました!」

「わっ、ちょっ、やめ、やめろ、離せ!」

 

 歓喜の余り飛びついてくるミカンから逃げようともがく。しかし、少年の体は余りに非力である。感情の波に飲まれた少女に全く逆らうことができないのであった。

 ミカンが満足し、離してもらったときには既にゼエゼエと息が荒れていた。

 

「一応、理由を聞いておくか! なんでハガネールにしたんだ?」

「あー、うーん。ほら、なんていうか、すっごいゴージャスじゃん」

「なるほど、ゴージャスか! ソイツは良い表現だな!」

 

 ピオニーが俺の言葉にガハハと笑う。何て良い大人なんだ。ポプラ辺りだと、俺がこんな適当な受け答えをした暁には「ちゃんと答えない悪ガキにはお仕置きだよ!」とか言って謎のデバフを加えてくる。

 

 まあ、ハガネールを選んだのは割と本心からなのだが。銀色の体躯が金色に変わったら、そりゃもう格好いいとしか言いようがないだろう。メガシンカしたときもイカしている。

 

「じゃあ、今日はこれでお開きですね。議事録に今日の結果を纏めておきましょう」

 

 ダイゴの背後にあるモニターに、「結論:ハガネールが一番格好いい!」という文字が表示される。……ずいぶんと、私情によって捻じ曲げられていると思うのは俺だけだろうか。

 

 そしてお開きになった議場には、自身の意見が通らず少しばかり不満そうにしているガンピをなだめるピオニーに、相変わらず口を開けば例の名言しか出てこないダイゴ、それに今日の結果に満足気なミカンが残る。

 なんだかんだで愛好会と言うだけあってお互いの趣味は共通しており、話の種はいくらでも出てくるのだ。お開きになったあとも皆ダラダラと好きな話をし始める。

 

 無論、俺は帰るのだが。

 しかし席を立ち、いざ扉へ向かおうとすると後ろから声をかけられる。

 

「あ、No.13(カイ)さん! 私色違いのハガネール、持ってるんです! ジョウトのアサギシティにいるんですが、良かったらポケリフレとかしていきませんか?」

「……あー、うん。また今度、機会があれば」

「本当ですか! じゃあ、いつにします? 私は来週なら都合がつきますけど……」

 

 めっちゃグイグイ来るな。

 そんなに賛成してくれたのが嬉しかったのだろうか? 確かにミカンクラスになると話が合う友人というのは中々いないと思うが。

 

 でも、俺じゃなくとも良いだろう。……他のヤツらが年上ばっかだからか? 子供同士仲良くしようとか思っているんだったらブチ切れるぞ。

 

 まあ、色違いのハガネールというのを直で目にしたい気持ちもなくはないが……あまり、ジョウトには行きたくないというのが本音だ。

 あそこの主人公は、()()()()()()()()()()()()()()()……この世界においても、最強と謳われているレッドに、だ。

 

 他の主人公だったらどうにかなると言うわけではないが、自分から敵になるかもしれない最強に近づくやつはいないだろう。

 風の噂で聞いた話だが、三犬を追っているらしい彼とはジョウトのどこでも出会う可能性がある。なるべくかの地に足を踏み入れたくはない。

 

「うん、まあ、ホント、予定が合えば……」

「わかりました! 楽しみにしておきますね!」

 

 しかし残念なことに、NOと言えない日本人の性がここでも発揮してしまい、ハッキリとは断れないのであった。

 

 




次回は実況スレじゃない掲示板回にしようと思います

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