ガラルの悪のジムリーダー   作:アタランテは一臨が至高

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ダイパリメイクが来たので初投稿です。

今話には、一部他者視点が入ります。


withキバナ

「あー、うん、わかったから、次からは返信するからよ……。うん、うん、唯一の仲間だもんな。うん、だから今度からは気を付けるって。うん、じゃあな」

 

「ガールフレンドでも出来たのかい? 中々苦労してそうだね」

「――カブ」

 

 通話を切り、そしてかけられた声に顔を上げると、そこにはユニフォーム姿のカブが立っていた。

 

「ごめんね、盗み聞きする気はなかったんだ。そろそろ開会式が始まるから呼びに来たんだよ」

「ああ、大丈夫だ。ただちょっと既読無視にうるさいお仲間が出来たっていうだけの話でさ」

 

 あの時は他に選択肢が思いつかなかったとはいえ、思ったより面倒くさい付き合いが待っていたものだ。思わずため息を吐いてしまう。

 

 下手な行動を打って敵対関係になるのも下策だし、人間関係というのは中々に難しい。

 

「なぁ、ホウエンの女を上手くあしらう方法って知らねえ?」

「……君の将来が少し心配だよ」

 

 今度はカブがため息を吐く。

 年相応に古風な貞操観念を持っていたカブにお説教を喰らいつつ、俺たちは()()()()()()()()()()()へと向かうのであった。

 

 

◇◇◇

 

 

「お、やっと来たかカイ。もう選手入場始まるぜ」

「1位のお前はともかく、ネズとかサボってんだし俺いらなくないか?」

「その理論だと俺様一人で開会式やることになるんだが?」

 

 ジムリーダーたちの控え室。そこには今キバナとの話に挙がったネズを除き、メジャークラスのジムリーダー7人が入場の時を待っていた。

 

 ジムチャレンジ。

 ガラルにおいて最も大規模な行事と言っても過言じゃないそれは、多くのトレーナーにおける巣立ちの時であり、生涯をかけての挑戦でもある。

 

 ガラル中のトレーナーたちは各地のスクールや有力者に推薦状を貰い、ガラルを廻る旅に出る。

 チャレンジャーたちはあらゆる施設からサポートを受けながらジムバッジを集めることに邁進し、その中で実力の無い者は淘汰されていく。

 

 やがて、ジムチャレンジという過酷な試練を潜り抜けた極僅かなトレーナーたちはその頂を争うことになる。それがセミファイナルトーナメント。

 そしてそれを勝ち抜き最後に残った、たった一人の人物――即ち、ジムチャレンジ優勝者のみがファイナルトーナメント、チャンピオンへの挑戦権をかけた戦いへと歩を進めるのだ。

 

 このファイナルトーナメントの優勝者のみが現チャンピオンに代わり、新たなチャンピオンとなれる可能性を持つ。普段の公式戦の勝敗はジムリーダーの序列と違ってチャンピオンの交代に全く関係ない。言ってしまえば、たとえ公式戦で全敗していようともこの防衛戦にさえ勝っていればチャンピオンの座は守り続けられるのだ。

 

 かつての俺や、昨年だとオニオンなどはそれぞれの年のジムチャレンジを優勝して、このファイナルトーナメントへの参加権を得ていた。

 そして10年前にはセミファイナルトーナメントを勝ち上がったジムチャレンジャーがそのままファイナルトーナメントを勝ち上がり、当時のチャンピオンすらも打倒してその座を奪い取るという珍事が発生したのだ。

 

 その挑戦者の名こそがダンデ。

 10年間無敗であり続けた、ガラル最強の男。

 

 ――そして、今回のジムチャレンジでその任期を終える存在でもある。

 

「やあ皆! あと少しで開会式が始まるぞ、準備はいいか? 特にキバナ! お前は俺とのエキシビションマッチが待ってるからな、今のうちにウォーミングアップしておけ!」

 

 いつの間にやら控え室に入ってきたダンデの声に、誰もが注目する。

 スポンサーのロゴがこれでもかと敷き詰められたマントに代表される、王者のようなコスチューム。そしてそれに包まれる褐色の肌に青髪、見慣れた姿だ。

 

 ガラル中の誰もがこの男に憧れ、挑み、それで尚勝ち続けた伝説。

 ただ、ジムリーダーたちが皆挑戦的な視線を彼に向ける中俺は一人違う顔をしていただろう。

 

「ハッ! 上等だ、ダンデ! エキシビションとは言えどブッ倒してやるぜ!」

「よく言った、キバナ! それでは俺は自分の控え室に戻る! またすぐに会おう!」

 

 そう言うと、ダンデはあっという間に部屋を去って行った。流石にスタジアム内で迷うということはないと思うが、チャンピオンの控え室とは逆の方向に走り去っていったのが少しだけ気になる。

 

「……なァ、キバナ」

「ん?」

「もしも。もしもさあ、ダンデの時みたいにチャレンジャーが全部勝ち抜いてチャンピオン交代、なんてことが起きたらどうする?」

 

 思わず漏れてしまった俺の言葉に、キバナはパチクリと目を瞬かせる。

 まあ、それも当然だろう。そんなことが起きるなんて誰も考えちゃいない。キバナからすれば、今年のジムチャレンジも11度目のチャンピオンの座をかけた挑戦の場としか思っていないだろうから。何言ってんだオマエ、で返されるのがオチだ。

 

「なんだ、カイ。お前らしくねェなあ。いつもだったら、一人も俺のジムを通さないからそんなこと起こりようがねえ、とか言ってるだろ。……ま、俺様も同じだけどな。ダンデだけじゃなく、誰にも負けるつもりは無えよ」

 

 思っていたのと違った返答に今度は自分が閉口する。確かに、自分らしくなかった。

 

「……悪ィ、変なこと言った。もう調子戻ったわ」

「ふーん。ま、そんなら良いけど。しっかりチャレンジャーたちを振るい落として俺様の仕事を減らしてくれよ?」

 

 そうだ。たとえ相手が主人公であろうと、勝てば良いのだ。いや、勝つしかないのだ。

 

 そしてその場は、ジムチャレンジではない。

 

 

◇◇◇

 

 

 ジムチャレンジ開会式。

 遂に、この時がやってきたのだと全身で感じる。

 余りに多くの観客、歓声。周りのジムチャレンジャーたちは皆私のライバルだ。

 

 ――でも、そんな有象無象たちには興味がない。

 

 やがて、今のガラルの経済を全て握っていると言っても過言ではない偉人であり、かつこのジムチャレンジの総責任者であるローズ委員長の挨拶が始まる。

 

 ――でも、この人にも興味はない。

 

 目的は、私が()()()()()()()()()()()()()()はもうすぐ現れる。その事実に、抑えきれない興奮で思わず体が震えてしまう。腕でもう片方の腕を抑えて、何とか震えを止めようと画策する。

 そうこうしている内に、やっと委員長の挨拶も最後のまとめに入った。……そろそろだ。

 

「――それではジムリーダーのみなさん、姿をお見せください!」

 

 8人……かと思えば、7人のジムリーダーたちがスタジアムにその姿を現す。

 一人いないが、何も問題はない。今日は()を一目見るために来たのだから。

 

「ファイティング ファーマー! くさタイプの ヤロー!

 レイジング ウェイブ! みずポケモンの使い手 ルリナ!

 いつまでも燃える男! ほのおのベテラン……」

 

 一人一人ローズ委員長が紹介していくが、もはやその声は私の耳に入らない。既に私の視線は一人に釘付けされていた。

 

 一際小さい身長。キルクスは寒いからと改造され、今ではただのダボダボのパーカーになっているはがねジムのユニフォーム。興味無さ気にポケットに手を突っ込みながら、ローズ委員長の紹介を聞き流す姿。

 

 そのどれもが目に焼き付く。私の数年に渡る執着が、形を持って心を支配していく。

 

「――メタリックチャイルド! はがね使いの カイ!」

 

 湧き上がる歓声の中ふわあ、と欠伸をする少年。

 彼こそが、私――ユウリに、()()()()()をつけた存在。

 

 思わず口角が上がる。

 虎が龍を視界に捉えたときのように、孫悟空を見つけた牛魔王のように。生来の宿敵とでも言わんばかりの執着は、彼を見つけた私を笑顔にさせた。

 

 ――数年前。未だ、私が()()()()()()()()()()()時分。

 十にも満たぬ子供が持つにしては規格外の才能をスクールで見せていた私は、親の勧めによってヨロイじまの元チャンピオンが開いているという道場に通っていた。

 

 尤も、そこですら敗北することが出来なかった私は、随分と無味乾燥な日々を送る羽目になってしまったのだが。

 振り返ってみれば、道場主――マスタードさんには酷だったろうと思う。自らに教えを請うてきた少女は、既に余りにも完成されており――あるいは、元チャンピオンである自身すら敵わぬのではないかという存在だったのだから。

 

 事実、彼も私に敗北を経験させることは出来なかった。同じポケモンを用いての1VS1という、かなり特殊な条件下だったとはいえ、既に私の中で格付けは済んだ。この旅を終え、完成されたパーティを以てすれば彼の全力であろうと難なく叩き伏せられる自信がある。

 

 そう、自信だ。自信があるのだ、私には。ガラル中の誰も私には敵わないという自信が。

 ――――彼を除いて。

 

 今思えば、彼以外に敗北を求めるなんて何と昔の私は愚かだったのだろう。自惚れと言われるかもしれないが、私には無敵のチャンプであろうと捩じ伏せられる確信がある。彼だけなのだ、私に敗北を与えられるのは。

 

 ヨロイじまにおいて最後の希望であったマスタードさんを倒した私は――奥さんのミツバさんも意外と強かったが――トレーナーに敗北を求めることは諦め、ヨロイじまを良く散策するようになっていた。

 

 そんなある日、小高い丘でポケモンたちとキャンプを開いていた私は見たことのない鳥ポケモンがヨロイじまに飛んでくるのを見つけた。

 

 その炎を纏った黒い鳥ポケモンは並のトレーナーやポケモンならば見るだけで屈するほどの邪悪なオーラを放っており、私でも少し苦戦しそうだな、と感じさせるほどの存在であった。

 

 当然、強者に飢えていた私はそのポケモンと戦うことに決め、追いかける途中には既に頭の中でその鳥ポケモンを含めたパーティを組み始めていた。

 

 尤も、島を駆けずり回ってようやくそのポケモンに追いついた先で、そんな考えは全て彼方へと追いやられてしまったのだが。

 

 

「――なんだ、お前。財団か?」

 

 

 私はその時の言葉を一言一句違わず、その時の情景を草木の一本に至るまで細かく思い描ける。

 倒れ伏す黒鳥。そしてその傍に佇んでいたのは、4匹のポケモンと一人の人間。

 

 一匹目は私が来たことを意にも介さず辺りの木々を喰らう黒い怪物。

 二匹目はフヨフヨと浮かぶクラゲのような不思議な生命体。

 三匹目は体躯がコードのようになっており、頭部らしき部分がピカピカと光っている謎の存在。

 最後に、最も得体の知れなかった四匹目。それは黒ずんだ鎧のような外見をした生物であった。

 

 そして、何よりも私の目を引いたのは、その全てを従える彼――のちに、はがねジムリーダーに就任するカイという名の少年。彼の目には私も、あの黒鳥ですらも欠片も脅威として映っていなかったのだ。

 ――その目は、かつての私があらゆるトレーナーに対し向けていた目でもあった。

 

 私は惹かれた。その()()()()()()()()()()()()()()()()生物を従えた彼に、普段ならば見える「勝利への道筋」が一つも見えなかったのだ。

 

 それは彼が従えていた生物たちの特殊性に由来していたのかもしれないが、とにかく私はそこで初めての「勝利の確信を持てない勝負」を経験し、そして敗北を知った。

 

 私を打倒せしめた彼は、いつも私がしていたように敗者に対し何の興味も見せずに立ち去っていった。侮蔑の言葉をかけるでもなく、慰めの言葉をかけるでもなく、膝をつく相手を一瞥したのみ。

 

 悔しかった。「悔しい」という感情を初めて知った。「勝ちたい」と初めて思った。どうすれば勝利することが出来たのか、頭の中で何度もあの戦いを繰り返した。

 

 やがてその思いは彼への執着となって結実し、テレビ画面にて彼のジムリーダー就任を知った瞬間、私の人生は目的を持って動き出した。

 

 退屈そうに開会式の終了を待つ彼の目を見つめる。見慣れた顔だ。彼の対戦は何度だって見た。

 真っ白の髪に、整った顔立ち。フードは首の後ろにダランと垂れ下がり、お腹の前に付けられたポケットに両手は突っ込まれている。ユニフォームは相変わらずサイズが合っておらず、ダボダボだ。

 

 ふわあ、ともう一度彼は欠伸をする。これから始まるキバナ選手とチャンピオンの戦いにもあまり興味は湧かないのだろう。正直結果はほぼ見えているし、彼は2年前のインタビューにて人の対戦を見るのは好きじゃないと答えていたから。

 

 ああ、こうして見ると目鼻立ちが整っていること以外は随分と普通の少年だ。かつて私を叩きのめした姿とは一致しないように思える。事実、あの時の彼の実力と彼の今の戦績は明らかに釣り合っていない。

 

 恐らく何かしらの事情があるのだろう。あの時のポケモンたちについてはかなりの時間をかけて調べてみたものの、一つもそれらしい情報は手に入らなかった。彼が口にしていた「財団」というのも一体何を示しているのかわからない。

 少なくとも、今回のジムチャレンジにおいて彼が私とあのパーティで戦ってくれる可能性は低いだろう。

 

 ただ、あの時のように敗北は味わえないと理解しても、既に私の執着はこの数年間で手遅れなものとなっていた。

 

 

 彼に勝ちたい。

 その思いはやがて形を変えていく。

 

 彼に完勝したい。

 今の彼にならばそれが出来る。

 

 彼を叩きのめしたい。

 他のトレーナーとなんら変わらない。勝利への道筋を辿るだけでできることだ。

 

 彼を泣かせたい。

 私に負けたトレーナーの中には泣き出す者もいた。特に何か思うことは無かったが、彼であれば想像するだけで気持ちが高ぶってくる。

 

 彼を跪かせたい。

 彼に靴を舐めさせ、見上げる顔を踏みにじる。それは一体、どれだけの快楽を生み出すだろうか。

 

 彼を慰めたい。

 散々痛めつけられた後に優しくすれば、人というのは簡単に靡くものだ。彼もそうなって欲しい。

 

 彼に触れたい。彼を殴りたい。彼と歩きたい。彼に負けたい。彼を絶望させたい。彼を愛したい。彼に泣かされたい。彼を痛めつけたい。彼に優しくしたい。彼に跪きたい。彼に甘えたい。彼を侮辱したい。彼に教わりたい。彼と遊びたい。彼に教えたい。彼を押し倒したい。彼に完敗したい。彼に褒められたい。彼を叩き潰したい。彼に踏みつけられたい。彼に愛されたい。彼に、彼に、彼に――

 

 

 彼のことを思うだけで、余りに多くの感情が湧き上がる。

 かつての敗北という執着の理由は、もはや理由に過ぎなくなった。たとえ彼に勝とうが負けようが、もはやどちらでもいいと思えるようになってしまっている。

 

 彼の顔を見つめながらもう一度決意する。

 今のチャンピオンはあまり行使していないが、チャンピオンにはジムリーダーたちの招集権と、それに付随して大会を開催する権力がある。

 それは即ち、私がチャンピオンとなれば彼と何度だって戦える生活が待っているということだ。

 

 無論、彼の手によってこの計画が阻まれるのであれば構わない。しかし、他の誰にだって私は負けてやらない。私のジムバッジの個数は、5個で止まるか8個集まるかの二者択一でしかないのだ。

 

「……なあ、ユウリ。顔が怖いぞ?」

 

 思考と彼の顔を見つめるのに夢中になっていたのを、ホップの言葉で戻される。

 ホップに注意されるとは、相当にひどい顔をしていたようだ。

 

「でも、すごい楽しそうだったな。アニキに褒められたときの俺より嬉しそうだった。そんなにジムチャレンジが楽しみだったのか? ほら、もうすぐアニキの試合が始まるぞ。一番近くで見よう」

 

 ああ、そうだ。私は楽しみなのだ。どういう結果になるにせよ、私は彼ともう一度戦えるのが本当に嬉しいのだ。

 

 ……ただ。今の気分的には、ボコボコに負かした後、鼻水を垂らしながら泣いている彼を踏みにじりたいかなあ、なんて。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 ――その後、ガラル鉱山にて。

 

「おや。アナタは確か、背番号を151にしていましたね。もしかしてカイ選手のファンですか? フンッ、凡人は憐れですね。彼に近づける手段が同じ背番号を使うしかないなんて。エリートのボクはローズ委員長から推薦を貰っただけに留まらず、カイ選手にバトルの指導も受けているのですよ!

 …………え、なんで急にそんな怖くなるのですか? ちょ、ちょ、ちょっと落ち着きましょう。ほら、やはりジムチャレンジャー同士互いに協力し合うのが道理ですよ。あ、この人話聞いてないですね。大丈夫です、ポニータ怯えないで。『さいみんじゅつ』を当てれば僕らの勝――ポニータァァアア!!」

 

 




ユウリ(♀) せばんごう:151 じょうたい:さくらん

てもち

・ウーラオス(いちげきのかた)
・ラビフット

ジムチャレンジに ちょうせんしたての トレーナー。
しかし マスタードの どうじょうに かよっていたので
バトルの けいけんは ほうふだ。
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