ガラルの悪のジムリーダー   作:アタランテは一臨が至高

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withヤロー

 

 

No.13(カイ)さんようこそ、アサギシティへ!」

「なあ、めっちゃ周りに変な目で見られるからこの仮面外していい?」

 

 

「この子が件のハガネールです! どうですか?」

「すげえええ!! カッケエエエ!! めっちゃ金色だああ!!!」

 

 

「ジョウトには色んな名所があるんですよ。どこから行きますか?」

「エンジュ! エンジュ行きたい!」

 

 

「あれ、ミカンちゃん? どうしたんだそんな恰好をして。イツキ君のコスプレかい?」

「マツバさん! 今の私はミカンじゃなくてNo.3、です! 間違えちゃダメなんですからね」

「よくよく考えたら三回くらい来たことあるんだよなエンジュ(京都)………飯食うしかすることがねえ」

 

 

「コガネはジョウトで一番の都会なんですよ! 人も多くて、建物も多くて……えっと、とにかくすごいんです!」

「オクタン焼き旨いなこれ。え、ジムの見学? あそこにはトラウマあるんで遠慮しときます」

 

 

ポケスロォォーン

 

「「フォーエバー!!」」

 

 

「はいはいはいはい! 合言葉は『ズキュントス』!」

「え……? ミカンさんに、カイさん、ですよね……? ガラル地方のジムリーダーの……。しかも合言葉違うし……」

「アオイさん、私たちはNo.3とNo.13です! お間違えのないよう! あ、それはそれとしてこの前の番組ではありがとうございました。これ、チョウジで買ってきたいかりまんじゅうです」

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

「そんなわけで、ジョウト旅行めっちゃ楽しかったわ」

「ほお~。僕もジムチャレンジが終わったら行ってみようかなあ」

 

 No.3(ミカン)に誘われたジョウト旅行から帰った次の日、お土産を渡しに俺はヤローの下を訪ねていた。

 初めのジムということもあり多くのチャレンジャーが挑戦するターフジムだが、挑戦者の波が去ったらしく少しばかり暇が出来ているようだ。

 今頃はエンジンジムが一番忙しい時期だろう。ターフの挑戦者は一日に数人で収まっているという。

 

「しかし今年のジムチャレンジは面白いことになりそうですなあ。チャンピオンの推薦者にネズさんの妹、委員長の秘蔵っ子も期待以上の強さでしたし……おっと、あの子は確かカイ君が鍛えてるんでしたか?」

「ん? ああ、ローズ委員長に頼まれてな」

「そうかあ……うーむ……」

 

 何か言いた気なヤローの様子に、菓子を食う手を一旦止める。

 もしかしなくてもビートについて一言言いたいのだろう。ジムチャレンジの時にでも何かやらかしたか。全く、クソガキとしか言いようがない。

 

「……アイツは過去に色々あってな。まあ大目に見てくれ。近いうちにポプラが何とかしてくれるっていう算段もついてるし」

「おっと、顔に出とりましたか。いやしかしなるほど、ポプラさんがおるなら安心じゃなあ。強さは十分でも少し前のめりなところがあって心配しとったんだわ」

 

 俺の言葉にホッとした様子を見せるヤロー。

 いや、ポプラが面倒を見るっていうのは原作知識由来の出来事だからその通りにならなくても全然不思議じゃないんだがな。

 

「ま、色々と事情があるんだよ。色々と、な」

「……ふうむ」

 

 初戦闘時から一貫してエスパータイプを使い続けるという超能力者を示唆する描写や、リーグカードにも明文化されている幼少期の複雑な事情。

 ゲームから読み取れるだけでもこれだけの情報がある。そこに加えて、()()()に来てから聞いたローズ委員長の話を組み合わせれば自然と推測は成り立ってくる。

 

 ローズ委員長からはビートをどうするつもりか、どういう境遇に置かれてきたか、という話は特に聞かされていない。ただバトルの技術を教える適任だったということで育成を任されただけだ。

 

 しかし、ローズ委員長の本質は()()()()()()()である。ビートを想う気持ちこそ本物であれ、手駒として扱おうとしているのもまた事実なんじゃないだろうか。

 

 ……まあ、俺にあの人の考えは読めないし、読む必要もない。

 所詮はただの契約相手だ。契約内容を履行してくれるのならば、俺には何の不満もない。

 お茶をグイと飲み干し、考えを放棄する。

 

「ああ、そういえばカイ君はもう知っとるでしょうが、今回のジムチャレンジの後どくジムとエスパージムのジムリーダーが変わるそうですな」

 

 ヤローの言葉に二人の人物が思い浮かぶ。

 恐らく彼が言っているのはクララとセイボリー、鎧の孤島にて登場するNPCたちのことだろう。リーグの経営も俺の仕事の管轄内であるために耳には入っていたが、初めて聞いた時は変な時系列の進み具合に首を傾げたものだ。今思えば、ユウリのイレギュラーな行動が全ての原因だと理解できる。

 

「なんでもどくジムの子はアイドルをやってるとかで、挨拶の時にCDを持ってきてくれましたわ。一度僕も聞いてみたところ、あんまし今の子の流行りはわからんなあ、という感じでしたがね」

 

 多分そのCDはヤローだけでなく、大抵の人間がイマイチだと感じるんだろう。合計で8枚しか売れてないという時点でお察しだ。

 しかし道場には熱狂的なファンのNPCもいたことだし、もしも将来メジャークラスに上がってくるようなことがあれば大人気アイドルという未来もあるのかもしれない。

 それより俺のとこにも挨拶来いよ。

 

「エスパージムの方はいつも通り、あの一族出身だそうです。でもあそこの家の子にしては中々苦労してきたんじゃないかなあ。どくジムの子もそうでしたが、良い面構えをしとった」

 

 セイボリーは……まあ、一族に関しては一度追放されたりと色々事情があるのだが、ジムリーダーに就任したということはゲーム通り克服できたのだろう。

 ユウリがどう関わっているのかは知らないが彼女は随分前にヨロイ島を離れたようだし、案外お互いに主人公の立ち位置を担ってライバル関係にあるのかもしれない。

 

「ふーん。バトルとかはしたの? エスパーの方はともかく、どくは相性不利だろ。抜かされるかもとか思ったり?」

「ふむう……バトルはまだしてはおらんし、手持ちのポケモンたちも見たわけじゃないが………」

 

 くさという弱点の多いタイプの使い手であるヤローの立場からすれば気になる話だろう。

 そう思っての質問だったが、彼は少しばかり考えた上で当然のように口を開いた。

 

「まだまだ若い。僕は負けんよ」

 

 

◇◇◇

 

 

「ロトム、あの動画」

 

 スマートフォンの中に住み着いたロトムに声をかけ、端末に保存してあるヤローとユウリの対戦動画を再生する。

 

『驚けよ、たまげろよ! ”ダイソウゲン”じゃ、ワタシラガ!』

『気にするようなダメージが入る攻撃じゃない――ラビフット、”ダイバーン”』

 

 ヤローは強い。本来相性不利であるはずのクララに、負けはないと豪語できる程度には。

 

『……お見事、完敗ですなあ。またファイナルトーナメントでお会いしましょう』

『はい、こちらこそありがとうございました!』

 

 少なくとも、タイプ相性一つで勝敗が決まるようなトレーナーではない。

 それは少しでもトレーナーとしての経験を積んだものならすぐにわかることだ。

 

「ロトム、次の動画」

 

『――いらっしゃい、ダンデ推薦のチャレンジャー。私のジムミッションをクリアするなんて中々やるじゃない』

『照れますね、えへへ。……でも、私の本気はここからですよ?』

 

 ルリナもまた才能ある一人だ。今はその若さやモデルという副業のこともあってメジャークラスの中では下位に甘んじているが、あの勢いがあれば近いうちにトップトレーナーの一人に登り詰められる。

 

『エレズン、そこ。”ほっぺすりすり”』

『――っ、トサキント!』

 

 当然、ベイビィポケモンなんぞにしてやられるトレーナーではない。

 彼女の前でそんな隙を見せたならばあっという間にその勢いで押し流されるだろう。

 

「次」

 

『――よくぞここまで来たね、チャレンジャー! このカブに君の努力の成果、見せておくれ!』

『ええ、もちろん。()()からいっぱい、努力しましたから』

 

 カブ。彼の強みの一つはベテランが故の経験だ。咄嗟の判断力では随一のものを誇る。

 また、若い時の勢いを維持しようと日々トレーニングに励む姿は同業者として尊敬に値するし、その実力はガラルでは文句なくトップクラスである。

 

『カブよ頭を燃やせ動かせ! 勝利への道筋を探すんだ!』

『――残念、あなたの勝ち筋はもうありませんよ』

 

 彼に勝つためには、当然その判断を上回らなければいけない。そしてそれが出来るのは、ごく一部のトップトレーナーだけだ。

 

「……ロトム、ありがと。もういいぜ」

 

 彼女とジムリーダーたちの対戦する様子を録画した動画を見終わり、端末の電源をロトムに落とさせる。

 そのまま自室のソファに寝っ転がると出てくるのは溜息。()()()()()()()()()()()を見て、少しナイーブな気分になっているのだ。

 

「ユウリ」

 

 先ほどの動画の中でジムリーダーたちと戦っていた少女の名前を呟く。

 彼女は強い。バトルの完成度だけで言うならば、ネズやキバナすら及ばない。ダンデでようやく、といったところか。

 少なくとも、ジムチャレンジにおいて俺が彼女に勝利を収めることは不可能だろう。

 

 バトルが上手いだけならばいい。それならば、俺は彼女を()()()()()()()()()()()()

 問題は、伝説のポケモンがユウリの下へいくことだ。そうなった場合、一気に話は変わってくる。

 

 この世界において、伝説のポケモンを捕獲できるというのは伝説のポケモンを捕獲できる資格があるということである。

 よくネット上ではレッドは伝説のポケモンを使えば~という議論が繰り広げられているが、それは全くお門違いなお話だ。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 そもそも所有する資格のない者の下へは下らない、それが伝説。

 

 ヒビキのホウオウ、セレナのゼルネアス、ミヅキのソルガレオ……この広い世界の中、極僅かな人間のみが所有する伝説ポケモンたち。それは、他とは隔絶した力を持つ。

 それ故に、当のポケモンが自ら所有者を選ぶのである。

 

 逆を言えば、それらのポケモンを保有していない中主人公勢に肩を並べているレッドが一番頭おかしいわけでもあるのだが。

 

 そのような例外を除き普通は伝説に勝つ方法など存在しない。

 なら、どうすればいいのか?

 

 ――目には目を。歯には歯を。伝説には、伝説を以て。

 

『……今月の〇×日、カンムリ雪原にて絶滅したと見られていた種のポケモンが発見され――』

『……中には危険な種も存在しており、今まで見かけなかったポケモンを見かけたらすぐに――』

『……この件については国際警察も調査を進めており、住民に被害が及ぶことが予想された場合は近隣地域ごと封鎖することも視野へ――』

『……マグノリア博士はこの異常事態に対して、このようなコメントを――』

 

 部屋のTVから流れるニュース。その内容は、ここ最近のカンムリ雪原での異常についてだ。

 今まで絶滅していたと思われていた化石ポケモンたちが思うままに闊歩し、時たま発生する()()()からは非常に危険な種が出現するという。

 

『……ポケモンリーグの総責任者であるローズ委員長はこの事態に対し、「原因は調査中です。しかし対策は打ってあります」と述べており、実際に一部地域ではリーグ委員が道を封鎖している様子も見受けられ――』

 

「はは、原因は調査中です、だってよ。もう捕獲済みなのに白々しいよなあ、()()()()()?」

 

 ボールの中、静かに眠る星の繭は俺の言葉には答えずただ羽化の時を待ち続ける。

 

 アローラにて羽化を遂げた伝説、その片割れ。それが何でこんなとこに来ているのかは知らない。()()()()()()()()()()()()()()

 

「あの人の人気はすげえなあ。居場所を伝えたら簡単に譲り受けてきちゃったよ。ホントにガラルじゃ敵なしだ」

 

 やはり見るべきは内ではなく外だ。ガラル内の話ならば、彼は本当にどうにでも出来る力を有している。

 

「うん、だから国際警察とのラインを作っとくのは正しいんだよ。もうそろそろリラと対面しておくのも……あ、メッセージ来た」

 

 触っていた端末にメッセージの通知が来る。噂をすれば何とやら、送り主はリラである。

 

「…………文面長そうだな。まあ、既読つけなきゃいっか。後で返せばいいだろ」

 

 動画を見たばかりで少し目が疲れている。30分ほど睡眠をとろうか。

 ソファの上で毛布を羽織る。ベッドに行ったら完全に寝てしまう。それはダメだ。

 

「アラームをセットして、と……起きたらまずメッセージ返すか」

 

 頭まで毛布を被り、目を閉じる。

 どうせ仮眠だ、休んだという実感さえあれば良い。そう思って悪い寝心地を我慢する。

 

 仕事も残っているが、そこまで溜まっているわけでもない。

 リラも30分くらいは言い訳をすれば許してくれる。

 

 俺はさいみんじゅつにかかったかのように、安心して眠りについた。

 

 

 

 

「……………さっきから通知うるせえな。電源切っとこ」

 

 




アラーム鳴ってないと思ったら自分で切っていたってこと、よくあると思います。

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