ガラルの悪のジムリーダー   作:アタランテは一臨が至高

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投稿遅れてすみませんでした。
許して下さい!


VSフウ&ラン

「返事遅れてごめん、ところで今度会いたいんだけど……っと」

 

 画面を見ることすらなくメッセージを打ち込みながら、朝の支度を済ませていく。

 ジムリーダーに就任してからというもの、ゆっくりと朝食をとれる日は週に一度程しかない。カブやサイトウ辺りが聞いたら激怒しそうではあるが、今日もゼリー一つで家を出る。

 

「おはようございますカイさん、本日の予定は8:00から……」

「ああ。車の中で聞くからとりあえず出しちゃって」

 

 30秒ほどで返ってきた長文の返信に更に返信しつつ、マネージャーの言葉を遮って玄関前に待機していた迎えの車に乗り込む。この運転手付きの車はマクロコスモス役員専用送迎車だ。何ともまあ、昔を振り返れば随分と偉い身分になったものである。

 

「それではカイさん、改めて本日のご予定を。まずは8:00からホウエンのTV局とのロケ、それが終了し次第マクロコスモス本社にて……」

 

 隣に座るマネージャーから一日の予定を聞く。随分と今日は忙しいらしい。ジムリーダーとしての仕事しか入ってない日は休む暇もあるが、マクロコスモス役員としての仕事が入るとそうもいかない。聞くだけで嫌になってくる緻密なスケジュールに気分が沈む。

 

 俺の諸々の能力を考えるとこの立場が一番都合が良いのはわかるが、思ったより働かされている気がするのは気のせいだろうか。労働時間だけを見れば()の仕事よりも表の仕事の方がよっぽどキツい。契約外の労働じゃないのかと思った時もあるけど、まあ、昔に比べればそう大したことはない。眠気覚ましに飴玉を舐めつつ、目的地への到着を待つ。

 

「そういえば、今日のロケでホウエンからやってくるジムリーダーはサイキッカーらしいですね。カイさんは超能力についてどう思ってます? 羨ましいなあ、とかカイさんでも思ったりするんですかね」

 

 窓の景色をぼうっと眺めていると、退屈していると思ったのかマネージャーが話しかけてくる。

 超能力。確かにあったら便利そうだとは思うが……。

 

「――別に。目覚めさせられる過程を見たら、羨ましいなんて思わなくなったよ」

「え?」

 

 嫌な記憶を思い出した。これ以上話を続ける気はないとまた窓の外を眺めれば、その意図は伝わったようでマネージャーの話は途絶える。

 

 ――超能力者、か。

 流れる景色を見つめながら、今日ガラルにやって来るジムリーダーについて考える。()()は俺の横で目覚めさせられていた子たちと違い、天然のそれだ。それも、世界の十指に入る超一流の。

 

 ただ生まれ持った才能だけで頂上へ辿り着いた彼らと、苦痛を代償にするも頂上へは辿り着けなかったどころか未来を失っていった彼ら。

 何とも皮肉な話だ。それも、どちらとも自らなりたいと願った訳じゃないのだからより一層に。

 

「……まっがーれ」

 

 何となく、戯れに指を振って思い出した、かつて流行った言葉を呟く。

 当然何も起こらない。しかし、もし何か起こっていたらどうしたんだろう。喜ぶだろうか。しかし超能力者としてのしがらみに囚われたセイボリーや、一時期能力の制御に失敗して行動を制限されていたカトレアのことなどを考えれば、超能力もそう良いものではないように思えてくる。

 

「まっがーれ」

 

 もう一度呟いてみる。

 やはり何も起こらない。でも、あの日々の中で俺も使()()()ようにされていた、なんて言われてもそう不思議ではないのだが。

 

 ……笑えない話だ。

 窓の外を眺めるのもやめ、手持無沙汰になった俺は心地よい微睡みに身を任せて僅かばかりの睡眠をとることにした。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「どうも」

「こんにちは!」

「ホウエン地方」

「トクサネシティの」

「ジムリーダー、フウと」

「ランです」

「「よろしくお願いします!」」

 

 まるで一人の人間が話しているかのように紡がれる二人の言葉に、少しばかり圧倒される。

 フウとラン。ホウエン地方において唯一認められている二人一組のジムリーダーで、双子のサイキッカー姉弟でもある。

 

 性差もあり意外と見分けるのは簡単だと思うが、彼らの両親でさえ二人を間違うらしい。

 少し髪の長い女の子がランで、もう片方が弟のフウ。両者とも青色のチャイナ服を着こんでいる。

 

「今日はガラル地方のキルクスジムリーダー」

「はがね使いのカイ選手を訪ねてやって来たヨ!」

「一体どんな人なのか」

「とても楽しみだね」

「「早速行ってみよう!」」

 

「はい、OKでーす」

 

 番組スタッフの声でカメラが止まる。フウとラン、どちらも年少とはいえジムリーダー。カメラ慣れはしているようだ。

 

「それじゃあカイさんは……スタジアムの中央で、ボスゴドラと一緒に待機してもらっていいですか」

 

 どうやら撮影はスタジアムで行うようだ。ボスゴドラを指定してきたのはホウエンに分布するはがねタイプで見栄えするポケモンだからだろう。スタッフの言葉に素直に頷き、スタジアムに向かう。

 

 しかしスタジアムの中でもジムミッションに用いるアリーナは放送できない。普段試合などで用いるアリーナを開放して、撮影器具などを受け入れる。

 

 ロケというのは準備時間などを含めると、実際に放送される時間の何倍もの時間がかかるものだ。今日は帰るのが相当遅くなるかもしれないな、と睡眠時間の短縮を覚悟しつつ撮影準備の様子を眺める。

 

 すると、同じように暇を持て余していたのかフウとランがとことことこちらに寄ってきた。

 

「カイさんカイさん、お暇でしたら」

「一緒にお喋りしませんか?」

「わぁ、こちらこそ話をしてみたかっただなんて」

「とっても嬉しいヨ!」

 

 何も言わない内に、口に出そうと思っていた言葉を先んじて言われる。読心能力者の特徴の一つだ。人によっては話さずとも伝わるため便利、と言う者もいるが俺は不快としか感じない。相手がその気になれば、俺の深層心理まで全て洗いざらい読み取られるのだ。隠し事のある身からすれば恐怖の対象である。

 

 尤も、隠し事を暴けるレベルの精神干渉能力を持つ存在は世界に十人といないだろうが。

 ちなみに、目の前の姉弟はその十人の内の二人だったりする。

 

「ポケモンコンテストはガラルには無いって聞いたけど」

「本当?」

「へー、ほんとに無いんだ!」

「カイさんはコンテストを見たことあるの?」

「わぁ、ルチアちゃんのを!」

「やっぱりルチアちゃん、海外でも人気なんだ!」

「ぼくもファンなんです」

「あたしもファンなんです」

 

 黙りこんでる俺に二人が話し掛け続ける姿は第三者の目には随分おかしく映ることだろう。しかしこれが能力者の日常風景だ。間違っても悪感情を表層心理に出さないよう気をつける。

 

 ちなみにルチアのコンテスト映像を見たことがあるのは、それがメガシンカについて調べたときに最も簡単に見つかった動画だからである。

 ポケモンの姿をアピールする関係上、何ならカロスリーグの映像よりもメガシンカの様子を観察しやすい。ルチアのチルル(チルタリス)がメガシンカする姿は今でも脳裏に焼きついている。

 

「ところでカイさんは」

「はがねタイプのジムリーダーなんだよね!」

「ホウエンに伝わる、はがねタイプの伝説ポケモンについて」

「何か知っていたりしませんか?」

「――わぁ、知ってるんだ!」

 

 ……これだから、能力者との会話は嫌なのだ。

 思わず思い浮かんだ一匹のポケモンの名前に歯噛みする。

 

「実はトクサネの恩人……」

「というか、ホウエンの恩人……」

「というかというか、世界の恩人が今、そのポケモンを探してるらしいんだヨ!」

「何でも同種の存在が3匹いることは突き止めて」

「その内の一匹がはがねタイプなんだって」

「でもトクサネにいるはがねタイプのエキスパートは」

「必要な時に役に立ちませんので」

「カイさんに聞いてみようかな、と思ったところ」

「ビンゴ! 流石です!」

 

 キラキラとした目で俺に迫ってくる姉弟。世界の恩人というのは第3世代主人公――ハルカのことだろう。レジ系はジンダイのイメージがあるが、恐らくオメガでルビーなこの世界では野生なのも当然か。

 

 しかし自分の迂闊さには一旦後悔したものの、ホウエン主人公と繋がりを作れるのは思ったより大きいメリットに感じられる。

 これは変に隠し立てせず素直に情報提供するべきだろう。頭の中で伝えて良い情報、悪い情報を取捨選択して口を開く。

 

 意識を研ぎ澄まし、表層意識から情報を消していく。

 自分の殻に閉じ篭もる姿をイメージする。昔叩き込まれた、対読心能力者の心構えだ。

 

「んー、多分そいつは『レジスチル』ってポケモンだな。古代の巨人ポケモンとの関係性が……」

 

 ひとまず当たり障りのない情報を小出しにして反応を見る。

 しかしフンフンと頷いているのを見る辺り、こんな話で有り難がるような情報の無さらしい。流石は伝説といったところだろうか。

 

「それじゃあ準備出来ましたので、カイさんにフウさんランさん、お願いしまーす」

 

「あ、撮影始まっちゃいますね」

「また後で聞きにきます!」

 

 この世界の文献にも載ってそうな話を終え、少し踏み込んだ話をしようかと思ったところで撮影準備が終えたことを知らせる声が聞こえる。 

 丁度良い。能力者の相手は疲れるし、ゆっくり話すべき情報を整理したかったところだ。話は後回しにして、撮影場所に向かった。

 

 

◇◇◇

 

 

 

「読めなくなったね」

「読めなくなったね」

「ダイゴさんと一緒」

「ミクリさんと一緒」

「何かを知ってる」

「何かを隠してる」

「ちょっと暴いてみようか」

「ちょっと読んでみようか」

 

 

 

◇◇◇

 

 

「――はい、OKでーす!」

 

 番組スタッフのよく通る声が撮影の終了を告げる。

 時計を見れば正午はとうの昔に過ぎていた。フウとランとの話はまた今度にさせてもらおう。急いで本社に向かう準備を始め、電話を一本入れようと人のいない場所へ移動する。

 

「カイさん!」

「カイさん!」

 

 するとまたサイキッカー姉弟がとことことやって来た。

 レジスチルの話を聞きにきたんだろう。しかし、余り今日は時間がないのだ。大人しく帰ってもらうことにする。

 

「ああ、悪いけど話はまた今度でも……」

 

「大丈夫だヨ」

()()()()()()()()()()()

 

「は? 何言って――――!!」

 

 瞬間、小さな頭痛と共に自分の何かがこじ開けられたような感覚を感じる。

 ()()()()。ただそうとしか言いようが無い。

 

「お前、ら……一体、何、を……」

 

「へー、レジスチルってこんな姿なんだ」

「へー、レジアイスってこんな姿なんだ」

 

 苦痛は感じない。しかしこの不快さはとても言い表せるものじゃない。

 脳内に電極を突っ込まれたかのような異物感。自分が自分だけじゃなくなっている。「俺」の輪郭が今、あやふやになっている。

 

 自分の意識を保つのに必死な俺の前で、この姉弟はふむふむと俺の頭を覗いて頷いている。

 

「レジロックに……レジドラゴ?」

「レジエレキっていうのも、聞いたことなかったね」

 

「おい、お前ら……今すぐ、やめ、ろ………」

 

 俺の言葉を全く無視して記憶を弄る二人。今はレジ系の情報を探しているようだが、メインプランや()についてでも暴かれてみろ。最悪の場合、プランの終了までガラルに()()()()()ことになるぞ。

 

「うん? まだ隠そうとしてる情報があるみたいだヨ!」

「やっぱり怪しい! 何かしようとしてるんだ!」

 

 何だコイツらは。やっぱり、だと? まさかとは思うが、何となく怪しいって思っただけでこの行動に出たのか?

 失敗した。対応を間違えた。ガキの迂闊さをもっと思慮に入れておくべきだった。

 

「うーん、中々開かないなあ」

「うーん、ちょっと力を強めてみようか」

 

「――ぁ、ガッ」

 

 走る激痛。人を人とも思っていないかのような態度に、「かつての記憶」を思い出す。

 その幼さと、周りにはその能力を利用するために媚びへつらう大人たちばかり、という特殊な環境で育ったが故か彼らは余りに無垢が過ぎる。

 

 その無垢が故に、人の気持ちを読めるのにも関わらず人の気持ちを理解できないのだ。

 だからこそ、俺の最も忌避する記憶を何も躊躇わずに見ることが出来たのだろう。

 

「あれ、何これ」

「昔の記憶?」

「開いてみよう!」

「調べてみよう!」

 

 彼らの言葉と共に、俺が財団に囚われていた頃の記憶が脳内を埋め尽くす。

 

 怖気。憤怒。幻痛。吐気。

 様々な感情が噴き出し、一瞬視界が真っ白になる。

 

 そして。視界が元に戻ってきたとき、既に俺を苦しめていた異物感は消え去っていた。

 

「――あ、れ?」

 

 完全に戻ってきた自分の体の感覚に思わず拍子抜けする。

 到底まだまだ解放されそうな状況ではなかったはずだが、一体どうしたのだろう。

 

 困惑と共に顔を上げて目の前を見ると、そこにはわなわなと震えた二人が地べたにへたり込んでいた。

 

「お前ら、何やって――」

 

「ひっ!」

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい…………!」

 

 口を開いた途端にビクリと体を震わせるフウに、謝罪の言葉を繰り返すラン。

 一体どうしたことか。俺はただかつての記憶に飲まれていただけだというのに。

 

「……あー、あれか。読心は強い共感性を伴うとかなんとかっていう。どっかで読んだ気がするわ」

 

 つまりは、この姉弟は俺のかつての拷問を追体験してしまったという話だ。そりゃあ、怯えもするというものである。俺の脳内を埋めていったのは、かつての地獄の中でも特別辛かった記憶。俺だって発狂なんてのは一度や二度じゃ済まなかった。

 

「ごめ、ごめんなさい、ごめんなさい、許して、何でもするから、この痛いの、やめて……」

「嫌だ、もう、嫌だ……」

 

 どうやら相当強くトラウマが刻まれてしまったらしい。姉のランの方に至っては、未だに幻覚に苛まれているようである。

 

「…………何でもする、か」

 

 ピンチはチャンス、とはよく言ったものだ。最悪の状況から一転、振って湧いた幸運に感謝する。

 

 一歩近づくだけでビクリ、と震える弟を無視してランの頭を掴み、話しかける。

 

「色々とやってもらいたいことはあるが……まずは、裏切らないように色々と躾けねえとな」

 

 怯えて目を伏せるランの様子から、意外と簡単に終わりそうだと判断する。

 

 超能力者の協力者が手に入るのは非常に嬉しい。丁度、エスパータイプの伝説には対応しあぐねていたところである。ハルカとのコネなんかよりも、ずっと良いものが得られた。

 

 今日の予定は、変更だ。

 

 


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