ガラルの悪のジムリーダー   作:アタランテは一臨が至高

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withポプラ

「カイ選手! ビート選手の失格について何かコメントを!」

「幼少期の事情に原因があるとの意見もありますが!」

「彼を育てたトレーナーとして責任を感じてはいらっしゃるのでしょうか!」

 

 つい先日のビートがやらかした事件のせいで、随分とマスコミに纏わり付かれるようになった。

 ローズ委員長からの指示が無い以上、俺から何も話せることは無い。ノーコメントを貫き通す。

 

 ラテラルタウンの遺跡。

 かつてそこには芸術的な古代絵が描かれていたが、その内部に大量のねがいぼしが埋められていることを発見したビートがローズ委員長にねがいぼしを捧げるために遺跡を破壊する。

 その結果ねがいぼしを掘り出すことには成功するものの、内心はどうあれ責任ある立場にいるローズ委員長はビートにジムチャレンジ失格を言い渡す。

 

 当然ビートはガラル中から非難されることとなり、こうして師である俺のところにまでマスコミが押しかけることになったのである。

 

 一方破壊された遺跡の内部には今まで発見されていなかった銅像が見つかり、学会では相当な盛り上がりを見せているという。

 そういった面で、結果論ではあるものの少しだけビートを許す風潮も生まれている。

 

 あるいは、それもローズ委員長の思惑なのかもしれないが。ゲーム本編での乱入に対する意見。あれは失格者に対するものとしては少しばかり優しすぎないだろうか。

 俺が思うに、ローズ委員長の温情とでも言うべきものが関わっていたとしても何もおかしくは無い。

 

 彼は狂人ではあるが、善人でもある。ガラルの未来に対しては、この世界の誰よりも真摯に向き合っている。

 そんな未来を生きる若者の一人を救うなんて、あの人にとっては容易いことだろう。

 

 もう長い付き合いになるが、未だに真意を掴めないローズ委員長の心の内を推測する。

 とは言っても、ただの契約相手である俺からすればどうでもいい話なのだが。マスコミを振り切って仕事場であるキルクスジムに入る。

 

「ジムリーダー・カイ。ボクの生涯をかけたお願いがあります」

「……何でここにいんのお前」

 

 

◇◇◇

 

 

「懐かしいですね。このジムにはよくトレーニングにやって来ていました。つい先日、ジムチャレンジが始まる前のことですが、随分と昔のことのように思えます」

 

 ひとまず出した紅茶を優雅に飲みながらペチャクチャと喋るビート。前から思っていたが、コイツの図太さはかなりのものである。

 

「で? わざわざこのクソ忙しい時期に俺のとこまで来て、一体何の用だ」

「……そうですね。ジムの準備もあるでしょうし単刀直入に言わせてもらいましょうか。

 カイ選手、アナタの立場を見込んでお願いがあります。ボクをもう一度ジムチャレンジに参加させて下さい」

 

 口に出されたビートの言葉を、特段驚きもせず受け止める。

 やっぱそれか。本来なら本部の設置されているナックルシティへ嘆願に向かっているはずだが、より強い繋がりがあるというのならばこちらへ来るのも不思議ではない。

 

 まあしかし、結論は同じだ。俺はこのジムチャレンジが終わった暁にはメインプランの成否に関わらずビートの面倒を見られる状態にないだろうし、見る気もない。

 

 本来の歴史とのズレが俺の存在によるものだとしたら、それを直すのも俺だろう。

 決めた。アラベスク送りである。

 

「……カイさん? 何だか今、ものすごく嫌な予感がしたのですが」

「ああ、安心しろよ。お前の願いは叶うから」

「ほ、本当ですか!?」

 

 俺の言葉に嬉しそうな顔で立ち上がるビート。

 あれ? でもあの後はジムチャレンジすっ飛ばしてジムリーダーになってるからジムチャレンジへの再参加という願いは叶ってない気がするが……まあどうでもいいか。

 ファイナルトーナメントには参加出来てるし、実質叶ったようなもんだろ。

 

「ああでも、一個だけ確認しとくか。たとえ自分の、えーと、アイデンティティ? が失われるというか、ピンク色に染められても後悔しねえか?」

「……? 何を言っているかわかりませんが、ローズ委員長のためならばボクはどうなっても構いません!」

 

 言ったな。言質はとったぞコイツ。

 付いて来い、という仕草をしてジムを出る。向かう先はアラベスクタウン、妖精の町である。

 

 

◇◇◇

 

 

 結論から言って、ビートは原作通りにポプラの後継者に選ばれた。

 ピンクピンクと叫びながら行われたオーディションとやらには恐怖の念しか浮かばなかったが、やはりフェアリー使いとしての素質はあるのだろう。すぐに認めたようである。

 

 勿論、用事を果たした俺はビートを押し付けて帰る気満々だったのであるが、どうしてか妖怪ピンクババアに俺の行動を察知されてお茶会に参加させられることになったのである。

 

「いやあ、この忙しい時期に連絡も入れないでやって来た時は何事かと思ったけれど、あんなにピンクに相応しい子を連れてきてくれるとはねえ。これでようやくアタシも安心して身を引けるってもんだよ」

「はっ。後5年は現役でいけそうだけどな」

「なんだい、バトルは上手いけれど目の方はまだまだ年相応だねえ。後10年はやれるよ」

 

 砂糖をティースプーンで溶かしながら、ポプラと会話を続ける。

 しかし俺はともかく、コイツのいるアラベスクジムは今ジムチャレンジの最前線のはずだがお茶会なんてしている暇はあるのだろうか。

 

「おや。自分から用事を吹っかけてきたのにこっちの心配かい? 安心しなよ、今日のジム営業は終了したさ」

「あ、そうなの?」

「アラベスクに到着した子はみーんなあっという間にクリアしていったからねえ。さっきクリアした子で今日は最後だよ」

 

 確かに、最上位組とそれ以下では結構差がある。そもそもクリアが出来る出来ないの差もあるが、進行速度の方も相当に違いが出てくるのだ。

 

「何て言ったかね、あのチャンピオンが推薦した……」

「ユウリか?」

「そうそう、あの子だよ、つい先ほどクリアしていったのは。アタシの出した問題は全部不正解だったけれど、多少の逆境なんてものともしない強さがあったね」

 

 思わぬところで得られた主人公の情報に口角が上がる。ベテランというだけあって、ポプラの目は確かだ。俺の見抜けないものを見抜いているかもしれない。ユウリの話を促してみる。

 

「もっと詳しく教えてくれよ。バトルはどんな感じに展開してったんだ?」

「そうだねえ、あの子が使ったのはストリンダーとエースバーンだけだったけれど、ポケモンの強さもさることながらあの子の指示も上手かった。完成されてるよあれは。アタシなんかよりずっと強い」

 

 相変わらず持っているはずの最後の一匹についての情報は無し、か。鎧の孤島をクリア済みであると考えれば、ウーラオスという可能性は高いがどちらの型かも判別がつかない。

 

 彼女が今所持しているポケモンは4匹。

 

 旅の始まりにチャンプから譲り受け、そして旅の間にみるみる成長していきとうとう最終進化を遂げたエースバーン。

 

 バウジムなどでベィビィポケモンであるはずの進化前から活躍を見せ、ユウリの才能をガラル中に知らしめた原因でもあるストリンダー。

 

 ラテラルにおいて、その火力を以ってただ一匹のみでサイトウを撃破せしめた新種の化石ポケモン、ウオノラゴン。

 

 そして最後の一匹。旅の始まりから所持しているにも関わらずただの一度として公式戦で用いられていない、謎のモンスターボール。

 噂では何よりも信頼する切り札と呼ばれ、その一匹を見るのを誰もが心待ちにしている。

 

 彼女のパーティの内、ジムチャレンジで使われるのは大抵の試合で一匹か二匹。

 それは今のところ誰も彼女の全力を引き出せていないということであり、彼女がジムリーダーなどという器では測りきれないことを示している。

 

「あの子は強いよ。才能だけならダンデでも戦えるけれど、あの子の強さはそういう強さじゃない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。今のチャンプはその強さを持っていない。初めての負けを経験するかもしれないね」

 

 ポプラのその評に違和感を抱く。いや、言っていることはわかる。いわゆる努力型か天才型かの話だろう。

 ダンデの初年度の防衛戦なんかがわかりやすい。あれはキバナとダンデという、その世代のトップの天才たち同士の、剥き出しの才能の戦いだ。

 

 一方、カブやポプラといったベテランたち同士では、年月を感じさせる技巧を凝らした工夫の多い戦いが見られる。

 それは数多くの負けと勝利に支えられた力であり、決して勝ち続けるだけじゃ手に入らない強さであろう。

 

 しかしユウリがその強さを持っているというのは違和感を感じる。

 何せ、ポプラの言う通り才能だけでもダンデ級というバケモノ具合だ。彼女を負かすことが出来る存在なんて、それこそ他の主人公たちぐらいである。

 

 彼ら彼女らが一人の人間を鍛えているなんて話は聞いたことがない。

 あるいは、相当に大きな敗北を経験し、その一戦を頭の中で何度も繰り返しているとでも?

 

 とにかく、彼女の実力は才能の賜物としか思っていなかった俺にとってその評は随分と衝撃だった。

 

「あの子、というか上位組が次に行くのはアンタのとこだろう? アタシの心配なんかより、自分のジムの準備した方が良いんじゃないのかい」

「そうしようと思ったら、どこぞの誰かさんが引き留めてきたんだけどな」

「相変わらず口が減らないねえ」

 

 まあ、ジムチャレンジにおいてジムリーダーというのはチャレンジャーに対して優位的な立場にいる。多少の期間ジムを閉めていたところで、誰も問題にはしない。

 ゲームにおいてスパイクタウンのシャッターが問題になったのは、ネズがやったことではなく何の権力も持たない一般人がやったことだからだ。

 

 ただの一ファンが他の選手に対して邪魔をするのは単なる妨害行為だが、ジムリーダーがジムを開けるかどうかは本人の自己判断である。アスリートである以上、スケジュールやコンディションなども気にしなければいけない。

 尤も、あまりにジムを開かなかったらリーグ本部からの命令が入るのだが。

 

「それなら今日はもうお茶会は終わろうかい。アタシもあの坊や(ビート)を早いとこピンクに染めなきゃいけないしね」

「……まあ、アイツのことは任せたさ。バトルの腕については保証する。フェアリージムもしばらくは安泰だろうよ」

 

 ピンクに染めるとかいう不穏な言葉に少しだけ後悔するものの、決してビートにとっても悪い結果にはならないだろうと考える。

 それよりかは自分の心配だ。いつまでも人の面倒ばかり見てはいられない。

 

「そうそう。ここの妖精たちはアンタのことを随分気に入ってるからね、ちょいと歩いていってくれよ」

「ん」

 

 最後にもはや砂糖水となった紅茶をグビリと飲み干し、席を立つ。

 あんまし美味いモンじゃなかった。次からはジュースを出してもらうことにしよう。

 

 

◇◇◇

 

 

 アラベスクジムのジムトレーナーであるマダムたちから渡された大量の菓子を食べながら、アラベスクタウンをフラフラと歩き回る。

 かと言って何かやることがある訳でもない。ポプラの言う通り、ほんとにちょっと歩いているだけだ。住民がいれば挨拶をし、じゃれついてくるポケモンたちの相手を適当にする。

 

 この町は本当に不思議なところだ。田舎というよりかは、未開の地。妖精たちの楽園である。

 人の手の行き届いていない森の中の集落のような家々は、ポケモンと人間の共生というテーマに対する一つの回答だろう。

 

 まあしかし、文明の利器に慣れてしまった現代の人々の多くにとっては住みにくい地である。この町に住んでいるのは芸術家といった職業など強い感受性を持つ者が大半を占める。

 

 また、幼い子供もこの地を好む傾向があるという。幼少期をアラベスクで育った芸術家には大成するものが多いとか。子供の持つその高い感受性が存分に活かされる地なのであろう。

 

 逆に、妖精の方からしてみても子供を好む傾向があるらしい。ポプラからその話を俺が妖精に好かれている、という話と同時に聞いた時には随分と複雑な気持ちになったものだが。

 

 そんな俺の心情はさておき、町も一周したかと言うところで前方に小さな人影を見つける。

 

「あ」

「……………えへぇっ!? カ、カ、カカカ、カイさん!?」

 

 ユウリ(主人公)だ。あちらの方も俺を見つけて随分驚いているようである。

 一体なぜここに、と一瞬考えたが先ほどポプラのジムチャレンジが終わったと聞いたばかりだった。まだこの町にいるのも当然だろう。

 

「お前、ジムチャレンジャーのユウリだよな? チャンプに推薦された」

ぁ、はい

「今からアラベスクを出るとこ? 次は……ああ、キルクス(俺のとこ)か。もう来んの?」

ぁ、いや、その

「それともまだしばらくこの辺にいたり?」

ぁ、そうです

 

 これは良い機会だと思い、ユウリに話しかけてみることにした。もしかしたら残りの手持ちなど良い情報が手に入るかもしれない。

 

「他のヤツらも言ってたかもしんないけど、お前は結構注目されてるからな。楽しみにしてるぜ」

ぁ、いや、私なんて全然……

「ん? 悪い、よく聞こえねえ」

ぁ、ごめんなさい、何でもないです………

 

 ……何か思ってたのと違うな。動画とかを見たり他のジムリーダーから聞いた話じゃ、もっとハキハキと喋っていたような気がするんだが。今目の前にいる彼女は目も合わせようとせず、声もボソボソとして聞き取りにくい。

 

 まるで俺と話すのを拒絶しているみたいだ。……まさか、プランについて見抜いてたりするのか? もしかするとこれ以上探るのは危険かもしれない。

 

 予定変更、早々に話を切り上げることにする。情報を探るのはまた自分のホーム(ジム)でやればいい。どうせすぐに会うことになるのだ。

 

「ふーん。んじゃまあ、頑張れよ。俺のトコも明日からは挑戦者がやって来るだろうしな、準備のために俺はもう帰るぜ」

ぁ、そ、その

「ん?」

「ぁ、ゎ、わたし、ファンなんです!」

 

 急な大声に、思わず黙り込んでしまう。

 何だコイツ。どっからそんな話題が飛び出してきた。

 

「は?」

ぁ、ごめんなさい、すいません、いやホント急に何言ってるんでしょうね私本当に昔っから空気が読めない奴でごめんなさい死んで詫びます……

 

 今度は先ほどまでの口数が嘘かのようにブツブツと呟きだす。

 本当になんなんだコイツ。情緒不安定か?

 

「ファンってなんだ? サインでも欲しいのか?」

「……!! ぁ、はい、そうです!」

「それじゃあ、ウチのジム突破したらくれてやるよ」

 

 そう言って少し挑発してやると、「そんなことでいいのか」とでも言いたげな表情をする。

 どうやら相当バトルに関しては自信があるようだ。上等である。制限された手持ちとはいえ、叩きのめしてくれよう。

 

「何だ、そんなの簡単だってか? 意外と度胸あるのな、お前」

ぁ、いや、そんなことは…………負けても、それはそれで嬉しいですし

 

 俺の言葉にも未だに自信を崩さない。流石は主人公といったところだろうか。

 敗色濃厚とはいえ、俺も覆してやろうという気が湧いてくる。

 

「必ず俺のトコまでやって来いよ。ジムミッションクリア出来ずにリタイア、とか許さねえからな」

「ぁ、はい!」

 

 発破をかけるだけかけてアラベスクを去る。

 本チャンの勝負は別として、ジム戦に関しても今の俺はかなりやる気になっている。キルクスに戻ったら研究を再開しよう。

 

 ……しかし、今更ながら敵に塩を送っただけのような気がしてきた。本当に大丈夫だろうか?

 ジムミッションの内容をユウリだけ厳しくしようか、なんて考えつつキルクスへの帰路につくのであった。




ユウリ(♀) じょうたい:なんだか しあわせそう!

てもち

・ウーラオス(いちげきのかた)
・エースバーン
・ストリンダー
・ウオノラゴン

めちゃくちゃ つよい チャレンジャー。
サイトウとの たたかいは すさまじかったぞ。
カイの だいファンで あいが おもい。
しかし ほんにんを めのまえにすると コミュしょう さくれつだ!


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