ガラルの悪のジムリーダー   作:アタランテは一臨が至高

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※今回の話には、ポケモンの対戦知識がないとわからない要素が多数含まれています。
 その場合、何となく読み飛ばして頂いても話はわかるはずです。


VSユウリ その1

「……いやあ、流石にマリィは強かったな。完敗だ」

 

 先日行われたジム戦を振り返り、一人つぶやく。

 幼い頃から英才教育を受け続けてきたマリィのトレーナーの腕は、現時点でもメジャーで通用するほどのものだ。そりゃネズも兄馬鹿になるってものだろう。「自分より才能がある」なんて抜かしているが、あながち過言でもないほどの強さだ。

 

「特に俺の指示にミスはなかったはず……となると、やっぱ手持ちの制限が厳しいか」

 

 俺たちジムリーダーは旅に出たばかりのチャレンジャーたちのことを考慮し、ジム戦ではあまり鍛えきっていない手持ちを使う――要するに、手加減をしている。

 しかしマリィの手持ちはネズのトレーニングにもついていけるような精鋭たちだ。特にモルペコなんかは、今からリーグ戦に出たってやっていけるだろう。そんな彼らの相手を手加減したままするというのは、少々難しいというところだ。

 

 まあ、俺からすれば将来のジムリーダーということはわかっているし、その強さに何の疑問もない。昔からの付き合いもある分、むしろ成長を喜ぶ気持ちだ。

 

「失礼します、カイさん。今日の挑戦予約者一覧です」

「ん」

 

 コンコン、とノックの後にジムトレーナーが扉を開ける。

 どうやら今日も挑戦者は現れるようだ。6番目のジムということもあり、挑戦者の数自体は少ないのだがその分一人一人が強い。毎日のハードなバトルスケジュールには辟易するものである。よくヤローは1番目のジムをやれるな。

 

「えーと、今日の挑戦者は…………っと、遂に来たか」

 

 ジムトレーナーから受け取った名簿を眺めれば、そこには最近よく見る一つの名前。

 

「ユウリ……待ってたぜ」

 

 主人公(最強)が、やって来る。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 キルクスジム。

 ジムミッションの控え室の中、ようやくこの日が来たんだなあと実感する。

 

 現序列3位、キルクスジムリーダー・カイ。

 彼との邂逅は思ったより早くに叶ったが、バトルの方は今日でようやくである。

 

 彼に敗北したあの日から、ずっと今日という日を待ち続けた。

 ……彼はあの時のことを覚えていない様子であったが、まあ私が弱かったせいだ。仕方がないことである。むしろ何かそれも興奮する。

 

 彼は私に勝ってくれるだろうか。それとも他の人と一緒で、私の勝利は揺るがないんだろうか。

 そんなことを考えていると、「勝ちたい」と思っている自分と「負けたい」と思ってる自分が同居していることに気付く。

 

 まあそれは要するに、これからのバトルがどんな結果になっても良いということだ。なんて幸せなんだろう。

 

 とはいえ、私もポケモントレーナーの端くれ。勝負に全力を尽くすのは相手への礼儀でもあり、自分にとっても大切なことだと知っている。どちらかと言えば勝ちたいというのも本音だ。

 

 ポケモンたちのコンディションを確認した後、自分の服装をチェックする。

 ……どこかおかしいところはないだろうか。新品の服ではあるけれど、タグとかが付きっ放しなんてことは? 手鏡を持ってかれこれ30分くらい立ち尽くす。

 

 見た目の方に関しては1週間前から考えてきたファッションだ、最高にキマッている。かわいいの一言しかない。彼の好きそうな見た目に最大限寄らせた、男受けの極致であると自負している。……結局バトルの時には、ユニフォームに着替えなければいけないのだが。

 

 アラベスクでの彼との出会いは本当に不意打ちだった。常にファッションには気を使っていたからひどい服装では無かったけれど、彼と出会うことを知っていたならばもっと気合いの入れたものにしていただろう。

 

「てか、ホントにあれは無かった。心構えが必要なのに、急に来られても困るよ……」

 

 思わず自身の醜態を思い出して赤面する。

 本当になんなんだアレは。キョドり過ぎてたし、目も合わせられず常に顔は下を向いていた。声も全然出なかったし、マトモに喋れなかった割には余計なことまで口走ってた。死にたい。というか「えへぇっ!?」ってなんだよほんとに死ねよ。恥ずかしい通り越して泣きそうだわ。本当に今すぐ爆発して死にたい。

 

「いや、うん、今日はきちんとシミュレーションしてきたし、大丈夫なはず」

 

 昨日の晩はありとあらゆる状況を想定し、完璧な会話デッキを揃えてきた。たとえ3時間くらい二人きりになったとしても話し続けられる自信がある。

 

「復習しよう。まずは天気から行って、その次に好きなポケモンの話題……相手の意見は絶対に否定せず、とにかく褒めちぎって同調する……」

 

 普段は全く人とのコミュニケーションに苦労していない私だったが、アラベスクの醜態から一気に不安が湧き出してきた。そうして本屋で見つけた「初対面からでも親友に!~アホでもわかるコミュニケーション学~」の内容を全暗記するに至ったのである。

 

 全540pを読破した私に隙はない。遂にバトルだけでなく、コミュニケーションまで究めてしまったか。

 マクロコスモス出版の加護を受けた私は、自信をその身に満ち溢れさせながらとうとうジムミッションに向かう覚悟を決める。

 

「行くよ、みんな」

 

 控え室から一歩踏み出し、いざミッションの場へ。

 最早私に、敵は無い――!

 

 

『ようこそチャレンジャー。ジムリーダーのカイだ』

「ゎひゃいっ!?」

 

 変な声出た。死にたい。

 

『お、おい大丈夫か? 放送始めただけで転んだ奴なんて初めて見たぞ』

ぁ、はい大丈夫です気にしないでください神様が私が立って歩くなんておこがましいって言ってるんです……

『お、おう……お前がそう言うんならいいけどよ』

 

 くそう。私に話しかけてくれるっていうだけで耳が幸せになっているのに、醜態を晒しているという現状を考えれば素直に喜べない。

 

『それじゃあジムミッションの説明をする。先に挑戦してきた奴らの放送とかを見てたら知ってるかもしれんが、説明は義務だ。聞いてくれ』

ぁ、はい

 

 勿論知っている。彼の行った公式試合は全て録画し、保存済みだ。当然今年のジムチャレンジの映像も10周はした。

 

『今年のキルクスジムミッションは――スクール御用達、”詰めポケモンバトル”だ!』

「ゎ、わー」

 

 周りのジムトレーナーさんたちが皆拍手してるので、私もそれに乗っかって拍手しておく。

 「詰めポケモンバトル」、懐かしい単語だ。スクールに通っていた時代によく解いていた。

 

『これはポケモンたちの行動の一つ一つにかかる時間を”ターン”として捉え、理論的にポケモンたちのバトルを組み立てていく問題だ。

 よく学校受験なんかで問われるが、そう難しい問題は出さない。わからなかったらヒントも与えるし、気楽に挑んでくれ』

 

 ポケモンの特性やタイプ等々に関する知識、複雑な盤面を把握する理解力、勝利への道筋を見つける直感力。様々なトレーナーとしての資質が測れるということで、多くの学校はこの問題を受験者に課している。

 

 しかしこれも普段のバトルと一緒で、すぐに回答が浮かぶためスクール時代も苦戦したことはなかった。挑戦者ごとに問題を変えているようだが、特に悩むことはないだろう。

 

『それじゃあ百聞は一見に如かず、だな。まずは例題だ』

 

 彼の言葉と共に、目の前のモニターに文字が表示された。

 ジムトレーナーさんたちから紙とペンを受け取り、問題を眺める。

 


【クリア条件】

・シングルバトルに勝利(敵味方同時全滅は引き分けとする)

 

【相手ポケモン】

・コジョンド

 とくせい:せいしんりょく

 もちもの:なし

 わざ:インファイト

 

【手持ちポケモン】

・ココドラ

 とくせい:がんじょう

 もちもの:なし

 わざ:たいあたり・すなあらし・がむしゃら

 

・バンギラス

 とくせい:すなおこし

 もちもの:なし

 わざ:じしん

 

【状況】

・コジョンドとココドラが対面している

・全てのポケモンのHPは満タン、能力変化もなし

・ダイマックスは使用不可

 

【備考】

・バトル場は理想状態(急所ランクが1以下のとき、原則わざは急所に当たらない。また、ダメージは常に最大の値を取る。50%以上の確率で起こる事象は必ず起き、50%未満の確率でしか起こらない事象は必ず起こらない)とする

 

・ダメージ計算(最大HP比のダメージ)

 コジョンド(インファイト)→バンギラス:148.0% 確定1発

 コジョンド(インファイト)→ココドラ:77933.3% 確定1発

 バンギラス(じしん)→コジョンド:113.5% 確定1発

 ココドラ(たいあたり)→コジョンド:1.4% 確定71発

 

・すばやさは高い順にコジョンド、バンギラス、ココドラである


 

 

 ココドラ問題か。定番の一つである。特に悩むこともなく、回答を紙に書いて提出する。

 

「はい、ユウリ選手の回答は……『1ターン目:バンギラスに交代、2ターン目:がむしゃら』……正解です!」

 

 パンパカパーン、という気の抜けた音と共に正解を告げられる。

 この問題はそう難しくはない。バンギラスが縛られているため、交代して天候を「すなあらし」にするだけして倒れてもらい、残ったココドラはインファイトを「がんじょう」で耐えつつ「がむしゃら」で相手の体力を削れば、相手のコジョンドはすなあらしに襲われて勝手に倒れるという話だ。別解としてはがむしゃらと交代の順を逆にしても構わない。

 

『流石だな、例題とはいえここまで早く解いたのはお前が初めてだぞ』

ぁ、ありがとうございます

 

 自分にとっては何でもないことだが、彼に褒められるとめちゃくちゃ嬉しい。

 思わず笑みを溢しつつ、次の問題を待つ。

 

『それじゃあ本番だ。さあ解いてみろ!』

 

 


【クリア条件】

・ダブルバトルに勝利(相手がどのような行動をしたとしても勝利できる手筋を答えよ)

 

【相手ポケモン】

・カポエラー

 とくせい:ふくつのこころ

 もちもの:こだわりスカーフ

 わざ:ファストガード・ワイドガード

 

・レパルダス

 とくせい:かるわざ

 もちもの:きあいのタスキ

 わざ:あくのはどう・わるだくみ

 

 

【手持ちポケモン】

・ライチュウ(アローラのすがた)

 とくせい:サーフテール

 もちもの:なし

 わざ:ねこだまし・わるだくみ・きあいだま・ほうでん

 

・エモンガ

 とくせい:でんきエンジン

 もちもの:いのちのたま

 わざ:エレキフィールド・こうそくいどう・ほっぺすりすり・とんぼがえり

 

【状況】

・ダブルバトルで、お互いの手持ちが2匹ずつ対面している

・全てのポケモンはHP満タン

・相手ポケモンのレパルダスは既に一度わるだくみを使用しており、とくこうが2段階上昇している。その他のポケモンの能力変化はなし

・ライチュウのねこだましは使用可能

・ダイマックスは使用不可

 

【備考】

・バトル場は理想状態とする

 

・ダメージ計算(最大HP比のダメージ)

 レパルダス(とくこう↑↑あくのはどう)→エモンガ:142.7% 確定1発

 レパルダス(とくこう↑↑あくのはどう)→ライチュウ:220.8% 確定1発

 ライチュウ(ほうでん)→レパルダス:60.0% 確定2発

 ライチュウ(ほうでん)→カポエラー:36.5% 確定3発

 ライチュウ(きあいだま)→レパルダス:160.0% 確定1発

 ライチュウ(きあいだま)→カポエラー:48.4% 確定3発

 ライチュウ(ねこだまし)→レパルダス:17.9% 確定6発

 ライチュウ(ねこだまし)→カポエラー:12.7% 確定9発

 エモンガ(とんぼがえり)→レパルダス:105.7% 確定1発

 エモンガ(とんぼがえり)→カポエラー:18.3% 確定6発

 エモンガ(ほっぺすりすり)→レパルダス:22.9% 確定5発

 エモンガ(ほっぺすりすり)→カポエラー:16.7% 確定6発

 

・すばやさは高い順にエモンガ(すばやさ↑↑↑)、ライチュウ(サーフテール)、レパルダス(かるわざ)、エモンガ(すばやさ↑↑)、エモンガ(すばやさ↑)、カポエラー(スカーフ)、ライチュウ、レパルダス、エモンガである


 

ぁ、はい。解けました

『早いな!?』

 

 




 詰めポケモンバトルは自作問題なので、そんなにクオリティの高いモンじゃないです。
 手持ちのポケモンは正解を紛れさせるために不必要なわざも習得しています。
 問題に不備があれば、教えていただけると嬉しいです。
 結構問題制作に疲れたので、多分もう詰めバトルはやりません。
 解いてくださった方は、解答お待ちしています。

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