ガラルの悪のジムリーダー   作:アタランテは一臨が至高

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大変遅れてすいませんでした!
ゆるして


withダンデ

「…………ですから! もうすぐファイナルトーナメントもありますし、少しくらい予定を延期したって構わないでしょう!?」

「いやあ、ダメだね。もっとも、キミがやってくれないというのならば『彼』に頼ることになってしまうかもしれないが……」

「――っ!」

 

 コツコツ、と音を立てながらマクロコスモス本社の廊下を歩いていれば、最近はもう聞き飽きた言い争いの様子が聞こえる。

 片方はこの会社のトップオブトップ、ローズ委員長。もう片方は就任以来未だ無敗のガラルチャンプ、ダンデだ。

 

 話の内容は恐らくメインプランに関することだろう。

 ファイナルトーナメントの開催も近く、協力を渋るダンデをローズ委員長が説得している形だ。

 部屋にも入らず廊下で立ったまま討論を続けている辺り、お互いに相当熱を上げているらしい。巻き込まれないように道を迂回して通るルートを考える。

 

「ローズ様、そろそろ会議のご予定が……」

「ああ、もうそんな時間ですか。それではこの件についてはまた今度話し合いましょう、ダンデくん」

「……ええ。すみません、声を荒げてしまって。少し熱くなっていました」

「いえ、こちらこそ。それではまた」

 

 頭の中で無駄に広い本社の地図を広げていると、いつの間にか二人の話は終わったようでローズとオリーヴ、それから少し遅れてダンデがやって来た。

 

「おや、カイくんこんにちは。まだジムチャレンジの期間も残っているでしょう。これからも頑張ってくださいね」

 

 何事も無かったかのように一声かけて去っていくローズ委員長。

 それに対し、後からやって来たチャンピオン・ダンデは難しい顔をして俺の前で立ち尽くした。

 

「…………」

「どうしたよ、ダンデ」

「いや、その……何でもない」

 

 彼らしくなく、ひどく悩んだ表情で黙り込んでいる。

 普段なら話の一つも聞いてやるところだが、あいにく今は忙しい。どけよと暗に伝えれば、ようやく彼は歩き出した。

 

「…………やっぱり、すまないカイ! 少し時間はあるだろうか!」

「ああ?」

 

 やっと行ったかと思ってこちらも歩き出すと、後ろからダンデの声が聞こえる。どうも俺に用事があるらしい。

 

「いや、忙しいけど」

「少しだけでいい。聞きたいことがあるんだ」

 

 時計を見れば、短針は数字の11を指している。少しばかり頭の中で今日のスケジュールを整理したあと、全く譲る気のなさそうなダンデの顔を見て溜息を吐く。

 

「……飯の間だけな」

「そうか! ありがとう!」

 

 今からやろうと思っていたことは特段緊急性のあることじゃない。結局折れた俺は、少し早めの昼食をとることにした。

 

 

◆◆◆

 

 ダンデが社員ではないためマクロコスモスの社員食堂はスルーし、外に出て少し歩くと見つかったレストランに入る。

 お互いこの辺りの街並みには詳しくなく、当然常連の店などないのだが、俺たち二人が入店した途端に辺りは騒めき出した。

 

 まあ、それも当然だろう。現在ガラルで一番強い男と、自分で言うのもなんだが暫定4番目に強い奴が目の前に現れたのだから。

 しかしダンデがしー、と少し笑いながら口元に人差し指を当てれば、その喧騒はすぐに静まる。流石のカリスマと言ったところか。

 

 嫌いなわけじゃないが面倒なファンサービスをしなくていいことに少しホッとしつつ席に座る。ダンデも同じ考えなのか、余り人目につかないような席を選んでいた。

 

 メニューを開き、適当に目についたものたちを吟味する。早めの昼食ということもあって、あまり腹は減っていない。なるべく軽めのものを頼むことにしよう。

 

「決めたか?」

「ああ、俺はもう大丈夫だ」

 

 店員を呼び、注文を行う。

 思えばダンデと食事を共にするのはこれが初めてだ。一体どんな料理が好みなんだろうか。少し興味を持ってダンデの注文を聞いてみる。

 

「じゃあまず、このパスタとピザを。ピザのサイズはLで。あと……」

 

 いきなり重そうな注文をするダンデに、思わず顔がひきつる。

 しかもまだ続くというのだから驚きだ。昼食のボリュームじゃないだろう。

 

「――それから、辛口カレー大盛りにシチュー、ついでにサラダもつけて……」

「……お前、よくそんなに食えんのな」

 

 馬鹿みたいに注文しまくるダンデを見て、軽く恐怖を抱く。

 以前どこかでミカンの大食いの様子を見た記憶があるが、それに次ぐ勢いだ。

 確かヤローも結構食べる方だった気がする。強い奴は大食いという傾向でもあるのだろうか。今度キバナも飯に誘ってみよう。

 

「…………」

「…………」

 

 長い注文を終えれば、少しばかりの沈黙が訪れる。

 話を切り出すタイミングを窺っているようだ。俺からすれば、さっさとして欲しいものだが。

 

「………その、カイ。ローズ委員長の計画について、なんだが」

 

 苦々しそうに話し始めるダンデ。

 やはり、というかそれしか心当たりは無かったのだが、メインプランのことである。

 

「何だよ。言っとくけど、俺は計画に関する権限はそんなに持ってないぜ。幹部とは言うものの、あの会社は実質ローズ委員長のワンマンだからな」

「ああいや、計画をやめろとか、そういう話をするつもりはないんだ。確かに俺はどちらかと言えば反対の立場だが、その話は委員長に直接しに行くよ。今日はそれより、カイ……君について聞きたいことがあるんだ」

 

 真剣な表情で話をするダンデ。一体何を俺に聞きたいのだろうか。

 

「聞きたいことってなんだ?」

「ああ、その……俺も全てを把握している訳じゃないんだが、ローズ委員長の話を聞く限りだと、その、なんだ……あの計画が、君にとって余り良くないもののように思えるんだ」

 

 言葉を選ぶように、途切れ途切れになりながらも口を開くダンデ。

 そしてその内容は、意外なことにこちらを気遣うようなものだった。

 

「こういうことを言うと君は怒るかもしれないが、俺はガラルに生きる一人の大人として、そして何よりチャンピオンとして、君に限らずガラルの人々を守る義務があると思っている。

 仮に弱みや何かが握られていたりだとか、様々な事情があるならば――」

 

「失礼します。ご注文の料理、お待たせいたしました」

 

 ダンデの言葉は料理を持ってやって来たウェイトレスに遮られる。

 そしてそれを切っ掛けに、俺も口を開くことにした。

 

「まあ、食えよダンデ。予定変更だ、飯後も話に付き合ってやる」

 

 

◆◆◆

 

 

 バトルコート。

 この世界においては、()のコンビニと同じくらいの間隔で分布しているお手軽な娯楽施設だ。屋外の床にコートだけ描かれた小規模なものから、ドーム一つ丸ごと試合場にした大規模なものまで多くのものが存在する。運営元も公共団体から個人経営まで様々だ。

 

 そんなよくある場所の一つ、小規模ながら充実した施設が売りの顔馴染みの店へダンデを連れて入り込む。

 

「良い店だ。でんきとエスパーへの対策が両立しているコートは中々ない」

「会社から近いし、特にプライバシー周りがちゃんとしてるからな。結構お気に入りなんだよ」

 

 余り人前でするような話でもないと思い、ここに連れてきた。

 ここのコートに観客席は存在せず、どちらかと言えば試合用のコートと言うよりかはトレーニング用のコートである。声が聞こえるような範囲には俺とダンデしか存在しない。

 

「…………なァ、ダンデ。俺が弱みを握られてるとか言ったよな」

「ああ。もしそうならば、という話だったが」

 

 コートの中央、二人しか存在しない空間で先ほどの話を掘り返す。

 何となく相手の言いたいことはわかった。イメージ戦略の一環とかで今も着ているマントが風でなびくのを眺めつつ、それへの回答を考える。

 

「まあ、あながち間違ってねえんだな、それ。弱みっつーか、なんつーか、契約を履行するまではどうしようもできないっていうか、自分で自分を縛ってるっていうか……」

 

 自分の状況を冷静に把握してみると、俺が今取っている行動はかなり間違っているように思える。ただ、それ以外の選択肢を自分で勝手に消してるだけで。

 

「うん、まあ、俺も出来ることなら計画のことなんか忘れて暢気にジムリーダーやってたいんだ。や、ジムリーダーも辞めていいってなったら辞めるかもな。旅に行ってみてえ。ポケモンと一緒に旅に出るのは、誰もが一度は夢に見ることなんだ」

 

 俺の言葉にダンデは怪訝そうな表情を浮かべるも、話を最後まで聞くつもりのようで口を挟まずに黙っている。ただの身の上話だし、そんなに真剣に聞かなくてもいいんだけどな。

 

「ただまあ、どうしても恐怖っていうのが拭えないんだ。いつ昔に戻ってもおかしくねえ、いつあの時間が再来してもおかしくないんじゃないか、って」

 

 少しばかり昔を思い出して身震いする。

 もしも眠り続けているという()()()を見たとして、今の俺はどう思うんだろうか。想像の上では到底恐怖を克服できそうにはない。

 

「逃げ出して、本当に遠くへ来て、それでもう力尽きてたあの時。あの時に、ローズ委員長と契約を交わした。プランが成功し、ガラルに栄光のある限り俺の自由は保障される。俺はあの恐怖から解放される」

 

 頭の中の回想は進んでいく。

 かつての面影は今とそう大差はないが、皺の一本二本は増えただろうか。思えば彼とも中々の付き合いである。

 

「恩義もあるのかもしんねえな。あの頃は色々と世話になった。世界のどこにも存在しない人間だった俺に戸籍とか今の地位があるのもあの人のおかげだ。他の庇護下に入ることも考えたが、契約と財団で植えつけられた猜疑心がそれを阻んだ。この猜疑心っていうのが厄介でさ。国際警察とか、普通なら無条件で信頼できるようなとこも怪しく見えちまうんだ。委員長との出会いも、あの時じゃなかったら結果も全然違ってたかもしれない」

 

 ダラダラとした俺の独白に、要領を得ないといった様子のダンデ。

 まあでも、聞かせておいてなんだが俺はスッキリした。やはり心情を言葉にして吐き出すというのは大切な作業である。

 

「……つまり、その、なんだ。俺では頼りにならない……ということか?」

 

 苦々しい顔で結論を導き出すダンデ。しかし、その結論は些か早急である。それを確かめるためにここへ呼んだのだから。

 

「んー、バトルしようぜ」

「え?」

「や、目と目が合ったらバトルだろ」

 

 唐突な俺の発言に目を丸くするダンデ。今日は珍しい姿がよく見れるものだ。

 

「この世界はさ、ポケモンバトルで大概何とかなるんだよ。いや、何とかなんないことも多いけど」

「あ、ああ」

「だからさ、バトル。1VS1。お前が勝ったら……まあ、そん時は色々考え直してみるわ」

「……!」

 

 今度は俺の言葉で途端に真剣な目つきになり、マントを脱ぎ捨てる。戦闘時スタイルだ。こうなった時のダンデは怖い。まるで勝てる気がしなくなる。

 そしてだからこそ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「なんでかなあ。国際警察とかにはこんなこと言う気になんなかったのに。やっぱチャンピオンはオーラが違えのかな。もしかしたら権力とかじゃなしに俺を守るだけの力があるのかも、って思わされちまうのかな」

 

 青く輝くボールを構えつつ、コートの反対の端に立つ。

 今日はやけに独り言を口にしてしまう気がする。それも、他人にはあまり意味が通じないタイプの。

 

「…………」

「…………」

 

 両者試合開始のラインに立てば、自ずと相手と呼吸を合わせ始める。

 審判はいない。合図もない。それでも、ボールを振りかぶるのは同時だった。

 

 

「――リザードン! 君に決めた!」

 

「――捻じ伏せろ、PARASITE

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

「――まあ、逆にあんだけの不利対面でよくあそこまで善戦したよ。流石はチャンプってとこか。オリーヴもそう思わねえ? 10年無敗はやっぱ伊達じゃねえわ」

「……それで? 相手がチャンプといえど、このメインプランを目前とした忙しさの中たかが私闘の結果にそこまでの興味はないのですが」

「うん、や、まあ、要するにさ、ローズ委員長に伝えといて欲しいわけよ。脅威なのはやっぱり一人だけでした、って」

「……そうですか。それは中々、良い報せに聞こえますね。契約の期間は後僅かです。チャンプも駄目だった以上、今更我々を裏切る気もないでしょう。これからもより一層の励みを期待していますよ」

「ん、おっけ。……でもさぁ。やっぱ改めて考えると辛いよな。当然だけど、俺を守れるのは俺より強い奴だけ、ってのは」

「知りませんよ。でも、少なくともローズ委員長はアナタよりずっと大きい存在です」

「あー、うん。知ってるわ」

 





本編もいよいよ終わりが近づいてきましたが、本編終了後の番外編は欲しいですか?(現在の構想:その後のガラル、他地方、USUM編byセレビィ、BW2編byセレビィ、各作品編byセレビィ、脈絡のない掲示板回etc9)

  • ほしい
  • いらない
  • 本編終了後と言わず今すぐ書け

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