ガラルの悪のジムリーダー   作:アタランテは一臨が至高

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今話は主人公の登場シーンも少なく、原作イベントを進めるだけになってしまっています。
早く最終決戦を描きたい…。

ファイナルトーナメント決勝、ユウリVSキバナから始まります。


withローズ

 スタジアムの熱気。それは、試合がクライマックスを迎えることで更なる高まりを見せていた。

 自然、その中心にいる選手たちの口角も上がってくる。ファイナルトーナメント決勝まで勝ち抜いてきたチャレンジャー・ユウリに相対するジムリーダー・キバナは、今まさに己の相棒たるキョダイマックスジュラルドンに全てを懸け乾坤一擲の大勝負に出ようとしていた。

 

「――ハハッ、流石だぜユウリ! まさかこのキバナ様をここまで追い詰めるとはなァ! だが、まだまだここから――」

 

 

「”追い詰めた”? 何を言っているんですか、キバナさん。既に勝負は終わっていますよ」

 

 

「――な、に?」

 

 ユウリの言葉と同時、赤い閃光が放たれながらジュラルドンのキョダイマックスが解除される。

 キバナのジュラルドンは、とうの昔に限界を迎えていた。その限界突破の源であった彼らの絆と意地の力が、先の一撃でとうとう切れてしまったのである。

 

 倒れ伏す鋼竜。それをただ茫然と見つめるキバナの姿は、彼のファンからすれば涙を誘いすらするものであった。

 

『なんと! なんとなんとなんとォォォーッ! ユウリ選手のエースバーンの一撃が、キバナ選手のジュラルドンにクリイィィーンヒットォォォ! ジュラルドン立ち上がれない! 審判の声が響き渡る! 優勝ッ! ユウリ選手、優勝です! 未だ幼きチャレンジャーが成し遂げた偉業に、会場は沸き上がっております!

 ビート選手の乱入、カイ選手の不在など波乱の中始まったこのファイナルトーナメントですが、まさかまさかの結果です! 最強のジムリーダーキバナが敗れ! 勝ち上がったのは! 期待の新星チャレンジャー・ユウリッ! 会場はッ! 会場は歓声に包まれております! この選手ならば! このかつてのチャンプを思わせるような勝ちっぷりを示した少女ならば! 無敵のチャンプ! 十年間無敗の男ダンデに! 勝てるのではないかと! その溢れんばかりの期待で! 叫ばずにはいられないのです!

 強すぎるのです! 強すぎるのですッ! 誰もが期待しております! 誰もが魅了されております! その余りの強さに! その余りの底知れなさに! 心奪われずにはいられません! ガラル最強を決める戦いは! もうすぐそこまで迫っております!!!』

 

「戻っておいで、エースバーン」

 

 鼓膜が破けるかと思うくらいにうるさい歓声の中、勝利の雄叫びを上げているエースバーンのダイマックスを解除してボールに戻す。

 ファイナルトーナメント優勝で()()なのだから、チャンピオンに勝った時は一体どうなるのだろうか。耳栓の購入を考えておく。

 

 スタジアムの熱狂も未だ冷めず、項垂れるキバナさんと握手をして観客席に一度手を振ったらすぐに控室に向かって歩き出す。この後はチャンピオンマッチなのだ。コンディションを整えなければいけない。

 

 回復のためポケモンたちをリーグ委員に預け、椅子に座って一人になればようやく落ち着ける時間がやって来た。

 目を閉じ、体を休ませていれば思い浮かぶのは、昨日のローズタワーでの出来事である。

 

 

 ――そうか。じゃあ、楽しみにしてるぜ

 

 

 300mの上空から身を投げる彼の姿を思い出す度に全身が震え上がる。

 最も近くにいたダンデさん曰く落ちる途中で姿が消えたと言うから、「テレポート」か何かで移動したのだろう。しかしファイナルトーナメントの開会式に姿を現さなかった時はもしかするのではと気が気でなかった。

 ローズ委員長の言では体調などに問題はないらしいが、それならば何故休んだのだろう? 対戦表では彼の1回戦の相手はサイトウ選手であり、タイプ相性的に敗色濃厚なのは認めるがだからといって棄権するような人物じゃないことはわかっている。

 

「……やっぱり、最近起こってる事件と何か関係あるのかな」

 

 パワースポットで頻発するダイマックスポケモンの暴走に、昨夜のローズタワーでのダンデさんとローズ委員長の会話。マクロコスモスという会社のことを怪しんでしまうのも致し方ないだろう。

 

「…………うーん、わっかんない!」

 

 普段からバトル以外で考え事をしない頭はあっという間に限界を迎える。今はチャンピオン戦に備えるべきだろう。難しいことを考えるのはそれからだ。チャンピオンになりさえすれば、ジムリーダーは立場として私の下につく。そうなってしまえばこちらのものだ。色々複雑な事情が絡んでいても、どうにでもなるだろう。

 

 考えを放棄した私は脳内でチャンピオン・ダンデとの戦いをイメージする。

 彼は流石に他の人たちと同じようにはいかない。きっと恐らく、「四匹目」まで使わされることになるだろう。

 

 それにしても、この旅でパーティが6匹埋まらなかったのは少し想定外だった。何というか、いまいち「当てはまる」ポケモンが見つからないのである。5、6匹目のポジションには()()()()()()()()()()、とでも言うような感覚があるのだ。

 

「まあ、とりあえずクッション役としてそれなりに鍛えた子たちを用意してるけど……多分、使わないだろうなあ」

 

 というか、使えない、という方が正しいか。

 チャンピオンの前に生半可なポケモンを出してしまえば、そこから彼の無双劇の準備が始まってしまう。相手のポケモンの能力上昇の切っ掛けを作ってしまうようなポケモンのことを起点、なんて言ったりするがその起点になってしまう可能性が非常に高い。いない方がマシ、というのは幾らなんでも言い過ぎだが、4匹だけで戦った方が勝利への道筋がより太く見える。

 

「……うん、そうだね。あの子を使いさえすれば……『終わり方』も見えた。懸念要素も、トレーナーの方の精神面に何か変化があったっぽいことぐらいだけど……()()()()()()()()()()()()

 

 近年は根性論を否定する風潮が強いが、気持ちというのは勝負において間違いなく重要なファクターである。従って、そこに変化が起きたのならば実力の方にも変化が出てしかるべきと言えよう。先の言葉は何処か覚悟を決めた様子を見せるチャンピオンに抱く感想としては不適切かもしれない。

 

 だが、()()()()()()()。私は負けない。私は「彼」以外の誰にも負けられない。

 「彼」を叩き潰すのは私だし、「彼」に叩き潰されるのも私だ。「彼」の座らない王座ならば、私が貰っても構わないだろう。

 

 現チャンピオンが就任してからのこの10年をダンデ時代と呼ぶ人もいるが、時代というのは進んでいくものだ。そろそろ、その「彼」を好き勝手できる地位を譲ってもらう。

 

「ユウリ選手! ポケモンの回復が完了しました。準備が出来次第、試合を開始しようと思いますが……」

「はい、構いません。最後にポケモンたちと作戦のすり合わせをしたらすぐに向かいます」

 

 何はともあれ、その時はやって来た。

 「彼」に手が届くまで、ほんの僅かである。チャンピオン・ダンデは私の障害になり得ない。

 

「じゃあ、みんな……いくよ」

 

 王座は既に、私の手にある。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 他より遥かに数の多いシュートスタジアムの観客席。

 しかし容易に埋まったそれからの声で、コートは一時も静まりを見せない。

 

 そんなコートの中心、ただ静かに一人佇むはチャンピオン・ダンデ。

 対しゲートを潜り抜け、登場と同時により一層観客を沸かせるはチャレンジャー・ユウリ。

 

 今も昔も、王者が挑戦者を迎え撃つという構図は変わらない。

 唯一、この場において不可解な点があるとすれば――それは、挑戦者の顔に恐怖の色が全く見られないことであった。

 

「――ようこそ、チャレンジャー。この場にキバナ以外を前にして立つのは随分と久々だ。推薦状を渡したときから既にもしやと思ってはいたが、本当にここまでやって来てくれるとはな。俺も、ポケモンたちも、これからの戦いを楽しみにして全身が震えている!」

 

「――そうですか。それはそれは……きっと、途中から恐怖の震えに変わってますよ」

 

 ユウリの挑発にも、白い歯を見せ笑って返すダンデ。

 ガンマンのように背を向かい合わせ、それぞれの定位置へ着く。

 

 一瞬訪れる静寂。

 先ほどまで会場外にすら届くほどの音量を出していた観客たちですら、その一瞬に飲み込まれる。

 

 しかしその静寂は嵐の前の静けさ。王者と挑戦者は、今か今かと背合わせの敵に襲い掛かる瞬間を待つ。

 

 そして審判の合図で振り返り、いざ互いの喉を食い破らんとしたその時。

 一つの声が、シュートスタジアムを支配した。

 

 

 

ハロー! ダンデくんにユウリくん!

 

 ガラルの未来を守るため ブラックナイトをはじめちゃうよ!

 

 ただブラックナイトのエネルギーが溢れ出して危ないんだよね……!

 

 ダンデくんが話を聞いていたら こんなことにはならなかったのにね!

 

 

 

 同時、コートの中心を貫きながら顕現する光の柱。

 見慣れた色のそれはダイマックスの源、ガラル粒子の暴走だと知識を持つものに気付かせるが、彼らは更にモニターに映る映像を見て愕然とすることとなる。

 

 ローズ委員長の映るモニター。その映像が切り替われば、ガラル各地のパワースポット全てで同現象が起きている様子を映し出していた。

 

「な……!」

 

 絶句する観客。その間もモニターは各地の異常を映し続け、遂にはナックルシティを黒い渦が覆い始めた。

 そんな中、ダンデとユウリはいち早く状況を理解して動き出す。

 

「ユウリくん! すまない、戦いはまた今度になりそうだ!」

「はい、わかってます。私も今すぐナックルシティに向かって――」

「いや、大丈夫だ。ローズ委員長の暴走の責は恐らく俺にある……。君はここで待っていてくれ! 危険かもしれないから、なるべくパワースポットからは距離を取るんだ!」

 

 助けを申し出るユウリを拒み、一人ナックルシティへ向かうダンデ。そこには、チャンピオンとしての、そして何よりガラルを生きる大人としての責任感があった。

 

「ユウリ! 今の、一体なんだったんだ……? 俺もう訳がわかんないぞ!

 とにかく、アニキの助けに行かなくっちゃだ! ローズ委員長が言ってたブラックナイトって、どっかで聞いたことがあったよな。確かソニアが……」

「……! それ、それだよ! きっと、『まどろみの森』に何かがある!」

 

 直観的にこのままでは不味いことを悟っていたユウリは、突然の事態に応援席から駆け寄ってきたホップの言葉で「正解」を手繰り寄せる。それは彼女の資質であり、彼女を勝利に導いてきた力であった。

 

 そして彼らは、向かった先で二つの伝説の証を手に入れることとなる。

 それはガラルを襲う黒夜に対する、確かな希望であった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「――今頃、まどろみの森を出たくらいかなあ」

「……? なんのことでしょうか、カイくん。今は少々興奮していまして、あまり頭が回っていないのですよ」

 

 俺の言葉に反応したローズ委員長に、何でもないと手を振って返す。

 現在俺がいるのはナックルシティのエネルギープラント。ブラックナイト、即ちムゲンダイナは既に目覚め、ダンデがその身を尽くして制御を試みている。

 

 これまた隣でダンデの勝利を心待ちにしているローズ委員長は、温め続けていた計画の実行で少々気分が高揚しているようだ。

 結果も知らずに、呑気なことである。

 

「それにしても、本当に皮肉に思いませんか?」

「……何をだ?」

「ブラックナイト――いえ、ムゲンダイナのことです。彼は一体どこから来て、そしてこの地で眠るに至ったのか。神話の伝承では間違いなく彼の竜は外来の種であり、二匹の英雄に撃退されたと伝えられています。しかし、今では彼を源とするガラル粒子はガラル地方中に満ちており、二匹の英雄の伝承は捻じ曲げられ人々に忘れ去られている。

 ――これではまるで、ムゲンダイナの方がガラルの王ではありませんか」

 

 珍しくもローズ委員長にしてはわかりやすく、そして意味のない話だ。

 適当に気のない返事をするも、彼の話は続いていた。

 

「そしてこれからはそれが真実となっていくでしょう。ダンデくんの制御下に置かれたムゲンダイナの生体エネルギー、まさしく無限大であるそのエネルギーによってガラルは更なる発展を遂げます! 輝きの尽きぬ町々! いつ何時ガラルのどこに目を向けても、眠らないそれが見えることでしょう!」

 

 演説のように腕を振り上げて語るローズ委員長。その目には、確かにガラルに対する愛と狂気が共存していた。

 

「――ですから。その計画を邪魔しようとするキミには、少々ご退場願いたいのですよ」

 

 突如語気を変えるローズ委員長。

 その視線の先には、息を切らしながらも走って来たホップが佇んでいた。

 

「俺には、ローズさんの言ってることがイマイチわかんないけど……オリーヴさんに、頼まれたんだ! ローズさんも助けて、アニキも助ける! そこを、通させてもらうぜ!」

 

 モンスターボールを構え、ローズ委員長に対し啖呵を切るホップ。

 それに対しローズ委員長は、ひどく気味の悪い笑みを浮かべながらボールを手に取る。

 

「ポケモン勝負は久しぶりなんですがね……ま、相手してあげましょう」

 

 その言葉を切っ掛けに、二人は互いに鍛え上げられたポケモンたちを繰り出す。

 そんな彼らのやり取りを俺は、ひどくつまらなそうに眺めていたことだろう。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「それ、どかーんと一発! ダイオウドウ、『キョダイコウジン』です」

「――ッ! ゴリランダー!」

 

「…………勝負あり、だな」

 

 ローズ委員長の有名な経歴の一つに、かつてのジムチャレンジにおける準優勝者というものがある。

 無論、実力もそれに見合うものを持つ。加えて積み重ねてきた年月の差もあれば、同じ準優勝者同士であれど片方に軍配が上がるのも当然の摂理であった。

 

「ホップ! やっと追いついた……って、ローズさんにカイさん!? しかもバトルしてるし……いやほんとにどういう状況?」

 

 決着のついた戦場に遅れて現れたかと思えばすぐに顔を引っ込めてボソボソと何かを呟くユウリ。相変わらずどうかしている。

 

「おい、何やってんだ? 用があったんだろ」

「わ、ひゃ、ひゃいっ!」

 

 俺が声をかけると、彼女は奇声を上げながら慌てた様子で飛び出してくる。

 相変わらず俺の前に立つときはどこか顔が赤い。彼女らしくないが、緊張でもしているのだろうか。

 

「すまねえ、ユウリ……! 負けちまった俺の代わりに、ローズさんを止めてくれ!」

「え? あ、うん、任せて!……ローズさんってトレーナーだったんだ……知らなかった……

 

 何事かを呟きながら、ポケモンを繰り出すユウリ。作戦でも吹き込んだのだろうか。ローズ委員長も、やれやれといった様子でもう一度前に出る。

 

「連戦ですか……この年では少々厳しいものがありますね。

 ですが、これもガラルのため。わかってくれないというのならば、こちらも実力を以てお答えしましょう」

 

 再度ボールを構え、お得意のはがねタイプを繰り出すローズ委員長。

 それに対しユウリは一瞬目を細めながらも、淡々と自身のポケモンに指示を下すのであった。

 

「おい、ホップ。お前は……ダンデの元に行くんだよな」

「……? ああ、そうだぞ! アニキを助けに行くんだ!」

 

 一方、その戦いを眺めるだけの俺は同じく眺めているホップに今後の行動について確認をする。

 そして返ってきた回答に、俺は息を一つ吐いて口を開く。

 

「それじゃあ……アイツに伝えといてくれ。『たとえ俺がどうなっても、お前のせいじゃない』ってな」

 

 俺の言葉に不思議そうな表情を浮かべながらも頷いたホップを確認すると、ローズ委員長とユウリのバトルを後目にエネルギープラントを去る。

 あの二人のバトルは既に大勢が決していた。ホップとの戦いで消耗していたローズ委員長では、ユウリの2匹目すら引きずり出せずに負けるだろう。直に決着はつく。それならば、そろそろ俺も準備を始めなければいけないというものだ。

 

 終わりの時は、近づいている。






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