ローズ委員長を打ち破り、ホップと共にダンデさんの元へ向かったその先。
そこでは既に、伝説と最強の戦いは佳境を迎えていた。
「リザードンッ! 決めろ、炎の究極技! 『ブラストバーン』だッ!」
「BaGuaaaaaa!!!!」
立ち昇る爆炎。それはムゲンダイナと呼ばれていた竜を焼き焦がし、果てには建物の一部を融解させる程の熱量を誇っていた。
「アニキッ!」
「おお、ホップにユウリくん! 二人とも安心してくれ。相手がガラル粒子の源だからか、ダイマックス出来ずに手こずってはいるものの俺は負けない! チャンピオンタイムもクライマックスだぜ! ムゲンダイナ、捕獲する!」
リザードン以外のポケモンが負わせた傷もあるのだろう、火傷以外にも大小様々な傷を作ったムゲンダイナは確かに弱っているように見えた。ボールを投げたダンデの判断は、誰の目から見ても正しいように思える。
――しかし。ユウリは直感でこの状況が不味いことを悟った。
すぐにボールに手をかけポケモンを繰り出そうとするも、バトルの形勢判断に優れたユウリの目と頭脳は既に間に合わないと一瞬で判断を下す。
そしてすぐに、ダンデも同じ判断に至る。
二人の前に躍り出るダンデとリザードン。
ボールの中に一度納まったかのように見えたムゲンダイナは、その無限大のエネルギーの解放と共に姿を再度現した。
「Aa――AAAAaaaaaaaa!!!!!!!!」
解放されたエネルギーの余波を直に喰らうダンデとリザードン。
最強であるはずのコンビは、伝説という暴威の一撃、僅か一撃で膝をついた。
「グ、クッ……!」
「Guaaa…………」
――庇われた。私たちの存在が、無敵のチャンプの邪魔をした。
何が起こったのか理解できないといった顔をしているホップとは対照的に、ユウリは正しく自分の現状を把握していた。
「――ッ、ク、ソ……! まだ、ここで、倒れる訳には……! 彼に、誓ったんだ……!」
「……Ba…ba…Guaa…aaaa……」
倒れ伏すチャンプたちに対し、段々と眠らせていた力を解放させつつあるムゲンダイナ。
その光景はまさしく、侵略者に対するガラルの敗北を意味していた。
「――エースバーン」
「Aa……Aaaa?」
ムゲンダイナは思考する。
目覚めてすぐにやって来た変な人間はちょこまかと鬱陶しかったものの排除した。後は自らの力でこの地を覆い、再度やって来るであろうあの二匹の犬めを今度こそ叩き潰してやる、と南――まどろみの森に体を向ければ、またもや一匹の人間が現れたではないか。
何だ、立つにしても我が前に立つのは不敬と言わざるを得ない。いち早く服従の意を告げにきたのだろうか。ならば、疾く頭を垂れよ。
と、礼儀知らずの人間に重圧を以てひれ伏せさせることにした、その時。
「『しねんのずつき』」
「――!!」
ユウリの指示と同時、エースバーンの変幻自在の動きがムゲンダイナに直撃を与える。
慌てて熱エネルギーを生み出し、火を吹いて追い払った時には既に5撃のクリーンヒットを喰らっていた。
「AAAaaaa――!!」
今度は兎風情めが我が覇道の邪魔をするか!
怒りに震えるムゲンダイナは体内に蓄積されたガラル粒子を活性化させ、後に「ダイマックスほう」と呼ばれる技を繰り出す。
精製される純粋なエネルギー。膨大なそれは光という形態を介して漏れ出し、ビームという形を以て放出される。
ガラル粒子を源とするエネルギーから成るそれはダイマックスポケモンに対する非常に大きな特攻性を持つが、それを除いてもただのポケモンには十分を超えて過剰過ぎる一撃であった。
「『アイアンヘッド』」
「――!!!!」
しかし、これまたユウリの一言があればエースバーンはそのビームの直撃を喰らいながらもムゲンダイナの体躯に一撃を入れる。
目覚めた矢先から現在のガラルにおける最強を立て続けに相手したムゲンダイナは、弱者であるはずの人間に良い様にされているという事態に混乱の極みに置かれていた。
「Aa――AAaaaa――AAAAAAAaaaaaa!!!!!!!!」
何だ、この生き物共は。自身より明らかに矮小な存在である筈なのに、どうして今の一撃を喰らって生きていられる――!
混乱の中にありながらも、本能的に現在の敵には火焔の一撃が有効であると判断したムゲンダイナは体内の機関の稼働率を上げ即座に莫大な熱エネルギーを生成する。
回避は最早間に合わなかろう。一撃を入れ、してやったりなどといった顔をしているこの兎めは体勢が崩れている。少しばかり本腰を入れて生み出してやったこの炎の一撃で焼き尽くせば、ようやくこの生き物も終了だ。
エースバーンの目前に迫った灼熱の炎は至近距離であるが故に、躱すことも能わず――
「――『ふいうち』」
その身を焼き焦がさんとした瞬間、敵の姿が掻き消える。
同時、背面に喰らう神速の七連撃。
「A――Aa――AAAAAAAAaaa――!!!!!!」
一体何度虚仮にしてくれるというのか。最早形振り構わぬといった様子で辺り一面を火の海と化すムゲンダイナに、エースバーンは一度距離を取る。そして、今度は後ろに立つ人間風情が口を開いた。
「――あぁ。君、良いね。中々賢そうなところが気に入ったよ。5匹目が埋まった」
「――――a?」
今、この人間は何と言った?
まさか、まさかではあるが――この我の、上に立つとでも?
「AaaaaAAAAaaaaaaaaAAAAAAAaaaaaaaaaaaa!!!!!!!!!」
最早我慢ならぬ。これまで行っていた手加減など捨て、至近距離にて確実に仕留める。
エネルギーを敢えて不純な形で精製することにより、あらゆる生命にとって有害と化したその一撃を眼前の兎に浴びせようと襲いかかる。
それは見るものが見れば「クロスポイズン」と呼ぶ技。さりとて珍しい技ではあらねど、使い手が伝説であれば全く話は異なる。先ほどまでの数倍のスピードで動いたムゲンダイナの一撃を、エースバーンは為す術もなく喰らってしまい――
「『カウンター』」
――その威力の全てを、倍にして跳ね返した。
◆◆◆
ようやくマトモな一撃が入ったな、とユウリはエースバーンの「カウンター」を喰らって悶え苦しむムゲンダイナを見つめて思う。
やはり伝説は伝説。どれだけ綺麗に弱点攻撃のクリーンヒットを打ち込もうが、まるで効いている様子を見せなかった。ダンデさんとのバトルで消耗してすらこれなのだから、一人で戦っていたらジリ貧だったかもしれない。
しかし、やはり有効打は敵の力を利用した一撃。伝説を倒すには伝説をぶつけるしかないというのは有名な話だが、ユウリの視点からしてもマトモにムゲンダイナとぶつかり合えそうなのは隠し続けていた四匹目くらいなものであった。エースバーンなどといった一般ポケモンで戦うには、先のようにムゲンダイナの力を逆に返すしかあるまい。
「A――A――aa――」
自身の目に見える中々に細い「勝ち筋」を辿っていると、急にムゲンダイナがエースバーンから距離を取り始めた。こちらの射程圏外からビームを撃ち続ける気だろうか。一応遠距離攻撃として「かえんボール」などがあるが、離れ過ぎるとそれも届かないし、そもそも接近戦を得意とするエースバーンには少々不味い展開だ。そう考え距離を詰める指示を出そうとしたが、すぐに自身の推測が間違っていることに気付く。
「――aaa――――AAAAAAA!!!!!」
体内の機関から膨大なエネルギーを放出したムゲンダイナは、まるでロケットのように天高く舞い上がる。
その姿はすぐに流星の如く光り輝くのみとなり、見失ったかと思えば突如空に
黒い空に生まれた大穴は黒より暗く、それでいて光り輝く矛盾した存在であった。
その孔よりこちらの世界を覗くはムゲンダイナ――その、ムゲンダイマックス個体とでも言うべきものである。
彼が有するは無限大のエネルギー。それも、先と違って出力上限を取り払われたまさしく
余りに膨大なエネルギーは、重力エネルギーという形で溢れ出るごく一部のそれだけで、地球の万有引力を優に狂わせる力を誇っていた。
敵の姿は巨大に過ぎる。
一本の触腕の形をとって顕現しているムゲンダイナは、余りに他と隔絶した存在であった。
「ユウリ! なんなんだよあれ……デカ過ぎるぞ! 俺も一緒にやる!」
そう言ってゴリランダーを繰り出すホップであったが、ユウリは首を横に振る。
「違う――かつてのガラルは、あのブラックナイトを打ち破った。伝説以外では勝ち目のないあの竜を、『二匹の英雄』が、二匹の伝説が打ち破った――!」
「そうか、この盾と剣! きっと、まどろみの森で出会ったあのポケモンが!」
二人はまどろみの森で手に入れた「くちたけん」と「くちたたて」を構える。
そしてその動作はまさに、二匹の英雄を呼び覚ますのに必要な儀式の全てであった。
瞬間、輝く赤と青の光。
ガラルの南端――まどろみの森に眠っていた二匹の王が、この地を襲う脅威を打ち破るために光の速度で飛来して来た。
「AAAAaaaaaa――!!!!!」
「URuOoooooo――!!!!!」
「URuWowoooo――!!!!!」
ムゲンダイナはかつて自らを封じた仇敵への怒りを。
ザシアンとザマゼンタは自らの統治するガラルへ侵略してきた狼藉者への怒りを。
それぞれがそれぞれの感情を込め、世界を震わせる声を上げる。
三者三様ながら、全て伝説。
存在するだけで発生する力場は、並のポケモンでは見るだけで平伏するほどのものであった。
やがてその重圧に圧倒されるのみであったユウリとホップの手から「くちたけん」と「くちたたて」が浮き上がる。それらは互いに合わさって蒼紅の光を発し、二匹の王に真なる姿をもたらした。
蒼き光を纏ったザシアンは「剣の王」に。
紅き光を纏ったザマゼンタは「盾の王」に。
ムゲンダイナの発生させていた力場は最早霧散した。
ここには、ただ同格の存在が三者存在するのみ。
――なれば。世界を滅ぼさんとする外敵に、世界を守らんとする英雄が負ける道理はない!
「エースバーンッ!」
「ゴリランダーッ!」
ムゲンダイナの重圧から解放された二人も、己の相棒たるポケモンを出してザシアンとザマゼンタに並び立つ。
ここに在る英雄の数は四。対し敵の数は一。ユウリの
「AA――AA――Aaaaaaa!!!!」
「URuWoooo――!!!!」
ムゲンダイナの放出するエネルギーは、英雄たちに襲い来る直前でザマゼンタの護りに阻まれる。
「URuOoooo――!!!!」
それに対しこちら側はザシアンがその剣を以てムゲンダイナに一撃を加える。
それはガラル粒子に対する特効性を持つ一撃であり、竜の触腕は目に見えてダメージを負っていった。
「AAAAAaaaaaa!!!!」
すると今度は、護りに阻まれた一撃より強力な一撃を放ってくるのが道理というものであろう。
これまた後に、「ムゲンダイビーム」と呼ばれるムゲンダイナ最強の一撃が数瞬の溜めを以て放たれた。
「ホップ、合わせて!」
「お、おう! 行くぞ、ゴリランダー!」
なれば、先よりも強い守りを展開すれば良いだけのこと。
ユウリのエースバーンとホップのゴリランダーはその種族特有の力を放って威力の減衰を試みる。
「Faineeeee!!!」
「Graaaaaa!!!」
二匹より放たれるは世界でも極僅かな伝承者たちに受け継がれる、「ほのおのちかい」と「くさのちかい」と呼ばれる技。
知識として持っていたのはこの場ではユウリのみであったが、二匹のポケモンは伝説のポケモンとの対面という極限状態に置かれたことで最善の一撃を本能で編み出した。
その技は、世にも珍しき「合体技」の一つ。
炎の誓いと草の誓いが合わさった時、燃料を得た炎は舞い上がって火の海を作り出す。
「URuWoooooooo――!!!!」
二匹の合体技で減衰されたムゲンダイナの最強の一撃は、盾の王によって防がれた。
対し、ムゲンダイナは「ムゲンダイビーム」の反動によって一時硬直する。
「URuOoooooo――!!!!!」
「URuWowoooo――!!!!!」
その隙を逃す二匹ではない。
「きょじゅうざん」と「きょじゅうだん」と呼ばれる二匹の最強の一撃が、無限を司る竜に襲い掛かる!
「「いっけええぇえええ!!」」
「AA――AA――AAaaaaaaaaaaa――!!!!!!!」
二筋の光が、ガラルの黒雲を貫いた。
◆◆◆
「――よし、捕獲完了っと」
ムゲンダイナの打倒に成功し、ボールを投げれば拍子抜けするほどに簡単に捕まった。
それほどあの一撃は堪えたのだろう。これからこの子を鍛えていくのが楽しみである。
ホップはムゲンダイナの一撃を喰らったダンデさんの様子を看ているようだ。幸い命に別状はなく、意識もはっきりしているようだが本当に申し訳ないことをした。最終的にガラルを救ったのでノーカンにはしてくれないだろうか。
それにしても、二匹の英雄は本当に強かった。出来ればパーティに入って欲しい。今もその佇まいはまさしく王者のもの。戦いが終わった後も未だに警戒を緩めず――緩めず? 一体、何に警戒をして――――
「あ、そうだアニキ! 今言うことじゃないかもしれないけど、カイさんから伝言だ!
『
「な……」
「――いやあ、お見事。流石は最強のチャレンジャーですね。ムゲンダイナがダンデくんを倒してしまった時は、本当に肝が冷えました。心から感謝します」
ホップが「彼」からの不穏な伝言を伝えると同時、現れたのは全ての元凶たるローズ委員長。
二匹の英雄は、彼が現れてからますます警戒を募らせている。
「……ローズ、委員長……。ムゲンダイナはユウリくんが捕獲しました。もう、その計画とやらは……」
「ああ、いいのですよ。無理に喋らないでくださいダンデくん。私の為すべきことは知っていますから。きちんと全てが終わった後はこの身を司法に委ねますとも」
痛む体を起こし、息も絶え絶えになりながら話すダンデさんを気遣うようなローズ委員長。
彼が自首するというのならば、全てが解決するのに――どうして、こんなに私の直感は警鐘を鳴らしている?
「ところで…………どうしてムゲンダイナは捕獲されたのに、まだ空の孔は閉じていないんだと思います?」
彼の言葉にバッと首を上げれば、空は未だ黒渦に覆われたまま、黒く光る孔がその存在を主張していた。
「ローズ委員長……! アナタ、一体何を……!」
「いえ、簡単なことですよダンデくん。メインプランを用意するなら、それが失敗した時のための
『彼』とはそういった契約を結んでいました。メインプランが成功すれば良し。万が一失敗した場合は――スペアプランの中核となってもらう、というね」
その言葉と同時、黒い空に満月が浮かぶ。
有り得ない。あんなにも分厚い黒渦が、どうしてその部分だけ払われているというのか。
そして、その月明かりの下――ムゲンダイナが生み出した大穴の手前に、「彼」はいた。
「――カイ!? 一体何を……」
「まあ、そりゃ勝つよなあ。主人公に、そのライバルに、伝説二匹。むしろムゲンダイナの方に同情するってもんだ」
「彼」は、かつて見た異形の一匹――黒い鎧の外見をした生物にまたがって、宙に浮いている。
その手には、一匹のポケモンらしき存在が青い繭の様な形をとって眠っていた。
「――だからさ。スペアプランだよ、スペアプラン。ここにはムゲンダイナが残した無限大のエネルギーがある。そのエネルギーを自由に扱えるのはムゲンダイナのみだが……当の本人は現在打倒されたばかり。即ち、このエネルギーの支配権は誰も有していない。ただそこに
彼がその手に持つ存在を空中に放れば、ぽわと淡く光って浮かんだまま静止する。
「ならさあ、そのエネルギーを媒介する存在がいれば――逆に、このガラル粒子の持つエネルギーたちはその存在の支配下に置かれることになるわけだ」
ズズ…と音がしたかと思えば、周囲のガラル粒子が「彼」の周りへ集まっていく。既に、彼の肉体はガラル粒子の色――即ち、赤色に光り始めていた。
「そして幸いなことにさあ、そういう存在がここにはいちゃったワケよ。そしてついでに、無限のエネルギーを注がれても耐えられるだけのポケモンも」
宙に浮かぶ繭のポケモンも、赤い光を放ち始める。
羽化。どうしてか私の脳内では、その言葉が思い出された。
「このエネルギーはこの孔が空いている限り湧いてくる――というか、元々の量が無限なんだから、そりゃそうだわなって感じだよな」
段々と、段々とその赤い光は強くなっていく。
それと同時に、二匹の英雄――ザシアンとザマゼンタが唸りを上げ始めた。
「そして伝説の力を以てすれば、この孔を維持することは十分に可能だ。後は、エネルギー供給の道筋を作ってやればガラルの未来は保障されると来た。その道筋がたった一人の人間を捧げるだけで作られるんだったら――まあ、捧げる選択をするやつもいるんじゃねえの」
段々と、花が開くように、蝶が蛹から目覚めるように、赤い光に包まれた繭はその姿を変えていく。月の明かりを一身に受け、ガラル粒子から得た無限大のエネルギーを吸収したそのポケモンは先の伝説たちに全く劣らぬ重圧を放ちながら姿の変貌を遂げていく。
「俺の契約は、その人柱となること――即ち、この問題が別の形で解決される、千年、万年先の未来までエネルギーを供給する道筋となること。その対価に、俺は一時の平穏を手に入れた」
繭から放出される光はどんどんと弱くなっていく。
それは変態が不完全に終わったことを意味するのではなく、漏れ出す無駄なエネルギーが無くなってきていることを意味していた。
「その契約でローズ委員長は、千年の不自由と引き換えに千年先の自由を保障した。気の遠くなるほど長え話だが――まあ、あの頃よりかはマシさ」
やがて、赤い光は完全に止まる。そして数瞬の沈黙が訪れた。
「――目覚めろ、ルナアーラ」
「――Mahinapeeeeeee‘a!!!!!!」
とうとう繭は完全な羽化を遂げる。
現れしは、アローラが伝説の一角。月を誘いし獣、UB
「URuWowoo――!!!!」
「URuOooooo――!!!!」
新たな伝説の出現に、二匹の王は雄叫びを上げて威嚇する。
それを、カイは薄く笑いながら眺めていた。
「まあ、お前ら二匹からしたらガラル粒子による支配なんて認められねえだろうが――他の奴は、止める理由なんてねえんじゃねえの? 何せ、俺が勝手にやったことでガラルの未来が保障されるんだからな」
その言葉に、ローズ委員長だけはうんうんと頷いている。殴り飛ばしてやろうか、このジジイ。
「――何を言う、カイ……! 言ったはずだぞ、俺は、チャンピオン・ダンデは、君に約束を誓った男は、たとえ君が嫌がろうとも、君を………守る!!!」
「そうだぞ、カイさん! 今言ったことって、カイさんを犠牲にして他が助かるってことだろ!? そんなの、認められるもんか!」
「そ、そうです! そんなの嫌です!」
重傷の体を無理矢理立ち上がらせて叫ぶダンデさんに、私とホップも続いて声を上げる。
…………全然声出なかった、死にたい。
「……ふーん、あっそ。じゃ、止めてみろよ」
そんな私たちの言葉に、表情を消しながらも「彼」が返したのは十のボールの投球。
何だろうか、あのボールは。見たことがない種類だ。
しかし出てきたポケモンたちは、かつての私の記憶にあった異形たちであった。
ウツロイドとも呼ばれる
その触腕を震わせながら、新たな餌が来たと言わんばかりに宙を飛び回る。
マッシブーンとも呼ばれる半人半蟲の異形――その肉体は全てを破壊し、ダイヤモンドより硬い口で他の生物の体液を吸い上げるという。
圧倒的な肉体美を見せつけながら、ダンデたちをいざ粉砕せんとガラルの地に降り立った。
フェローチェとも呼ばれるこれまた半人半蟲の異形――その最高時速は現在確認されている全ての生物よりも速く、そしてその肉体が生み出す破壊力は他の追随を許さない。
他を瞬く間に魅了する美を持つ彼女は、汚らわしき外敵を排除するために動き出した。
デンジュモクとも呼ばれる電飾の形を取った異形――大地から電力を吸い上げ、莫大な電圧で放電する電気の怪物。
バチバチと空気すら通すほどの電圧を走らせながら、ダンデたちの前に立ちふさがる。
カミツルギとも呼ばれる刃の異形――あらゆるものを斬り裂く、まさしく神の御剣。
空気を裂く音を響かせながら、獲物を定めて宙を滑空し襲い掛かる。
テッカグヤとも呼ばれる鋼の異形――その巨体・巨重を打ち上げるためのエネルギーを、大地の養分を根こそぎ吸い取ることで得ている怪物。
ガスを噴出し轟音を立てながら着陸すれば、その振動は軽い地震すら連想させるものであった。
アクジキングとも呼ばれるブラックホールの異形――有機無機問わず全てを喰らい、果てには海山すら喰らい尽くす暴食の化身。
手頃な餌を見つけた彼は、その巨体をのしのしと揺らしつつ終わりの無い食事を開始する。
アーゴヨンとも呼ばれる蜂の異形――竜の因子を得た女王蜂は力の波動を射出する力を有し、毒液の射程距離はおおよそ1万メートルに及ぶという。
翼をはためかせながら狙いをつければ、既に獲物は捕らえたも同然であった。
ズガドーンとも呼ばれる花火の異形――頭部の爆発によって怯えた生物の生気を吸い取る霊。
楽しげな踊りを踊りながら近づいてくる裏には、空恐ろしい習性が隠れている。
ツンデツンデとも呼ばれる石塊の異形――複数の生命で構成されたそれは、非常に堅牢な防御力を誇る。
現れたその場から動かず、それでいてその先には通さないという意志の主張か、十数の目玉がダンデたちを見張る。
「――ッ! リザードン!」
「バイウールー!」
「ストリンダーッ!」
「URuWowowoo――!!!!」
「URuOooooooo――!!!!」
襲い来る新手に、咄嗟に対応する私たち。
しかしムゲンダイナとの戦いで消耗していた私たちにこの十の異形は余りにも数が多く、それでいて一匹一匹が強すぎた。
そんな苦戦する私たちを見て、「彼」は薄く笑って口を開く。
「――なァ、止めれるもんなら止めてみろよ」