ガラルの悪のジムリーダー   作:アタランテは一臨が至高

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カイ視点から始まります。


VSガラル その1

 この世界に来る以前――俺がゲームとして「ポケモン」を捉えていたとき、広く普及していたとあるポケモンの区分の仕方があった。

 

 禁止伝説――その名の通り、強過ぎるが故に対戦では出場を禁じられていた伝説のポケモン。

 準伝説――禁止伝説には劣るものの、強力な力を持つ伝説ポケモン。

 幻――映画等で配布される、通常では手に入らない特別なポケモン。

 そして残るを一般ポケモン、という風な区分の仕方だ。

 

 先に挙げた三者の区分に入るポケモンたちは一般ポケモンとは基本的に比べものにならない力を有しており、一体でも手に入れることが出来れば一地方のバッジ制覇など恐らく容易いことだろう。

 

 伝説は伝説によってのみしか倒されない、というこの世界でよく聞く理論は全く間違いではない。その絶対の法則を覆すには、トレーナーの類稀なる資質・鍛え上げられたポケモン・天運・十全な事前準備エトセトラ…といった数々の要素が必要になる。

 

 

 とまあ、色々と述べたが結局のところ何が言いたいかというと。

 ――俺の繰り出した十のウルトラビーストたちは全てこの「準伝説」の区分に入る伝説のポケモンであり、一般ポケモンとは覆しようのない力の差があるということだ。

 

 

「――ク、ソ……!」

「案外、呆気なかったな」

 

 まず最初に脱落したのはダンデか。ムゲンダイナの一撃を喰らい手負いであるとはいえ、少しばかり意外だった。

 ネクロズマの上に乗ったままふよふよと移動し、ウツロイドに屈したダンデの前に降り立つ。

 ザシアンとザマゼンタが殺意を込めた視線をこちらに送ってくるも、合計五体のウルトラビーストに囲まれてはダンデの救援に向かう余裕は無いようだ。

 

「アニキ!」

「ダンデさん!」

 

 ユウリとホップの二人もダンデの状況が不味いと感じたのか、こちらへ向かおうとするがそれぞれが相手する二体のウルトラビーストに背を向けるだけの余裕はない。

 ユウリのストリンダーは今まさにテッカグヤに養分を根こそぎ奪われて倒れ伏せ、ホップのバイウールーもマッシブーンの一撃をモロに喰らって既に瀕死に至っていた。

 

 誰も誰かの助けに向かう余裕がないどころか、自身の相対するウルトラビーストの相手すらままならない。いわゆるチェックメイト、詰みってやつだ。

 

「まあ、安心して寝てろよ。誰に迷惑をかけるって話じゃあない。ローズ委員長に誰かを傷つける意思はなかったんだ。お前が負けたのだって、伝説を相手にして手負いだったんじゃあ、誰も責めやしないさ」

「何を……言う……! 俺のことはどうでもいい……! 君だ……君は、嫌じゃ……ないのか!」

 

 ダンデの絞り出すかのような言葉に、俺はウツロイドへの指示で答えを返す。

 もう既に、引き戻せる時は過ぎた。少しばかり、眠っていてもらおう。

 

「やれ、ウツロイド」

「カイ! 君はまだ、戻ってこれる――!」

 

 最後の力を振り絞って叫ぶダンデの声を聞き流しながら、ウツロイドがトドメをさす様子を眺める。彼を助けるべき存在は皆自身の相手で手一杯であり、その一撃は何の障害もないままに頭部へ吸い込まれ――

 

 

「――全く、世話の焼ける弟子よのう」

 

 

 しかして、ガラルの伝説は現れた。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「――し、師匠!?」

「やあユウリちん、久しぶりー」

 

 ダンデさんがクラゲっぽい敵に敗れ、トドメをさされそうになったその時。

 コジョンドと共に現れ、窮地を救ったのは私のかつての師匠、マスタードさんであった。

 

「ユウリちんとダンデちんがチャンピオンマッチで闘うっていうもんだから、ミツバちんが張り切っちゃってねー。門下生勢揃いで観戦に来てたのよん。それがこんなことになってるもんだから慌ててここまでやって来たってワケ」

「アタシもいるよォ!」

「このワタクシも当・然! オフ・コース・アイ・アム!」

「クララさんにセイボリーさんまで!」

 

 師匠のその言葉通り、一歩遅れてミツバさんとかつての同門の皆さんが走ってやって来る。これは、相当にありがたい増援だ……! 特にマスタードさんとミツバさんはメジャー級の実力を有している。師匠なんか今からでもダンデさんと良い勝負を出来るだろう。

 

「皆さん、助けに来ていただいてありがとうございます! しかし敵は強大です、決して一人では挑まずに……」

「おっと、まだ慌てちゃダメだよユウリちゃん。まだまだこんなもんじゃないんだから」

「へ?」

 

 私を遮ったミツバさんの言葉に、思わず変な声が出てしまう。

 そしてその言葉の意味を理解すると同時に、遠くからたくさんの声が近づいてくるのが聞こえてきた。

 

 

「ちょっとヤローくん! もっと速く走んないと!」

「こ、これが限界なんだな~!」

「僕は先に向かっているよ! 後から付いて来てくれ、ヤローくん、ルリナくん!」

「あ、カブさん待ってぇ~!」

 

「オニオンさん、息が切れていますが大丈夫ですか? 辛いならば道だけ教えて先に行きますが……」

「ぁ……大丈夫、です、サイトウさん…………『その子』が、案内してくれてるので……」

「…………え?」

「こっちだよ、オニオンくん、サイトウちゃん!」

 

「ちょっとお前さん、もうちょっと揺れないようには走れないのかい?」

「このババア……! 人に自分を背負わせておいて、よくそんなことが言えましたね……!」

「こら、何がババアだいビート! レディは労わるもんだよ!」

「痛いッ! 痛い痛い痛いッ! わかりましたッ、すみませんってば!」

 

「……ねェ、マクワ……」

「……フン。話は後にしてください。この場でボクが組むべきは、一番互いをよく知っているアナタでしょう。さっさとあの少年を救いますよ」

「……! そう、だね……! よォーし、覚悟しときなさいカイ坊! 今のあたしゃ、けっこう強いよォ!」

 

「アニキ! あたしたちのコンビネーション、見せつけるよ!」

「えぇ、わかってますよマリィ……! 今夜は特別ナンバーです!」

 

「――ダンデ! なァーにをぶっ倒れていやがる!

 ……だが! 今日ばかりは許してやろう! 何せこのキバナさま率いるジムリーダーズが助けに来て勝てない相手なんて、いねェんだからな!!」

 

 

「――ッ! キバ、ナ……! それに、皆……!」

 

 キバナさんを筆頭に、結集するジムリーダーたち。

 彼らは皆、誰もがガラルを想うが故にやって来た実力者たちであった。

 

「ユウリくん! 避難のことは安心してくれ。この場にいない他のジムリーダーたちが担当してくれている。少々押し付けるような形にはなってしまったが、こちらが危機とみて皆でやって来たのだ!」

「はい! カブさん、すっっごくありがたいです!」

 

 これならば、勝てる――「彼」を、救える! メジャーのジムリーダーたちと言うのは伊達ではない。戦力差は、最早逆転した!

 増援を加えた私たちは、再度「彼」と異形たちに向かい直す。私の目に映る「彼」の顔は、少しばかり苛立っているように見えた。

 

「――ったくよォ、どいつもこいつも…………邪魔を、すんなよォォオオオ!!

 

 「彼」の声と共に、再度襲いくる十の異形たち。

 しかし最早、こちらにとって彼らは脅威ではなくなっていた。

 

「やるんだな、アップリュー!」

「全て流してしまいなさい、カジリガメ!」

「全力で行くよ、マルヤクデ!」

「行きましょう、カイリキー!」

「……お願い……ゲンガー……」

「お行き、マホイップ」

あんな所(アラベスク)にブチ込んでくれたお礼をしますよ、ブリムオン!」

「決めましょう、セキタンザン」

「さぁやろうかい、ラプラス!」

「やってしまいんしゃい、オーロンゲ!」

「ライブの時間ですよ、ストリンダー!」

「荒れ狂え、ジュラルドン!」

「行っくよー、ヤドラン!」

「レッツ・ラ・ゴーです、ヤドラン!」

「帰ったらご褒美だよ、カメックス!」

「ゆくぞ、ウーラオス!」

 

 ジムリーダーたち、それにマスター道場の皆が繰り出したポケモンが「彼」の異形たちとぶつかり合う。そしてその戦いは決して劣勢どころか、むしろ流れはこちらにあった。

 

「URuOoooooOo!!!」

「URuWoWoooo!!!」

 

「……よし、ホップ……俺たちも、続くぞ……!」

「アニキ、無理すんなよ! ザマゼンタとザシアンに着いて行こう!」

 

 ダンデさんももう一度立ち上がり、今度はこちらが攻める側である。

 異形たちは既に複数で囲む側から、囲まれる側へ立場を転じた。だからといってその凶悪さが変わるわけではないが、決して相手できないほどの強さではない!

 

「よし、ウオノラゴン! 私たちもやるよ!」

 

 私もポケモンを繰り出し、「彼」の元へ向かおうと異形に立ち向かう。

 既に「彼」の異形たちはジムリーダーたちの奮闘によって押され始めている。

 

 勝てる。私はこれまでのバトルの経験則から、勝利の確信を直感的に得た。

 

 ――しかし。唯一の不安は、未だ私の目が「勝ち筋」を捉えていないことであった。

 

 

「チッ……やれ、ルナアーラ」

 

「………Mahinapee‘aaaaaaaa!!!!!」

 

 

「ッ、なん、だ……? カイのやつの体が、輝いて…?」

「――キバナさん! 危ないッ!」

 

 オニオンさんがキバナさんの体に飛びついた瞬間、先ほどまでキバナさんの頭部があった空間を蜂の異形が放った毒液が通過する。

 

「なッ……! さっきまでと動きが、全然違えぞ……!」

「ノット・スピード・オンリィ! パゥワーも増大していますね!」

 

 ルナアーラと呼ばれた異形が体躯を輝かせると、共鳴するかのように「彼」の体も輝き出す。

 そしてその瞬間、異形たちの力が増幅した――先ほど言っていた、エネルギーの供給というやつだろうか?

 

「『ビーストオーラ』……っつっても、お前らは知らねえだろうけどな」

 

 これは……少しばかり不味い、か?

 冷静に状況判断をすれば、少しばかり形勢が悪くなったのが見て取れる。しかし致命的というには未だ早く、ここから巻き返しもまだ図れる範囲であり――

 

 

「――出し惜しみしてらんねえか。行け、サンダー・ファイヤー・フリーザー」

 

 

QuAAAAAAA!!!

 

 

 現れたるは三匹の伝説。

 かつて目にした黒炎を纏う悪鳥を始め、その脚力を以て雷の如くに距離を詰めてきた怪鳥、そして周囲の物体をまるで氷のように軽々と砕いていくほどのサイコパワーを見せつける妖鳥。

 

 一挙に追加された余りの大きな戦力に、戦場は一瞬で混沌の様相を見せる。

 

「チィ……! 冗談じゃありやがりませんね。ただでさえ厄介になった異形共がいるのに、それに加えて恐らく伝説並みの追加戦力ですか……!」

「アニキ! ひこうタイプの相手をするには対空力が必要じゃなかか!? アタシたちじゃちょっと厳しかよ!」

 

 なるほど対空力、とマリィの言葉に納得するものの、この場にひこうタイプの使い手は――

 

 

「――俺が! いる! リザードンッッッ!!!」

「BaGuAAAAAaaaaaaaa!!!!」

 

 

 大声の宣誓と共に空へ飛びだしていったのはダンデさんとその相棒、リザードン。

 恐らく「げんきのかたまり」か何かで瀕死のリザードンを回復させたのだろうが、トレーナーの方は未だ重症。本来ならばすぐに病院送りにしなければいけないのだ。相当な無茶としか言いようがない。

 

「ああ、もうっ! 俺たちも行くぞ、アーマーガア!」

 

 彼を追うようにしてホップも宙へ飛び出し、フリーザーとファイヤーと呼ばれた伝説たちを相手取る。

 ダンデさんのことは心配だが、今は任せるしかない。私は残る一匹、唯一空を飛ばないサンダーと呼ばれた伝説の前に立つ。

 

「Quaaaaa……」

 

 サンダーが私とウオノラゴンをその目に捉えれば、ビキビキッという擬音が聞こえてきそうなほどに脚の筋肉が盛り上がる。恐らくは敵の必殺技。この怪鳥は、脚力こそが自慢であり、それだけで他の一般ポケモンを蹴散らせるだけの怪物。

 

 ――来る。

 限界まで意識を集中させた私の眼は、敵の飛び出るタイミングを見極めてウオノラゴンに指示を出す。

 

「AAAAaaa!!!!」

 

 カイが見れば、「らいめいげり」と看破するサンダーの妙技。

 敵の防御を貫き、限界まで溜めた脚力から放たれるその一撃はあらゆる障害を粉砕する。

 

 当然一般ポケモンに耐えられるような技ではなく、ウオノラゴンは躱すことも出来ずにただその口を開け平伏して――

 

 

「――『エラがみ』」

 

 

 古代の王者の牙が、その翼を噛み千切る。

 

「Qu……AAaaaaaAAAAAAaaaaa!!!???」

 

「――手を緩めるな。もう一度、『エラがみ』」

 

 再度襲い来る古代の牙。サンダーが慌ててその脚力を以て後ろに跳び去れば、その顎は空を裂いて空振りする。

 

 二度目の「エラがみ」を躱したサンダーはまるで信じられないものを見たかのように、ウオノラゴンから距離を取ってこちらを観察していた。

 

 ――何だ、今のは。私の一撃が見切られたとでも言うのか? 有り得ない。そんな筈はない。この一撃はあの小憎たらしい黒めにも、ヤケにムカつく紫めにも通用した技だぞ。

 そんな絶対の自信を誇るこの技が、見切られるなど――在る筈が、ないのに。

 

「もう、格付けは済んだかな。後は適当に遊んでるだけでいいよ、ウオノラゴン」

 

 ――だというのに、この人間の小娘めは。闘いの最中に敵に背を向けるなど、一体どこまでこの私を侮辱してくれる――!

 

 再度脚の筋肉に走る雷模様。雷鳴の如き神速で放たれた飛び蹴りは、今度こそウオノラゴンの急所を捉え――

 

 

「――『エラがみ』」

 

 

 全てを把握していたかのように振り向いたユウリの一声によって、その身を地に沈めたのであった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「――は? サンダーが、もう負けた?」

 

 上空に浮かぶネクロズマの上から戦場を見下ろしていると、ユウリの一撃で沈んだサンダーが目に入る。

 

「いやいやいやいや……伝説は伝説以外で倒せないっつー法則はどこ行ったよ。ウオノラゴンも普通のポケモンじゃないとはいえ、明らかにおかしいだろ」

 

 そして今度はダンデ・ホップと空中戦を繰り広げるファイヤー・フリーザーの方に目を向けてみれば、地上から放たれるユウリのエースバーンの「かえんボール」に翻弄され、思うように攻め切れていない二匹の様子が見える。

 

「――チッ。UB以外に力を送んのはキツいっていうのに……ルナアーラ」

「……Mahinapee‘aaa………」

「ルナアーラ!!」

 

 一度目の俺の指示に首を振って答えたルナアーラに、再度語気を強めながら指示をしてエネルギーの供給を開始する。

 送り先はガラル三鳥。俺の力の管轄を超えた能力行使に、脳にメスを入れたかのような激痛が走る。

 

「――っつ、あ……!!」

「pe……pe‘aaa!!!」

「んだよ、大丈夫、だって、鼻血、くらい…………チッ、止まんねえな……」

 

 止めどなく流れる鼻血を圧迫して無理やり止血し、滞っていたエネルギー供給を再開する。

 ウルトラビースト以外には本来繋がらないパスをルナアーラの力でこじ開けて結んでいるのだ、激痛に苛まれながらも三鳥の体が赤く輝き始める。

 

「オラ、持ってけよ、ほら……」

 

QuAAAAAAA!!!

 

「――なっ、急にサイコパワーの出力が上がって……!」

「アニキ、これ、不味い、ぞ……!」

「さっき倒したはずのサンダーまで……!」

 

 エネルギーの供給を受けたファイヤー・サンダー・フリーザーは傷も回復し、その伝説としての威容を遺憾なく発揮する。

 そも彼らは雪原における生態系ピラミッドの頂点、三すくみの王者たちである。敵を圧倒する姿の方が自然に見えるのも納得だろう。

 

 

 ビーストオーラを纏ったウルトラビーストに苦戦するジムリーダーとマスタードたち。

 エネルギーを受け取り強化されたガラル三鳥に圧倒されるユウリたち。

 勝負は時間の問題のように感じたが、トドメと言わんばかりに最後の一手を打つことを決める。

 

「――――」

「あ? どうしたよ、ネクロズマ。……安心しろって。お前らを置いてはいかねえから」

 

 カチ、カチと心配するように光を点滅させるネクロズマの頭部を、震える手でなるべく優しく撫でる。

 やがて諦めたかのようにネクロズマの光が消えたことを確認すると、自身の能力(ちから)の増幅を体内でイメージし始める。

 

 思い返すのはかつての楽園(地獄)での記憶。

 能力使用に最適化された俺の肉体は、生命維持機能よりも能力の発動を優先させる。

 

「pee‘aaa……」

「ああ、お前は、その孔を、維持してれば、いいから…………う、ぷ」

 

 吐き気を覚えると同時、口内に広がる鉄の匂い。胃液かと思えば、血液だったか。一体どこの血管が破裂したのやら。血が足りなくなってはたまらないと、嫌悪感に耐えつつ口内の血液を飲み干す。

 

「……じゃあ、まあ、これで、終わり、だろ……絶望しちまえ、『ダイマックス』

 

 

「Jerruuuuuppuu!!!!」

「BaBaBAaaaRuQuuuuu!!!!」

「Cabriiiiin!!!!」

「DenShoooooooock!!!!」

「YAAaaaaaa!!!!」

「KaGaGaGaaYoFufuuuuu!!!!」

「DOKAGUIIIII!!!!」

「AaaYooOOOoooo!!!!」

「QuiQuuuui!!!!」

「GaGAGAGAGa!!!!」

QuAAAAAAA!!!

 

 

 人柱たる存在が紅の光に包まれると同時、十のウルトラビーストと三の伝説がその身を爆発的に膨張させ――ダイマックス、と呼ばれる現象が十三の怪物たちに巻き起こった。

 

 ウツロイドはその触手の一振りで建造物を倒壊させ、

 マッシブーンはただの正拳で数多のポケモンを貫き、

 フェローチェはその絶対的速度に莫大な質量が伴って、

 デンジュモクの放つ電圧は先の数倍を軽く凌駕し、

 カミツルギは移動するのみで広範囲に致命の攻撃を与え、

 テッカグヤの行動全てが大規模破壊を引き起こし、

 アクジキングの絶望的食事はそのままその規模を拡大し、

 アーゴヨンが放った毒液は街中を汚染し始め、

 ズガドーンの広がる影は人々の生気を吸い尽くし、

 ツンデツンデの巨体は最早見上げるのも難しく、

 サンダーの一歩で街は優に踏み抜かれ、

 ファイヤーの邪悪なオーラは留まることを知らず、

 フリーザーが目を光らせればビル一つが宙を舞い、

 

 ――ナックルシティは、十三のダイマックスによって地獄と化した。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「な……嘘でしょう、これ……。カブさん! 町の住人の避難は終わってるのですか!?」

「ああ、そこに関しては安心してくれビート君! 既にナックルシティ近隣の町までも避難は終了している! 不安になるべきは……僕らがコイツに、勝てるかどうかだよ……!」

 

 先まででも既に苦戦していた全ての異形がダイマックスするという絶望的事態。

 表面上では抗う姿勢を見せてはいれど、鍛え上げられた戦闘勘は敗北以外の未来を示すことはなかった。誰もが先のムゲンダイナすら超える脅威に絶望し、誰もがその足を止めてしまっていた。

 

「そん、な……これは、私達でどうにかなる範囲を超えています……!」

「……サイトウや、あんた方は若い。ここは老い先短いアタシに任せて……」

 

 

「――ち、がう……! 今、見るべきはそこじゃない……! カイさんが、苦しんでいる……!」

 

 そんな絶望の最中、ユウリのみがカイを見ていた。だからユウリだけが、彼の苦しみに気付くことができた。

 彼女は、絶対に勝てない相手というものを既に知っている。彼女は、絶望することにはもう飽き飽きしていた!

 

「URuOoooooOo!!!」

「URuWoWoooo!!!」

「ザシアン、ザマゼンタ、力を貸して!」

 

 この場において唯一(唯二)敵のダイマックスを問題としない二匹の伝説と共に、ユウリは果敢に十三の絶望へ挑んでいく。

 そしてそれは、確かに希望の光(主人公)の姿であった。

 

「――ああ、もうッ! 姉弟子が行ったんなら、妹弟子のアタシも行かなくちゃいけねえだろうがッ!」

「よく言ったよ、クララちゃん! 同じ釜の飯を食べた家族が覚悟決めたんだ、アタシたちも続かなくっちゃあねえ!」

 

 彼女の姿を見て一人、また一人と絶望に膝をついていた者が立ち上がる。

 希望の光に、前を向き始める。

 

「――フッ。元から諦めていたつもりはないんですがね」

「そりゃこっちのセリフだよ、マクワ! とっととコイツらを叩き潰して、あの生意気なガキんちょに説教してやろうじゃないか! 誰もアンタを犠牲にして手に入れた幸福なんか、嬉しかないってね!」

 

 敵は確かに絶望的な程に強大。ユウリの目には勝ち筋が浮かばず、敗北が確定している投げるべき戦い。

 しかしこの場においては誰も逃げ出す者など存在せず、抗う限りは可能性があると皆が信じていた。

 

「あ、ぁ、何で、だよ……何で、諦め、ねえんだよォッ!!」

 

 そんな彼らの姿に、最早涙か血かもわからないままに目元を濡らしつつカイが叫ぶ。

 その声に呼応するかのように、彼の忠実な下僕は主人を害する敵を飲み込まんと動き出した。

 

「DOKAGUIIIII!!!!」

 

「――ッ、あ、マ、ズ………」

「――待てッ、それはやり過ぎ――」

 

 悪食の王は手加減など覚えない。ダイマックスとビーストオーラの強化を得た彼は、いとも容易くユウリをその腹に入れんとする。

 誰も対応できなかった。いや、その能力を以てオニオンだけは反応できたが、先のキバナと違いユウリが先行してしまっていたため、助けることが出来なかった。

 

 ザシアンとザマゼンタもそれぞれの敵へ襲い掛かったばかり、余りに一瞬の出来事には対応できない。

 そして何より、アクジキングという一匹の異形は強過ぎた。無限の質量を飲み込むその口はちっぽけな人間の幼子一人飲み込むには十分であり、ユウリは食われる寸前に愛する人の顔を思い返して――

 

 

 

「――国際警察、ウルトラビースト対策本部所属リラ、現着しました。これより、作戦の開始を宣言します」

 

 

 もう一つの希望に、絶望の一手は阻まれた。

 

 




ぽけもんのきもち

・ネクロズマ:ご主人が心配(他の人間はどうでもいい)
・ルナアーラ:ご主人が辛そう(他の人間はどうでもいい)
・ウツロイド:最近私ご主人に頼られてる?(他の人間:寄生先)
・マッシブーン:ご主人を鍛えたい(他の人間:観客)
・フェローチェ:ご主人の周りを綺麗にしたい(他の人間:排除すべき汚れ)
・デンジュモク:久々の出番。褒めて欲しいから頑張る(他の人間はどうでもいい)
・カミツルギ:とりあえず色々斬って褒めてもらう(他の人間:立ち合いの相手)
・テッカグヤ:ネクロズマに乗り物役を取られてキレ気味(他の人間はどうでもいい)
・アクジキング:おなかすいた(他の人間:餌。いっぱいちゅき カイ:ご主人。餌くれ)
・アーゴヨン:ご主人のためならどこまでも!(他の人間は指示が無ければ仲良くする)
・ズガドーン:頭爆発させるとなんかご主人大爆笑するのほんと草(他の人間:生気の原料)
・ツンデツンデ:ご主人を守らなきゃ!(他の人間:怖い)

・サンダー:何あの女こわい
・ファイヤー:サンダーが何か人間如きにビビってて草
・フリーザー:サンダーが何か人間如きにビビってて草

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